軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

被害者との対話 其の一

――神殿内・とある一室にて

ろくでもないガニアの所業――主犯は神殿ナンバー2の司教、王弟一派は協力――を聞き、私は早速、神殿へと足を運んだ。

一度、魔王様へと報告を入れようかとも思ったけど、できれば今回の被害者である聖女の血縁者の情報も欲しい。彼女が召喚についてどう思っているかによっても、こちら側の対応が違ってきてしまうのだから。

まずは、同類に近い――異世界人、というカテゴリーには私も当て嵌まる――私が接触した方がいいだろう。

被害者からすれば、国は違えども『異世界人』という一括り。ま、信用しろって方が無理です。この世界の人間のせいで、彼女は元の生活を奪われているものね。

……で。

『ヘイ、彼女! 異世界人を呼んだから、お話ししてみない?』(意訳)的なお誘いをしたところ、意外にも彼女は応じてくれたらしい。このことからも、彼女が決して自棄になっているわけではないと思う。

だってこの人、どう考えても情報を得ようとしてないかい?

この世界の情報を得ようとするならば、他者と言葉を交わすことが必須。だけど、神殿関係者や王族・貴族といった立場の者は信用できない。

そうは言っても、民間人に話を聞くわけにもいかないのだろう。彼女の立場が特殊なため、接触できる者は限られているらしいから。

要は、消去法で異世界人は最適なのです。もしも魔導師ということまでバラしているなら、そこから得られる情報量は跳ね上がる。

賢い人なら、このチャンスを絶対に逃すまい。あれだ、私がセシル達との逃亡の際、ウィル様と探り合いをした時と同じ。言葉を濁しつつも、相手から情報を得ようとする……そんな好機なのだから。

そして、私の目の前には被害者こと、聖女様の血縁者さんが不機嫌さを隠そうともせずに座っている。テーブルを挟んで私が座り、被害者さんの側にお爺さん……大司教様が座った。どうやら、この人はそれなりに信頼してもらっている模様。

そんな被害者さんの見た目は二十歳くらい、ボブくらいの髪は綺麗な深い青。青みがかった銀髪とかならともかく、青い髪というのは見たことがない。これも聖女の血縁である特徴なんだろうか。

「貴女が異世界人なの? ふうん……意外と普通なのね?」

「普通って? え、何か特殊な人でもいました?」

少し意外そうな被害者さんの言葉に首を傾げると、彼女は軽く肩を竦めた。

「だって、王族とか貴族って無駄に顔がいいじゃない? 服装だって良い生地を使っているみたいだし、同類か準じた人が来ると思ったわ。私の気を引こうと思ったのか、そういう連中って結構来たのよね」

「あ、それ『顔』か『能力』か『血筋』で婚姻しているせいだから。だから、国の上層部って美形が多いよ。政略結婚の影響です。……顔と血筋だけの人も多いから、頭の出来は察してやって」

「ああ、そういうこと……」

なるほど、と頷く被害者さん。非常に冷静というか、政治的な婚姻にあっさり理解を示している。

そんな彼女の姿に、私は内心、警戒心を強めた。

おいおい……これ、絶対に攫っちゃいけないタイプの人じゃないか?

頭がお花畑なら、即座に目を輝かせて会いたいとか、御伽噺的な妄想を口にするはず。間違っても、『現実はこんな裏があるんですよ』的な言い分に納得はしないだろう。

ぶっちゃけ、こういったタイプならば利用するのも楽である。美味しそうな餌(=美目麗しい男性)を見せるなり、『困っています』とばかりに情に訴えれば、あっさり手駒になってくれるから。

誘導方法さえ確立できれば、本人が無自覚のままに手駒となって動いてくれる。情に訴えた場合、それが純粋な好意からの行動ということになるのだ……その誤解を解くのは大変です。思い込みが激しいタイプや、正義感が強かったりすると、手に負えん。

だが、彼女はどちらでもないらしい。これは話しやすそうだ。

「下手な誤魔化しとか嫌なんで、ぶっちゃけて話しますね。まずは自己紹介。貴女とは違った方法……っていうか、異世界人は唐突にこの世界に現れるのが普通なんですが。その異世界人の一人、ミヅキといいます。魔法のない世界出身だけど、今は魔導師を名乗ってますよ」

