軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子猫は悪戯盛りです

――アルベルダ・グレンの屋敷の一室にて

グレンと仲良く人形遊び――藁で作った人型というだけなので、呪術ではない――をした後。

「待たせたな、魔導師殿」

私達は再びウィル様を迎えていた。

「お気になさらず。必要なことですし、私達も『仲良く』遊んでいましたから」

「ん? そうか? まあ、グレンもたまには故郷を懐かしむよな……」

「「……」」

グレンの使用人達は微笑んだまま沈黙し、彼ら的には異様だっただろう光景を語らない。『あれは我が故郷伝統の【おまじない】! とても有名なもので、【想いを込めて人形に願掛けすると、願いが叶う】というものだよ』と伝えていることも一因だが、それ以上に彼らもグレン同様にお怒りなのだろう。

だって、今回の一件は完全にイレギュラー。超予想外の事態です。

グレンが忙しい身であることを知っている彼らからすれば、『主の貴重な時間を奪いやがって……!』となること請け合いです。通常業務はなくならないしね。

それに加えて、この案件は外交問題に発展する可能性があるため、非常に神経を使う。必然的に、そういった方面が得意な奴に負担がかかる仕様です。つまり、婚約破棄騒動の第三者としては、グレンがアルベルダにおける一番の被害者。私との繋がりが重視された以上、仕方がないのかもしれないけどさ。

「それで、そちらの意見は纏まりました?」

「ああ。該当人物達の現在の状況も報告書に纏めてきたから、目を通してくれ。……まあ、全てではないんだが、そこは理解を示してくれると嬉しい」

「判ってますから、大丈夫ですよ。アルベルダの内情を知らなくても、必要な情報さえあれば〆られますから」

「助かる」

問い掛ければ、頷いて報告書を差し出してくれるウィル様。なるほど、当事者達の状況を纏めるためにも、一旦は城に戻る必要があったのか。現時点で、私にこういった情報は皆無だものね。

ウィル様は私の『貴方達の望む決着を教えてくださいな』という要望に従い、一旦は城に戻って側近達と話し合ってきていた。これには『魔導師に与える情報を纏める』という項目も含まれている。

『私に情報を与える=弱味を握られる』という認識が根付いているため、情報によっては側近達が難色を示す場合がある。疑い深いと言うなかれ、自衛の精神は大事なのだよ。

つーか、それがガニアの一件において『王様達にお願い!』という事態をもたらしたため、決して楽観視はできまい。

弱味を握って利用した前科がある以上、彼らの反応は当然です。

「ふーん、やっぱりウィル様と対立しがちな家なんですね」

報告書に目を通すと、例の近衛騎士の実家の情報が目につく。敵対とまではいかないが、やはりウィル様に反発を覚えがちな家らしい。

「能力を重視しがちな俺の方針が気に食わないんだろうさ。長く続いている家だからこそ、家の格に拘る。ただな……それを言ったら、俺が王位に就いたことも間違いということになるだろ? 継承順位が一位じゃない奴が王になることなんて、珍しくはないのにな。さすがに、そこまで馬鹿じゃないのが救いだ」

「でしょうねー。それを口にしたら、反逆罪で家が潰されますし。『家の格に拘る家だからこそ、そこを突かれると困る』って、判っているんでしょうね。王家と一貴族、どちらが強いかなんて明白だもの」

直球で意見を口にすれば、苦々しく頷くグレンとウィル様。どうやら、決定打になるようなことは口にしないけれど、微妙に邪魔をしてくる感じらしい。

おそらくだが、この家は前アルベルダ王を支持していたわけではあるまい。ただ、他の王位継承権保持者に比べて、ウィル様は能力重視の方針を取る傾向だった。それが気に入らないのだ。

選民意識が強い貴族は一定数いるので、それ自体は珍しいことではないだろう。ただね……それって『無能でも血筋が良いなら、優遇しろ』ってこととイコールだ。

アルベルダのように先代が無能だと、今代は立て直しをしなければならないはず。寧ろ、それが最優先事項。その場合、そういった考え方を持つ家が多いと……まあ、揉めるわな。

