軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

状況確認は重要です

――グレンの館にて

「……」

「……」

難しい顔をして黙り込んでいるのは、ウィル様とグレン。二人が眺めているのは本日、キヴェラ王より届いたお手紙だそうな。どうやら、サイラス君は今回も良い働きをしてくれた模様。

でかしたぞ、玩具。やるじゃないか、玩具。

そのまま、私とキヴェラにとって都合のいい存在と化すがいい!

「キヴェラ王が関わっていなかった……というか、この件自体を知らなかったのは喜ばしい。喜ばしいんだが……」

「……『何もできないと思われていた公爵家』ですか。いやはや、愚かさは罪ですな」

二人は揃って溜息を吐く。まあ、その気持ちも判らなくはない。

「つまり、あれか? 奴らの親……公爵夫妻は『娘の我儘を叶えただけ』という認識しかないってことか?」

「これを読む限り、『そういう方達』なのではないかと」

「溺愛する娘の婚姻だろ!? 『ろくに調べもしない』って、ある意味、無関心に等しいぞ!?」

ウィル様が「ありえない……」と呟くのも無理はない。ウィル様自身、娘を持つ親なのだから。

特に、王族や王族と親戚関係にあることが多い公爵家なんかは、婚姻に気を遣うはず。……『王家の血の流出』に繋がるからね。下手な相手を選ぶと、王位狙いの企みに巻き込まれる可能性がある。

……しかし、そんな認識は常識人が相手の場合であって。

世の中には、そんな事情よりも娘の我儘優先の親がいたようだ。

さすがは戦狂いがスルーした無能! ある意味、凄ぇ。

「まあ、予想外というか、予想通りというか……。こんな人達でなければ、戦狂いに狩られているでしょうしねぇ」

乾いた笑いと共に、ひらひらと手を振れば、グレンがジトッとした目で睨んでくる。

「その愚か者達に煩わされているのが、アルベルダなんだがなぁ……?」

「自国にも、その話に乗ったお馬鹿さんが居たでしょ。今回の件はアルベルダの弱腰対応も悪いって!」

「くぅ……! 儂は強硬な姿勢を訴えたというのに……!」

ダン! とグレンはテーブルに拳を叩きつけた。感情的なグレンは珍しいらしく、ウィル様もどこかグレンに引いている。

ただ……グレンの気持ちも判るんだよね。これ、グレンの言うようにキヴェラに抗議していれば、拗れなかったはずだもの。

そうは言っても、長年、大国として君臨してきたキヴェラの恐怖はしっかり根付いているはず。公爵家――しかも、キヴェラ王の妹姫が降嫁している――の要求を突っぱねることを躊躇したとて、責めることなどできまいよ。

ぶっちゃけ、グレンが怖いもの知らずなだけである。

癖のある性格をしている赤猫は存外、気が強いのだ。

キヴェラの内情が判らない以上、反対する貴族達を押し切って、強硬な姿勢に出られなかったウィル様の方が普通だろう。

ウィル様とて、個人的にはグレンに同意していただろうけど、王が独断に近い形で押し切るのは宜しくない。ウィル様に反発する者達もいる以上、アルベルダ王家は無茶などできないだろうしね。

だが、キヴェラからの手紙には収穫もあった。……キヴェラの公爵夫妻がそんな状態ならば、今回の仕掛人はほぼ間違いなく公爵令嬢の方だろう。

「公爵令嬢は中々に素敵な性格をしているみたいじゃない。それにさ、婚約破棄をした近衛騎士って野心家なんでしょ? 公爵夫妻は娘の言いなりになったって感じじゃない?」

指先で手紙を突きながらそう言えば、二人は苦々しい顔のまま頷いた。

「クリスタからの話も総合すると、そうなるだろうな。自分に甘い両親に、都合のいいことだけを吹き込んだって感じか?」

「ですなぁ。それに、自分の家が潰せないことも理解しているのでしょう。ご側室……次期キヴェラ王となられる方のお母上の実家ならば、キヴェラは守ろうとするでしょうからな」

「全部判っててやらかしたんじゃない? このご令嬢」

とどめとばかりに言い切れば、二人も同意するように頷いた。やはり、二人にもそう思えてしまうらしい。

おいおい……婚姻間近の婚約者を盗るだけあって、性格悪いな!? この公爵令嬢。顔は可愛い系らしいが、その中身は随分と性悪な模様。

こういった情報は彼女の方にしかないため、近衛騎士が唆したわけではあるまい。ある意味、お似合いの二人じゃないか。

「……で? 魔導師殿はどうするのが最善と思うんだ?」

不意に、ウィル様が尋ねてくる。その顔は先ほどと違い、酷く楽しげだった。

「あら、私は民間人ですよ? 私如きの意見を聞いても、楽しくはないかと」

「ははは! 面白いことを言うなぁ、魔導師殿は! ……クリスタの茶会、随分と楽しいことになったらしいじゃないか」

「……」

笑顔のまま、お互い見つめ合う。……訂正、私は視線による脅迫の真っ最中。

『ほらほら、何か思惑があるんだろう? 一人で楽しむのは狡いぞ、さっさと教えろ』

ウィル様の目は明らかにそう言っていた。そこには王というより、個人的な感情が滲んでいる。

王としての姿を見せながらも、ウィル様自身はか〜な〜り楽しいこと(意訳)を好む。そして、豪快な性格に隠されがちだが、中々に好戦的なタイプだと、私は思っていた。

だってウィル様、争った挙句に王位を掻っ攫ったじゃん。

大人しい人はそんな真似、できませんからね!?

