作品タイトル不明
被害者との対話 其の二
召喚された被害者ことリヤンは、意外と話が判る人だった。これなら、この世界における異世界人の扱いにも理解がありそうだ。
そんなわけで。
早速、私が知る『一般的な』異世界人の取扱いや守護役制度を説明してみた。勿論、それが定められた経緯や提案したのが魔導師ということも含む。
……あまり良い話ではないけれど、二百年前の出来事を知らないと、一方的に監視されているような印象を受けちゃうんだよねぇ。
リヤンならば『そうしなければならなかった事情』を踏まえて、『それによって異世界人が受けるメリットとデメリット』を説明した方が納得できるだろう。その判断は間違っていなかったらしく、彼女は真剣に聞き入っている。
なお、名前は既に呼び捨てである。言葉遣いも普通でいいと言われた。信頼とか親しみから来る――それも少しはある……と思いたい――ものではなく、『そういうキャラじゃないでしょ、あんた』と断言されたから。
いいじゃねーかよ、別に。私がお上品なキャラを気取ったところで、無理があるんだから!
「……異世界人の扱いはこんな感じかな。勿論、異世界人にも個人差があるから、その状況によって変わってくると思うけど」
「意外と考えられているのねぇ。特に守護役制度ってのが面白いわ。頭が軽い子なら、簡単に囲い込めるじゃない」
「……。いや、そういう意味もあると思うけど。とりあえず、異世界人にとっても必要なことだと思おうよ!?」
「否定はしてないでしょ。あんたがさっき言った『生産量の関係から、迂闊に料理のレシピを広められない』ってのを聞いてると、納得できるのよ。異世界人に悪気はなくとも、下手をすれば大混乱が起きるじゃない。この世界的にも、異世界人が無自覚に罪を犯さないようにするためにも、傍で保護と監視を担ってくれる相談役が居るのは良いことだと思うわ」
リヤンは純粋に感心しているようだ。彼女は情報を求めるために大人しくしていたらしいので、『異世界人が持つ危険性(無自覚)』を以前から察していたと思われる。
だって、さっき『異世界人ってだけでも異端扱いなのに、問題起こしてどうするのよ』って言われたからね。初っ端から問題行動を起こして目立てば、その後の扱いにも影響が出ると気づいているのだろう。
いやはや……マジで冷静だな、リヤン。やっぱり、絶対に攫っちゃいけないタイプじゃないか。
こういった逸材を傍に囲うと、『勝手に情報収集され、気づいた時には強敵と化している』という未来が待っている可能性・大。反撃を狙う判断力と気概がある人だからこそ、内部情報から遠ざけなければならないだろうに。
そんなリヤンは、召喚されてから神殿の一室で訪ねてくる人のみと会話し、情報収集に勤しんでいたらしい。その中で信頼できそうな人は、今も同席してくれている大司教様『だけ』だとか。
「他の人って、二パターンに別れてるのよ。一つは判りやすくご機嫌を取ろうとしたり……そうね、私をこの世界に呼び出したような連中って言った方がいいかしら。とにかく、裏が透けて見けるような奴らね。もう一つは憧れとか、無条件の崇拝に近いものを抱く人達。こう言っては何だけど、フィルターがかかり過ぎた言葉ばかりで、信憑性が今一つなのよね」
「ああ、『盲目的になり過ぎて、現実が見えてない』的な感じかな? いるいる、そういった人達。私も『魔導師だから』で済ませられてることがあるもの、思い込みが強いっていうか……」
「そう! そうなのよ! 悪意はなくとも、それが一般的な意見だとは思えないのよね」
うんうんと頷き、私の言葉に同意するリヤン。対して、大司教様は複雑そうだ。いくらリヤンの意見が理解できてしまっても、彼の立場上は純粋な尊敬(意訳)を否定することはできないのだろう。
ただ、大司教様はこういった立場の人にしては話せる性格をしているらしい。(リヤン談)
