軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

煽り、煽られ、夜が始まる 其の二

――さあ、潰し合いを始めましょ?

そんな気持ちを込めて笑みを深めた私に、公爵夫妻は判りやすくビクついた。……失礼な奴らだな!? 喧嘩売ってきたの、アンタ達じゃん!

ぺしっとルーちゃんの手を振り払い――今まで、首根っこを掴まれたままだった――、改めて自己紹介を。

「異世界人にして、『世界の災厄』と称される魔導師ミヅキです。様々な国で暴れている上、この国を敗北させたので、自己紹介は必要ないと思ったんですけどねぇ? ……いるんですね、おめでたい頭の人達って」

「そ、それは……」

「私の顔を知らないって、あの断罪の場に居なかったこととイコールですよ? あの時は事前に通達した上、キヴェラの両陛下がいらっしゃいましたので、忠誠心あるこの国の要人達はほぼ揃っていたはずなのですけど」

そこで言葉を切り、くすりと笑う。その途端、蒼褪めていた公爵夫人の顔に赤みが差した。

あらあら、嫌味に気づいたようで何よりです。これで気付かなかったら、別の意味で表舞台から退場を強いられそうだが、この程度の理解力はあったようで何よりだ。

『この国にとって【要らない子】ってことなのね!? 誰も教えてくれなかったってことは、味方がいるかさえも怪しいのね……?』

以上、隠された私の本音である。

……。

訂正、『誰もが気づきながらも、あえて口にしなかったこと』かな。こんなのでも『一応は』元王女であり、公爵夫人なので、この国の貴族ならば、目を付けられると厄介だろう。

でも、やっちゃう。だって、私はこの国の人間じゃないもん!

「ですが、仕方ありませんよね。公爵家の人間ならば、他国であろうとも王家やそれに連なる家、そして国を代表するような人物は『知らなければおかしい』のですから。それらに該当する皆様さえ知らない貴女達に、多くは求めません。ですから」

――許して差し上げますよ。

「な……」

「だって、貴女達以外の皆様は気づいてらっしゃいましたから! 貴女達の愚かさゆえに、再びキヴェラが危機に陥るなんて、あまりにもお気の毒でしょう?」

笑みを深め、あからさまな侮辱を述べる私に同意するように、クスクスと笑い声が聞こえる。当然、発生源はこちらの面子だ。笑い声を漏らさなくとも、口元に笑みを刻んだまま公爵夫人に向けられた視線は……明らかに、対等かそれ以上の者へと向けるものではない。

誰もが声なき声で言っているのだ――『必要とされぬ愚か者』、と。

皆の態度を抗議されようとも、『魔導師殿との会話が楽しくて』と言ってしまえば、非にはなるまい。寧ろ、そちらで収めてしまった方が公爵夫妻は恥をかかずに済む。

『自分達が笑われたことに対して抗議する』=『魔導師の言い分は図星だった』。否定する要素がない上、キヴェラの貴族達にも聞かれている――誰も助けないことも含む――以上、なかったことにはできまいよ。

笑いを誘った出来事の摩り替えになるが、ここでこういった切り返しができなければ、自らの非を認めることになってしまう。スルースキルと判断力が問われる一幕ですな!

こういった言葉の応酬は割と日常茶飯事なので、抗議するだけが全てではない。皆もそれを判った上で煽っているのだから、侮辱というより、相手の力量を探っていると言った方が正しいのかもしれない。

暗に『公爵夫人ならば、空気読め』と言っているのだ。それができないならば、『お飾りの公爵夫妻』確定である。逆に言えば、名誉挽回のチャンスなのかもしれないが。

ここに居るのは、日常的に起こる権力争いを勝ち残ってきた人々である。

彼らからすれば、この程度の言葉遊びや煽りなど日常だ。

イルフェナだけが厳しいように見られているが、正確には『家の歴史に囚われず、実力で上に這い上がれる国』といった感じだろうか。

『実力者の国』と言われるイルフェナとて、『地位に見合った実力を求められる』と言われるのは、伯爵家以上の者達。下級貴族は功績によって爵位を得る場合があるため、そこまで厳しくはない。爵位を維持したければ、本人達が努力すればいいのだから。

これは他国とて、例外ではない。伯爵家以上の者達はその地位を維持するため――長い歴史があるため、おいそれと没落できない――の要素が必要だし、公爵家といった王族の代行を務めることがある人達に至っては、下手な王族以上に恐ろしい存在なのだ。

