軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

煽り、煽られ、夜が始まる 其の一

「来たぞ、公爵夫妻とその娘だ」

ルーカスの言葉を聞いた途端、私達は一斉に口元に笑みを浮かべた。ただ……その後、続いた言葉に、何人かは顔を顰めることとなったのだが。

「チッ、あいつは……!」

「ん? どしたの、ルーちゃん」

不機嫌そうな呟きに尋ねれば、ルーカスは忌々しそうな顔でその理由を語った。

「公爵夫妻はこっちに来たが、あの女は取り巻き達と話すことを優先するらしい。その公爵夫妻もどうやら、俺に嫌味を言いたいだけのようだな。俺を目指して足を進めている」

「は!? あのさ、私はともかく、こっちには疎かにしちゃいけない人達がいるよね? キヴェラ王が未だ、姿を見せていないと言っても、挨拶くらいはするんじゃないの? 元王女だって、知られているでしょうに。……まさか、一緒に居る面子が誰か判ってない、とか?」

私が連れてきた人達には最初から事情を話してあるし、キヴェラ側にも舞台裏を知る人達がいる。だが、それだけでは足りない。私と『お話し』してもらうためには、『元凶達に話しかけてもらうことが必須』。

私の方が身分が下なので、こちらから行くのは無理なんだよねぇ。だから、彼らが無視できない『他国の王族』やら、『キヴェラが無視できない他国の要人』が必要だったんだもの。

ぶっちゃけ、奴らの逃亡防止策の一環。ルーカスもそれを理解しているからこそ、餌役として一緒に居てくれている。

キヴェラ王もそれを踏まえて、この面子を招待したはずだ。魔導師だからと警戒され、傍に寄り付かない場合も想定されているのですよ。逃げられたら困るしな!

何より、私達がこの場に居る状況から、その背後事情を察するべきなのであ~る!

『キヴェラ王が招待した』のよね、私を含めた全員。我ら、お客様ですぞ。

ある意味、キヴェラ王が公言した『他国との歩み寄り』のアピールなのですよ!

そういった事情を察せずとも、国として無視できない人が居た場合、ご挨拶を兼ねた様子見は必要だろう? 少なくとも、あの公爵家が第二王子の後ろ盾であることは事実だし、側近候補の息子がいる以上、他国の要人を疎かにしちゃ駄目だろうがよ!?

会話の内容はともかく、ルーカスは私達の所に挨拶に来た。だから周囲も驚きはすれども、特に止めなかったはず。

呆気に取られる私に思うことがあったのか、ルーカスは溜息を吐いた。そして徐に、私の周囲の人々へと視線を巡らし、小さく頭を下げる。

「すまない。キヴェラの者として、貴方達に謝罪しよう」

「お気になさらず、ルーカス殿。……その程度の扱いで良い、ということなのでしょう」

笑みを深めて、宰相補佐様が返す。その言葉にルーカスは顔色を変えるも、宰相補佐様は緩く首を振った。

「ああ、勘違いなさらぬように。キヴェラの我らに対する扱い、という意味ではございません。私は彼女達に憤っているわけではないのです。『表に出せぬ公爵夫妻』なれば、外交を知らずとも納得ですわ……彼女達のことなど、私は全く存じませんもの」

(意訳)

『大丈夫だよ、ルーちゃん。あいつらがキヴェラの公爵家の常なんて、思ってないから! っていうか、私達と対等とも思ってないから! 会ったこともないし』

宰相補佐様は中々に辛辣だ。暗に、『外交もろくにしたことない、常識知らずでしょ』と詰っている。そして、それは宰相補佐様だけではない。

「ふむ、彼らはきっと他国のことになど、興味がないのだろうね。だが、これでキヴェラ王の仰っていたことが事実だと判った。確かに、『王家の血を残すためだけ』の存在だ。そんな両親に溺愛されれば、彼ら以上の常識知らずとなろう。キヴェラ王はさぞ、ご苦労されたことだろうね」

「そう考えると、彼らの態度も当然でしょうね。キヴェラ王自ら口にされていましたが、本当にそのためだけの存在だと納得できますから。王子達と共に学んだご子息はまともだと伺っていますし、『次代は』問題ないのでしょう」

