軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この一時は誰のため 其の一

――謁見の間にて

「さて、言い訳を聞こうではないか。それとも、何か正当な理由があるとでも言うのか?」

こんなガニア王の言葉と共に、『魔導師主催の娯楽・答え合わせ編』が始まった。関係者達が集められ、ギャラリー達も充実。誰が見ても、ガニアはこの一件を隠す気なんてありません。

勿論、この問い掛けが指すのは『魔導師とシュアンゼ殿下の噂を流し、それを裏付けるような事件を起こそうとしたこと』について。噂だけならばともかく、三人組の一件があるため、言い逃れは不可能だろう。

そのまま噂を流しても大した効果は得られないだろうが、二人の距離が縮まるような事件が起こっていれば、信憑性は増す。当事者達にとっては吊り橋効果、周囲にとっては噂を肯定する一つの要素といった感じ。

成功していれば自然な流れにもっていけただろうが、生憎と私達はそんなに素直な性格をしていない。誘導しようとしたことは明らかなので、それを逆手にとっての追求なのだ。

ただ、こちらの手際が良過ぎることも事実。それが不自然に見えることを利用し、他国を巻き込んでみた。各国の上層部の皆様ならば、その違和感を感じ取ってくれるだろう。

そもそも、今回の娯楽はガニアの協力が必須である。娯楽の舞台と生贄は、ガニアに提供してもらわなければ成り立たない。

要は、この娯楽自体がガニア王の潔白を証明する手段であ~る! 反対意見なんざ、出るはずがない。

それに加えて、この娯楽には『一方的に利用するのではなく、参加国は自国の利となるものを得ることができる』といった前提がある。参加国は『噂を信じないよ!』と言っているも同然なので、どう転んでも元凶の思い通りにはなるまい。

これらのことがしっかりと通達されている以上、イルフェナの皆様もガニアへの疑惑を消し、娯楽という方向で納得してくれるだろう。短期間で犯人が特定されたことといい、普通に考えても『アホが釣れるのを待っていた?』としか思えないもの。

その元凶である貴族は、シュアンゼ殿下の傍にあの三人組を見つけて顔面蒼白だ。しかも、シュアンゼ殿下がわざわざ『魔導師の噂が聞こえ始めてから、彼らを子飼いにしてたんだよね。一年くらいかな?』と笑顔で紹介。ガリガリと精神力を削っていた。

当たり前だが、シュアンゼ殿下は遊んでいる。被害者どころか、立派に苛めっ子だ。

三人組もシュアンゼ殿下から協力を強制……いやいや、お願いされ、その計画を暴露された段階で『怒らせてはいけない人物』と認識したらしい。リーダー曰く、『流れを読むことは、生き残る上でとても重要』だとか。

……まあ、どのみち逃げ場なんてないのだが。足の不自由な王子様は、そんな甘い性格などしていない。ラフィークさん&王妃様によると『素直で優しい子だった(※過去形)からこそ、幼い頃からの経験が影響を及ぼした』とのこと。

暈した言い方をしているけれど、精神的にかなり悲惨な目に遭ったんじゃなかろうか。親に役立たず扱いされて見捨てられている上、それに倣う派閥の連中もいただろう。

素直で優しい性格に加えて、聡明さも兼ね備えているならば、性格形成に影響を受けないはずはない。その環境に適応しつつも生き残れる道を探すのは、生き物としての本能だ。現在のシュアンゼ殿下はある意味、彼を疎み利用しようとした連中が作り上げたともいえる。

なるほど、歪んだまますくすくと成長して、自己保身ゼロ&腹黒な性格になっちまったのか。

シュアンゼ殿下の強みはそれらを周囲に知られていない……いや、『意図的に隠し続けてきたこと』だろう。見た目が割と貧弱――動けなかったので、これは仕方ない――な上、話す時は見下す形になるため、警戒してくる相手は少なかったらしい。

『見た目で騙されるからね。相手に【自分が利用する側だ】と思わせれば、大抵の誘導と情報収集は可能なんだよ。私が知りたがっていることを教えれば、恩を売れるとでも思うんだろう。私が恩を返すならね?』

以上、シュアンゼ殿下のお言葉である。どこをどう聞いても利用する気満々、だけど褒美をやる気はないという外道……初対面の落下時、私を気遣ってくれた『優しいお兄さん』な対応は何だったのだろう?

