作品タイトル不明
キヴェラ側の協力者
私達は良い感じに周囲の注目を集めていた。守護役達は『キヴェラを敗北させた魔導師が参加するのだから、傍に居るのは当然』という理由を事前に通達してあるけど、それ以外の面子もいるためだ。
特に、ライナス殿下と護衛騎士は超予想外だったらしく、多くの視線を集めている。
オネェ……いや、宰相補佐様も視線を集めてはいるのだが、その独特の口調と女性的な容姿の前に、一歩引いている人の方が多い。
そだな、男性に顔で負けるって屈辱的だもんね。
いくら優良物件でも、隣に立ちたくないわな。
私は魔王様で慣れているが、世のお嬢様方はそうではない。いくら素敵な男性だろうと、自分が劣って見えるような容姿をしている場合は、お断りなのだろう。彼女達にだってプライドがある。
何より、宰相補佐様は『馬鹿が嫌い』なのである。さすがクラレンスさんの親友というか、あの宰相閣下を父に持つだけはあるというか、完全に実力主義な思考をお持ちなのだ。
そういった要素があると、女性が政に参加できない国の令嬢達は軒並みアウト。社交だけではなく、お仕事の話もできる女性となると、かなりの狭き門なのだろう。
「残念ね。事前に情報収集ができればと思ったんだけど、誰も近寄ってくれないわ」
軽く溜息を吐きつつ、グラスを傾ける宰相補佐様は大変美しい。しかし、その発言はかなり物騒だ。つい、生温かい目を向けてしまう。
「いやいや、宰相補佐様に声をかける猛者はいないんじゃ?」
「どういう意味かしら? 小娘」
「容姿で負けて、頭の出来に溜息吐かれるような相手に、この場で話しかけるお馬鹿さんはいないってことですよ。……開始早々、恥をかきたくないもの」
ただでさえ、注目されている集団ですぞ? そこに挑むとか、どんな罰ゲームだ。
おねだり姫達が王族相手でも平気なのは、これまで彼女達が咎められなかったこと――非がなかったわけではない――と、『キヴェラ王の血縁者』という立場があるからだ。相手が強く出れないことが判っているゆえの、余裕なのですよ。
私の言葉に、宰相補佐様は暫し考えるように目を伏せ――
「そうね。確かに、私達を相手にするのは怖いかもしれないわ」
微妙にズレたことを口にした。
「いや、麗しの宰相補佐様と比較されたくないからでしょ!? お馬鹿ってこともバレるだろうし!」
「何を言ってるのよ。アンタは平気な顔してるじゃない。どちらかと言えば、アンタの守護役の方が優良物件なのよ? 婿入りが可能で、実家が公爵家揃いじゃないの。家の繋がりという意味でも、狙っていた人は多いのよ」
呆れた! と言わんばかりの宰相補佐様に、私は視線を泳がせる。そんな私達の会話を、キースさん――守護役達の真実の片鱗を垣間見てしまった気の毒な人。ジークのことがあるため、沈黙してくれている――が達観した様子で聞いていた。
ジークも優良物件に該当すると聞き、突っ込みたいのを我慢しているのだろう。彼は年季の入ったお世話係なので、人には言えない苦労が色々とあるとみた。
……。
ねぇ、本当に私の守護役達って優良物件?
高嶺の花という名の残り者……事故物件じゃないかい?
「……何か、ろくでもないことを考えてませんか?」
苦笑しながら、セイルがさり気なく傍に来た。煩いぞ、セイル。こんな時ばかり、即座に反応するでない!
