軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

理解者と書いて同類と読む

――アルベルダにて(ウィルフレッド視点)

「おいおい……魔導師殿、遊び過ぎだろう!?」

「陛下、爆笑していらっしゃる以上、その言葉に説得力がありませんが」

「これを笑うなって方が無理だ! くく……っ……ああ、黒猫は漸く牙を剥いたのか」

諫めるグレンの言葉に返しつつ、映像に目を向ける。魔道具によってもたらされた映像の中、ガニアの王弟殿下と直属の配下である魔術師達は、魔導師殿とシュアンゼ殿下の子飼い達に瞬殺されていた。

そもそも、グレンとて本気で俺を諫める気はないだろう。グレンは魔導師殿と同郷であり、弟分のような存在だったのだから。

魔導師殿の性格を熟知しているため、それなりに今後の展開は予想できている。ただ、立場的には魔導師殿を表立って応援するわけにもいかないため、形だけでも俺を諫めたのだろう。

勿論、俺とてただ面白がっているわけではない。魔導師殿がこれまでやらかしたことを知っている以上、この映像が『ただ面白いだけ』などとは思えなかった。

「魔導師殿は本当に自分の評価を気にしないんだな。上手く使えば、今以上の名声が手に入るだろうに」

そう、それは事実。『ガニアという北の大国の筆頭魔術師を瞬殺した』のだから。

ただ、この映像からは到底その評価に結びつかないだろう。用いた手段が女性として少々問題であり、『魔法で倒したわけではない』からだ。

はっきり言って、これでは魔導師としての価値を下げるだけである。期待外れと思う者もいるかもしれない。

だが、グレンにとってこれは予想された結果だったのだろう。軽く肩を竦めるのみで、特に失望した様子は見られなかった。

「ミヅキは自分の評価など気にしませんよ。求めるのは、自身が望んだ結果のみ。シュアンゼ殿下の顔を立てることも重要ですから、ガニアという国の評価を落とすようなことは避けるでしょうね」

「だろうな。もしも魔導師殿が真っ当な方法で王弟を倒していたら、シュアンゼ殿下は『ガニアを貶めることに加担した』とか言われかねん。その可能性を潰す意味もあるんだろうさ、これならば魔導師殿の破天荒ぶりが目立っているからな!」

楽しげに言い切れば、グレンも同感だとばかりに頷く。やはり、グレンも同じ意見らしい。

「ミヅキが共犯者だと言っているのは、シュアンゼ殿下のみ。『ガニアで唯一、信頼しているのがシュアンゼ殿下だけ』とも受け取れるでしょう。王弟殿下の派閥を潰す鍵となる以上、シュアンゼ殿下を潰されるわけにはいきません」

「魔導師殿が他国で好き勝手やらかすのは、どう考えても無理があるからな。それを見越して、『シュアンゼ殿下という、王弟に報復する理由と権利を持つ者』を選んだのかもな。ガニアでの魔導師殿の扱いは『シュアンゼ殿下の協力者』とかだろうよ」

エルシュオン殿下を誘拐しかけた件はすでに話がついている。そうなると、魔導師殿がガニアで暴れる理由がない。他にも幾つか事件は起きているが、狙われたのはシュアンゼ殿下を含めた国王派の王族達……民間人であるミヅキが彼らより上位に来ることはないため、言い逃れができてしまう。

だからこそ、シュアンゼ殿下という存在が必要不可欠なのだ。ガニア的には『両親を切り捨てる覚悟を決めたシュアンゼ殿下が、魔導師を協力者にしている』という認識だろう。

つまり、魔導師殿が情報を送っている者達とは認識が逆になる。

ガニアからすれば、主犯となっているのはシュアンゼ殿下なのだ。

「この映像を見た者達は魔導師殿に呆れ、ガニアの王弟殿下と直属の魔術師達に対しての評価を下げるだろう。あまりにもあっさり倒されていることに加え、魔導師殿が育てた子飼いという比較対象が映っているからな」

「それだけではありません。シュアンゼ殿下自身が解説をすることにより、彼が状況を理解していると認識されるでしょう。シュアンゼ殿下自身の情報は殆どありませんから、『魔導師の遊び仲間になれる』という認識は彼の今後に活きてきます」

「……」

思わず、グレンと顔を見合わせる。これまで殆ど名を聞くことがなかったシュアンゼ殿下の本質を垣間見た気がして。

「……。シュアンゼ殿下は判ってやっていると思うか?」

「おそらくは。ただ存在しているだけの王族ならば連座による処罰もありえるでしょうが、これならば惜しまれるでしょうね」

「だよなぁ。魔導師殿はシュアンゼ殿下を残すことを希望しているから、どう考えても有能さのアピールを兼ねているだろ、これ」

「そもそも、この企画はミヅキ発案ですから。王弟殿下達の失態を他国にばら撒くことだけではなく、そちらも狙っているでしょう。事前に『シュアンゼ殿下は魔導師の共犯者』と公言しているのです。それに……言い方は悪いですが、現在のガニアはシュアンゼ殿下が居るからこそ、ミヅキの報復を免れているだけでしょう」

