軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導師、キヴェラにお邪魔する 其の一

――キヴェラ・王城にて

「……という訳で、イルフェナから遊びに来ました。そのついでに、サイラス君の職場見学中です」

「……」

「そうだよね? ……ほれ、『うん』と言え。忠誠が試されてるぞ、示すのは今だ」

「え〜……物凄く不本意ですが、そういうことにしておいてください」

死んだ目をして、サイラス君は私の言い分を認めた。そんな彼へと、周囲の人々は哀れみと尊敬の目を向ける。

あれですよ、『サイラス君の所に遊びに行ったついでに、キヴェラ王達とお話』という計画。

現在、めでたく実行中にございます。拒否権ほぼなしの状態なので逃げることもできず、サイラス君は泣く泣くこの計画に組み込まれていた。

なんだよー、『魔導師とお友達だった』と言われるだけじゃん! 他国には、もっと辛い立場になっている人達が一杯いるんだぞ!?

例を出すなら、バラクシンの教会派貴族や騎士達だろうか。私によって醜態がばら撒かれた――『楽しく遊んだ思い出』として、映像まで流出した――ため、他国の者達から向けられる視線が相当堪えるらしい。

勿論、奴らに向けられる視線は『ああ、こいつらが魔導師の玩具ねー。魔王殿下に喧嘩を売って、魔導師に〆られたアホ共かー』という意味だ。

奴らに迷惑をかけられたことがある人々に至っては、嬉々として貶めているようだ。楽しんで貰えているようで何よりである。

罪悪感? 欠片もありませんが、何か?

バラクシン王と魔王様公認の暴露だもの、私は悪くないぞぅ♪

バラクシンは私発案の、教会派貴族達の力をじりじり削ぐ作戦を決行中なのだよ。そもそも、奴らには私が無関係の前科が存在するため、王に訴えたところで却下されて終わり!

『兄上と姉上が、その、最近とても楽しそうなんだが……』とは、ライナス殿下のお言葉である。

……ブラコン夫婦は仲睦まじく、報復に興じていらっしゃるようだ。これがあと数年は続く予定なので、バラクシンはもう大丈夫だろう。

だって、迂闊なことをすれば、速攻で国王夫妻に〆られますからね!

お二人とも、その機会を虎視眈々と待ち構えているみたいですし!

そこらへんの溜まりに溜まった恨みを理解していないのは、ライナス殿下オンリー。バラクシンの良心というか、癒し的存在になる日は近い。

……話を戻して。

まあ、そんなわけで! 本日は『突撃! キヴェラ王城へGO!』となっているのですよ。案内役のサイラス君が死んだ目になっていることなんて、些細なことさ。

「よく来たな、魔導師殿。まあ、色々あって、最近は顔を合わせる機会も増えたがな」

「そうですねー、キヴェラ王様。本来ならば、今回の訪問の必要はなかったはずなんですけどねぇ」

「その通りだ。まったく、困ったものよ」

うふふ、はははと、わざとらしく笑い合う私とキヴェラ王。だが、キヴェラ王の側近達の顔色は悪かった。護衛の騎士達とて、どこか達観したような表情をしている者ばかり。

……。

だって、キヴェラ王、明らかに怒ってるじゃん?

気持ちは物凄く判る。誰だって、勝手に国の在り方が疑われるような事件を起こされれば、文句の一つも言いたくなるだろう。

特に、キヴェラ王はこういった『お馬鹿さん』が嫌いなタイプだ。特殊な事情がなければ、速攻で家ごと潰しているに違いない。実際、それが一番楽で、確実に『怒っている』と周囲に判らせる方法だからね。

「時間も惜しいですし、本題に移りましょうか」

「うむ、そうだな。……ああ、こちらに座ってくれ。あくまでも『会議が終了した直後に魔導師殿を見つけ、雑談に誘った』のだからな」

「了解しました」

何らかの話し合いをしていたのは事実らしく、側近の皆さんは揃って席に着いていた。そこには近寄らず、別に用意されていた小さなテーブルへと誘導される。

なるほど〜、『即席で用意させたテーブルでの雑談を、未だに席を立っていなかった人達が聞いてしまっただけ』なんですね。うむ、了解です。

「それでな、先日の一件だが……アルベルダ王にはこちらの事情を理解してもらえたようだ。王太子となる第二王子の生母の実家ともなれば、さすがに潰すことはできん。そもそも、儂は『現公爵夫妻には』何の期待もしておらん」

「ということは、次代は期待できるんですか」

「勿論。後を継ぐのは次男だが、第二王子の側近として申し分ない能力を持っているぞ。兄の方はルーカスを主に選んでいるが、こちらも優秀だ。元より、公爵夫妻の息子達は次代の王の側近候補として、共に勉学に励んでいたからな」