ゼブレストの宰相様や、カルロッサの宰相閣下が良い例だろう。ああ、ガニアのファクル公爵も当て嵌まる。この面子だけでも、『王家のブレイン的存在の公爵家、マジ怖い』という感想が出るだろう。

まあ、そんなわけで。

彼女達が『公爵夫妻』である以上、笑われても仕方がない状況なのです。寧ろ、『許した私の優しさに平伏せ、感謝しろ、この無能ども!』という心境ですな。

チャラにしてやったじゃん。この場でそれを口にしてやったじゃん? プライドが木っ端微塵になろうとも、この場はマジで私に感謝すべきだぞ?

……が。

公爵家としての『普通』に当て嵌まらなかった公爵夫人は、きつく唇を噛み締め、私を睨み付けてきた。

「ば、馬鹿にして……!」

公爵夫人がヒステリックに声を上げかける。しかし、それは意外な相手によって阻止された。

「なんだ、珍しいな? お前、そんなに優しさ溢れた奴じゃあるまい」

……すぐ傍に居た、ルーカスの疑問の声によって。

「失礼ねぇ、私は妥当な選択をしたじゃない」

「だが、言葉だけで収めるなど、珍しかろう」

「一応、国同士の歩み寄りには賛成しているからね。提案したのが魔王様だし、キヴェラ王もそのための努力をしていると知っているもの」

嘘ではない。大国としての意地やプライドがあるだろうに、キヴェラ王は実に協力的な姿勢を見せていると聞いている。……それは彼が王として、次代のことを考えたゆえ。自分の代でできる限りの不満を抑え込むつもりなのだろう。

――だって、キヴェラ王は『特別』なのだから。

貴族にとっても、民にとっても、現キヴェラ王は戦狂いを退け、キヴェラを大国として周囲に認識させた英雄だ。戦狂いは敵味方問わず喧嘩を吹っ掛けるような性質だったらしいので、奴が倒された時は多くの者が安堵しただろう。

これ、周辺の国だけではない。寧ろ、キヴェラの貴族達の方が安堵した者は多いと思う。

内部の貴族達は冗談抜きに命の危険と隣り合わせだっただろうから、彼らからすると、キヴェラ王は尊敬すべき王であると同時に命の恩人。その後の政策も含め、盲目的に従う者がいてもおかしくはない状況なのだ。

それこそが次代への不安や不満に繋がっているのだが、キヴェラ王はその状況こそを利用し、できる限りの改革を進めようとしているように見受けられる。

「私は魔王様の配下を名乗っているし、キヴェラ王に従う多くの者達が次代のために動いていることを知っている。だから……『許す』。自分で情報収集することも、状況を理解することもせず、自分の言い分ばかりをヒステリックに叫ぶ道化如き、スルーしてあげるわ。何を言っても無駄だもの」

「……つまり、『許す』と言ったのは公爵夫人を思い遣ったわけではないと」

「そだよ? どこに出しても恥ずかしい道化一人のせいで台無しになるなんて、悲惨じゃない。動いている人達が気の毒過ぎるでしょ」

まあ、実際は今後に『公爵夫妻&元凶達による、【薔薇姫様の物語】営業ツアー』が控えているせいもあるけれど。

ここで潰すと、ティルシアやシュアンゼ殿下に文句を言われるだろう……『見世物はどうした?』と。ウキウキと待ち構えているグレンや、文句の一つも言いたいイルフェナ勢とて、不満を漏らすに違いない。

それらの事情を口にこそ出さなかったが、ルーカスは察したらしい。納得の表情で頷くと、哀れみの籠もった目を公爵夫人へと向けた。

「年相応に落ち着かれた方がいいぞ、叔母上。貴女がこれ以上の恥を晒すならば、キヴェラとしても動かねばならん」

「な……あ、貴方に何ができると言うの! 王太子でなくなったくせに!」

「王太子でなくなろうとも、俺の国への献身は変わらない。何より、今ならば泥を被ろうとも問題はないだろうな?」

「え?」

「王太子でなく、次代を任せられる弟達もいる。……俺一人が害悪と共に消えることも可能になった、ということだが?」

「!?」

(意訳)

『俺が貴様をスパっと殺った挙句、罪に問われたとしても、問題ないな。それでもやるか?』

ルーカスも中々に容赦がない。相手の言葉を肯定しつつ、それを使って反撃に出ている。そんな姿は皆から高評価らしく、軽く目を見開いている人もいるくらい。……ルーカス、マジでやればできる子じゃないか。見ろ、キヴェラの貴族達の意外そうな顔!