「魔法のない世界出身なのに、魔導師? ああ、私はリヤンというの」

「その分、技術が発達してまして。魔法のように物語の中にしかないようなものを体感できたり、映像化したりする技術があるんですよ。この世界の魔法って、魔力は勿論必要ですが、詠唱、明確なイメージ、対象物の認定、力ある言葉……といったもので発動します。異世界人は言語の自動翻訳があるせいで詠唱の発音にずれが出るらしく、私は使えないんですよ」

「それで使えるようになるって、凄くない?」

「魔法を使いたかったもので。あと、平和ボケした安全な国の出身なので、武器が扱えない以上は魔法の習得が必須だったというか。勿論、生活を快適なものにする意味もありますよ」

訝しげな表情で私の話を聞いていたリヤンは、最後の言葉に酷く納得したらしい。ちらりと私に視線を向けた後、「確かに、武器は扱えなさそうね」と呟いた。

そんな彼女の左手には、一振りの剣が握られている。こんなものを持っているということは――

「そうよ、これは私の武器。私専用の、私にしか扱えないものよ」

私の視線に気づいたリヤンは少し得意げに言うと、剣を持ち上げて鞘から抜いて見せた。ゲーム内で仲間が使っていた反りのない日本刀……忍刀に近い見た目だ。

それで十分と思ったのか、リヤンはすぐに剣を鞘に戻す。

「私の世界にも魔法はないわ。だけど、魔力を使うことはある。この世界にも魔物っているんじゃない? 私の世界には存在していてね、魔物に対抗する手段が人間が持つ魔力とこういった物なのよ」

「は? 魔法はないのに、魔力は使う? 武器……は判るけど、魔力の使い方は?」

「身体能力の向上や治癒ね。勿論、自分自身にしか効果はないから、魔力持ちは戦闘要員として見られるわ。同じように、武器にも魔力を通して性能を上げるの。これに血を垂らして、『自分の一部』とするのよ」

柄の部分には魔石の様な石が埋め込まれている。これで術者自身の一部と認識させ、性能を向上させるのだろうが……これでは使用者が術者限定になってしまう。しかも、武器の分まで魔力が必要だろう。

「うーん……これ、完全に使用者の魔力頼みでしょう? そんなに魔力が高い人が次々生まれるの?」

当たり前だが、使用できる人がいなければ普通の武器のまま。当然の疑問に、リヤンは溜息を吐いた。

「だから、あんたがさっき言ったことに納得できるのよ。高い魔力を持つ者を生み出すために、高い魔力を持つ者同士を掛け合わせて次代を作り出すんだから! 政略結婚が当然というか、そういう一族がいくつも存在するのよ。私もその一人ね」

「あ〜……そりゃ、納得するわ。能力重視の婚姻が身近だったのか」

そりゃ、理解しやすかろう。明日は我が身だったのだから。

ただ、その方法で確実に高い魔力を持つ者が生み出せるとは限らない。言い方は悪いが、『数を打てば当たる』(意訳)という方法が取られているんじゃあるまいか。

……その分、『外れ』となった人達は悲惨そうだ。いや、魔物が脅威になっている以上、仕方ないとは思うけど!

「おそらく、あんたが想像したことで合っているわ。ま、『お偉いさん』にとっては気にするようなことじゃないんでしょうね。そういった奴に限って、自分は戦場に出ることはないんだもの」

「いや、そこで元の世界の闇をぶちまけないでくださいよ! ほら、少しはオブラートに包んで取り繕って!」

「帰る術はないんでしょう? だったら、気にする必要はないわね」

ふん、と忌々しげに語る姿は、彼女のこれまでの人生をたやすく連想させる。そこに悲哀はないが、上層部に対する苛立ちが透けて見えた。そりゃ、社畜(仮)にだって主張はあるわな。

どうやら、リヤンは『強いだけじゃなく、賢くなければ生き残れない立場』というものだったらしい。だからこそ、似たような状況になっている私に対して、態度を軟化させてくれたのだろう。