「兄弟達がまともならば、ご息女の振る舞いは間違いなく、自己責任だろうな。諫める兄弟達の声を無視し、自分にとって都合のいい方へと逃げた結果だろう」

「子を叱るのも親の務め。この場であのような振る舞いを許すのですから、縁談の無さも当然でしょうね。血に拘るばかりの無能など、まともな家は迎えたくないでしょう。……ああ、親がクズでも子はまともに育ちますよ? 我が主はその典型でしょう」

「う、うむ、理解があって何よりだ」

以上、ライナス殿下、アル、クラウス、セイルの順で吐かれた毒である。あまりの刺々しさに、ルーカスが軽く引いている。

……が。

本命はこの後だった。勇者は忘れた頃にやって来る。

「随分と常識がないんだな? 俺でさえ、客をもてなすということは知っているぞ」

「ジーク! お前、直球で言うんじゃねぇっ!」

「何故だ? 頭が足りないと言われる俺でさえ、おかしいと判るんだ。当然、キヴェラの貴族達も気づいているだろう。誰も指摘しない……ああ! 指摘することさえ、諦めたのか!」

「あら、ジークってば正直ね」

納得! とばかりに笑うジークの言葉の数々に、キースさんは頭を抱えている。対して、宰相補佐様はいい笑顔だ。……軽んじられたことに内心、お怒りなのかもしれない。

そんな中、セシルと護衛騎士は公爵夫妻から目を離さない。二人は私の護衛という立場になっているため、会話に加わらなかった模様。ただ、その表情は厳しいので、思うことがなかったわけではないらしい。

「ルーちゃん、大丈夫だって! 私の……『魔導師のお友達』だよ? 彼ら。すでにキヴェラの珍獣として見てるから、この国の常識が疑われることはないよ」

「そ、そうか」

「ちなみに、皆は毒を吐きまくっているけど、あれは嘘偽りない本心だから。……公爵家として、あいつらと同類に見られちゃ、冗談じゃないもんね」

「……」

黙るでない、ルーちゃん。公爵夫妻が私を綺麗に無視し、彼らと自分を同列に扱う可能性だってゼロじゃないじゃん。

その時は嬉々として、『あら、公爵家の方を貴方達と同列に扱って宜しいの?』と煽ってやろう。そうなった場合、アル、クラウス、セイルの三人は間違いなくキレるけどな!

人間、絶対に許せないことは存在するのだ。主関連で苦労してきた三人だからこそ、我儘放題・血筋に頼る愚か者と同列扱いされることは、侮辱以外の何物でもない。

異世界人にすら結果を求める人達なので、当然、見る目は厳しいのだよ。彼らの殺意交じりの視線と嫌味に比べたら、無邪気に本音を述べたジークなんざ、可愛いものじゃないか。

そんな会話をこそこそとしている間に、公爵夫妻はルーカスの所にやって来た。ちらりと私を見るなり、顔を顰める公爵夫人は素直ですな!

「お久しぶりですわね、ルーカス。貴方は一体、どういうつもりなのかしら? よくぞ、恥ずかしげもなく、この場に来れたものね」

「貴女にだけは言われたくないな、叔母上」

「何ですって!」

開口一番、嫌味を口にする公爵夫人に対し、ルーカスは呆れた目を向ける。『これまでの仕返しとばかりに、俺に嫌味を言ってくると思う』と事前に口にしていたため、まさに予想通りの行動をする公爵夫人に心底呆れているのだろう。

つーか、ライナス殿下を無視していいのか、公爵夫妻よ。

いくら何でも、駄目だろー? いや、それも『お兄ちゃん』の罠なんだけどさ!

『ライナスはバラクシンのことに掛かりきりだったから、顔を知らないかもしれないよ』とは、バラクシン王のお言葉である。黒いっすよ、お兄ちゃん……!

……が、一般的には公爵夫妻の落ち度である。『知らない』では済まされない立場ですからねー、この人達。

特に、公爵夫人はある意味、大変素直で弄りやすい人らしい。ただ、ヒステリックな面もあるっぽいので、できればおねだり姫達が来る前に片付けてしまいたいところ。

なお、公爵の方は見るからに無害そうというか、迫力ゼロ。明らかに妻の方が強いので、この人が抑えになる可能性はないだろう。置き物扱い、決定。

わくわくと『ルーカスVS公爵夫人』の構図を眺めていると、公爵夫人がいきなり私の方を向いた。

「ドレスさえ纏っていない、どこの誰とも判らない娘をエスコートするなんて」

『は?』

綺麗にハモったのは、私、ルーカス、サイラス君、ヴァージル君。う、うーん? どこをどうやったら、ルーカスが私をエスコートしているように見えるんだ?? 隣に居るだけだぞ?