そう思いつつも、私の視線は再度、公爵夫人へと移った。ルーカスの反撃が予想外だったのか、公爵夫人は蒼褪めながらも困惑中。そんな姿はルーカスの言葉を本気と取るか、脅しと取るか、迷っているようにも見えた。

そうだぞ、公爵夫人。ルーカスはやればできる子だ。キヴェラ王が貴女達の排除を願っていると知っている以上、揺らがぬ弟想い&愛国心のルーちゃんは止まらない。

こんな直接的な脅迫を行なう以上、ルーカスにはその覚悟があるのだろう。間違っても、お馬鹿さんに理解できるよう、直球で言ったわけでは……。

「これならば、貴女にも理解できるだろう。ついでに言っておくが、キヴェラは貴女達夫婦がいなくとも、何の問題もない。……ああ、これは俺の独断ではないぞ? 陛下の御意思を知っている……と言えば、判るか?」

「……あれ?」

ちょ、その言葉はいらなかった! お馬鹿にも理解できる言い方しただけだったんかい、ルーちゃん!

ちらりと視線を宰相補佐様に向けると、ルーちゃんの言い分とそれに至った理由を察したゆえか、『うっわぁ……』とばかりに、顔を顰めている。他の皆様も概ね、同じ反応だ。

ルーカスが高評価を得た直後に、当のルーカスから『公爵夫人は愚か者』宣言に等しいお言葉ですよ。地味に容赦ねぇな!?

「ふむ、ルーカス殿から見ても……むぐ」

「ジークは黙ってろ。思っても言うな」

馬鹿正直に口にしかけたジークと、速攻でそれを阻止したキースさんはともかく、皆は可哀想なものを見る目でルーカスを眺めている。……自国での苦労を思い出したのか、微妙に視線を逸らしている数名はスルーしてあげよう。

そだな、君達ってお馬鹿に迷惑をかけられまくった被害者だもんね。

嫌なことに、公爵夫人とルーカスは叔母と甥の関係だ。しかもこの後、おねだり姫という更なる問題児が待ち構えている。

そりゃ、気の毒にもなるだろう。似たような状況で苦労した自分や同志の姿を重ねたのか、ルーカスに向けられる視線はもはや憐み一杯だ。

そして私は一人、ひっそりと嫌な予想を立てていた。

……公爵子息二人共々、弟君達はルーカスに守られていたんじゃないか?

身分や年齢的に、公爵夫人やおねだり姫の擦り寄りや暴言を諫められる存在なんて、物凄く限られてくる。……ルーカスの慣れた対応といい、公爵夫人から弟達を守っていたのは、ルーカスなんじゃね?

そんなことを考えている間にも、ルーカスVS公爵夫人は続いている。

「ああいったタイプは分が悪くなると、言い訳ばかりになるな」

「セシル、妙に実感あるね?」

「私とエメリナに嫌がらせをしていた侍女達と同じだ。処罰されるとなれば他者を引き合いに出し、慈悲を乞う。ルーカス殿の言っていることは極論だが、『そうしなければならない状況になっている』ということに、公爵夫人は気づくべきだろうに」

こそこそと話しつつも、セシルは呆れたように肩を竦めた。ルーカスが言っていることは過激だが、セシルは公爵夫人への呆れが強いらしい。私もつい、公爵夫人へと視線を向けた。

そもそも、公爵夫人は一つ勘違いをしている。それは『興味なさそうに見えても、其々、考えていることがある』ということ。

私とセシルは雑談に興じたが、他の人は特に何も言っていない。……が、この面子の中ではある意味、最も無害なのがセシルだったりする。

まだ政に関わっていませんからね、セレスティナ姫。情報を持ち帰ったり、意見を述べることはあっても、セシルが自ら攻撃することはない。見習いというか、未成年枠なので、この場で気を付けることは『自分の発言には責任を持つべし』という一点のみ。

護衛騎士は微妙なところだが、彼は非常に真面目な性格をしているため、今回の情報を余さずサロヴァーラへと持ち帰るに違いない。よって、『完全に無害とは言い切れない』。

つまり、セシル以外の連中は(以下略)。

お貴族様とか、王族様って、怖いですね……!

