軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親猫達は黙秘する

――イルフェナ・騎士寮にて(エルシュオン視点)

『それじゃ、詳しいことは手紙に書いてありますから! この通信が終わってから読んでくださいね』

『ふふ、楽しくご覧になってくださいませ。それではエルシュオン殿下、失礼させていただきますわ』

そんな言葉と同時に送られてきた、一通の手紙。直接言葉で伝えればいいのにと訝しがる間もなく、ミヅキからの通信は途絶えた。

嫌な予感を覚えるも、クリスタ姫までもがそれに同意しているのだ。さすがに、他国の王女の言葉を否定することもできず、再び魔道具を起動させて、問いただすことはしなかった。

問いただすことはしなかった、が!

「……」

ミヅキからの手紙を読んだ後、私は深々と溜息を吐いた。嫌な予感、的中である。

事情を察しているはずのアル達も周囲にいるというのに、彼らからは労りの声一つ上がらない。

「判っていたことだろうが」

「ですよねぇ」

「煩いよ! クラウス! アル!」

呆れ顔のクラウスと楽しげなアルを睨むも、彼らは軽く肩を竦めただけだった。だが、二人の言いたいことも判るのだ……『ミヅキを向かわせると決めたのは、他ならぬ私自身だ』と。

状況的にも、能力的にも、今回の一件にはミヅキが適任である。というか、キヴェラの公爵家……キヴェラ王の妹姫が関わっている案件なので、王族は下手に手を出せない。

勿論、普段ならば抗議の一つや二つはできるだろう。だが、今は国同士の蟠りを少しでもなくしていかねばならぬ時。下手に波風を立てることは避けるべきである。

何より、それを提案したのは私自身。今後を見据えた最良の選択と思っていたことが、まさか、枷になるとは思わなかった。

「それにしても、ミヅキとクリスタ様は随分仲良くなられたんですね」

「う……」

アルの素朴な疑問に、思わず固まれば。

「何やら、実に楽しげだったな? 『まずは一勝!』とミヅキがはしゃぐのは判るが、クリスタ様まで『せいせいしましたわ!』などと言い出すとは。……茶会で情報収集をした程度なのに、何があったんだ?」

「ああ、うん……直接言うとお説教されるから、『詳細は手紙を読め』と言ったんだと思う」

クラウスが無自覚のまま、追い打ちをかけてきた。答える私は現実逃避をしたいあまりに、遠い目になっていることだろう。

今回はアルベルダ王との共同作戦のような状態のため、ミヅキはアルベルダ王より、私達と会話できる魔道具を使わせてもらっていた。ぶっちゃけ、先日のガニアやイルフェナでの話し合いの際に使われた、互いに映像と音声を届ける魔道具のことである。

はっきり言って、これが使われる機会は少ない。相手が本物か見極めることが難しい上、双方に同じ魔道具が必要なのだから。

だが、今回に限り、私は通信相手が偽物であってほしかった。儚い夢だ、現実逃避だなどと思いつつも、僅かな希望を見出さずにはいられなかったのだ。

魔道具からの映像越しのミヅキとクリスタ姫は、とても楽しそうだった。

それはもう、二人揃って高笑いしそうなほどに……!

クリスタ姫とミヅキが仲良くなったこと自体は、問題ない。ミヅキはウィルフレッド王とも懇意にしているから、クリスタ姫と知り合うのは時間の問題だったろう。

……まあ、そんな出会いであそこまで意気投合するかは判らないが。

問題はクラウスが口にした『茶会で情報収集をした程度』というところ。通信での自己申告では確かに、『茶会で宣戦布告はしてきました』と言っていた。

ミヅキ曰くの『一勝』とやらも、そこで言い負かしでもしたのだろうと……そう、思っていたのだが。

「読んでいいよ、その手紙。はは……あの馬鹿猫が普通の宣戦布告なんて、するはずがないよね……!」

「「は?」」

「うん、いいから読みなよ。というか、読め」

怒りの笑みを浮かべる私の様子に首を傾げつつも、アルは手紙を手に取った。クラウスもそれを覗き込み、アル同様に文字を目で追う。

――そして。

「は? ティルシア姫を協力者に引き込んだ……? どのような餌を使って?」

「いや、驚くのはそこじゃないだろう。何故、殆どの権限を取り上げられているはずのティルシア姫が、ミヅキの望む協力者になれるかということだろう?」

「だよねぇ……おかしくないかな、色々と……!」

思わず、机に突っ伏す。こんな情報をもたらしたアホ猫の頭を、今すぐ叩いてやりたい心境だ。

クラウスの言うように、ティルシア姫は今現在、その才覚を国の立て直しに活かすため、飼い殺されているような状態のはずである。……少なくとも、そうなっている予定であった。関わった国々も、それで納得したはずだ。

だが、何〜故〜か、ティルシア姫はミヅキの頼もしき協力者となっている。王族だろうと、商人達への干渉は互いの利益が絡んでくるため、色々と面倒なはずなのに、だ。

どうしよう。ティルシア姫、全然抑え込めてないんだけど!?

知らなければ見逃せたのに、何で伝えてくるかな!?

