軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒猫はお家へ帰りたい 其の一

その日、魔導師から新たなお誘いの手紙が届き。

予想外の内容――その暴露に、各国では即座に参加表明が成されたのであった。

『皆様、お元気でしょうか? 私は何〜故〜か、毎回ガニアの権力争いに巻き込まれております。北は異端……異世界人が軽んじられるというのは本当なのですね♪ っていうか、護衛と監視の騎士もいねぇっ!』

『【ないわー、この扱い】と思いつつも、私にとっては好都合。これに関しては、私悪くない。絶対に悪くありませんからね!』

『そんな扱いをされて、私が大人しくしているはずもなく。皆様も、今回の一件の決着が気になっていることと思います』

『というわけで。お待たせしました! 魔道具を使った中継で参加する、【異世界人召喚の断罪の場】へとご招待です……!』

『さらっと暴露しましたが、ガニアはやらかしました。あ、元凶は召喚された異世界人と仲良く〆たので、断罪は協力者の方です』

『ご参加をお待ちしておりますね』

『つーか、私はもう帰りたい。祝杯上げたい、親猫様達との生活に戻りたい。何より、この環境からおさらばしたいので、無理やりにでも纏めて帰ります』

――ガニア・謁見の間にて

「以上が、彼女……リヤンの状況です。元凶となった司教は黙らせましたが、異世界召喚には世界を超えるだけの魔力が必須。多くの魔術師達の参加、及び、大量の魔石の使用が必至と思われます。疑わしいのは、魔術師と魔石の提供者……資金源となった者達ですね」

状況説明の言葉を口にするのは私。そして、各国の王族達は魔道具を使い、自国よりこの場に参加している。

これ、本来は相手が偽物の可能性もあるということから、あまり使われない方法らしい。感覚としては結構大きな画面のテレビ電話という感じだけど、王が自国を留守にできないような場合に使われるとか。ただ、今回はこれじゃなければ拙いのだ。

理由は簡単、『他国の王族がガニアに行くのは危険だから』。

ぶっちゃけ、『信頼できないじゃん、今のガニア』と他国から言われたも同然。

私の状況がかなり暴露されていることに加え、その元凶となっているのが魔術師達。しかも、その筆頭が王弟。

魔術師の集団は脅威となるため、迂闊に王族をお呼びできんのだ。今回は大半が『(面白そうだから)皆で観覧できるこの方法の方がいい』という感じだったけど。

まあ、そうだろうね。選ばれた一人が命の危機を覚悟して来るより、皆で魔道具によって中継されている映像を鑑賞した方が、娯楽要素は強いもの。

そんなわけで。

『当事者であり、元々ガニアに居る魔導師にお任せするよ』という、ありがたいお言葉を各国からいただいたのだ。勿論、『こちらから送り込むより、あいつに断罪やらせた方が早い。何か考えがあるみたいだし』という意味である。

理解があって、何よりです! グレンよ、超いい仕事したね……!

「元凶はすでに〆ていますが、その協力者達は未だ処罰されておりません。そこで! 召喚された本人であるリヤン自身に教えてもらおうと思います。なお、記憶の提供も彼女は了承してくれています」

「ふむ、彼女がお前さんと繋がっている可能性はないかね?」

声を上げたのはファクル公爵。ただ、その口調は嫌味なものではない。寧ろ、他から声を上がるのを防ぐ意味で、代表として質問してくれたらしい。

勿論、その質問も想定内だ。にこりと笑って、リヤンの足元を指差す。

「リヤンは聖女の姉上なのですよ。今回、召喚の元になるものとして使われたのは『聖女の遺髪』。大司教様も証言してくださっていますが、大馬鹿どもは聖女の墓を暴いたのです。……妹の眠りを乱した輩に対し、リヤンは非っ常に! お怒りなのです。ですから、私は彼女の代理としてこの件を口にしています」

ね? とリヤンの方を向けば、リヤンははっきりと頷いた。……足元に転がる物体を踏み付けている彼女の足に、よりいっそうの力が籠もる。

「私がミヅキに頼んだの。『この件で一番怒っているのは誰か』なんて、誰だって判るでしょう?」

「……。足元の物体は何かね?」

「「クズ」」

即答。私とリヤンが綺麗にハモった。まあ、それだけではお姉様のお怒り具合が判らないだろう。よし、フォローは任せておけ!

