軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導師、キヴェラにお邪魔する 其の二

「それでは、今後の方針を話し合いましょうか」

「うむ。まあ、そなたのことだ。すでに何らかの手は打っているのだろう……?」

キヴェラ王は探るような視線を私に向けてきた。さすがにノープランのまま、キヴェラにやって来たとは思わないらしい。

まあ、それはある意味、正しい解釈だ。こちらの動きを悟られないようにするならば、そう何度も『サイラス君を訪ねて、魔導師がキヴェラに来ました』なんて手は使えない。あまりにも目立ち過ぎる。

キヴェラ王と手を組むことだけが目的で、貴重な機会を設けたのではない。キヴェラ王との話し合い、そしてキヴェラ上層部の方針の確認は、わざわざキヴェラを訪問した理由の半分だ。

そうは言っても、最難関はすでに突破済みですが。

キヴェラ王が実にあっさり、公爵夫妻と姪を見限りましたからね!

正直なところ、これが一番の問題だった。これはイルフェナやアルベルダでも同じ見解だったと思う。

ぶっちゃけ、キヴェラ王がその才覚を認められているからこそ、『あいつらを野放しにしている理由があるんじゃね?』と思われていたのだよ。

というか、私もそう思っていた一人。身内だから、血縁だからといった理由で済ませてくれるほど、キヴェラ王は甘くない。絶対に何か理由があると踏んでいた。

手紙の段階でも『次期王や次代のことを考えると、あの家を潰すのは拙い』と言われていたので、『気持ちは判るけど、手を出さないでね♪ こちらにも計画があるから!』と言い出される可能性もゼロじゃなかったんだよねぇ。

だが……現時点で、それは杞憂と成り果てた。

まさか、ノリノリで『期待してるぞ、魔導師!』なお返事を貰えるとは思わなんだ。これには魔王様やウィル様も吃驚だろう。

それを可能にしたのが、私への信頼――『必ず獲物を狩る』という、物騒極まりない方向への信頼――というのが、微妙な気持ちにさせられるけど。

私はキヴェラでもすっかり外道認定されていた模様。

そっかー、異世界人凶暴種という認識が根付いちゃいましたか。

キヴェラ王が私をそう認識した上で、今回の策を望むのだ。黙ったまま聞き耳を立てている側近の人達も、キヴェラ王の意見に賛成という認識でいいだろう。

つまり、『元凶に限り、何をやっても許す!』というお墨付きをいただきました! これで私の今後の行動は、キヴェラ王公認です。しかも、キヴェラ王の独断とか、個人的な感情ゆえの判断に非ず!

「アルベルダの方……婚約破棄を行なった近衛騎士の実家は少々、調子に乗っていたので、『彼らがやったことに対する、当然の処置』を行なっておきました。まあ、遅かれ早かれ、そうなる可能性は高かったのですが」

「ほう、具体的には何をやった? 生憎、こちらは先日の手紙でこの一件を知ったばかりなのでなぁ」

どこか楽しげに尋ねてくるキヴェラ王。そんな彼に対し、私はにっこりと微笑んだ。

「え? 商人を蔑ろにした報いを受けさせるだけですよ? ……私はこの一件が起こらなければ、ガニアでの一件のお礼を兼ねて、各国を訪ねようと思っていたんです。それが駄目になりましたから、己の言動に責任を持つ大人として、各国に事情説明をしました」

「え゛……アンタ、それ、この一件の暴露って言うんじゃぁ……」

「サイラス君、煩い。黙っていなさい。ステイ!」

「す……すてい?」

疑問に思う必要はないぞ、玩具。お前はキヴェラ王の忠犬じゃん。突っ込みは要らん、良い子で待つがいい。

「その後、アルベルダでより詳しい情報も聞きまして! その流れで、ついうっかり『大好きなお友達』にも協力を頼んでしまったのですよ。私もその子も女の子ですからね! ほら、被害者のご令嬢の味方になってあげたいなって!」

嘘ではない。誰だってクズ騎士よりも、繊細なお嬢さんの方が良いに決まっている。

ティルシアとて、ロイヤルミルクティーの淹れ方に釣られはしたが、個人的な感情からいっても、絶対にローザさんの味方をする。というか、近衛騎士やその実家が気に食わないに違いない。

近衛騎士はアルベルダ王・ウィルフレッド様やクリスタ様に対してある意味、恥をかかせたからねぇ……。『忠誠の対象である、王や王族を軽んじる』。これがティルシアの地雷だろうよ、絶対に。

ティルシアは長年、王族が軽んじられてきたサロヴァーラを変えようと奮闘した姫君だ。裏切者達を紙のように使い捨ててきた女狐様なのだ。

忠誠心を抱かないクズに良い感情など、抱くはずがない。しかも、私に協力するだけでリリアンを喜ばせるものが手に入る!