まあ、その理由も判る。リヤンが比較しているのが元居た世界の聖職者という点も大きいのだろう。
この世界にとって、信仰はそれほど価値があるものではない。心の拠り所的な方向で考える人達が大多数を占めるため、傾倒し過ぎる人が少ない――皆無ではない――のだ。
だが、今回は少々、状況が悪かった。
『聖女』は過去に実在した人物であり、その存在を神聖視する者とて当然、いる。しかも、リヤンはその聖女様のリアル血縁者。聖女様のファンとしては、盛り上がってしまうわけですよ。
なお、こう言った人達の存在があったからこそ、元凶の司教達はリヤンに手が出せなかったらしい。
『聖女様のお血筋の方は必ずお守りいたします!』とばかりに牽制しまくってくれたらしく、大司教が保護していることもあって、これまで無事だったんだそうな。
元凶どもはリヤンを『聖女様の血筋の方』という売り方にしたいため、これには苦い顔をするしかなかった模様。召喚した聖女の血縁者が、これほどのしっかり者とは思わなかったのだろう。
――このことからも、元凶達は『聖女の血縁者=自分達の手駒』と考えていたことが判る。
かつて存在した聖女への敬意など欠片もなく、単にその功績と今も残る求心力を利用したかっただけとみた。それを当の聖女の血縁者と熱烈なファン(=聖女の信者)に潰されたのだから、皮肉なものだ。
つーか、過去に存在した聖女って『その功績から、聖女と呼ばれるようになった人』なんだけどな? どう考えても仕事人間系というか、情勢を見ることに長けた有能な女性にしか思えんのだが。
その血縁者が何故、素直に自分達に従ってくれると思ったんだろうか?
自分を過大評価し過ぎてないかい、元凶の司教さんよ。
どうにも、王弟殿下と同類というか、『野心はあっても能力がついていかない系』に思えてしまう、今日この頃。あれだ、貴族とかに多い『家柄を自分の能力と勘違いしちゃった系』!
周囲に人が居たり、自分の意見がいつも通るのは、自分が優秀だからだと思ってる残念な人。実際は生まれた家に権力があることがその理由であるため、家が没落したり、家から切り捨てられると転落一直線の、王道悪役みたいな感じ。
個人的には、徹底的に悪役街道を突っ走ってもらいたいものである!
最後の決め台詞は『覚えていろ!』でお願いねっ!
悪意なんてないぞ、ただの現実だ。大事件を起こした主犯として、華々しい最期を飾ってもらいたいだけだ。何せ、今回のガニアでの出来事は私を通じて多くの国に配信されているのだから。
各国の王族にさえ知らされる面白事件……じゃなかった、異世界人を巻き込んだ最悪の出来事として! 是非とも、後に語り継がれる神対応をしてもらいたい。その末路が悲惨であればあるほど、後に続く奴は出なくなるからね。
そんな私の思考に気づいていないのか、リヤンは穏やかに微笑んだ。
「だから、あんたからの接触はありがたかったのよ。勿論、あんたがこの世界の奴らに洗脳されている可能性もあったけど……あんたを洗脳なんて無理よね、絶対」
「イエス! 自己中過ぎて、『少しは自分を見失え』って言われるレベルです!」
「うん、そうよね。あんたはそういう子だって、話していて判るわ。これまでのことを『情報として得ている』状態ではあっても、あくまでも『ものの見方の一つ』として捉えているんでしょう? そのままを信じるのではなく、自分なりに検証した上で、有効に使っているんじゃない? それが『異世界人であり、魔導師でもあることを隠さない理由』だと私は考えるわ。……異世界人ならば無知がある程度見逃されるし、『世界の災厄』と呼ばれる魔導師ならば破天荒な言動も納得されるもの」
微笑んではいるが、向けられた視線に温かさは感じられない。いや、こちらを探っているというべきか。洗脳されていなくとも、信じられるかは別問題と考えているのだろう。
