軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルベルダ組、雑談中

――アルベルダ・グレンの館にて(グレン視点)

ミヅキがキヴェラに行った後も、クリスタ様は上機嫌だった。いや、正確には『今後も続く該当者達の不幸に思いを馳せ、楽しみでたまらない』といったところか。

とはいえ、今回の舞台裏を話せる人間など限られている。そういった事情もあり、必然的に、陛下とクリスタ様が揃って儂の館を訪れることが増えていた。

「うふふ……ああ、これからが本当に楽しみですわ! あの者達、ずっとキヴェラが後ろ盾にあるような言い方をして、たいそう得意になっていましたもの」

「まあ、そうでしょうな。こちらとしては、それが事実だった場合も想定して動かねばなりませんでしたから、下手なことはできませんでしたし」

「それを十分に判っていたのでしょうね」

「……いえ、あの者達は心底、キヴェラの後ろ盾を得たと思っていたかと。最低でも、かの公爵家は自分達の味方と認識していたでしょう」

そう告げれば、クリスタ様は暫し、考えるように首を傾げ……苦々しく頷いた。

「ありえますわね。グレン小父様に対しても、随分と嫌味な態度を取っていましたもの! まったく、自分達が何らかの功績を立てたわけではないというのに」

「まあ、儂のことは良いのですよ」

「ですが……!」

「その分、しっかりと報復しますからなぁ。あちらの言動は全て、魔道具に記録されております。それを利用するのが、『今ではない』というだけのこと」

「あら……」

にやりと笑えば、クリスタ様は口元に手を当てて沈黙し。陛下は楽しそうに笑った。

「クリスタ、グレンはこういう奴だ。切り札となる情報を常に手元に集め、最も効果的な場面で利用する。魔導師殿ほど判りにくくはないが、グレンも相当だ。間違っても、大人しくはない」

「陛下、一言多いですぞ?」

「事実だろうが。お前の見た目に騙されて失言し、失脚していった連中がどれほどいたと思っている」

思い出してみろ、とばかりに、陛下の視線が突き刺さる。クリスタ様も興味を持ったのか、陛下と儂の遣り取りを見守っていた。

「……」

「……」

「……敵に情けは無用です。そもそも、国は傾いていないのですから、元からアルベルダに不要な存在だったのでしょう」

誰も困っておりませんよ、と続ければ、陛下は呆れたように溜息を吐いた。

「お前ねぇ……。そういうところは、魔導師殿そっくりだな」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「まあ、褒めてはいるぞ? ……一応」

陛下が微妙に視線を泳がせているのは、ミヅキが引き起こした騒動を『正しく』知っているからだろう。

『断罪の魔導師』などと呼ばれている、異世界人ミヅキ。彼女は民間で囁かれているような、誇り高く慈悲深い存在……であるはずもなく。

ただの自己中だ。そして、何人たりとも己が邪魔を許さない外道である。

ミヅキが善人のように言われているのは、『そうすることが誰にとっても、一番都合が良かった』という、周囲の思惑が多分に含まれている。……各国の王達がミヅキの行動を黙認し、意図してそう扱っているともいう。

過去に存在した魔導師同様、脅威にしかならないならば話は違うだろうが、ミヅキの場合は『使える』のだ。そりゃ、仲良くした方が得だろう。

「お前も、魔導師殿も、味方ならば頼もしい限りだな。俺は時々、その差に驚かされるぞ」

「……確かに、魔導師様は敵にさえならなければ、恐ろしくはありませんものね。グレン小父様とて、同じです」

「だろう? ……クリスタ、『味方とする者』以上に、『敵に回してはならない者』を間違えるんじゃない。魔導師殿のように、個人的な思惑で動く者もいるんだ。今回のことは予想外だが、そういったことを学ぶ良い機会でもある。お前も当事者の一人として、しっかりと学べ」

父親の顔で陛下が告げると、クリスタ様は背筋を伸ばして真剣に頷いた。

「はい、お父様。今回は魔導師様にお任せすることが多くなってしまいますが、私とて、アルベルダの姫ですもの。この経験を活かし、貴族達に一目置かれるようになってみせますわ」

にやりと笑うクリスタ様に、満足そうな笑う陛下。それは誰から見ても、よく似た親子の姿である。ついつい、溜息を吐いてしまうのも、仕方がないことだろう。

……。

アルベルダの第二王女であるクリスタ様は。陛下の側近達が揃って『お父上にそっくりですね。特に、その内面が』と言うほど、陛下の気性を継いでおられる。

今でこそ、大らかな気性だと認識されてはいるが……陛下は本来、中々に好戦的な方なのだ。そうでなければ、王位を奪い取ることなどすまい。

事実、陛下はミヅキの遣り方にドン引きすることはあれど、行動(=報復)自体を批難したことはない。非難めいたことを口にしたとしても、それは『王としての言葉』であり、『個人としてのもの』ではないのだ。