「ちなみに、リヤンは武闘派ですよ。彼女の世界は魔力の使い方がこの世界と違うらしく、武器にも纏わせることが可能なんですって」

「ほう、それは……」

「いやぁ、私も驚きました! いくら怒り狂っていたとはいえ、頑丈そうな扉が一刀両断されるなんて! あ、元凶の司教の部屋だったので、特に問題ないですよ? 神殿の皆さんはとても理解を示してくれまして、『どんな目に遭わされても文句は言えない』って言ってくれましたから!」

『え゛』

続いた言葉に、絶句する人が続出した。まあ、そうだろうね。リヤン、パッと見は武闘派に見えないから。

だけど、神殿での『お姉様のお怒り 〜魔導師と一緒〜』は、本当に神殿の皆様に許されている。大司教様も涙目になって、『お労しい』と言っていたので、この件に関しては私達が正義である。

「私はこの国の事情など、どうでもいいの。妹の墓を荒らした奴らが許せないだけ。勿論、召喚に協力した全員が該当者よ」

「ほう。……で? そ奴らはこの場に居るのですかな?」

「……ええ。居るわ」

そう言うなり、リヤンは手に持っていた刀でその人物を指す。そこにいたのは当然、王弟殿下。

「あの時、貴方と何人かの魔術師達があの場に居たわ。……私の居た世界では、魔力持ちが魔物と戦うの。あんな状況だからこそ、周囲には気を配っていたのよ。どう考えても、あの場に居て無関係はあり得ないでしょ」

「でたらめだ! 異世界人同士、繋がっているだけだろう!」

「そんなことはしないわよ? する必要はないもの。そうそう、ミヅキからは『この世界に来た時、その場に居た人を教えて』って言われただけなのよ。なぁに? 貴方はミヅキと揉めたの? 何より……『この一件を許せないのはミヅキじゃなく、被害者である私』よ? どうして、別人を挙げる必要があるの」

「ぐ……」

畳みかけるように、次々と疑問を口にするリヤンに、王弟殿下は悔しげな表情で黙った。被害者であるリヤン自身が怒っていると言っているので、その証言を覆すのは難しい。

というか、該当者が王弟殿下とその忠実なる魔術師達以外、ありえないだろう。魔力と金がかかるものなのです、異世界人召喚は。一般の魔術師達は割と貧しい生活を送っているため、豊富な資金源のある魔術師なんてものは限られてしまうのだ。

王弟殿下に選民意識があることから、その側近と呼ぶべき魔術師達も貴族だろう。消去法でも同じ面子になるぞ?

『ほう? 禁忌をしでかした以上、我らも黙っているわけにはいかんな』

どこか不機嫌そうに口火を切ったのはキヴェラ王。

『同感だ。魔術師でありながら、その危険性を理解しないとは……恥ずかしくはないのか?』

同じく、不機嫌そうなルドルフ。私に視線を寄越すあたり、ルドルフは異世界人の味方をしてくれる気なのだろう。良い奴だ。

『魔導師殿の扱いにも疑問が残るが、この国の管理体制はどうなっているのかね』

呆れを隠さないカルロッサ王が呟けば。

『そこに気を回せているなら、このような事態は起こらんだろうなぁ』

何故か、達観した様子のウィル様がトドメを刺した。……グレンよ、過去に何をやらかした。妙に実感籠もってるぞ、あんたの主。

『一応は本人の話を聞いてみるべきではないかね?』

『うむ。私もサロヴァーラ王の意見に賛成だ』

この面子屈指の善人――あくまで、この面子内限定――であるサロヴァーラ王とコルベラ王が皆を落ち着かせるように言葉を紡ぐ。

しかし、私は見てしまった……サロヴァーラ王のすぐ傍にティルシアの姿を!

女狐様は参戦する気満々なご様子。絶対に、何か仕掛けてくるだろう。サロヴァーラにとっては、各国にアピールをする大チャンス。女狐様は私からのお誘いの意味を、正しく受け取っていた模様。

……まあ、ティルシアが何か外交カードを持っていないと意味がないんだけどさ。あの様子だと、何かあるな。

そして、イルフェナは。

『……。テゼルト殿下。私はミヅキをシュアンゼ殿下の足の治療のために派遣したのであって、貴殿らの手駒としろとは言っていないのだが? 異世界人召喚の一件はどう考えても、ミヅキが動く案件ではないだろう。何故、とお聞きしても宜しいか』

目が笑ってない笑みを浮かべた魔王様が王弟殿下を綺麗にシカトし、ガニア勢に狙いを定めていた。

……あの、親猫様? お気持ちは嬉しいのですが、この場は空気を読んでください。ほら、皆様にも呆れられ――

『エルシュオンの怒りも当然だな。ミヅキ、安心しろ。エルシュオンの親猫ぶりは今更だ。寧ろ、これまで抗議をしていない方が不思議なんだから、誰も文句を言わないと思うぞ?』