「……あ? そりゃ、どういうことだ? グレン」

とんでもない言葉が聞こえた気がして、思わずグレンをガン見する。いやいや……何だ、その『シュアンゼ殿下がいなければ、魔導師殿はガニアを敵認定する』みたいな言い方は!

顔を引き攣らせる俺をよそに、グレンは深々と溜息を吐いた。

「シュアンゼ殿下が客人扱いをしてくれたからこそ、ミヅキは不審者となる事態を免れました。そして、今はミヅキが王弟殿下に報復するための隠れ蓑のような役割を果たしてくれています。……ここまでは宜しいですか?」

「あ、ああ」

「王弟殿下が起こした一件も元を辿れば、ガニア王が弟を押さえきれなかったことが原因でしょう。何より、ミヅキがガニアに行ってから、どれほどのことが起こりましたかな? ミヅキが『シュアンゼ殿下の足を治すために来てもらった魔導師』という扱いならば、ガニアの内部事情に巻き込まれることはおかしいのですよ」

「……! そうか、俺達は『魔導師殿が報復している』という認識をしていたが、魔導師殿は『国の客人』。状況的に、部外者にしかならない……!」

魔導師殿ならば、相手の攻撃を誘発することは可能だと思う。だが、今回は『何もせずとも、向こうから仕掛けてきている』。

これは明らかにおかしなことだった。ゆえに、グレンは『ガニアで唯一、信頼しているのがシュアンゼ殿下だけ』と称したのだろう。一言で言えば、『ガニア王は信頼に値しない』。

「国を治める才覚はあるでしょうが、その生まれゆえか、あの方は王弟殿下に遠慮がある。ですが、ミヅキにはそのようなことは関係ありません。『誠意を見せていない』のですよ、ガニアという国は!」

グレンの言葉は厳しいが、イルフェナからすれば当然の評価であろう。まして、エルシュオン殿下は魔導師殿を可愛がっている。ガニアの王族の一員たるシュアンゼ殿下が行動しているからこそ、国としての抗議をしていないだけだ。

……だが。

「ほぉう? 魔導師殿はそのことに気づいていながら、指摘をしないのか。……いや、『気づかないようにしているのかもしれない』な?」

ちらり、とグレンに視線を向ければ。

「やりかねませんなぁ、ミヅキですから。ガニアという国を不利な立場に追い込んでおいて、シュアンゼ殿下を失えない状況を作り出す。……実に、ミヅキならばやりそうです。ガニアという国に思い入れなどないでしょうから、窮地に追い込むくらいはするでしょう」

「……」

「……」

さらりと、ろくでもない言葉が返ってくる。無言のまま視線を交し合うのも、仕方がないだろう……そこから導き出される答えは実に単純なのだから。

ぶっちゃけると、魔導師殿は反省する気のないガニアに対してお怒りだ。

それをシュアンゼ殿下の保護に利用しようと画策するのだから、性質が悪い。というか、エルシュオン殿下の誘拐未遂を許してなどいないのだろう。とりあえず『待て』ができているだけな気がする。

黒猫は非常に執念深かったようだ。ま、まあ、イルフェナや魔導師殿に対してやらかしたあれこれを都合よく済んだ事にしているガニアが悪いのだが。

そんなことを思いつつも、しみじみと己が強運に感謝する。それは勿論、数十年前にグレンを引き合わせてくれたことに対するものだ。世界を違えている以上、これは奇跡と言えるものだろう。

グレンがいたからこそ、今の自分がある。そう言い切れるほど、彼は俺を助けてくれた。それは今も続いていて、不意にそのありがたみを痛感させるのだ。

ああ、我が国にグレンがいてくれて本当に良かった! グレンは魔導師殿の性格を熟知している上、彼女に身内認定されている。今後揉めるような事態が起きたとしても、グレンに泣きつけば、最悪の事態だけは回避できるに違いない。

「魔導師殿の性格の悪さに呆れたらいいのか、そこまで規模のでかい裏工作を狙う度胸に感心したらいいのか、判らんな」

「どちらも呆れ果てる要素ですが、味方とした場合は非常に頼もしいですぞ? ミヅキは不屈の根性の持ち主……敗北はあり得ませんから。つーか、どんな手を使っても遣り遂げますから。『何を犠牲にしても』、目的達成が最優先です。迷いませんし、めげません」

「いやいやいや! そこは止めろよ、グレン! せめて、お前が軌道修正をだな……」

「無理です。止められるならば、脅威になどなっていませんよ。猫は主を守りますが、盛大に祟るものでもありますから!」

きっぱりと言い切るグレンの目はマジだった。過去に何があったかは知らないが、少なくともグレンはそれが正しい認識と学んだのだろう。

だからこそ、改めて思う。

ガニア王弟、終わったな……!