顔に出したり、直球で言うことはないかもしれないけど、判る人には雰囲気や態度で判ってしまう。事実、公爵の方は皆に綺麗にスルーされているじゃないか。存在さえシカトされてませんか、公爵様。

他国組が観察する中、ルーカスの言葉が胸に突き刺さったのか、公爵夫妻は揃って顔色を変えていた。どうやら、直球で言われたことがなかったらしく、初めて危機感を抱いた……といった感じだ。

「君は……何ということを……」

「何かおかしいことがあるのか、叔父上。王族に生まれたからこそ、俺が選ぶのは国だ。自分の命など、惜しむものか」

「む、息子達は次代の側近候補になっているじゃない……!」

「養子に出せばいい。血筋と能力が確かならば、家を違えようとも、誰も文句は言わん。それでも文句が出るならば、陛下が後ろ盾になるだろう」

次々と言葉を紡ぐルーカスに、公爵夫妻は反論の言葉が続かない。……いや、公爵の方はルーカスの言っていることが正論だからこそ、反論ができないようだ。

対して、公爵夫人の方は理解が追い付かないという印象を受ける。これまで自分が信じてきたもの、誇ってきたものどころか、存在さえもたやすく消せると言われ、パニックを起こしているみたい。

ルーカス君の圧勝です。冷静に見えて、内心、ブチ切れていた模様。

でも、その発想は止めれ。関係者、主に弟君達が泣いちゃうだろ!?

ルーカスには『公爵になって、弟君を支えてね』と伝えてあったはず。ルーカスはその必要性も当然、理解できていた。

だが、公爵夫妻……いや、公爵夫人のお馬鹿っぷりと傲慢さにぶちキレ、『死なば諸共』(=自滅覚悟で、こいつら狩ろう)となったらしい。

……が、それは私が望む展開ではないわけで。

「ルーちゃん、そこまでする必要はないよ。今の会話でも十分、この人達以外はまともだと判るから」

「しかし、叔母上達の非礼をそのままにはできないだろう」

ルーカスが視線を向けた先には、皆の姿。……確かに、このまま報告されると、これまでの報復とばかりに突く奴とか出て来そう。

「だったら、私がこの場で報復すればいいんじゃね?」

「なに?」

疑問の声を上げるルーカスには答えず、私は皆の方を振り返る。

「私が代表でそれを請け負ってもいい? 『各国に対するキヴェラの非礼』ではなく、『魔導師と公爵夫妻の喧嘩、という名の娯楽』ってことにしたいんだけど、いいかな?」

「私は構わないけど、どうするのよ? アンタ、また拳を振るうつもり? さすがにそれは許可できないわよ? アンタの方が悪く思われてしまうわ」

「そうだな……私も構わない。だが、セリアン殿の言うことも尤もだ。いくらキヴェラに非を持たせたくないといっても、君が悪者になるようでは、エルシュオン殿下も良い顔をすまい」