本日、私はいつもの軍服モドキを着ている。これは私が『魔導師として夜会に参加する』ためであり、キヴェラとの共同事業に一枚噛んでいるゆえのこと。『お仕事です!』という、声なき主張だ。

そもそも、会場内にいて咎められない以上、『この服装での参加が認められている』んだけどなぁ? それ以前に、会場に入れないって! 入り口付近の騎士達に咎められて、別室へとドナドナだろう。

それなのに、私を『ルーカスのパートナー』扱い。

想像力はゼロか、公爵夫人よ。恥ずかしいな!?

共犯という意味では間違っていないけど、公爵夫人が言っているのは、そういった意味ではあるまい。……ああ、背後で笑いを堪えている気配がするんですけど!? 初っ端から笑いを取るなんて、逸材だな!?

ただ……『パートナー』と認識してくれたのは、私にとってありがたいことであって。

「物の価値さえ判らず、貴族としての常識も知らず、想像力が皆無の方に比べれば十分過ぎるほど、『この場』に居ることは相応しいと思いますけど?」

話を振られたと解釈し、馬鹿正直に煽ってみた。ちなみに、嘘は言っていない。

「な……」

「この場に居る以上、認められておりますのにね。ああ、それとも……暗に、会場を警備しているキヴェラの騎士達を侮辱していらっしゃる? ただでさえ、外交に関わる失態を冒しているのに、まさか、ねぇ?」

「……? 何を言っているの」

本気で意味が判らないらしい公爵夫妻は、揃って怪訝そうな顔をしている。……そんな二人の姿に、事情を知っているらしい貴族達は苦々しい顔をしていた。

あ〜……こりゃ、マジでキヴェラ王はこの二人を外交に関わらせなかったんだな。ライナス殿下は自国でお兄ちゃんの補佐に徹していたし、宰相補佐様もキヴェラ相手の外交は宰相閣下が担っていただろうけど……『公爵家ならば、二人のことを知っていなければ困る』。

対等な身分同士での話し合いとか、縁談とか。とにかく、王家の代理を務められるような立場(=公爵家)である以上、『知りません』はない。

と、いうか。

私のことも知らんのだな、この二人。

魔導師の顔を知らない=あの断罪の場にはいなかった。いやはや、本当に扱いが軽いじゃねーか、この二人。

キヴェラ王も他国に隠していた存在だろうし、私を知らなくてもいいんだけどさ……怒らせることだけは止めようぜ? 私はキヴェラに対し、前科一犯よ?

「彼女に問題があるならば、会場にすら入れない、ということだ。叔母上」

頭が痛いと言わんばかりに、ルーカスが話し出す。

「貴女の言葉通りならば、今宵の警備に当たっている騎士達が見逃したことになる。暗に、騎士達を職務怠慢だと批難したんだ。だが、貴女達にも見逃せない非があろう。我が国の公爵家を名乗るならば、即座に謝罪していただこうではないか」

言いながら、ルーカスはライナス殿下と宰相補佐様へと顔を向けた。

「バラクシン王弟、ライナス殿下。そして、カルロッサにて宰相補佐官を務めているセリアン殿。陛下が他国との歩み寄りを公表している以上、無下にはできない方達だが? 貴女ときたら、お二人に挨拶もせず、俺に嫌味を言う方が大事とはな」

「そ、それは申し訳ございません! ですが、私はお二人のことを存じ上げず、陛下からお話も……」

にこりと微笑む――ただし、目は笑っていない――ライナス殿下達に、公爵夫妻は判りやすく動揺している。いくら何でも、他国の王族と宰相補佐をシカトしたのは拙いと悟った模様。

それでも言い訳がましい態度を見せるのは、彼女が言っていることが事実だから。キヴェラ王は私を含めた他国組のことを、内部の貴族達に伝えていないのだ。

だけど、それは『皆同じ』。私の顔を知っていれば、ある程度はこの面子の予想がつくので、『よく判らないけれど、失礼をしてはいけない』となること請け合い。そもそも、キヴェラ王が招いたお客様ですよ。

