軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親猫、そろそろ危機感を覚える

――イルフェナ・騎士寮にて(エルシュオン視点)

「……」

「ははっ! さすが、ミヅキ。やりたい放題ですねぇ」

「容赦ないな……くくっ、まあ、自業自得だ」

ミヅキから送られてきた近況報告と魔道具による映像に、私は思わず固まった。

だが、私の幼馴染達は楽しげな笑い声を上げている。……いや、彼らだけではない。私以外の全員がその状態なのだ。

「シュアンゼ殿下を抱き抱えたまま、走り回るなんて……!」

呆れてものも言えないとは、このことだろう。ガニアは北の大国であり、南に置き換えるならキヴェラのような扱いなのだ。

そんな国の王弟子息に対して、この扱い。本人の承諾を得ているため、問題にはならないだろうが。

だが、私の気持ちを分かってくれる者は、この場に居なかった。

「こいつらはアホか、自分から玩具に立候補するなんて」

「つーか、これシュアンゼ殿下の排除が本命だろ? 煽ってくるミヅキに対して怒りを露にしているから、ミヅキが目的のように見えるけどさ。まあ、ミヅキはそう見えることを狙っているから、こんなことをしてるんだろうけど」

「だよなー! 昼間に堂々と襲撃するあたり、覚悟を決めた国王派あたりだろう。排除対象にミヅキを組み込もうとするから、弄ばれる羽目になったってだけじゃね?」

「「馬鹿だよなー!」」

……双子達は本日も息が合っているようだ。彼らはミヅキに対して非常に理解があるため、単純に『やりたい放題やってる魔導師が、国王派に属する貴族の怒りを買いました』とは思わないらしい。たとえ、それが『報告書に書かれた理由』だろうとも!

そう、ミヅキからの報告では『やりたい放題やってる魔導師が、国王派に属する貴族の怒りを買いました』となっている。そういった感情を抱かれているのも嘘ではないし、完全に否定することはできない。

ただし、これまでの経緯を考えると……それは建前だと思えてしまう。

『シュアンゼ殿下のリハビリ公務に同行したら、襲撃を受けました』

『シュアンゼ殿下は諫めてくれたのですが、彼らは全く聞く耳を持ちません。昼間の襲撃という点から見ても、隠す気は皆無と思われます』

『彼らは【忠誠心云々】と口にしていたので、【この魔導師を野放しにするのはヤベェ!】と思われてしまったようです。はは、私の立場はイルフェナからのお客様ですからね! シュアンゼ殿下の足を治した以上、抗議なんてできませんものね!』

『そんなクソ真面目な皆様に敬意を表し、【オッケー、遊んでくれたら不問にしてあ・げ・る♪】と思い立ちました。私の優しさが発動です。ええ、彼らの忠誠心を目の当たりにして、優しさが湧き上がっただけですよ……!』

『滞在していた館中に仕掛けた罠は全て、命に別状がないものばかり。しいて言うなら、羞恥心との戦いですが、そこは【任務遂行への責任感VS個人の羞恥心】とばかりに、心の中で葛藤してもらいました』

『阿鼻叫喚の事態は、映像を参考にしてくださいね♪ いやぁ、物凄く楽しかったです! ……主に私が。死んだ目をしたシュアンゼ殿下を、お姫様抱っこして館中を走り回り、最後は御伽噺の一幕の如く【窓から華麗に外へ脱出!】を決めてみました』

『その後は館の外にいた襲撃者達を張り倒し、【凄ぇ、私、主役っぽい!? ヒロイン(=シュアンゼ殿下)を腕に抱き、敵を圧倒的な強さで蹂躙する私、格好良くね!?】などと、童心に返って楽しみました。リアル御伽噺的展開、万歳』

『私に乙女的要素は皆無ですが、【王子様と魔導師(乙女)の脱出劇】という言葉で纏めると、嘘は言っていませんよね? 立場的にも、私が守るのは当然ですし』

『そんな感じで無双しまくったら、忠誠でコーティングされていた硝子のハートに皹が入ったのか、マジ泣きする人達続出』

『一室に待機してもらっていたこちら側の人達も、モニタールームと化した部屋で惨状をバッチリ見たらしく、色々と思うことがあったようです。【余計なことすんな♪】という牽制程度に考えていたのですが、意外と効果があった模様』

『そんなわけで』

『上記のような見解と映像を報告と称し、お付き合いのある他国に送っちゃった♪』

『なお、ウィル様からは速攻で大量のお酒が届きました。【真面目に生きている人達を玩具にしちゃ駄目だよ。お酒を送ってあげるから、それで仲直りの酒盛りでもしなさい(意訳)】だそうです。私の飲み仲間らしく、【飲んで忘れろ! 許してやれ!】と言いたいのでしょう』

『ちなみに、その他の国からも【未遂な上、どう見ても加害者には見えん。あまりにも気の毒だから、説教程度で済ませてやれ(意訳)】というお手紙が、ガニア王へと届いているようです。酷いですよね? 私も、シュアンゼ殿下も、被害者なのに!』

……以上、ミヅキの報告書からの抜粋だ。ミヅキはあくまでも自分達を被害者だと主張――本来の意味からすれば、それは正しい――しているため、あまりの惨状に哀れんだ他国の王達が減刑を願い出ている模様。