……が、セイルはジト目になった私の視線を受け流すと、ちらりと視線をある方向に向けた。
「ルーカス殿がこちらに来ますよ」
こそっと私に耳打ちするセイル。なるほど、呆れてみせたのはフェイクで、こちらの方が本命か。
視線を向けると、確かに、不機嫌そうな顔をしたルーカスが。彼はヴァージル君とサイラス君を従え、こちらへと歩いて来ていた。
ルーカスが協力者であることは伝えてあっても、私とルーカスは盛大に喧嘩をした前科がある。セイルは……いや、守護役達は様子見を兼ねつつ、いつでも私のフォローに入れるよう、傍に来てくれた模様。
セシルのみ、ルーカスから隠れるような位置にいるのは、仕方がないことだろう。ここでルーカスに名を呼ばれるのは、ちょっと遠慮したいものね。
そして、そんな私達の様子を見たルーカスは、目の前に来るなり――
「お前、餌を引き連れ過ぎだ。目立ち過ぎて、誰も近寄れんだろうが」
『馬鹿だな、こいつ』という感情を隠しもせず、苦言を言った。酷いな、ルーちゃん! 挨拶より先に、呆れるのかい。
だが、そんな感情を持ったのは私だけだったらしい。余りにも予想外だったのか、全員が軽く驚いている。
……あ、キヴェラの人達もざわざわしているや。あれか、ルーカスが私に喧嘩を売りに行ったようにも見えたのかい。
よし! ここは更なる驚きを私がプレゼントしようじゃないか!
「へい、ルーちゃん! 久しぶり。つーか、先日会ったけど」
「……。ここでもその名で呼ぶか、貴様……」
しゅたっ! と片手を上げてお気楽〜な挨拶をすれば、即座にジトッとした目が向けられる。……が、それだけだった。激高することも、嫌味を言うこともない。
だが、周囲の人々はそれどころではないらしく。途端に、ざわめき出す。
「ル……!?」
「おい、今……」
「え……? 魔導師殿と和解してたのか!?」
「ず、随分と親しげですな……!?」
キヴェラの人々は軽いパニックに陥っていた。にやりと笑う私の意図を悟ったのか、ルーカスが舌打ちする。
そんなルーカスと違い、ヴァージル君は感謝を込めた視線を寄越し、サイラス君は聞こえてくる周囲の声に溜息を吐いていた。どうやら、私の意図は正確に伝わったらしい。
あはははは! さあさあ、これでルーカスに嫌味なんて言えなかろう!
ルーカスはキヴェラの今後に必要なのです。世界の災厄が後ろ盾に就こうではないか!
こちらの面子も驚いているけど、ルーカスのまともっぷりを説明してあったせいか、表面上は平静を保っている。……が、どこにも空気が読めない奴はいるもので。
「なんだ、ミヅキはルーカス殿と和解していたんだな。いつの間に仲良くなったんだ?」
純白思考のジーク君は、本日もやらかしてくださった。大変素直というか、自分の気持ちに正直な人である。
皆の『いきなり直球で言った!?』という、声なき悲鳴が聞こえた気がするのは、きっと気のせい。……いいんだよ、顔にさえ出ていなければ!
安心したまえ、皆の衆。この光景が異様に見えるのは当然だけど、『ルーカスと魔導師は仲良し』と認識されることこそ、私がキヴェラの人々に期待していることなのだよ。そして、ルーカスもそれが判らない子ではない。
ジークに悪意がないのは今更だし、ルーカスはジークの言葉に悪意が含まれていないことを読み取れる奴だからね! きちんと空気を読んでくれますとも。
「ふん。まあ、な。父上が多忙である以上、俺が対処に当たることがあっただけだ」
「酷いな、ルーちゃん。対処って、何さ。せめて接待と言え」
「来る度、何かしらの問題を手土産にする災厄モドキには、対処で正しいだろうが」
「……」
「否定できまい?」
「……」
「視線を逸らすな、愚か者」
気安いように見える態度と言葉に、キヴェラの人達は益々混乱したようだ。……これは私達が親しげな様を見せつけたことだけが原因ではない。これまでルーカスに『色々と』言っていた人達は、それが魔導師を敵に回す所業だったと思い込み、戦慄しているのだろう。
実のところ、ルーカスはたやすく人を頼るような性格をしていないため、私が報復する可能性はゼロに等しい。そんな展開になったとしても、それは表向きの理由であり、何かしらの目的があるはずだ。
しかし、ルーカスの本質を見て来なかった人達に、そんなことが判るはずもなく。一斉に脅えだした、というわけだ。
「お前、初っ端から混乱させてどうする」
呆れを隠さないルーカスに、私は益々笑みを深めた。
「混乱、上等だよ。これから茶番が始まるんだから、反応の良いギャラリーが欲しいじゃない」
「ほう?」
「見世物だもの、注目してくれなきゃ困るでしょ」
『茶番』は勿論、私VSおねだり姫ご一行のことである。絵本の宣伝も兼ねているので、是非ともキヴェラのお貴族様達に注目していただきたい。
つーか、私がつまらないじゃないか!