キヴェラ王は身内だからと甘い判断を下すような人ではない。ならば、次代に移れば、問題の公爵家は正しく機能するということだろう。今代のみ、戦狂いの好みに合わないような人選が成されたらしい。

「その割に、娘は残念な成長をしましたね?」

思わず口にすれば、キヴェラ王は苦々しく頷いた。

「息子達が勉学に励む以上、どうしても家族と過ごす時間は少なくなる。また、女親からすれば、息子よりも娘の方が可愛いのだろうよ。我が姪も、実に可愛らしく甘えていたようだからな」

「素敵な淑女は婚姻間近の男を盗ったり、他国の王族を見下した挙句、優越感に浸ったりはしないと思いますが」

「両親にとっては、『自分達に甘えてくる可愛い娘の姿』が全てなのではないか? ……まあ、他からの評判は違ったようだが。ああ、面白い渾名があったではないか。なあ? サイラス」

「は……」

話を振られるも、サイラス君にしては珍しく言いよどむ。知らないというより、口にすることを迷っているような感じだ。

ん? 何さ、口にすることが憚られる渾名でも付いているのかい? その公爵令嬢。

暫くして、サイラス君は深々と溜息を吐くと、躊躇いながらも口を開いた。

「確か……『おねだり姫』です。取り巻きの男性達を使って脅すような真似をしたり、地位をチラつかせて人の物を奪うことから、陰でそう呼ばれています」

「……おねだり姫ぇ? は? マジで?」

「ええ、そう呼ばれているんです。……おかしいと思いませんか? 魔導師殿。血筋もよく、容姿も、健康状態も問題ない公爵令嬢に、婚約者がいないなんて。婚姻を結ぶならば、まず相手の素行調査をするのが当然なんですよ。その結果が現状です。当然でしょうね。なまじ血筋が良いから、婚姻しても扱いに困りますよ、あれは」

半ば自棄になりながらも、サイラス君は盛大に暴露した。最後のあたりに、個人的な恨み――キヴェラ王に恥をかかせたこと――が透けて見えるのは、スルーしてあげようじゃないか。

ただ、私としてはその渾名を付けた人に拍手喝采してやりたい心境だ。

「ちょ、何それ!? 本人どころか、親とか恥ずかしいと思わなかったの!? 馬鹿じゃね!?」

「ええ、そうでしょうねー……俺もそう思いますよ。ただ、公爵夫妻は噂に疎い方達なので、可愛らしく甘えてくる娘を信じているのではないかと」

「娘の所業を知らないと?」

「彼らに訴えた人達もいるようですが、本人と取り巻き達の証言の方を信じたみたいですね」

「へぇ……」

私達の会話を、キヴェラ王は楽しげに聞いている。……いや、『その話を聞いた私が、何かを提案するのを期待している』と言った方が正しいか。

自国の貴族……というか、自分の血縁者が不利になるような話を、普通ならば聞かせたりはしない。つまり、サイラス君の話は『キヴェラ王公認(=調査済みの事実)』!

「まったく、困った奴らだろう?」

「ええ、本当に。寧ろ、今すぐ大笑いしたい。思っていることを、声を大にして言いたい心境です」

「よし、許そう。儂も愚妹達に色々言ってやりたいのだがな、『今は』あまり表立って公爵家の価値を落とすわけにはいかん」

予想外の言葉に軽く目を見開くと、キヴェラ王はいい笑顔で頷いた。ただし、その目は全く笑っていない。

おお? こんな言葉が出るってことは、キヴェラ王もやる気なのかな? 『今は』とつくあたり、元から何かしらの対処を検討していたのかもしれないね。

ただ、今は本当に時期が悪い。第二王子が王太子になるにしても、その母親の実家が失脚とかは拙いだろう。第二王子の生母である側室――この人はまともだったはず――も下手をすれば、その立場を辞するとか言い出しかねないし。

「それでは遠慮なく。……一体、いくつだよ、そのおねだり姫って! 我儘が可愛く見えるのは、幼少期だけだ。そもそも『取り巻き使って脅迫したり、地位をチラつかせる』以上、どう考えてもわざとじゃん! 悪意ありまくりのクズじゃん! ある意味、凄ぇ! そんな物語の悪役じみた奴、実在するんだ? そのことに吃驚です! 世界は自分中心に回っているとでも思っているのかよ、恥っずかしいぃー!」

「あれ? アンタ、守護役達に憧れる人達から喧嘩売られてませんでしたっけ?」

素に戻ったサイラス君が素朴な疑問を向けてくるが、私は首を横に振る。

「女として喧嘩を売られたことならあるよ? 他には野心家だったり、目的があったりするね。だけどさ、おねだり姫の取り巻きって全員、男でしょ? 『男を侍らせた挙句に手駒として使い、親も騙して利用する』なんて子、あまりいないと思うよ?」