それを素直に口にしたところ、答えをくれたのはラフィークさんだった。

『お嬢様は主様に何も求めませんでした。感謝を告げ、主様を気遣い、ご自分が不審者であることを知りながらも、主様に苦言を呈していたではありませんか。下心がない者相手に、主様は酷いことはなさいません』

つまり、『シュアンゼ殿下に対して下心がなければOK!』ということらしい。あの時、私は自分のことで手一杯だったことが幸いし、シュアンゼ殿下の獲物認定を逃れていた模様。それでも捕獲はされたのだから、獲物認定されていた場合はどうなっていたか判らない。恐ろしいことである。

そんな私達も友好を深め、今ではすっかり仲良しです。今回、ガニア王サイドへの根回しはシュアンゼ殿下が担ってくれました。テゼルト殿下に生温かい目で見守られつつ、一大イベントへの準備に勤しみましたとも。

今も仲良く、元凶に対峙しておりますよ! こちらの行動が早過ぎて、相手が何の手も打てなかったみたいだけどな!

周囲への根回しも終わり、王様直々に『お話ししよっか!』と元凶へとお手紙が送られ。

その傍ら、私達が三人組を特訓・調きょ……教育。付け焼刃だが、『シュアンゼ殿下の子飼い』という事実を確立。

王妃様経由で『何だが、楽しいことがあるみたい』とイベントの噂を流して、周囲の興味を引き。

そうこうしている間に、私の下へと各国の予想が届いたのだった。うむ、完璧。

さあ、元凶の自爆タイムがスタートです! でも、これは同時にシュアンゼ殿下のお披露目でもある。今後を踏まえ、そういう意味も兼ねさせてもらった。

ゆえに、私はエンターテイナーとして場を盛り上げつつ、シュアンゼ殿下のお手伝い。主の晴れ舞台となる予定なので、ラフィークさんも勿論、傍に居る。彼らの場合、他国にも主従セットで覚えてもらった方がいいだろう。

「この国には守護役がおりません。魔導師との繋がりを得たいと考えるのは、おかしいことでしょうか」

ある程度はシミュレーションしているのか、顔面蒼白ながらも落ち着いて元凶は言葉を返す。だが、楽しげな笑い声と共にそれを否定したのは、我らが苛めっ子――シュアンゼ殿下だった。

「あはは! ああ、失礼。あまりにも奇妙なことを言うから、つい。……魔導師本人の許可を取らずに、そういった噂を流す。これが本当に我が国のためだと?」

「……。それは、殿下にご協力していただいて……」

「あれ、私もテゼルトも何も言われていないけど? 私達に話を通さない限り、貴方の言い分は成り立たないんじゃないかな?」

「……っ」

「それにね、テゼルトはエルシュオン殿下にお願いして、ミヅキを私の足の治療に向かわせてもらったんだよ? 我が国は恩知らずの恥知らず……とでも言いたいのかな?」

「勿論、陛下から命じられれば別だけど」と付け加えてはいるが、ガニア王がそんなことを命じるとは思っていないだろう。単に『国を最優先に考えているよ! 忠誠心はあるよ!』というパフォーマンスです。そもそも、この程度の反論は予想済みさ。

ちらりと視線を向けた先では、王妃様が『初めての発表会をする我が子を、心配そうに見守る母親』な顔になっている。テゼルト殿下も『弟を見守るお兄ちゃん』モード。……ガニア勢もこの場を断罪とは思っていないらしい。真面目にやっているのは元凶とギャラリーだけの模様。