まあ、その気持ちも判る。確かに、あの襲撃者達は哀れだ。

処罰を恐れず、覚悟を決めて挑んだというのに、待っていたのは黒歴史。しかも、他国の王達への配信。これに哀れむなという方が無理だ、嫌過ぎる。

勿論、彼らがそういった態度を取ったのは哀れみだけが原因ではないだろう。ミヅキが襲撃者達の減刑を望んでいるため、恩を売ろうと考えたという方が納得できる。

「そろそろ国王派の貴族達が動くと思っていたから、こういった展開は予想済みだけど……どうしてミヅキも狙うかな!?」

思わず、溜息を吐いてしまう。いくら情報が少ないとはいえ、ミヅキの性格はガニアで存分に発揮されているだろうに、と。

だが、アルとクラウスは別の見方をしていたようだった。

「シュアンゼ殿下が矢面に立っている形になっていますから、国王派としては『シュアンゼ殿下が魔導師を味方につけた』と認識してしまったのではないでしょうか」

「実際、ミヅキとシュアンゼ殿下は仲が良いみたいだからな。そう思っても不思議はない。王太子のテゼルト殿下とシュアンゼ殿下は年が近いんだ、どうしても不安材料として映るだろう」

「……だけど、シュアンゼ殿下には野心なんてない気がするけど」

二人の意見にも納得できるが、それはあくまでも『普通の権力争いだった場合』。シュアンゼ殿下が実の両親を見限っているため、彼が王弟派の駒になるとは思えなかった。

それはアル達も納得しているらしく、頷いている。だが、二人は更に続けた。

「そうだ、シュアンゼ殿下に野心などありはしない。だが、王族の血を引き、高い継承権を有している以上、国王派としては放っておけないだろうさ。ミヅキが他国に繋がりを持つことも大きいな」

「ミヅキはあくまでも、『自分の目的のために、他者を利用する』という方針ですが……そこまでの情報を得てはいないでしょう。彼女のこれまでの功績を詳しく知らなければ、無条件に味方をしているように見えるかもしれませんね」

「ああ……どの国も『詳しく話せない』からね」

というか、それが元でミヅキに弱みを握られているも同然だったりする。あの子は嫌な方向に賢いため、手に入れた情報をとことん活かそうとするだろう。怖過ぎる。

それを帳消しにするため、今回は多くの国がミヅキに味方をしているのだろう。ぶっちゃけ、『他国よりも自国』というだけである。サロヴァーラやキヴェラあたりにはガニアの騒動の影響が出るかもしれないが、それ以外の国にとっては他人事と割り切ってしまえるだろう。どちらに味方をするかなど、明白だ。

しかも、気になることが一点あった。

「……。何故、イルフェナへの報告が後回しなのかな? これ、明らかに他国の方が優先されたよね」

アルベルダだけではなく、他国の取った行動まで書いてある。どう考えても、イルフェナは最後だ。

しかも、妙〜にアルベルダだけノリが良いような? グレン殿が居るといっても、何となく不自然な気がした。そこまで考えて、嫌な可能性に思い至る。

まさか。

まさか、ミヅキはグレン殿あたりを巻き込んで、何かをしようとしているのではなかろうか。

それならば、最も優先されるべきイルフェナが後回しにされることにも納得できる。イルフェナはミヅキの保護国であり、後見人の私が居るのだ……全力で止めるだろう、ミヅキの計画など……!

ぶつっと何かが切れる音が聞こえたような気がした。それと同時に湧き上がってくる怒り。

「ガニアに行くよ。あの馬鹿猫を野放しにしたのは間違いだった。今からでも遅くはない……首根っこを掴んで、連れ帰ろう。取り返しがつかなくなる前に……!」

「「は?」」

にこやかな笑みを浮かべて、口からは真逆の言葉を吐く私。その異様さに、アル達は唖然とした表情のまま、疑問の声を上げた。

「これ以上、好きにさせるわけにはいかない。教育したのは、私なんだよ!?」

「いえ、その、それは大丈夫だと思いますよ? エルの差し金とは絶対に思われないかと」

「そうだぞ、エル。少しは落ち着け」

「落ち着いていられるものかっ!」

唐突な私の宣言に、アル達が揃って宥めるような言葉を口にする。だが、そんなものは無視だ無視。

だが、慌てて私の腕を掴んで宥めてくる二人の必死さに、もしやという疑惑を覚えた。

「……? 君達さぁ、ミヅキの思惑を何となくでも感じ取っていたのかな? それを推奨しているから、放置に賛成してないかい?」

「「!?」」

ぎくり、と肩を震わせる二人に、自分の予想が正しかったことを悟る。思わず威圧が高まる中、皆が不自然に視線を逸らしているのも怪しい。

「ほおぅ? これは、じっくり、話を聞かなければ、ならないのかなぁ?」

「い……いえ、あくまでも個人的な予想ですからっ!」

「はは! 随分と楽しい予想を立てていたみたいだねぇ……?」

双子があれほどにミヅキの思考に理解があるならば、アル達とて同じはず。それに思い至らないとは、何と情けない。

保護者として、ミヅキを理解しているという自負があったことも一因だろう。……ミヅキが私の身代わりになったために、冷静さを欠いたことが主な私の敗因だが。

とりあえず、彼らの見解とやらを聞かなければ。何より、私も冷静にならなければ。

そう決意し、私は威圧と共に笑みを深めた。