自論を組み立てつつも、あくまでも『私はそう考える』という仮説に留める表現はさすがだと思う。私が否定しようとも、彼女は自分で確かめるまでその疑惑を消しはしない。
私を不快にさせるかもしれないと判っていて、わざわざ口にしたのは……リヤンなりの誠意、だろうか。踏み込んだことを聞かれると判っているからこそ、先に交渉材料になりそうな案件を提示したように思えてならない。
リヤンのこういった行動は、これまでの生き方が影響しているのだと思う。交渉相手としてはかなり誠実なタイプというか、真っ直ぐな気質を持っている模様。
「……さあ?」
「あら、否定はしないの」
「互いに個人的なことを聞きたいからこその、この話題でしょう。貴女が答えてくれるなら、私も答えます。……今後の付き合いも含め、互いを知っておくのは良いことだと思うもの」
「言うわね、すでに今後の付き合いが確定?」
「『聖女の血縁者』も、『異世界人の魔導師』も、この世界において価値がある。属する国が違ったとしても、異世界人という共通点がある以上、その繋がりを否定できない。……悪巧みするなら、共犯者になれると思うけど?」
そう言って、意味ありげに笑みを深める。リヤンはアリサのように庇護を必要としないだろう。味方になると言っても、たやすく信じるような真似もすまい。
ならば。
私には利用する価値があるのだと、リヤンに売り込めばいいだけだ。大人しくはなさそうなリヤンにとって情報源であり、人脈や魔法を持つ私は価値があるはず。
私の表情と言い方で、自分の思惑が伝わったことが判ったのだろう。リヤンは私の言い分に一瞬、呆気に取られ――
「いいわね! うん、下手に味方とか言われるよりも、ずっと信頼できるわ。利害が一致する限り手を組めるなんて、最高よ! 私に必要なのは同じ立場ゆえの慣れ合いじゃなくて、遣りたいことができた際に成し遂げるための共犯者だわ」
初めて、心からの笑みを浮かべた。その笑顔のまま、リヤンは私の手を握る。
「改めて自己紹介を。私はリヤン。この世界に存在した聖女の血縁者であり、この国がやらかした召喚の被害者よ。魔力を使った戦闘を得意とするから、戦力が欲しい時は役に立つと思うわ」
「宜しく、リヤン。私はミヅキ。ミヅキ・コウサカ。魔法に関しては、明確にイメージできればほぼ万能。魔道具の製作も可能だよ。普段はイルフェナにいるけど、『ちょっと長い散歩』に出ることは可能。各国に知り合いもいるから、状況によっては情報収集も可能だね」
「有能ね」
「そうでなければ、教育してくれた保護者様に合わせる顔がないもの!」
……いや、魔王様なら『その思考回路と言動は私のせいじゃない!』と頭を抱えるかもしれないけど。ま、まあ、私を教育してくれたのは魔王様です。『完璧な王子』と言われるほどの努力をしてきた魔王様が保護者である以上、私だってそれなりの出来でなければならんよね。
どこか微妙な気持ちになった私に気づかないまま、リヤンは握った手を放す。その表情はどことなく面白そうであり、同時に……どこか苛立ちを秘めているように思えた。
……? 機嫌は悪くなかったはずだけど、どうしたんだろう。これから話す内容に、何か不快なものでも含まれているんだろうか?
「まずは私と聖女のこと……私達の関係について話してあげる。ミヅキもそれが気になっているんでしょう?」
「勿論。……。……は!? 今の言い方だと、聖女と呼ばれた人が誰か判っているように聞こえるけど」
驚きつつもリヤンと視線を合わせれば、彼女ははっきりと頷いた。大司教様も驚愕の表情を浮かべているということは、これは初めて明かされることなのだろう。
「知ってるわ」
視線を大司教様にちらりと向けてから、リヤンは話し始めた。大司教様に聞かれるのは問題ないらしく、退室を促すことはない。
さあ、どんな爆弾発言が出てくるかな?