作品タイトル不明
猫親子×2 其の二
クラウスが取り出したものを見て、私と魔王様は唖然となった。
いや、だってねぇ……『これ』を黒騎士が作ったかと思うと、どう考えても方向性を間違っているとしか思えないもの。
「ねえ、クラウス。何で、『これ』を作ろうと思ったわけ?」
顔を引き攣らせながら――魔王様は未だ、硬直中――聞けば、クラウスは僅かに首を傾げる。
んん? 何さ、その反応は?
「お前が俺達に教えたんだろう? 異世界の文化とやらを」
「は!? 私が原因!?」
「お前の魔法は元の世界の技術やアイデアが元になっているんだろう? 想像力が豊かな者が多い世界だと、俺達は素直に感心したんだが」
「あ〜……『これ』もその一環として捉えてたのか」
クラウス達が何の迷いもなく『これ』の製作に勤しんだ理由が判り、脱力する。
はは、そっかー。捉え方によっては、こういったものもできてしまうのか。
「魔法がないだけではなく、魔物なども伝説上の生き物のような扱いなんだろう? そんな世界で、獣人になりたがるという発想は斬新だ」
クラウスが差し出した物、それは……『猫耳』。
カチューシャやリボンではなく、一個ずつクリップのようなもので着けるタイプのそれは、誰が見ても『猫の耳を模した物』と言うだろう。
ただし、私と黒騎士達の間には海より深い溝があることを付け加えておく。それこそ、私が『猫耳』ではなく、『猫の耳を模した物』と思った理由だ。
私的猫耳の捉え方:萌え要素。
黒騎士的猫耳の捉え方:存在しないはずの、獣人になりきるアイテム。
黒騎士達は私が元居た世界に魔法がないことを知っている。その上で、私が『体感ゲームで魔法職を選んだのは、魔法を使ってみたかったから』と話していたので、猫耳もそれと似たもの――別の種族になりたい的な憧れの一つとして捉えたわけだ。
その証拠に、クラウスが差し出した猫耳はリアルである。クリップなどを誤魔化すためか、長毛種仕様で作られている猫耳はマジで出来がいい。
ただ……『何故、金色と黒の二種類があるのかなー?』とは思うけど。
「お前達は日頃から『そろそろ猫耳が見えそうだ』と言われていたからな。仕草も猫っぽいし、違和感もないだろう」
「いやいやいや! クラウス!? まさかとは思うが、片方は私の分だとでも言うのかい!?」
「他に適任者がいるか? 安心しろ、エルの髪の色に合わせてある」
「安心できないだろうっ! いや、安心する必要はないよね!?」
「俺達の努力を無駄にする気か。悲しいな……」
「何の努力をしているんだ、君達は……!」
魔王様の突っ込みにも、大真面目に答えるクラウス。どうやら、退く気はない模様。いや、それ以前の問題か。
……魔王殿下と黒騎士が、猫耳を前に言い争っているんだぜ? 何故、こうなった。いや、私が話した異世界文化が原因だってことは判っているけどさ。
それに。
この猫耳を使って、ちょっとした『お遊び』もできそうなんだよねぇ。
「……これを着けて、私達には見えていない振りをしたら、どうなりますかね?」
「「は?」」
「いや、前にゼブレストの後宮破壊でやらかしたんですよ。『私達には見えないけれど、他の人達には見える亡霊』ってやつ。勿論、映像は私達にもばっちり見えているので、関係者が見えない振りをしただけなんですが」
あの亡霊騒動は(様々な意味で)大受けした。舞台裏を知っていると大して怖くはないが、知らなければパニックを起こす。
それと同じような引っ掛け……悪戯をしたらどうかなー? と思うのですよ。
「私だけだと、罰ゲームか何かで猫耳を着けていると思われて終わりでしょうが、魔王様も着けていたら、そう思われませんよね? しかも、平然としていた場合、自分の方が幻覚でも見ていると考えるんじゃないでしょうか」
「まあ、そうだろうな。エルがそういった遊びに乗るなんて、絶対に思われないだろう」
「いやいや、何故、私がその話に乗ること前提になってるのかな!?」
「面白そうじゃないですか。童心に返って、楽しみましょうよ」
「人の反応を見ることも重要だぞ? 事情を知らない第三者の意見は必須だな」
慌てる魔王様にも、揃ってお答え。そして、そんなクラウスの反応から『ある予想』が思い浮かぶ。
「クラウス、これ魔道具なんじゃない?」
猫耳を手に取り、クラウスに問いかける。魔王様は訝しそうに私を見つめた。
うん、何を馬鹿なと思うのは当たり前だと思うんだ。その気持ちも判る。判りますよ、魔王様! 私の指摘が正しかった場合、『黒騎士達、何してやがる! 平和過ぎるだろ、何その技術の無駄遣い!?』って、お叱りが来そうですからね!