「えー……いや、そんなことは」

言いながらも、ちらりと皆さんに視線を向ける。……全員、納得の表情で頷いてらっしゃいました。

そっかー、やっぱりイルフェナから抗議が出ないのを不思議に思っていましたかー……。いや、私が黙ってただけなんですけどね。気づく人は気づくよね、私の状況の不自然さ。

「……。あるみたい。理解があり過ぎて、何て言っていいか判らないけど」

『素直に喜べ。良かったじゃないか、飼い猫認定が浸透して』

面白そうに、にやりと笑うのはルドルフ。しかし、ルドルフにはその猫親子の親友というポジションが浸透していたりする。

我らの同類です、同類。犬と猫の友情物語として、ゼブレストでは微笑ましがられてるって聞いてるぞ。

そんな遣り取りの中、黙っていられなくなったのは王弟殿下だった。

「異世界人如きに、それほど気を配る必要などなかろう! 異世界人とて、全てが脅威であるはずはない! 随分と情けないことを仰られますなぁ、皆様方!」

確かに、『異世界人全てが脅威ではない』。個人差がある以上、アリサあたりは脅威にならんだろう。

王弟殿下の言い分も部分的には正しいため、ガニアの貴族達はその重大さが判っていないようだ。彼らは元々、異端を軽視する傾向にある。異端の最たる異世界人に気を使うなど、考えられないと思っても仕方がないかもしれない。

しかし、現在は『立派に脅威になり得る』私とリヤンの二人がここに居るわけで。

「キヴェラを敗北させた程度じゃ、危機感を抱かれませんか。ガニアに血の雨を降らせれば、私も脅威の仲間入りができるかな?」

「あら、それなら私の方が大したことないわよ。……神殿自体を破壊すれば良かったかしら?」

二人揃って、要らんことを口走ってみた。一気に視線が私達へと集中する。

ガニアの皆様はよく判っていない――私が大規模な破壊などを行なっていないため、それほど危機感がない――ようだが、中継で参戦している人達はまともに顔色を変えている。そして、当然――

『二人とも、止めなさい。ミヅキ? いいかい、間違ってもやるんじゃないよ? リヤン嬢にもやらせるんじゃない』

「はーい」

速攻で、我らが魔王様からストップがかかった。リヤンのことも口にするあたり、皆に危険視される可能性を防いでくれたのだろう。

ただし、そこを突く愚か者もいる。存在を忘れられかけていた王弟殿下、その人が。

どうやら、私が素直に言うことを聞いたのを目の当たりにし、プライドが傷ついたらしい。というか、魔王様に対して妙な対抗意識があるようだ。

まあ、そうだろうね。魔王様、将来は王弟殿下……同じ立場になるのですよ。ガニアの王弟殿下と違って、国にとって必要な人だけどね!

しかも現在、王弟という立場にはライナス殿下もいるわけで。国に必要とされる二人の若者に対し、劣等感を抱くのも仕方がないと思うのです。要らない子だもの、王弟殿下。

……『ざまぁ! 劣等感のあまり、のた打ち回るがいい!』とも思ってるけどな。

「はっ! 魔王殿下がお優しいことだ。そこの魔導師と同じように手懐けるおつもりか」

『そのようなことは考えていない。それに一つだけ勘違いをしているようだ』

「何……?」

訝しむ王弟殿下に対し、魔王様が余裕のある笑みを浮かべ。

『私が手懐けたのではなく、ミヅキが私に懐いたんだ。ミヅキが【勝手に】私の配下を名乗っているだけだからね』

「なっ……」

「そうでーす! そこ、勘違いしないように! 私の言動は全て自己責任ですから!」

『ミヅキ、煩い』

「えー……そこは感動しましょうよ、魔王様ぁ」

珍しく、攻撃的なことを言った。 ただし、私のノリには付き合ってくれなかったけど。

おお……! 順調に意識改革ができているじゃないか、魔王様! そこで照れがなければ、もっと良かったのに!

さて、それじゃ王弟殿下を〆ましょうか。誰が見ても罪人なことに加え、私は『自己責任』って言ったものね?

「王様、貴方の口から結論を述べてください。それがなければ、この国は認められないでしょう」

『そうだね、彼は最高権力者ではない。元凶の司教とやらがその様子なんだ。ミヅキ達の報復が許された以上、ガニアという【国】が禁忌を黙認したとは言い難い。貴方の言葉が決定打になるだろう』

……いえ、魔王様。司教をボコったのは私とリヤンの独断です。感情の赴くままに、『死にさらせぇっ!』とばかりに〆ました。大司教様が無条件で私達の報復を黙認するくらい、凄まじく見えたようですが。

しかし、ここでそんなことを暴露するはずもない。何より、王弟派の貴族達が口を挟めない好機である。それを逃がす必要などないわけで。

黙 っ て い れ ば い い ん だ よ 、 そ ん な こ と 。

(都合の悪いことを隠蔽した上で)公の場にて『他国からの圧力』を発☆動!