「国の状況を理解し、俺の方針を受け入れた家も多い。そもそも、有能な者が家から出ればいいだけだからな。奴が近衛騎士を目指したのも、自分の価値を上げるためだろうさ」

「まあ、エリート扱いの花形ですからね」

家を出なければならない以上、自分に価値を持たせるのは悪いことではない。元凶の一人とはいえ、そういった意味では努力した人だと思う。

彼にとって不運だったのは、婚約が決められていたことだろうか。それでも通常の婚約解消ならば問題なく行なえただろうから、それをしなかった時点でクズ確定だけどさ。

そして、そんな奴が相手ならば好都合。『ウザい』という一言で切り捨ててやろうじゃないか。

だって、私は魔導師です。『世界の災厄』ですよ、さ・い・や・く!

自己中者同士、相手のことを考えなくても納得してくれると思うの。

「彼は野心家だと伺いましたし、とことん自分の道を突き進んでもらおうじゃないですか。うふふ……実は、すでに手を打ってあったりします」

「「は?」」

にやりと笑えば、揃って怪訝そうな顔をするアルベルダの皆様。そだね、イルフェナでは詳しい事情なんて聞いてないから、私が何かすることは不可能なはずだ。

しか〜し! 唯一できることにして、最強の一手が打ててしまえるのだ。これ、『元凶達が敵に回したのは商人』ということがポイントだったりする。

「ご存知の通り、私はガニアから帰って来たばかりです。ガニアでは色々とあったので、各国の皆様のお力を貸していただいたことはウィル様もご存知ですよね? ウィル様とグレンも当事者ですし」

「まあ、そうだな。俺はグレン経由で当事者になったともいうが、アルベルダが魔導師殿に助力したというのは間違いじゃない」

頷き、私の言葉に賛同するウィル様。グレンと使用人さん達も同様。

「その際、『私とシュアンゼ殿下を陥れようとした犯人達の狙いはどれだ!?』という内容のゲームをしたことを覚えておいででしょうか。正解した国には『私が全面的に協力して、その国の食材を使ったレシピを進呈する』っていうやつです」

「おお! あの運頼りのやつか! ああ、覚えているとも」

実際には、『私達が望む決着』が正解になるため、運頼りというのはちょっと違う。ただ、娯楽要素に賞品を付けたせいか、いつもより皆の食いつきは良かった。

……それが報復の一手と化すなど、その時点で誰が予想できただろうか? 私だって予想してなかったけどね! すぐにお使いに出されるなんて、思っていませんでしたとも!

「正解したのはルドルフ……ゼブレストなのですが。さすがに、ガニアでは皆様のお力を借りまくったじゃないですか? ですから、ゼブレストには複数のレシピを進呈し、他の国も一個は差し上げようと考えていたのですよ」

これはマジ。というか、ガニアで私の後ろ盾のような扱いにしたこともあり、魔王様の許可も出ている。

魔王様自身、ガニアの一件では動けなかったということもあり、この申し出にはあっさりと許可が出た。……私が何らかの形でレシピを残そうとしていることを知っているので、魔王様も許可してくれたんだと思う。

で。

許可が出たはいいけれど、まずは魔王様の安全を最優先に考えた結果、先に先生と魔道具の共同開発となったわけだ。今回、魔王様が誘拐されなかったのは運が良かっただけ――私は常にああいった場に呼ばれるわけではない――なので、これは当然のことだった。

「その矢先に、この一件が起こりまして。……私は個人的に各国の友人達を訪ねて、お礼を言おうと思っていたのです。ですが、国家間の関係に皹を入れるかもしれないこの案件……正直、いつ終わるか判らないでしょう?」