「陛下からの通達がなくとも、貴女達の立場では知っていなければならないと思うが? ああ、それから……」

「ぬぉっ!?」

ぐいっと首根っこを掴まれて、公爵夫人の前に出される。

「こいつはキヴェラを敗北させた魔導師なんだが。いくら何でも、知らないで済むはずはないだろう? 貴女は再び、キヴェラを魔導師に蹂躙させたいのか?」

「え!?」

「第二ラウンドはいつでも歓迎ですよ♪」

はろー! とばかりに、にっこりと笑う。……首根っこを掴まれたままなので、微妙に間抜けだ。私は摘ままれた猫の子か。

私達の遣り取りに顔を蒼褪めさせた公爵夫人だが、周囲に視線を走らせるなり、ぎこちない笑みを浮かべた。

「……あ、あら、魔導師様でしたの。ですが、いくら魔導師様でも、傍にお友達がいらっしゃる以上、無体なことはなさいませんでしょ。何より、陛下は他国との歩み寄りを望まれ、多くの国が賛同していると聞いています。……それを壊すような真似はなさらないわよね?」

『……っ』

予想外の反撃に、皆の目が僅かに眇められる。へぇ? やるじゃないか、公爵夫人。そうそう、その通り! だから私はこの場で暴れる気はない……否、魔王様が国同士の歩み寄りを望む以上、『できない』。

……。

でもね、それは『キヴェラにおいて、貴女達が必要とされる人間だった場合』に限るの。

「つまり、キヴェラは貴女達を生贄として差し出せば、無傷で済むってことですね!」

「え!?」

「だって、今は別に、キヴェラに思うことはありませんし。ルーちゃんとも仲良しですよ? ああ、弟さん達ともお会いしました! 良い子達ですね」

「ふん、当然だ」

マジでーす。弟さん達にも会わせてもらいました。

第二王子は目元がキヴェラ王にそっくりで、ルーカスを更に苛烈にした感じの性格をしておいでだ。兄弟で一番気が強いらしいけど、そうなったのは、この公爵家があったから……という気がしなくもない。

第三王子は完全に母親似で、年齢的なことも含め、幼い印象だ。ただし、内面は中々に黒い。

そんな二人は兄上様を尊敬している。つーか、大好きだった。ゆえに、ルーカスの不遇を見抜き、改善に一役買った私に対し、かなり好意的だったのだ。

『貴女が思い上がった大馬鹿どもの心を砕いてくれたお蔭で、徹底的に篩にかけることができます! 資格なく、兄上を批難していた者達の名は控えてありますので、ここからは私達の仕事です。お任せください!』

『僕は兄上達のように、特出した才はありません。ですが、目立つ存在ではないからこそ、情報収集だけは得意なんです』

以上、第二王子と第三王子のお言葉である。……弟王子達は兄上の復讐を、これっぽっちも諦めていなかったみたいなんだよねぇ。ヤバい、復讐劇の火付けになったかも。

ただ、ルーカスも弟達に対しては、『自分が守る!』という姿勢を崩さないため、兄弟仲は非常に良好だ。今後、地道な粛清騒動が起こったとしても、それはルーカスを批難していた貴族達の自業自得だろう。

弟王子達が遣り過ぎれば、ルーカスが止めるに違いない。何だかんだ言っても、ルーカスは国が第一の人間なのだ。あの様子を見る限り、弟王子達が傷つく展開も望むまい。

なお、キヴェラ王に『次代は問題なさそうですね。つーか、三人が纏まっていれば、次代は安泰なんじゃ?』と言ったところ、どう答えていいか判らなかったのか、視線を逸らされた。さすがに、これは予想外だったらしい。

あんたのDNA保有者だぞ、王子達は。大人しいはずはなかろうに。

そんな物騒……いやいや、優秀な弟君達が控えているので、私は心置きなく元凶達を〆られるのだ。それが彼らのためになるしね!

「ル、ルーちゃん……?」

「ルーちゃんです。この国で唯一、魔導師を後ろ盾にした存在ですよ。勿論、キヴェラ王公認。まあ……貴女達とは短い付き合いになりそうですが」

「ひ……!」

さあ、潰し合いを始めましょ? ……ルーちゃん! いい加減に、首根っこを離しなさい!