言い方は悪いが、異世界人と話しているからこそ、この態度だと思う。もしもこの場にシュアンゼ殿下あたりが居たら、絶対に警戒する姿勢を崩さないと思うんだ。

ただし、そんな姿は私にとってかなり好印象。

私としても、こういった対応ができる人は仲良くしたいと思う。何かあった時、冷静に対処できる頭と能力を持つ人は頼もしいもの。何より、リヤン自身がこの世界の人に守られることを望むまい。

ある程度の知識が身に付けば、リヤンはきっと自立を望む。おそらくだが、『縋って生きること』の怖さ――見返りを望まれた際、何を言われるか判らない――を知るからこそ、飼い殺される未来は選ぶまい。

そう結論付けると、私はリヤンに対する態度を決めた。これはもう、色々とぶっちゃけて話し合った方がいい。理解できない人じゃないみたいだし、現実的な目も持っているようだ。今回のこととて、交渉次第で収めることが可能な可能性も出てきた。

そんな気持ちが伝わったのか、リヤンは面白そうに私を眺めた。……交渉ごとも好きなタイプなようだ。彼女にとって、こういった場も一つの戦場なのかもしれない。

「まずは今回の召喚についての説明を。ぶっちゃけると今現在、王と王弟が争っています。正しくは、王位に就けなかった王弟が駄々を捏ねている状態ね。そして、この神殿ではナンバー2の司教が力を欲していた。そこで目を付けたのが、過去に『聖女』と言われた女性。……高い魔力と魔術師達、そして豊富な財力も持つ王弟を巻き込み、司教が貴女の召喚を行なった。それが事実」

「あら、その割には処罰がされていないようだけど」

「できないんですよ、主犯が司教だから。主犯を無視して王族を処罰なんて無理だし、『世界の災厄』に対抗する手段として聖女の再来を望む声もあった。処罰を強行するには条件が悪過ぎたんですよ」

状況的にはこんな感じ。すぐに全てを信じろとは言わないが、事実なので告げておくしかない。

拙いことに、聖女と呼ばれた女性が存在したのは事実。彼女の功績が正しく伝わっていない限り、聖女信仰ともいうべきものもあるだろう。リヤンが聖女の血縁者である以上、信者達……所謂『数の暴力』というものがある。暴動に発展されても困るのだ。

だが、リヤンは別のことに思考が向いたようだった。

「『世界の災厄』? ……って、何?」

よ り に よ っ て 、 そ こ か よ … … !

いや、別にいいけどさ。た、確かに、魔物と戦う役目を背負っていた以上、気になる要素なのかもしれない。

思わず視線を泳がせると、リヤンは訝しげに私を見つめた。……黙秘は許されない模様。

ちっ! 細かいことに煩いっすよ、リヤンさん……!

「私のことでーす! 過去に存在した魔導師が色々とやらかしたため、魔導師は魔術師の上位職ながら『世界の災厄』と呼ばれています。そして現在、各国で色々とやらかしている私もこれに該当。ただし、協力者として動くことが大半なので、『断罪の魔導師』という渾名もあるけど」

「……。あんた、何をやったのよ?」

「売られた喧嘩を全て買った挙句、返り討ちにしちゃった♪ 結果は誰もが納得するものでも、そこに到達する過程が問題視され、外道、鬼畜、異世界人凶暴種と評判です」

「……」

さすがのリヤンも呆気にとられたのか、私をガン見した。はは……ま、まあ、異世界人がそこまで成り上がる(善意方向に意訳)とは思わんよね!

大丈夫! 結果は出してるから! 飼い主だってちゃんといるから……!

対してリヤンは、頭が痛いとばかりに片手を額に当てている。

「お馬鹿。あんた、異世界人ってだけでも異端扱いなのに、問題起こしてどうするのよ」

「よく言われるけど、自分に正直に生きた結果だから、いいかなって。障害は壊せ、自分を見失うな! の精神で日々を生きてますから!」

ぐっと親指を立てて笑顔を向ければ、リヤンは呆れた眼差しを向けてきた。

「それ、自己中って言わない? 明らかに、この世界の遣り方に合わせる気がないでしょ」

「滅茶苦茶言いますね! 私は自覚ある自己中です!」

っていうか、『呆れるだけで済ますアンタも相当だ』って、言っていい?