……だけど、クラウスが全面的に私の味方になる場合って、大抵が魔法関連なんだよねぇ。
そして、その予想は間違っていなかったらしい。『よくぞ聞いてくれた!』と言わんばかりに、クラウスは得意げな顔になる。
「時々、実際の猫のように動くぞ。徹底的にリアリティを追求した」
「やっぱり! 何という技術の無駄遣い!」
即座に突っ込めば、クラウスは『何を言ってるんだ』とばかりに、溜息を吐いた。
「生きているなら、耳くらい動くだろうが。実家で猫を飼っている者に映像を依頼し、それを見ながら本物に近づけてみた」
「……。それを作ることに、何の意味があったか聞いてもいいかな? クラウス」
温〜い視線を向けつつ、魔王様が尋ねれば。
「異世界の技術に近づきたかった」
クラウスは大真面目に言い切った。あまりにも堂々と言い切るその姿は拍手してやりたいほどだが、奴らが作ったのは猫耳である。……反応に困る一幕です。
ただ、魔王様は別の意味で沈黙したようだ。さすがにクラウスの言い分を否定するわけにもいかず――異世界人の知識を価値のあるものとしてきた以上、否定できない――、魔王様も黙るしかないのだろう。
うっわぁ、猫耳一つにこの解釈! これが世界の差か! いや、職人としてのプライド……かな?
まあ、事情はだいたい判った。要は、黒騎士達は私が元居た世界の技術に対抗意識を燃やしたわけだ。それで猫耳の製作に至ったのだろう……『俺達だって可能なはずだ!』と。
ええ、方向性は違うけれど、これは確かに凄いと思います。
もう、異世界の負けでいいよ……『猫耳は単なる萌え要素』なんて、絶対に言えん。
「じゃあ、猫耳を着けるのは決定ってことで!」
「ちょ、ミヅキ!?」
「はいはい、動かないでくださいね〜」
徐に猫耳を手にすると、早速、魔王様の頭に着ける。私も着けるけど、自分の分は鏡を見なければ厳しいので、まずは魔王様に。
……。
似合うな、おい。
美形って得だな。猫耳付きでも、それほど違和感ねーじゃん!
折角なので、親猫(偽)を抱えて、魔王様と比べてみた。魔王様がモデルだけあって、親猫(偽)と猫耳の色はほぼ同じ。
「「……」」
「な、何かな、その反応は」
「いや、近衛の人達って魔王様をよく見てるなって」
「確かに似てるぞ、エル。合わせたわけではないんだが、エルが着けている猫耳とぬいぐるみの毛色もほぼ同じだ」
私とクラウスの言い方に、魔王様は顔を赤らめて沈黙するが……実際、顔立ちとか雰囲気が非常によく似ている。魔王様もそれが判ったから、黙り込んだんだろう。
「まあ、いいじゃないか。ぬいぐるみは近衛騎士達からの、ちょっとした悪戯だろう? この程度の意趣返しなら、許されると思うぞ?」
「クラウス……」
「折角、子猫が帰って来たんだ。微笑ましい姿を見せてやれ」
クラウスの言い分は正しい。だって、今現在のこの部屋、猫耳付きの魔王様に、親猫(偽)がプラス。子猫(=私)と子猫(偽)も加わって、大変賑やかです。
リアル猫親子&猫親子(偽)が揃ってるんだぜ?
少なくとも、猫耳付き魔王様はガン見されること請け合いだ。
それにさ。
クラウスがわざわざこんなことを言い出すってことは、魔王様は今回、か〜な〜り落ち込んだんじゃないかと思うんだ。
言い方は悪いけれど、私がガニアに飛ばされた一因は魔王様。
『シュアンゼ殿下を守れ』と私に命じたのも、魔王様。
落ち込む要素ありまくり! 『保護者根性通り越して、親猫と化した』なんて言われている魔王様からすれば、自分を責めても仕方がない。
近衛騎士達が黒い子猫のぬいぐるみを魔王様に渡したのは、私がここに戻ってくることを確信していたからだろう。無事に戻って来れば、猫親子(偽)が完成するんだし。
「はぁ……判ったよ。今回はミヅキの悪戯に乗ってあげる」
「ありがとー! 魔王様、大好き!」
「はいはい、判ったから。……言っておくけど、私は君達に押し切られて協力するに過ぎないからね!?」
「はーい」
「了解した」
そこは譲らないとばかりに釘を刺す魔王様に対し、私達も良い子のお返事を。
ええ、それは判っていますとも。寧ろ、元凶と目され、疑われるのは、私一択だと思います。
でも面白そうだから許す!
つーか、元凶ってのも間違ってないし!
「皆の反応が楽しみね♪」
さて、どうなるかな?