グレンが不可能と言い切る、魔導師殿の軌道修正。それが唯一可能なのが、保護者たるエルシュオン殿下。彼を害した上、王弟どころか国が丸ごと敵認定されているこの状況。どう考えても、詰んでいる。

「ってことは、俺達に情報をもたらしているのは……」

ひらひらと振ってみせるのは、魔道具に添えられていた魔導師殿からの手紙。そんな俺に一つ頷くと、グレンは魔道具を手に取った。

「先ほど言ったことと、情報拡散が目的でしょう。それに加えて、我々の興味を引きたいのでしょうね。利を提示した上で、自分の後ろ盾にするという意味もあるでしょうが、我々が魔導師に味方するという確信があるのだと思います」

「ほう、何故そう思う?」

「魔導師に恩返しをする、絶好の機会だからですよ。何だかんだ言っても、我々はミヅキに借りがある状態です。それらを帳消しにする意味でも、我々はミヅキの提案に乗り、味方するでしょう。それが自国にとって良いことだと判断する要素の一つがシュアンゼ殿下です。彼にも恩を売れる形になりますから、今後のことを考えるならば、ミヅキの……いえ、『ミヅキ達の』味方をしますね」

「確かに、上手い遣り方だ。俺達は『ガニア王やシュアンゼ殿下に味方したのではなく、魔導師に借りを返しただけ』。これでは責めることなど、できまいよ。他国がでしゃばるなと抗議することもできん」

「それを狙っているのでしょうね。……まあ、大陸規模で王弟殿下を辱めたいというのも本心でしょうけど」

「あ〜……確かに、そっちが本命っぽく聞こえるな」

「ミヅキですからね。十分あり得ます」

即答。やはり、グレンから見てもその可能性が高いのだろう。

だが、俺としては一つ気になることがあって。

「何で、魔導師殿はそこまでシュアンゼ殿下の味方をするんだろうな? そりゃ、楽しく遊んでいるようだから、仲は良いみたいだが」

魔導師殿はあれで中々に警戒心が強い。内向的ではないが、異世界人という壁があるせいか、言葉遊びに興じつつも探ってくる。

無計画に感情優先の行動をしているように見えて、内面は真逆だ。だから、甘く見た挙句に痛い目に遭う者が続出する。

「そりゃ、恩を感じているってのは判る。だが、魔導師殿だってそれ以上に動いているだろう? どう考えても、無償奉仕とか、同情はあり得ないと思うんだが」

それは今回、誰もが感じていることだろう。だが、そう口にした途端、グレンの目つきが変わった。

「はは! シュアンゼ殿下はミヅキにとって、なくてはならない存在なのですよ。ええ、それは儂も激しく同意します。ミヅキの思惑を察している以上、儂とて協力を惜しみませんぞ! 今回ばかりはミヅキが正義です!」

「はぁ? グ、グレン? お前も何だか、おかしくないか!?」

「いいえ! 我々にとって、とても重要なことなのです! 何としても、シュアンゼ殿下には王族に残っていただきますぞ……!」

拳を握って力説するグレンに対し、俺は何も言えなかった。口を挟んではいけない空気を醸し出している上、グレンがこの上なく本気であることが判ってしまったからだ。

いやいや、何故、お前がそこまで本気になるんだ? グレン。

お前と魔導師殿、何か別の目的に向かって爆進してないかい?

……そうは思えども、俺に二人の真意など判るはずもない。唯一、確信できることと言えば、目の前の弟分が本気であることくらいだった。

だが、その本気が限りなく危険なものであることを俺は知っている。というか、俺と敵対していた奴らを徹底的に潰した時にそっくりだ。あの時は俺が重傷一歩手前の怪我を負ったことが引き金になったはず。

「外野の誘導は任せろ、ミヅキ。戦闘民族と化した日本人に敵はいないと、思い知らせてやれ……!」

低く笑いながら、何やら考えているらしいグレン。そんな弟分にドン引きしつつ、俺は顔を引き攣らせるしかできなかった。

ただ、これだけは心に刻み込む。

戦闘民族と化した日本人、マジで怖い。米って……確か、甘味だったよ、な?