「……。ミヅキ、お前は何をした?」

先手を打って、グレンが問い掛ける。さすがだ、赤猫。長年の付き合いだけあって、『こいつ、絶対に何かやった。しかも、嫌な方向に一手を打ちやがった!』感が半端ない。口にせずとも、言いたいことが駄々漏れだ。

ウィル様は微妙に顔を引き攣らせ、使用人さん達は……あれ? 何だか、物凄くキラキラとした目で見られている。藁人形に動じなかったことといい、バラクシンの一件ですっかり信頼を得た模様。うむ、良きことだ。

「うふふ……特に、問題行動は起こしてませんよ? 人としての礼儀を通し、『こんなことが起きたから、暫くそっちに行けないの。魔王様は商人達の守護者だし、私もお世話になっているから優先させてもらうね! そうそう、同じことが起こるかもしれないから気を付けて。問題の家は名前が判り次第お伝えするので、各国、対処宜しく!』って感じの手紙、送っちゃっただけ♪」

「ちょ、もう暴露したのか!?」

「あはは! グレンてば、何を言ってるの。近々訪ねるって言っていたのに行けなくなったから、理由を書いただけじゃない!」

グレンは慌てているが、私としては義理を通したに過ぎない。元凶二人が一度は上手くやれてしまっているため、次の被害が出ないとも限らないじゃないか。

だいたい、私は『そちらに向かえなくなった理由』を書いただけ。『アルベルダとキヴェラが揉めるかも』とか、不穏なことは書いてないぞ。『イルフェナの商人達がこんな理由でコケにされたから、魔王様にお使いに出されます』ってだけさ。

そう、これはお世話になっている方々を案じてのもの。

そのままのチクリが拙いならば、別の方向から伝えてしまえばいいだけだ!

「魔導師殿、十分暴露になっている気がするんだが……」

「嫌ですね、ウィル様! 私は皆様を案じているだけなのです。こちらの力になれとか、キヴェラの動きを探った方がいいなんて書いてませんし、どのみち商人のネットワークって凄いですから、何もしなくとも絶対に伝わりますよ? だから、ほんの少し早く伝えておけば、対処ができるかなって」

実際、間違いなく情報として伝わる。ただし……それがすぐに伝わるとは限らない。

アルベルダやキヴェラは波風を立てたくないから隠そうとするだろうし、懇意にしている商人がその情報を握っているとは限らないからだ。魔王様が動いてしまったからこそ、伝わりにくくなってしまったともいう。

だけど、それは『この一件を全く知らない場合』。少しでも知っていて、魔導師が動いたという事実があるならば、各国は独自に情報を集めてくれるだろう。

「当事国だからこそ、キヴェラとアルベルダはこの情報を各国に伝えにくい。ですが、この一件を知らずに元凶達と何らかの縁を結んでしまえば、巻き込まれてしまうじゃないですか。個人的に、それは許せませんので」

「確かに、当事者達の言い分は自国に有利な方向になるだろう。なるほど、それを見越して、第三者という立場からの情報を流したのか。お前に伝えられた程度の情報を得たならば、各自が詳細を探ろうと動くだろうからな」

「信頼できる情報の収集は各国、其々にやってもらうべきだよね」

グレンも各国を巻き込むことはしたくないのか、納得の表情だ。ウィル様は自国のいざこざを勝手に伝えられたことこそ引っかかるものの、そうした理由には納得しているらしく、複雑そうな表情をしながらも諫める言葉はない。

「あ〜……まあ、今回は俺達の事情に魔導師殿を巻き込んでるからな。必要なものとして、大目に見よう」

「ありがとうございます。ですが……これは『本当に必要なこと』ですよ?」

「ん? だから、各国への警告だろう?」

「それもありますが、もう一つの意味もあるじゃないですか」

「「は?」」

グレンとウィル様は揃って意外そうな顔になる。そんな二人の反応に、私は益々笑みを深めた。

「反対派がいるのは別として、国同士の関係改善はほぼ全ての国が賛同しています。それを乱すようなことをする家に対して他国、そして王族や貴族と付き合いのある商人達はどう思うでしょうね? 『国』が相手ならばともかく、その対象は『家』。しかも、アルベルダの方ならば、自業自得と誰の目にも映る」

