軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導師と医師の共同作業(極秘)

騎士寮には魔王様も含め、皆が集っている。彼らの視線に晒されつつ、私は一つの魔石を魔王様の目の前に置いた。

見た目だけならば、何らかの術式を込めた魔石――魔血石である。ただし、使用された魔石は小粒ながら極上品であり、『ゴードン医師と魔導師の共同制作』というトンデモ品。

それだけでも表に出せない品だが、それ以上に隠さなければならない要素があった。当然、反応したのは黒騎士達。中でもクラウスが向けてくる目は厳しい。

「……ミヅキ。これはエルの魔血石じゃないのか?」

疑問形だが、クラウスは確信を持っているのだろう。偏に、皆に情報として聞かせるためだ。

「正解。勿論、魔王様の許可は取っているし、その場に居たアルも知ってるよ」

「何故、俺に言わなかった?」

「魔術至上主義の人達に、製作過程を知られるわけにはいかなかったから」

クラウスは不満そうだが、それでも一方的に非難する気はないらしい。そもそも、この魔血石の製作には魔王様の協力が必要なのだ。無許可でできるはずはない。

単に、黒騎士達は『仲間外れ、よくない!』な心境なのである。いくら彼らが魔法のエキスパートであろうとも、完成品を見せられただけの状態では、類似品を作り出すことなんてできまい。

だから、今回は黒騎士達には内緒だったのだ。

『これ』と同じ、もしくは類似する品を世に残す気はないのだから。

「これがあの時、君が言っていた物なのかい」

「そうです。魔道具ということを悟らせない意味でも、小型……ボタンの一つに混じっても違和感がないような形状であることも重要ですから」

「確かに、魔道具は装飾品という印象が強いですからね。これならば、ミヅキの言っていた『包みボタン』にすることで、誤魔化すことは可能でしょう。そもそも、エル自身の魔力ですから、身に着けていても魔道具と知られる心配はありません」

興味深そうに眺める魔王様とアル。一通りの説明はしてあるけれど、彼らは魔道具を作れない。それゆえか、自分達が知らない未知の物という認識が強く、興味津々だ。

逆に、黒騎士達はジトッとした目を向けてくる。こちらも興味があるという点では同じだが、どちらかといえばその製造過程の方に興味を引かれているため、不満そうだ。

ぶっちゃけ、拗ねている。……いい年をした男達が拗ねても可愛くないぞ、不満を露にするのは止めれ。

私は溜息を一つ吐くと、先ほどの魔血石へと視線を向けた。

「黒騎士達も気になっているようなので、この効果を改めて解説しますね。まず、これは私の治癒魔法とゴードン先生の治癒魔法の合作のような状態です。先生に治癒魔法の術式を魔血石へと組み込んでもらった後、私の治癒魔法と解毒魔法を重ね掛けしているような感じでしょうか」

「そこまでする必要があるのか? お前、治癒魔法はこの世界の方が万能だと言っていたじゃないか」

即座に疑問点を述べるクラウス。その問い掛けに頷きつつも、「どちらにも欠点があるからね」と口にすれば、黒騎士達は判りやすく動揺した。

クラウスの指摘は正しい。この世界の魔法は体に負担をかけることなく、『欠けた部分を補う形で』治癒することができるのだから。

だが、その仕組みゆえに重大な欠点ができてしまう。

「この世界の治癒魔法は『魔力で欠けた部分を作り出す』というものだと、私は認識している。だからこそ、重傷の時に治癒魔法を使っても、すぐには動けないという現象が起こる。……単純に、治せる程度の怪我ならば十分だよ。だけど、即死するようなダメージが回復するかは判らない。死者に治癒魔法を施しても、意味はないでしょう?」

「……っ」

「魔法の限界、というやつだろうな。ミヅキの居た世界のように医療技術が発達していれば、魔法に活かすことは可能だろう。だが、この世界にはそれがない。『治癒する間もなく死した者』、もしくは『失われた箇所が正常に機能するまで持ち堪えられなかった者』には、どうにもならんのだよ」

私と先生の解説に、クラウスは悔しげに唇を噛んだ。おそらくだが、私の世界の医療技術や体の仕組みなどを理解していれば、今以上の治癒魔法を作り出すことは可能だと思う。

だが、今はそれが不可能だ。素人の私の解説で黒騎士達が理解できるはずもない。

「ベースになっているのは私の魔法で、先生の治癒魔法はそれを補う形で発動するよ。判りやすく言うと、『傷を受けた先から再生する』。人の体は細胞によって成り立っているから、それらを爆発的に増殖させる。勿論、体にはそれなりに負担がかかるけど、自己治癒能力を急激に促進させているような状態だから、再生した先からちゃんと機能するよ」