私に敵対するメリットが皆無なのだよ。私に恩を売る意味も兼ね、ティルシアは速攻でこちらの協力者になることを選びましたとも。

だが、キヴェラ王は私の言葉に僅かに眉を顰め――

「そなた、そのような良心を持っていたのか?」

大真面目に疑問を口にした。酷いな、おい!?

「貴方も言いますね!? 突っ込むところはそこか!」

「仕方なかろう。そなたのこれまでの行ないを知っていれば、『気に食わないから潰す』と言われた方が納得できるぞ」

「……」

「……」

「今回はそれを忘れてください。私と友人は『心優しい被害者令嬢に味方する乙女』という設定です」

「ほお……随分と美しい表現に纏めたではないか。まあ、間違ってはおらんがなぁ」

視線を逸らすも、キヴェラ王のにやにやとした笑みは崩れない。う……煩いですよ! 次の説明にいきますからねっ!

「ま、まあ、そんな感じでして。近衛騎士の実家は徐々に商人達から距離を置かれることになります。貴族は商人の協力があってこそ、あらゆる品を手に入れることができますからね。彼らはそれを思い知るでしょう……生活必需品や家の格に関わる品々を入手できなくなりますから」

「うっわぁ、えげつない……!」

最終的にどんな状況になるかを聞き、サイラス君は顔を引き攣らせている。確か、彼は貴族の生まれだったはず。最終的な状況どころか、近衛騎士の実家が周囲にどう思われるかまでを想像してしまったのかもしれない。

対して、キヴェラ王は満足そうな顔になっている。

「中々に面白いではないか。自業自得という言葉がぴったりだな。ふむ、アルベルダの方はそれでいいだろう。そやつらに連動して、我が国が評価を落とすことにはなるまい」

「そこは大丈夫ですよ。商人達を蔑ろにしたのは、近衛騎士と彼の実家の判断だったそうですから」

公爵令嬢が何かを言った可能性もゼロではないが、キヴェラの公爵家は動いていない。ならば、無関係として処理することが可能だ。

キヴェラ王は面白がりながらも、『キヴェラの評価に関わるか、否か』という判断をしていたのだろう。近衛騎士がしっかりしていればこの一件は起こっていないため、密かにお怒りだったのかもしれない。

だが、今の様子を見る限り、私が行なった報復は満足のいくものだったようだ。これなら、アルベルダが不手際――近衛騎士を自国に繋ぎ止めておけなかったこと――を責められることはなさそう。

「で、キヴェラの方ですが。……実はですね、子供にも読める薄い本を作ろうと思っているんですよ」

「「は?」」

予想外だったのか、キヴェラ王とサイラス君がハモる。声こそ上げなかったが、側近の皆様も怪訝そうな表情のまま、私をガン見。

ええ、これだけ聞くと意味が判りませんよね! 勿論、きちんと説明いたします!

「主人公は『薔薇姫と呼ばれる心優しい令嬢』。彼女は婚約者からいきなり婚約破棄をされてしまいますが、自分のことよりも、婚約破棄に伴って迷惑をかけてしまった人々を案じるご令嬢です」

ローザさんはクリスタ様から『申し分のない令嬢』と言われている。少しやつれてはいたが、繊細とか、可憐といった言葉が似合う人だった。

そして名前は『ローザ』。薔薇姫と明記しておけば、それが誰のことか判るだろう。近衛騎士の実家やその取り巻きが何か言ってきたとしても、『薔薇姫なんて名前の人はいませんよ』で押し通す。

「物語は婚約破棄から始まりますが、物語自体は薔薇姫の優しさがメインです。苦難に遭いながらも優しさを忘れない美しい心を持つご令嬢……なんて、物語の主役にピッタリでしょう?」

「それ、今回の一件のことですよね!? アンタ、何を考えてるんですか!?」

はっは、煩いぞ、サイラス君。これはね、『物語として流出する』ということが大事なのだよ。

「そうね、『今回の一件を知っている人は、物語が酷似していることに気づく』わよね? そうそう、物語のラストはね、『薔薇姫の美しい心に感動した心優しい乙女達は薔薇の花を身に着け、彼女の味方であることを示した』って感じで終わるの。ちなみに、これが試作品」

ポケットから、薔薇を模した石を取り出す。一個だけサンプルが間に合ったので、キヴェラまで持ってきたのだ。

「なるほど、『薔薇の花』とは装飾品のことか」

「ええ。これを付けたペンダント型魔道具……解毒と治癒の二属性を持たせたものを、本とセットにして売ります。私の解毒魔法はアルコールにも対応していますし、か弱い女性が対象ですから、治癒は必須かと」

「確かに、二属性を持った魔道具は貴重だ。それも解毒と治癒ならば、組み込まれた魔法そのものに危険性はない。……で? そなたは何を狙っている?」

キヴェラ王の問いに、にやりと笑う。そう、ここからが本命なのだ。

「魔道具としての価値より、『薔薇を模したペンダントの所有者は、薔薇姫の味方となった乙女の一人』であること、そして『魔導師が作った魔道具を所持している』ということの二点に意味があります。……これを他国の王族の女性、もしくはキヴェラの王妃様、側室様方が持っていたら、どう思われるでしょう?」