陛下。儂のことを言っていますが、貴方も大概です。

ミヅキに笑って付き合える時点で、貴方も立派に同類項。

それを証明するかのように、ミヅキと陛下の互いの認識は『酒飲み仲間』という、かなり砕けた関係である。勿論、儂もその一人だ。

そして、暈してはいるが、酒とつまみの譲渡という名目で交わされる会話は……所謂、情報交換になることも多く。それを利用できる者達だからこそ、『良い付き合い』ができるのだろう。

そもそも、一般常識しか持たない民間人が、王やその側近を務める者との会話を楽しめるはずはない。そこに気づかなければ、『同郷の友人と、その保護者となってくれた大らかな王は、魔導師と仲が良い』という認識で終わるのだ。

重要なのは建前、そして『隠されているものに気づけるか』。

口にこそしないが、ミヅキは絶対に気が付いている。判っているからこそ、儂を同郷の友人と紹介するし、陛下を酒飲み仲間だと言って憚らない。

それが示すのは……儂らへの好意だろう。儂が『この世界に来た時から、陛下は面倒を見てくれた』と申告したため、ミヅキは陛下にも好意的である。感謝している、と言った方がいいのかもしれない。

今回とて、ミヅキは儂らが有利になるよう動いてくれている。世界を違えようとも、色々と儂の面倒を見てくれていた保護者根性は健在らしい。

「ミヅキがキヴェラで何をしてくるかは、知りません。ですが、それで事態は大きく動くでしょう」

呟くと、陛下とクリスタ様が揃って視線を向けてきた。

「ミヅキのことですから、こちらに不利な状況にはしないでしょう。おそらくですが……問題の公爵家にも、動きを悟らせないと思います。できる限り外堀を埋め、一気に叩く。ミヅキは事前に逃げ道を全て塞いでおき、獲物にできる限り足掻かせ、最後に絶望させるかと」

「ほう? 随分と手が込んだことを。魔導師殿は元から、奴らが気に食わなかったのか?」

「ええ。……お忘れのようですが、国同士の関係改善を提案されたのは、エルシュオン殿下なのですよ? その邪魔をする輩など、ミヅキにとっては敵でしかありませんから」

アルベルダを気にかけてくれたことも事実だが、ミヅキは基本的に自己中であり、この世界で甲斐甲斐しく面倒を見てくれた飼い主を大事に思っている。

その飼い主を困らせた以上、ミヅキとあの猟犬どもにとって、かの公爵家は敵でしかない。

『知らなかった』なんて言い訳が通用するはずはないじゃないか。ミヅキ達にとっては、『それを知っていなくとも、行動したこと自体が報復理由』なのだから。

彼らの地雷を踏んだ以上、情けなど掛けられるはずはない。……元から、そんなものがあるかすら怪しいのだ。まあ、こちらとしては楽ができて喜ばしい限りなのだけど。

「奴らの自滅、か」

「ええ。……クリスタ様も気を付けてくださいね。情報収集はとても大切なのですよ」

「グレン小父様のお話を聞いて、心底、その重要性を痛感致しました。……はい。肝に銘じます」

「そうなさってください」

やや蒼褪めたクリスタ様は素直に頷いた。陛下がちらりと儂に視線を寄越した後、口元に笑みを浮かべる。

こんな事実の暴露は、年若く今後は公務も増えていくだろう彼女を脅えさせるだけかもしれない。だが、クリスタ様は愚かではない。今回の件でより成長されることだろう。

だからこそ、日常の中に教育を。これまでも、儂は……陛下を含めた『皆』は、お子様達にそう接してきたのだから。

陛下が父親となられた時、アルベルダ内部には敵が多く、その立場も安定したものではなかった。そんな状況の中、周囲――一応、陛下を支持した者達――への警戒を促すような教育を施せば、即座に『配下を信頼できないのか!』と声が上がり、お子様達も狙われる破目になる。

その結果、こういったものは日常の中で教えていくことになったのだ。お子様達は皆聡明で、どなたもその教育方針に理解を示し、幼い頃から身に付けようと努力されてきた。

クリスタ様は末っ子であるため、比較的落ち着いたアルベルダしか知らない。よって、他のご兄弟達と比べ、危機感が薄かった。今回のことはまさに、それらの認識を植え付ける好機なのである。

「ミヅキからも学ぶことがあるでしょう。……ミヅキと仲良くなさいませ、クリスタ様。打算込みの関係だろうと、ミヅキはきっと許してくれるでしょうからな」

「……そうでしょうか?」

「ただ頼るだけではなく、成長を見せればいいのです。ですが、努力をせぬ者には厳しいですぞ?」

「ははっ! 経験者は語る、だな」

楽しげな笑い声を上げる陛下に、苦笑しながらも頷き、その言葉を肯定する。クリスタ様は未だ、不安げな顔をなさっているが、そう心配することもないだろう。

――あの黒猫は意外なほど、面倒見が良いのです。それは儂がよく知っているのですから。