「負担が大き過ぎないか?」

「ある程度は割り切ってもらうしかない。それでも完全に治るかは判らないから、それを補うのが、この世界の治癒魔法。私の魔法で命を繋いで、完全に治癒させるのが先生の魔法ってことになるね。えーと、先生の方が後追いで発動する感じかな? 私の魔法の発動に連動して、先生の方も発動するし。これでショック死といった状態も防げると思う」

効果に時間差が出るため、私の方が先に作用するだろう。もたらされる効果を踏まえても、その方が都合がいい。

クラウスは私の治癒魔法を受けたことがあるから、魔王様の体にかかる負担を指摘しているけれど……まあ、こればかりはどうしようもない。死ぬよりマシ、という判断だ。

黒騎士達は暫く考えていたようだが、それでも反論は出なかった。私がこれを作るに至った経緯――魔王様の誘拐未遂――を知るからこそ、『何が起こるか判らない』と納得したとも言う。

確実な守りがないならば、思いつく限りの手を打っておくべきだ。

王族としても、魔導師の保護者としても、魔王様は狙われる可能性が高いのだから。

「あとね、これを持つのは魔王様、ルドルフ、ウィル様の三人。私やグレンも持たないよ。どうしても失えない人達……それも、異世界人関連で狙われる可能性がある人達のみ。あくまでも、私が個人的に作った物という扱いにして、製作過程やアイデアは一切漏らさない。黒騎士達も製作禁止」

そう宣言した途端、ざわりと騎士達がざわめいた。魔王様でさえ、怪訝そうな顔をしている。

ですよね、ここまで制限を設けている以上、何かあると思いますよね。

「ミヅキ、どうしてそういった制限を設けるか聞いてもいいかい? 類似品の製作が可能かは別として、かなり使い勝手のいい魔道具に聞こえるけど」

「そうですね、攻撃に関するものならば判りますが……治癒にそこまで制限を設ける理由は何でしょう? 魔法に疎い私でも気になります」

魔王様に続き、アルまでもが説明を求めてきた。クラウスは……何か思うことがあるのか、一応は黙っている。ただ、クラウスも気にはなっているらしく、視線で解説を促していた。

そんな皆の態度に、私と先生は顔を見合わせる。……やがて、先生は一つ頷いた。話すことを許可してくれたらしい。

実はこれ、『何も聞くな』で通せるならば、通してしまいたかった案件。下手に理由を話すと、騎士寮面子が使いたがる可能性が出てくるのだ。

「……ジークってさ、戦闘能力だけなら守護役で一番だよね。だけど、『一番強いか』って言われれば、絶対に違うと答える。それはどうしてだと思う?」

「手数の少なさだろう。ジークは身体能力こそ高いが、攻撃に魔法を組み込めない。長引くほどに疲労は蓄積され、数で押されれば押さえ込まれる可能性が高い。そうなった時、事態を打開する術がない」

突如として出たジークの名に訝りながらも、戦闘に魔法を組み込むことが得意なクラウスがジークの欠点を述べる。皆も手合わせでそれを悟っているのか、クラウスの言い分に納得しているようだ。

「それに加えて魔道具もあるから、相手が魔術師でも隙なく攻撃できるものね。いくら武器が強化されたとしても、ジークは接近戦に限定される。当然、攻撃だってされるでしょう。そもそも、結界で全ての攻撃が防げるなんてことはない。キースさん達がジークを案じるのは、それに気づいているから。……ご先祖の英雄と同じ功績は上げられない」

だからこそ、ジークは『先祖のような英雄になれない』。

英雄が生きた時代とは、戦い方が違ってしまっているから。

英雄が生きていた時代は、魔道具なんてなかったはず。それこそ、セイルのように詠唱が終わる前に殺してしまえば、魔術師は脅威に成りえなかった。

それを可能にする身体能力があったからこそ、彼は誰よりも強かった。それが『英雄』と呼ばれた理由。

「だけどね、魔道具の使い方次第では『誰でも英雄になれる』んだよ。それも『命を賭して多くの敵を殺した、悲劇の英雄』にね。生き残ることを考えなければ、だけど」

「……それはどういうことかな? ミヅキ」

視線を鋭くさせる魔王様に対し、私は肩を竦めた。

善良な魔王様。貴方はそんな英雄なんて、絶対に生み出さないでしょう。あまりにも非道で、人を人とも思わぬ仕打ちなのだから。

「解毒や結界程度ならば、問題ない。だけどそこに、『異常な治癒』が加わったら? 結界によって威力を軽減されたならば、攻撃魔法を食らっても再生するでしょう。少なくとも、理論上はその魔道具で可能です。後は薬による痛覚麻痺を起こしておけば、完璧ですね! ほら、『死の瞬間まで、戦闘能力の落ちない騎士』の完成ですよ」