「何だと……?」

「私の知り合いにはプレゼントという形で配ります。宝石としての価値が低い以上、それほど高価なものにはなりませんから、彼女達に触発されたご令嬢達が残りを買うでしょうね。数に限りがありますから、プレミアがつくでしょう」

「まあ、派閥の者達は手に入れようとするだろう。二属性の魔道具という点でも魅力があるが、酒に弱い者にとってはありがたいだろうからな」

「女性向けなので、自己防衛に重きを置いてみました」

「うむ、その選択は正しいだろう」

よしよし、キヴェラ王から見ても魔法のセレクトは正しいみたい。派閥の女性達が入手しようとするという予想も概ね、外れてはいない模様。

「キヴェラにはこれを購入していただきたい。……元凶どものために国の予算が使われるなら不満もでますが、『魔導師が作った魔道具を、王妃様達のために購入するならば不満は出にくい』。この購入費用と、キヴェラの王妃様達に商品を用立てたという事実を、今回の一件で被害を被った商人達への慰謝料にします。商人としては、悪くないステータスでしょう?」

「なるほどなぁ……。確かに、あの公爵家の評判を落とさぬようにするならば、別の理由が必要か」

商人さん達は基本的に商売自体が大好きなので、これで手打ちにしてくれるだろう。下手にキヴェラからお金を貰うと、不審な金の流れとして突かれちゃうからね。

公爵家に金を出させると、『私達はイルフェナに迷惑をかけました』と言っているようなものなので、これも却下。結果として、私の提案が一番誤魔化せる。

「そして、最も重要なことがあります。私は『他国の友人達にも配ります』。これ、本とセットなんですよ? 今回の一件を知っている人達は当然、物語と酷似していることに気づきます。勿論、ペンダント型魔道具が物語の薔薇を指していることについても。そんな薔薇をキヴェラの王妃様達が身に着けているならば……」

「キヴェラは魔導師殿の側、と公言しているようなものだな。しかも、『魔導師殿はキヴェラに対して怒っていないという証明になる』だろう。つまり、『元凶のあやつらを、儂も苦々しく思っている』という意志表示か」

「言葉にしなくても、王族や貴族の皆様って、ある程度は察してくれますからねぇ」

私が敵に容赦しないことは知られている。キヴェラを敵認定しているならば、薔薇を持たせることはない。

しかも、キヴェラに薔薇をもたらしたのは『イルフェナの商人』。これで、イルフェナとキヴェラが険悪になっていないと証明できるだろう。

「身分のある方達を利用することになってしまうので、私がプレゼントする方達には狙いを話します。魔道具と本は協力してもらうことに対する対価、ですね。そして、薔薇の魔道具の話が広まれば……」

「あのろくでもない姪が釣れる、か」

「ふふ、餌は大きい方がいいですよね。キヴェラだけではなく、各国の限られた人しか入手できない幻の薔薇……魔導師の手に成った、二属性の魔道具。釣れると思うんですよね、これ!」

獲物が隠れていては、私は手を出せない。報復に限定している以上、私に接触して来るだけの『何か』がなければ、避けられ続けてしまう。

だって、私は物騒な噂がある魔導師です。向こうには『魔導師に接触しないで引き籠もる』という選択肢があるため、誘き寄せる餌は必須。

まあ、餌に食いついて来たら『プラン其の二』が発動ですがね。

ふふ……『おねだり姫』、素敵な渾名ではないか。折角、キヴェラ王が共犯者なのだ。キヴェラ王提供の情報を元に、こいつの余罪を『人の物を取っちゃいけません』的なお話に仕立て上げて、各国で売り飛ばしてくれる!

目指せ、『おねだり姫』のシリーズ化!

被害者達に生温かい目で見られるがいい……!

女の子達が憧れる素敵なお話のヒロインがローザさんなら、お子様達に『こんな人になっちゃいけませんよ』と言われるのが公爵令嬢だ。

大丈夫! すでに近衛騎士という婚約者がいるから、悪評が立っても嫁き遅れることはないぞぅ。夫婦揃って、笑い者になる未来しか見えないけどな!

「イルフェナとの不仲を否定し、商人達に賠償の代わりを与え、キヴェラが此度のことを憤っていると内外に示すか……。魔導師よ、そなた、本当に元の世界では一般人だったのか?」

呆れとも、感心ともつかぬ表情で、キヴェラ王は疑問を口にした。その問いに対し、私は勿論――

「犯罪歴皆無の、善良な民間人でした」

「……。恐ろしい世界なのだな」

ど う い う 意 味 だ 。

サイラス君も頷くんじゃない! 発想が斜め上ってだけでしょ!?