「……。見なかったことにすれば良いのですよ、エル。報告は先ほどの魔道具を使ったもののみです」

にこやかにアルが手紙を再び封筒に戻し、傍に居た双子の片割れへと手渡す。

「そうだな、これは双子へ向けた手紙だ。ただの近況報告だ。そうだな、お前達?」

クラウスが二人へと念を押すように、確認の言葉をかけた。隣に居るアルもクラウス同様、その目は『適切な判断をしなさい』と脅し……いや、告げている。

そんな二人の態度と言葉に、双子の騎士はビビりつつも顔を見合わせて。

「……ミヅキからの手紙ならば、俺達宛てですね。あいつ、グレン殿の所に遊びに行っただけですし」

「殿下への手紙とは書いていませんね。……あいつもそれを判っていて、誤魔化せるようにしたんでしょう」

深々と溜息を吐いた後、わざとらしく二人の望んだ言葉を口にした。双子に言わせたアル達も満足そうに頷き、周囲の皆も共犯者の笑み浮かべている。

というか、誰もがミヅキの行動に呆れているのだろう。『お前、そこまでやるか!?』と。

サロヴァーラのティルシア姫。彼女はミヅキ曰く『重度のシスコン』であると同時に、大変恐ろしい女狐でもあった。

一度はミヅキと敵対しながらも、条件次第で手を組む柔軟さを持ち、今はミヅキとそこそこ友好的な関係を築いているはずである。ぶっちゃけ、ミヅキとは別方向に突き抜けた女傑様だ。

そんな人物が動いている。彼女は必ずや、ミヅキが望む働きをするだろう。

ミヅキのお付きと化している双子とて、達観した表情になっているじゃないか。

それでも最善の判断ができるようになったのは、偏に彼らの特殊能力と、数々の騒動に巻き込まれ続けたことによる慣れのお蔭である。

……そして、そんな姿を見せる度、どこぞの黒と白の騎士がほくそ笑んでいることも、いつものこと。

幼馴染達の様子に、私はこっそりと溜息を吐いた。途端に、『何も言うな』とばかりの視線が向けられる。

不憫。とても不憫。誰に聞いても、双子はミヅキと守護役達の被害者だ。

二人の意志を綺麗に無視して、彼らは順調にアル達に囲い込まれていく。

「しかし、キヴェラのサイラス殿に連絡を付けたのはさすがです。彼ならば、ミヅキからの手紙としてキヴェラ王に渡すでしょうし」

「そうだね、その繋がりはありがたいと思う。少なくとも、キヴェラ王からアルベルダ王に連絡があった場合は、話し合う気があるということなのだから」

頷き、アルに同意する。今回のような場合、ミヅキのよく判らない人脈は非常にありがたかった。

ミヅキがキヴェラ王や彼の側近達に手紙を送るはずはない……身分的にも送れないので、イルフェナからの要請と思われることはない。思われたとしても、疑惑止まりなのである。

それを利用し、ミヅキはキヴェラへとアルベルダでの一件を伝えていた。それがキヴェラ王に伝わるかは、サイラス殿次第。そして、伝わった後のキヴェラ王の行動で今後の方針が決まる。

……まあ、一番最初に被害が出るのは、アルベルダの愚か者達のようだったが。

「茶葉を入手できなくなるのは、貴族として致命的なんだよね。ミヅキが異世界の甘味を盛大にアピールしたようだから、茶会に参加した近衛騎士の実家の者達が気づかない可能性もあるけれど」

「取り巻きの皆さんを招待しての、情報交換の場……主催する茶会に相応しい茶葉がない。ふふ、とても楽しいことになりそうですよね。淑女の嗜みとして、茶葉やその生産地にはある程度、詳しくなければなりませんから」

「陰険だよね、ミヅキの遣り方って」

「まあ、奴らの頭の出来に合わせたんだろうさ。後は放置するだけで、勝手に自滅するだろうからな。『アルベルダ王家も、イルフェナも、何もしていない』ぞ? 最初に商人達を蔑ろにした事実がある以上、商人達から距離を置かれても仕方あるまい」

クラウスの言葉に、皆が一斉に頷く。今回のミヅキの遣り方は非常に悪質だと思うも、その原因は被害者……近衛騎士の実家による商人達への横暴さ。これでは誰にも文句を言えるはずがない。

「とりあえず、キヴェラの動きを待ちましょう。ミヅキのことですから、他にも何か考えていると思いますよ」

「そうだね、あの子は私の黒猫なのだから。愛でられるだけの愛玩動物でいることなんて、絶対に納得しないだろう」

――うちの子はどうしようもないお転婆だけど、狩りだけは得意だからね。

そう呟き、今後の展開を思い描く。狩りが得意な黒猫は様々な策を巡らせ、目当ての獲物を狩ろうとするだろう。

獲物を狩るまで家に帰れないと判っている以上、黒猫は手加減すまい。元より、手加減などする気もなかろうが。

そんな姿がたやすく予想できてしまい、笑みを深める。……ここに騒々しいあの子が戻ってくるのも、そう遠い未来ではないだろう。