『な!?』

皆の表情が驚愕に代わるが、これは事実だ。死ぬのは、再生が不可能なほどに体力が落ちた時くらいだろう。

『爆発的な再生能力』がどれほどのものか、試すには限度がある。だから、正確な威力は計りようがない。私は『絶対に死なせない』という目的で組み込んでいるため、その再生能力は洒落にならない可能性がある。

そこに、この世界の治癒魔法をプラス。……十分、不死身の体になってやしないだろうか。

これが本来の目的のままに使われるならば、まだいい。

だが、使い捨て前提の戦闘要員なんかに使われた日には、その存在が脅威となる。

「だから、この魔道具は先ほどの三人限定なんですよ。失えない人達というのも事実ですが、その危険性を理解し、私の意見を尊重してくれるでしょう? いくら国が第一といっても、これを利用するようでは困ります」

「それに加えて、殿下達はミヅキと親しい。今ならば『魔導師が独自に作り出した』という言い分が通る上、『この世界の者には作り出せない』ということにしてしまえるのです。……素晴らしい技術であろうとも、悪用される危険性がある以上、医師としては根付かせるわけにはいきません」

「……」

先生の『医師としての言葉』が重かったのか、魔王様は魔道具に目を落としてじっと考え込んでいるようだった。

黙秘はある意味、国に対する裏切り行為に該当する。だけど、これを知らないままならば……当分の間、似たようなものが作られることはないだろう。

「……。判ったよ、この情報は私個人の胸に収めよう」

「いいんですか?」

「無理矢理言わせた自覚があるからね。君達は最初、話そうとはしなかった。それは利益を害されることが理由ではなく、類似品が広まることによって起こる悲劇を回避するためだ。……私とて、それは望まないよ。クラウス達も理解できているだろう?」

「……残念だが、その判断を支持しよう。今の解説も当然、記録に残さん。下手に残せば、誰がどんな形で興味を引かれるか判らんからな。エルが黙秘するならば、俺達とて従うさ」

「はは、私は良い配下を持ったようだね」

安心したように微笑んで、魔王様は魔血石を手に取った。ガーネットのようなそれは、魔王様の掌の上で輝いている。

一歩間違えば悲劇に繋がる物だというのに、不思議と禍々しさは感じない。きっと、手にしているのが魔王様だからだろう。

「これはボタンの一つに加工して、身に着けていればいいんだね?」

「ええ。これ、元から魔王様の魔血石ですから。ルドルフとウィル様は普通の魔石を使っていますが、血の認証を行なうことで効果の対象者となるはずです」

「そうか。ミヅキも持てないのが心配だけど……」

案じるような視線を感じつつも、私は首を横に振る。個人的な見解で技術を捨てさせる以上、私もそれに倣うべきだ。

そもそも、魔導師がそこまで頑丈な存在である必要はない。……戦闘能力というより、頭脳労働方面でビビられてるだけだしなー、私。

お呼ばれするのは専ら頭脳労働です。戦闘要員にもなるけれど、平和ボケした日本人が一年足らずで逞しくなるはずはない。耐久力とか防御力なんて、一般人以下だろう。

「無事に済んで良かったな」

「そうですねー、先生」

重い空気を断ち切るように、私と先生はほのぼのと言葉をかわす。皆は呆れたような視線を向けてくるけど、その表情は誰もが苦笑を浮かべていた。

「守るべくは飼い主とその在り方か。子猫が賢く育って良かったな、エル」

「そうだね。……時々、その賢さがなければと思うけど」

「無理でしょう。我々と笑い合って過ごせる上、黒猫は魔王殿下の飼い猫であることを誇っているようですから」

「私は超できる子ですよ! 『魔王殿下の黒猫』ですもん!」

私達は、親猫様の方が心配なのです。魔導師の飼い主様ですもの、たまには魔導師らしくお役に立ちますわ!