と、いうか。

別にウィル様が特別好戦的というわけではなく、王位に就くことが可能な立場にある王族連中はそれなりに気が強い。

そうでなければ簡単に潰されるか、貴族に利用されてしまう。最悪の場合、国に仇成す存在として消されるだろう。

ティルシアとか、シュアンゼ殿下がいい例じゃないか。魔王様やセシルだって、大人しくはない。忠臣であろうとするヒルダんのように、真面目さゆえに強硬な姿勢で挑むこともあるのだから。

御伽噺の世界は嘘吐きだ。か弱いお姫様なんざ、私は知らんぞ?

素敵な王子様って、貴族を圧倒する実力を持った逸材のことだよね?

「近衛騎士の実家には今後、私達が手を下す必要はありません。勝手に潰れます……『商人を蔑ろにした』という、噂が広まったことによって」

「ほう? なるほど、すでに手を打ってあるのか」

「ええ。特に、茶葉の入手に関しては絶望的ですね。ティルシアは完全に私の協力者です。時間をかけて、徐々に茶葉を入手できなくするでしょう」

「お、おう……それは何というか、随分とえげつない」

「ふふ。貴族にとっては致命的ですよね!」

「いや、俺はティルシア姫が協力者っていう点に恐れ慄いた」

「……。そこは軽く流してください。スルーです、スルーですよ!」

そこを指摘しないでおくれ。魔王様にも一応は報告したけれど、説教確実なトップシークレットなんだからさ!

それが示すことが判らないアルベルダ主従ではない。単純に『女狐様、怖い』と思っていることも事実だけど、それ以上に『何故、手が打てる!?』と驚愕したのだろう。

――ただし、主従の反応は正反対ではあったけど。

ウィル様は顔を引き攣らせているが、グレンはいい笑顔で親指を立てていた。貴族にとって、茶葉は必需品に該当する。茶会の主催はともかく、生活面で支障が出ることは確実なのだ。

グレンにはそれが大ダメージとなることが判っているらしい。まあ、その、なんだ……客とか訪ねてきたら、一発で没落しかけているのが判る、みたいな?

しかも、クリスタ様が『アルベルダ王家は助けないわよ♪』と言っている。詰みだろ、完全に。

「で、キヴェラに対してですが。今回の手紙の遣り取りで『キヴェラ王を含めた上層部は今回の件を知らず、アルベルダに誠意を見せた』ってことになりますよね?」

「そうだな、あちらからの手紙だ。『事態を知って、アルベルダに伺いを立ててきた』んだ。俺はその姿勢を評価せざるを得ない」

にやり、とウィル様が笑う。茶番だと判っていようとも、私の提案に乗ってくれる気なのだろう。

「では、これで二国が争う未来は消えました。次に、元凶達についてですが。……私、一度キヴェラに行ってこようと思います。一応、関係者ですし? キヴェラが望む決着とやらを聞いてみたいんですよね。キヴェラ王が提示した条件を守るならば、ある程度の『悪戯』は大目に見てくれると思うんですよ」

訪ねた理由は『グレン経由で、今回の一件のことを聞きました』とでも言えばいい。イルフェナが二国間――アルベルダとキヴェラ――で交わされた手紙の内容を知っていると問題視されるかもしれないが、私はあくまでも『個人』ということで通す。

キヴェラとて、私同様にサイラス君を利用しているから、そういった解釈には理解を示してくれるだろう。というか、『アルベルダに誠意を示しつつ、自国内で制裁』という方向が望ましいため、私と手を組んだ方が楽とも言える。

「私は『個人的にキヴェラへと赴き、キヴェラ王監修の下、報復をする』。キヴェラは私が関わったことを提示しつつ、自国内で制裁が行なわれたことをアルベルダに報告すればいい。改めて謝罪に赴くと書いていますし、そのための『お土産』に最適じゃないですか!」

「ミヅキ、何か策があるのか?」

「ん〜……キヴェラの望む決着によって変わってくるね。公爵家を潰せないってことは確実だけど、逆に言えば、『現時点ではそのことしか確実な情報がない』。そうせざるを得ない事情に納得はできても、元凶達を許す気はないんでしょう?」

「「当然だ」」

即答。グレンとウィル様が綺麗にハモる。

そう思えども、彼らは立場的にキヴェラに意見なんてできない。だから……私が最適。

「ウィル様、キヴェラ王に伝えてくれません? 今後のことを話し合うために、魔導師が会いに行くって。勿論、ひっそり行きますよ」

「承知した。魔導師殿は転移魔法が使えるから、それも可能だろう」

満足げに頷くウィル様を視界に収めながら、私は楽しい時間を想って笑みを深める。

さあ、キヴェラの皆様? こちらが納得できるような決着を提示してくださいね?