宰相補佐様とライナス殿下の言葉に、皆が揃って頷く。……判った、魔王様が困るなら殴らない。

「じゃあ、痛い思いをしなければいいってことかな?」

「そう、ね。できるなら、それでいいわ。だけど、私達を納得させた上で、痛い思いもさせない方法なんて、あるのかしら?」

軽く首を傾げた宰相補佐様は、その方法が思いつかないらしい。ライナス殿下や護衛騎士、キースさんも同様。……が、守護役連中は面白そうな顔をするばかり。

「ミヅキですからね」

「そうだな……クク」

「大丈夫ですよ、ミヅキ。私達は貴女を信じています」

アル、クラウス、セイルの三人はいい笑顔で頷いた。セシルは視線を逸らし、キースさんは……ああ、ジークの口を手で押さえている。何か言いかけたんだな、ジーク。

それらを確認し、私は妙に引いているルーカスへと振り返る。

「皆の許可は取れたけど、ルーちゃんは?」

「あ、ああ、できるならば構わんが」

「らじゃー! 任せておけ! ……あ、そこの人、ちょっとこっちに来て」

他人の振りをして通り過ぎようとした給仕の青年を呼び止め、グラスを一つ拝借。グラスの中には、濃い赤色をしたワインが注がれている。

そして、徐に。

「これでお互い、帳消しにしましょっ」

「きゃ……っ!?」

顔めがけて、勢いよくグラスの中身をぶちまける。ターゲットは当然、公爵夫人。綺麗に化粧が施されていた顔から赤ワインを滴らせる姿に、誰もが呆気に取られている。

「そのまま、夜会終了まで会場に居てくださいね? 大丈夫! どうせこれまでの会話も聞かれているし、これ以上、恥なんてかきようがありませんよ!」

「なん……何なの!? 貴女一体、どうしてこんな真似をするのよ!?」

「何って、貴女が皆に失礼な態度をとったので、その報復です。これでめでたくチャラですよ? ルーちゃんもいいよね?」

「ああ……ま、まあ、お前がすでにワインをぶちまけた以上、どうしようもないが」

引くでない、ルーちゃん! おねだり姫が本命である以上、この二人には『会場に居るけど、おねだり姫撃破には介入なし』と言う状態が好ましいのだから!

「化粧は剥げて、赤い色が皮膚やドレスを染めて……そのみっともない姿のまま、夜会にいなさいな。貴女の言動は信じられないものばかりだったけど、その異様な姿を晒していたなら、納得してもらえるでしょう」

何人かがはっと息を飲んだ。だが、ルーカスは怪訝そうな表情だ。

そんなルーカスの姿に、『さっさと説明してください』と言わんばかりの視線を寄越すサイラス君&ヴァージル君。私は軽く肩を竦めて話し出す。

「あの異様な姿を見れば、異様な発言も納得してもらえるでしょ? 公爵夫人はあの姿のまま夜会に居なければならないし、公爵の方も同様。……この場で『見世物になる』のよ、あの二人。身分的なものを踏まえると、十分な報復よね」

「あ〜……」

「なるほど、アンタの性格の悪さが出たと。……いてっ」

「サイラス君、煩い」

ペシッと額を軽く叩いてサイラス君を黙らせ、私は更なる解説へ。

「それにさ、あの格好のまま娘達の前に出て来れる? ……私達の話に入ることができる? 本命のイベントのために、邪魔者の排除は必要だよ」

だが、ここで予想外の人物が声を上げた。

「魔導師殿、確かに至らない私達が悪いのだが……妻に対し、これは遣り過ぎではないか!?」

「いいえ? 私は過去、自分も同じことをしておりますよ」

「は?」

「少々、狸と揉めまして」

「た……狸?」

イルフェナに生息する狸様です。クラウス共々、彼への不敬に対する謝罪と称して、ワインを被りましたとも。

「ああ、確かに被ったな。なるほど、お前自身が謝罪の一環としてやったことがあるから、この手を思いついたのか」

「そう。イルフェナで『ある侯爵』に対して行ない、許してもらった謝罪方法だもん」

まあ、私達が被ったのは、白ワインだったわけですが。そこは言わない方がいいだろう。

あまりのことに硬直したままの公爵夫人の顔は、赤ワイン&崩れた化粧という状態となり、中々に大惨事となっている。これを報告すれば、大抵の国は笑って許してくれるだろうさ。

ぶっちゃけ、私は超楽しい。ざまぁ! ろくでもない娘の製造責任を取りやがれ!

「……。まあ、こうなるとは思っていたさ。それを見越して、父上は俺をお前に付けたんだ」

「へ?」

溜息を吐いたルーカスが頷くと、公爵夫妻の背後にキヴェラの騎士が現れた。そして、即座に二人の首へとペンダント? を着ける。

「叔父上、叔母上、陛下の命により、声を封じさせていただきました。これは事前に俺へと下された命であり、その騎士達は陛下直属の者達です。貴方達の言葉は聞きませんよ」

「あら、段取りが決まっていたの」

「問題行動を起こした場合の対処法、という形でな。お前を含め、同行者達の立場を考えれば、当然だろう?」

「あ〜……キヴェラ王は最初からこの展開を狙っていましたか……」

どうやら、色々と先読みされていたらしい。さすがにワインぶっかけまでは予想していなかっただろうが、それでも『公爵夫妻が魔導師達に喧嘩を売ること』と『魔導師が状況に応じた報復をすること』は予想されていた模様。

「何か、利用された気分……」

「父上だからな」

ルーちゃん、その得意げな顔は何さー!?