今回、『処罰なし』というキヴェラの事情に被害者達が納得したのは、『魔導師が玩具にする』という前提があったからだ。言い換えれば、『魔導師の煽りを、処罰に匹敵するものにしなければならない』ということ。
これを察したからこそ、セシルは『私も行く!』と言い張り、ティルシアは記録係の護衛騎士を寄越したのだろう。
余談だが、最後までゴネたのがルドルフである。
『狡い! それ、絶対に面白いだろ! 俺も行く!』
『無理。問題の公爵令嬢、未だに【婚約しただけ】なんだわ。血筋だけなら、王妃も狙えるんだよ? あんたが目を付けられた場合、益々ややこしいことになるから、止めれ』
『くぅ……!』
こんな感じの微笑ましい遣り取りの後、セイルがドナドナされてきたのだ。というか、アル達に勝手に混ざっていた。呼んだの、誰よ?
ただ、その気持ちも判る。守護役達は基本的にとても仲良しだけど、それ以前に、アル達はおねだり姫の所業にお怒りなのですよ……『ヤバい人代表・餌としても秀逸』なセイルは、是非とも参加してほしい人材だった模様。
……。
楽しい奴らだな、私の守護役って。凶悪なのは私だけじゃない、皆揃って同類だ。
「では、これも伝えておこう。……此度の夜会には公爵夫妻と長女、その婚約者が来ることになっている」
「へぇ? ってことは、ルーちゃんも餌か」
面白そうに呟くと、ルーカスは一つ頷いた。
「俺から進言した。……王籍を抹消された俺を見掛ければ、必ずや見下しに来るだろうと」
「でも、参加することを許されたじゃない。それ、『今後も参加できる立場になりますよ』っていうことでしょ」
「まあ、そうだな。だが、あいつらがそこまで考えるか? それに……俺が仕出かしたことは軽くない。お前達に謝罪させるため、参加させたとも思えるだろうよ」
ほほう、ルーカスはその思い込みを利用すべく、私達の所に来たのか。確かに、私達の傍に居たら、謝罪をしに来たと思われても不思議はない。
だが、それは罠である。
私と私が招待した人達は勿論、ルーカスも仕掛けた側なのだから。自分の非を認めるだけでなく、国のために自己犠牲を厭わないルーカスだからこそ、自らこの役目を進言したのだろう。
それが叶えられたのは、『キヴェラ王とルーカスが共通の目的の前に、共闘できる人物』だから。
自国の恥と考え、キヴェラ王がルーカスを参加させない場合とて、あるじゃないか。逆に、ルーカスが周囲の目を恐れ、引き籠もったまま……という場合もあったはず。
だが、二人は愚かではなかった。多少の傷を受けようとも、次代のことを優先したのだろう。キヴェラ王は随分と考え方が変わったようだし、親子の間で和解が進んだのかもしれない。
そして……私の『友人達』は、そういったことを察せないはずはないわけで。
今回のことで、キヴェラ王とルーカスは他国から高評価を得られるだろう。
それは後にルーカスが家を興す際、後押しするカードになる。
「ルーちゃんが家を興すことを前提に、今回の手を打ったか……」
「……」
「安心して? キヴェラ王の采配やルーちゃんの覚悟を察せないような、お馬鹿さんはいないから。其々が自国に『正しい情報として』持ち帰ってくれるわ」
「……。感謝する」
「いいって! だから、今回のフォローをお願いね」
「元より、そのつもりだ」
ルーカスの言葉が終わらぬうちに、人々の視線が動く。新たに会場に現れた人物達を目にしたルーカスが顔を顰め、顔をそちらに向けたまま、小さく呟いた。
「来たぞ、公爵夫妻とその娘だ」
その言葉を聞くなり、私達――こちら側の協力者全員――は凶悪な笑みを浮かべる。即座にその笑みを消した皆と違い、私は近づいてくる彼女達の姿を認め、益々笑みを深めた。
漸くお会いできますね? 元凶様? ……逃げるんじゃねーぞ、逃がさないけどな!