魔王様もガニア救済を交えつつ、ガニア王の逃げ道を塞いでくれている。強制的に二択に追い込まれた形だが、他の国は何も言う気がないようなので、全ては魔王様の優しさだろう。シュアンゼ殿下を案じたのかもしれない。

にこりと笑って促せば、どこか苦い顔をしながらもガニア王は頷いた。その表情に、彼がすでに弟を切り捨てる覚悟をしていたと知る。

「勿論だ。我が国としても厳しく処罰する! 割り切れずにいた私の性格にも、このような事態を招いた責はあろう。だが! 禁忌に手を出した以上、そしてそれが他国の知るところとなった以上は! 王族であろうとも、例外なく処罰が下される。それを違えるつもりはない」

「ふざけたことを! 貴様はこの国のために何もしなかったではないか! 魔導師の脅威がある以上、聖女の血縁を招いて我らが力とすることこそ、国への貢献ではないか!」

「魔導師殿をその理由とするには無理がある。そもそも、リヤン殿はお前達に憤っているようだ。何故、己が所有できると思う? 異世界人は我らの道具ではないのだぞ!?」

「民間人以下の異端者どもに、王族が気を使う必要などあるまい!」

怒鳴り合いに近い状態になりながらも、王弟殿下は納得しないらしい。『異世界人は民間人扱い』、『北は異端の扱いが悪い』という二点を常識として捉えている場合、王弟殿下の言葉も間違いではないからだ。お国柄なのです、要は。

そうは言っても、この場でそれを理解してもらわなければ困る。見せしめにして、今後同じことが起こらないようにしなければならないのだ。他国とて、それを望んでいるに違いない。

つーか、私のことを『脅威』といった口で『民間人以下の異端者』扱いねぇ?

そこに気づかないあたり、凝り固まった選民意識をお持ちらしい。

よし、脅威と認識された以上は『それなりの芸』を見せようじゃないか。

最高のエンターテイナーを自称する私としても、この場がただの兄弟喧嘩で終わってしまうのは、話に乗ってくれた人達に申し訳がない。

そもそも、この場でしか王弟殿下をボコれないのよ! 目的はそこなのに!

処罰が確定したなら、他国の罪人に手なんて出せるわけないじゃん!?

「じゃあ、私がボコればいいんですよ。理由はこれまでの報復、それ以上に『貴方のことが気に入らないから』」

「「は?」」

ガニア王族兄弟が揃って私の方を向く。そんな彼らを無視し、私は「借りますね」と一声かけ、シュアンゼ殿下から仕込み杖を奪い取った。そのまま転移で、王弟殿下の正面へ。

「思い知れやぁっ! この三流クズ魔術師がぁっっ!」

「ぐふっ」

怒鳴り声と共に杖を振りかぶり、まずは腹に一発。皆が呆気に取られている中、私は片手に持った杖で、自分の肩を軽く叩いた。

大丈夫、そう簡単に死なせないわぁ〜。人には許せないことってあると思うの。

「斬新なお迎えで、ガニアにやって来ましたが。……この国で色々とあったよなぁ? 異端だ、民間人だと、蔑んでくれたよなぁ……! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろや、生まれしか価値のない無能が! 種族差? 異世界出身なんだから、当然でしょ!? まあ、それでも文句があるなら、貴方の全てに勝る魔導師としてこう言わせてもらおうか」

できる限りの威圧を込めて、うっそりと微笑む。そして、蹲りながらも睨み付けている王弟殿下に対し、蔑みの表情を向け。

「この下等生物が……! ああ、誤解しないでね? この世界の人を蔑んでるわけじゃないの、『価値のない異端』であり、『身分は民間人』でしかない私にさえ劣るあんたを、心の底から見下しているだけ」

「貴様……っ」

「ほらほらぁ、もっと足掻きなさいよ。まあ、手合わせでボロ負けするくらい無能なあんたに、大した期待はしてないわ。国の法に従え。それだけでいい」

その年でも理解できない上、元は自分が言っていたものね! と明るく笑えば、自分の方が先に見下していたと気づいたらしく、王弟殿下は唇を噛む。

さあさあ、楽しい罵り合いだよ? 杖を作ってくれた黒騎士達も今ので溜飲が下がっただろうし、これからは私のターンですよ!