暇を持て余してそんなことを思っていると、シュアンゼ殿下が私の方へと顔を向けた。

「ミヅキ。君、ガニアから守護役を選ぶ気はある?」

「え、嫌です。信頼できないもの」

即答。唐突に話を振られたからこその本音だが、シュアンゼ殿下は納得したように頷くだけだった。

「そうだよね、守護役は『国が異世界人から信頼されなければならない』。バラクシンがいい例だろう。仲のいい友人がいても、個人として信頼できる王族がいようとも、守護役を選ぶには至らない。それが判っているから、守護役がいない国も無理に強要したりしないんだ」

「そうですよ? そもそも、守護役が複数の国から選ばれるのって、『信頼できない国があったら、そこを捨てて他の国に泣きつけ』って意味ですからね」

実際は異世界の知識の共有という意味があるけど、異世界人側からすればこういった理由だ。シュアンゼ殿下もそれを見越して聞いた――『異世界人である私が選ぶか?』という聞き方をしたから――ので、この答えでいいだろう。

ちなみに『バラクシンの信頼できる王族』はライナス殿下とレヴィンズ殿下のことである。ヒルダんやアリサのこともあるが、あの二人は実にからかい甲斐があるもの。好意的ですとも、『様々な意味』で。

だが、元凶様は私の回答が気に食わなかったらしい。ぎょっとした後、即座に私を睨み付けた。

「陛下の御前で、暴言が過ぎるのではないか? 魔導師殿。貴女がシュアンゼ殿下と仲がよろしいことは事実ではないか! 誤解を招く行動をしている貴女にも非が……」

「シュアンゼ殿下個人とは仲良しですが、国は信頼していません。毒殺未遂事件に痴女騒動、そして今回の一件ですよ? 貴方のような貴族がいるからこそ、『ガニアという国』は信頼できないのです。……貴方の派閥のトップに思うこともありますし?」

「ぐ……」

これまでのことを根拠に挙げつつ言い切れば、さすがに分が悪いと思ったのか、黙る元凶とざわめいていたギャラリー達。はは、お前のお仲間が色々やらかしてくれたからな。信頼できない要素は沢山あるぞぅ♪

「すまないね、彼には自覚がなかったようだ」

溜息を吐きつつ、シュアンゼ殿下が謝罪すれば。

「今の発言を聞いても、私をどう思っているかが知れますよね。……私から見てもガニアの印象は良くありませんし、報告を受けているイルフェナはそれ以上かと」

「だろうね。エルシュオン殿下は特に君を可愛がっているから、不快に思うだろう。そうなった原因を知っていると、こちらは反論できないよ。私だって、信頼しない」

私もついつい嫌な方に掘り下げる。さらっと同意しつつ、魔王様の名前を出すシュアンゼ殿下。フォローも入れてくれる余裕ある姿が、実に頼もしい。

――王族であるシュアンゼ殿下も『信頼できない』と言ったことで、私の発言は不敬ではなく、『当然の認識』となった。

その意図を酌んでくれたガニア王もまた、私を咎める気はないようだ。頭が痛いとばかりに、深々と溜息を吐く姿を見せつけている。

「魔導師殿の言葉を暴言と言うのならば、我が国の行ないは何と言われるのだろうな?」

厳しい目を向けながら告げられた王の言葉に、元凶やギャラリー達は気まずげに視線を泳がせる。王が味方にならないと知ったせいか、ひとまず大人しくなった模様。

この時点で『ガニアが魔導師を独占するため』という選択肢が完全に消えた。元凶の顔色は悪いが、焦りはそこまで見られないので、まだまだ頑張ってくれるのだろう。

さあ、私『達』を楽しませてくださいな? 貴方の行動によって、他国は一喜一憂する(予定)のだから。