婚約破棄をやらかした挙句、全ての責任を押し付けて知らん顔をしている近衛騎士の実家。イルフェナの商人達を蔑ろにした挙句に魔王様を怒らせ、その結果、魔導師が派遣されている。

第一ラウンドは近衛騎士の実家VS魔導師&魔王殿下ですぞ? どちらに味方した方が得かなんて、誰にだって判る。

奴らは自分達がキヴェラの後ろ盾を得たような気でいるだろうが、キヴェラ王はそこまで甘くない。守るにしても、自国の公爵家オンリーだ。元凶達は……どうだろうね?

「商人達が取り引きをお断りする理由なんて、私が伝えた一件で十分でしょう? 取り引きを続けるにしても、かなり足元を見られるはず。イルフェナは当然として、サロヴァーラは茶葉、コルベラは薬草やそれらを使った薬、ゼブレストは肉類の燻製や乳製品……どれだけの物が手に入らなくなるかしらね? ああ、異世界スイーツを頑張っている商人さん達に配ろうかな♪」

「ミヅキ、それは単なる嫌がらせ……」

「嫌がらせ、上等じゃない! 私に恩を売りたい人達にとったら、ボーナスステージじゃん。魔導師に恩を売れて、私経由で情報も手に入る! ……商人だからといって、嘗められる筋合いはねーよ。貴族を殺すのは醜聞、そして物不足! 各国はこれから情報収集するから、一気に物不足になることはない。じわじわと殺してやろうじゃない」

にたり、と笑う。暫くは水面下でしか動けないとはいえ、誰が大人しくしているものか。敵が圧倒的有利を確信している今だからこそ、後に多大なる被害をもたらす裏工作ができるじゃないか。

一気に商人達から取り引きを断られた場合、ターゲットは事態の拙さに気づくかもしれない。だが、それが徐々に起こったら? 特に、今はキヴェラの公爵家と縁続きになることに舞い上がっていて、商人達など見下していることだろう。あくまでも『自分達が使ってやっている』という考えのままならば、去って行く商人達など気にも留めまい。

「これで商人達のありがたさが判るようになるんじゃないかな?」

良い仕事をした! といい笑顔を向ける私に対し、アルベルダの主従は。

「魔導師殿は本当に、嫌な方向に賢いな」

「ミヅキはそちら方面特化ですから。まさか、すでに手を打っているとは思いませんでしたが」

生温かい目を向けつつ、呆れていた。それでも諫める言葉はないのだから、行動そのものは支持してくれているのだろう。対して、使用人さん達はいい笑顔で頷いている。……私を止める人はいない模様。

「とりあえず、婚約破棄されたご令嬢の家に行ってみましょうか。きっと、できることが広がると思うの」

「そうだな、今ならば落ち着いているはずだ。行く時は娘を同行させよう」

「ありがとうございます、ウィル様」

ウィル様の申し出に、ありがたく頷いておく。この場合、『自分達の味方をしてくれた王女が連れて来た魔導師』という肩書が重要になる。彼女の家が事態を正しく理解している以上、どう頑張っても、私が単独で行くのは宜しくない。

ただでさえ、精神的に大変だったのだ。いきなり『こんにちは、魔導師です。イルフェナの魔王様から、今回の一件の報復を任されてきました。はろー♪』とか言おうものなら、卒倒されてしまうだろう。

……いや、これくらい気楽にしてくれた方がいいんだけどね。魔王様、別に貴女達に報復しろとは言ってないんだし。

「休日返上させられた分、楽しませてもらわなきゃね」

黒猫の祟りは怖いのです。猫は執念深いぞ、しぶといぞ。飼い主(=魔王様)や可愛がってくれる小父さん達――日頃から色々とお世話になっております――のためなら、家の一つや二つ破滅させてやらぁっ!