「は?」

「だって、男を侍らせた時点で『想い人やその家から、婚姻対象外に見られる』でしょ? 貞淑さ皆無じゃん。まず、恋愛脳なお嬢様方は絶対にやらん。取り巻きに選ぶのは女性だ」

まず一つ、と指を折る。

「次に、『男を手駒として使う』こと。これ、男性優位っていうか、騎士や政を行なう人が男性限定の国だと致命的だし、それでやってることが『恐喝&強奪』。これだけでも頭の悪さが判るじゃない。『人のおさがりに執着する女』、『自分の手を汚さずに嫌がらせをする女』ってのが、周囲の印象になるでしょ。それにさ、『公爵家なんだから、自分で買えよ。家が財政難なら、取り巻きに貢がせろよ!』って思わない? どちらにせよ、家や取り巻きの財力に疑問は湧くね」

「あ〜……そういう意味にも取れるな、確かに」

これにはサイラス君も納得できたらしく、頷いている。……キヴェラ王は楽しそうに聞いているので、私を諫める気はないのだろう。

いや、『私に言いたい放題言わせることで、それを事実のように思わせようとしている』のかもしれない。もしくは、与えられた情報からどこまで想像できるかという、見極めかな。

「で、最後。そんなお馬鹿な娘に、あっさり騙される公爵夫妻ってどうよ? 他国からすれば、『色々おかしくね?』って思うのが普通。キヴェラの公爵家ってことも大きいね。それで疑問を抱いて調べれば、娘の所業各種や公爵夫妻の駄目っぷりが露見する。他国からは狙われるよね〜、これ。王家の血が入っていることだけは事実なんだもの」

「だからこそ、これまで奴らの情報は洩れなかっただろうが。まさか、他国で自ら暴露するとはなぁ……」

「ああ、それで他国に情報がなかったんですね〜」

「当然だろう。それでも跡取りが無事に家を継ぐまでは、奴らが公爵夫妻なのだ。……嫌なことに」

さすがに黙っていられなくなったのか、キヴェラ王が半ばやさぐれながら話に加わってきた。どうやら、つい愚痴を言ってしまいたくなるほど、頭が痛い案件だった模様。

……。

あの、キヴェラ王? サイラス君や側近らしき人々が口々に、『お労しい』って言ってるんですが……? つまり、『それだけ有名な問題児達だった』と。

思わず、哀れみの籠もった目でキヴェラ王を見てしまう。ああ、うん、これは怒っていい。キヴェラ王も立派に被害者だ。国が変わるために慌ただしく動いていた隙を突いて、アルベルダでやらかされたのね。

私のそんな気持ちを感じ取ったのか、キヴェラ王は溜息を吐いた後、私に視線を合わせた。

「まあ、そんなわけでな。今回のことも、我らの監視が外れたゆえの暴挙なのだ。勿論、それを言い訳にはせん。後日、アルベルダとイルフェナには、正式に謝罪しよう。……ところでな?」

にやり、と笑うキヴェラ王。

「我らを敗北させた魔導師殿のことだ、何か面白いことを思いつきはしないか? あれほど笑い者にしていたのだ、さぞや興味を引けたと思うが」

「あらあら……許可を出したのは、そのための布石でしたか。私に後始末をさせる気ですか? 高くつきますよ?」

「はは! そなただけに遊ばせはせんよ。儂自らが、魔導師殿の話に乗ろうではないか」

予想外の言葉に、訝しげな目を向ける。だが、キヴェラ王はその言葉を一時の戯れにする気はないようだ。

「儂もな? この時期にこのようなことを仕出かされ、さすがに堪忍袋の緒が切れてしまってなぁ……。魔導師殿が儂の提示する条件に沿ってくれるのならば、喜んで遊びの舞台を整えようではないか」

そ奴らも賛同しておるぞ、と言われて側近の人達に視線を向けると、ずっと黙っていた彼らは深く頷いた。そこに漂う、怒りの気配……。

あれですか、『忙しい時期に、馬鹿やってるんじゃねーよ!』って思ってるんですか?

これまで隠蔽してきた努力を無にした大馬鹿達に対し、激しくお怒りなのですね……?

勿論、頷かせていただきますとも! 私としても、願ってもない好機……『キヴェラ王公認の遊びになる』ってことだものね、これ。

「可能ならば、是非。ああ、すでに色々考えているんですよ。……興味があります?」

「勿論」

上機嫌で『もうプランを考えているよ! 聞きたい? 聞きたいよね!?』と促せば、にやりと笑って即答するキヴェラ王。

お互い、笑顔のまま固く握手を交わして契約の成立を。

「魔導師殿、俺の個人的な願望ですが……あいつら、〆てください。陛下にとっても、次代にとっても、害にしかなりません」

「了解。期待してて、サイラス君」

さあ、共犯者様? 貴方と私が望む決着を迎えるため、話し合いといきましょうか!