軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

愚者が踊った後には

あの夜会から数日。

イルフェナからは騎士寮面子が派遣され、『徹底的に』疑わしい人々を調べていった。奴らは凄まじく本気だったので、ちょっとくらい盛っているかもしれないが。

何せ、彼らは王弟殿下一派に対して良い印象を持っていない。

しかも、直接の報復ができないとなれば、こういった場で発散するしかないわけで。

結果として、ガニアの文官達が激務に見舞われることになったのだった。これは仕方がないことと、諦めてもらいたい。

調査に携わるのは、『他国の騎士』。しかも、『最悪の剣』と呼ばれる皆様なのだ。必然的に、調査の場に同行させられる不運な人々が出てしまうのである。

しかも、非は明らかにガニアにあるとくれば……、まあ、ちょっとばかり、イルフェナ側から嫌味も出てしまうのだろう。

恨むなら、馬鹿なことをした奴を恨め。異議は認めない。

なお、ガニアの騎士達はそこまでイルフェナ勢に不快感を持っていない模様。状況的に当然のことと理解できている上、勝手なことばかりする王弟殿下一派が気に食わなかったみたいなんだよね。

王弟殿下は魔術師、その子分――と言っていいか微妙だが、似たようなものだろう――は当然、魔術師が多い。これまでも色々あったんじゃないかな〜? と思っている。

まあ、魔術師連中が王弟殿下を慕う理由も判る気がするけどさ。

当たり前だが、『尊敬』や『忠誠心』といったものではない。

ぶっちゃけ、『予算』だ。金です、お・か・ね!

王弟殿下が筆頭魔術師とかなら、さぞ予算を回してもらえることだろう。金のかかる魔術師的には、ありがたい人である。

勿論、多少は『魔力量の多い魔術師』という尊敬もあるとは思う。使える魔法が多いので、実践とかでなければ『優れた魔術師』と呼べてしまう。

『お勉強はできるけど、それを現場に活かせない人』ということなのだが、魔力は努力でどうにかなるものではない。独自の方法を確立しない限り、魔法の威力などは魔力の高い方に軍配が上がる。

そういった状況もまた、王弟殿下を思い上がらせたものなのだろう。魔力が高くなければ、もう少し違った価値観を持てたのかもしれない。

……そんなわけで。

現在は、シュアンゼ殿下のお部屋で状況確認の真っ最中であったり。

「魔導師殿は何を狙っているんだい?」

「仕掛けたのは向こうですよ」

「君は利用する側の人だろう?」

「あらあら、民間人に何ができると?」

どこか疲れた様子のテゼルト殿下の問いに、しれっと返す。私が言っていることは、嘘ではない。本当に、『私には』そういった権限がないのだから。

だが、そんなことで退いてくれるテゼルト殿下ではないわけで。

「言い方を変えようか。『イルフェナの人選』にどんな意味がある? そして、君が『この騒動の果てに狙っているもの』は何?」

穏やかに尋ねながらも、答えることを強制するテゼルト殿下。ここまで具体的に聞かれれば、誤魔化しなどできないだろう。

まあ、いいけどね。隠すようなことじゃないから。

「まず、イルフェナの人選について。私は魔王様の保護下にありますから、魔王様直属の騎士達が出てくることは不自然ではありません。それに加えて、『彼らに、ガニアの内情を知ってもらう』という意味があります」

「ガニアの内情を?」

視線を鋭くするテゼルト殿下だが、これは彼が案じているような意味ではない。居心地の悪さを感じて、思わず視線を泳がせてしまう。

そんな私の態度に、テゼルト殿下は益々危機感を覚えたようだ。う、うん、ある意味では『ヤバイ内容』だよ? ガニア王が気の毒になるほどに。

「……。私が拉致された時、彼らも傍に居たんですよね。ガニア内部が割れている……というか、私が国王サイドに付く理由は説明されていますが、彼ら自身が納得して、イルフェナに報告してもらわないと……」

「報告してもらわないと?」

「ガニアという『国』がイルフェナに敵認定されます! 他国からすれば、『ガニアの不始末』なんですよ? 『国王サイドを勝たせることが、王弟殿下への報復に繋がる』と納得させなければならないでしょうが」

「え゛」

「あ〜、確かにそういう状況だったね。ミヅキは私の共犯者で、エルシュオン殿下もそれを認めてくれたけど、イルフェナとしての判断じゃないのか」

顔を引き攣らせるテゼルト殿下だが、シュアンゼ殿下は納得の表情だ。ラフィークさんも表情を険しくさせながらも、反論はない。

勘違いしやすいのだが、私はあくまでも『個人的な報復』。魔王様はガニアと揉めることこそ望まないが、イルフェナがどう思うかは判らない。

イルフェナって、大人しい国じゃないのよね。そんな『国』に納得してもらわなければ、いくら魔王様が諫めたところで抗議くらいするだろう。内情を知らなければ、その対象は『国』、そして『王』。

そうなってしまうと、自動的に王弟殿下サイドの勝利となってしまう。責任を取るのは、ガニア王なのだから。

『私に報復を任せれば、必ず元凶を追い込んでみせます。勿論、国同士の関係も悪化させませんよ? 内部がこんな状況なので、それが最良の方法とご理解ください。つーか、敵の希望通りに動くのは止めれ!』

意訳すると、イルフェナ勢を招いた理由はこんな感じ。私はイルフェナに関して発言権などないので、国に認められた人達(=騎士寮面子)の報告が判断基準となる。

実のところ、イルフェナとしても誘拐事件は扱いに困る案件。かと言って、抗議もせずに見逃す……というのも認められまい。結果的に、誘拐されたのが私とはいえ、狙われたのは第二王子なのだから。

だから、『魔導師の報復を支持』という方向に落ち着いてもらいたいのだ。

彼らの調査結果+魔王様の提案→イルフェナは魔導師の報復をひっそり応援。

こんな展開が望ましい。そのために、他国の皆様へとお手紙を送ったのだ。先に他国からの理解を得てしまえば、イルフェナといえども無視はできまい……という、姑息な手段です。

よって、『調査に来る』のは騎士寮面子だが、『話し合い』に来たのは別の人。

私は『ある理由』から、その役にぴったりの人達を強力にプッシュ。結果として、希望通りの人達が来てくれた。

事情を説明しておいたので、指名を受けた本人達が快諾してくれた模様。快く応じてくれるあたり、イルフェナも判ってらっしゃる。

「で、人選にはもう一つ意味があります。今回は私の希望を聞いていただけたので、バシュレ公爵家令嬢シャルリーヌ様が来ています。そして、彼女専属の護衛として、彼女の旦那様である近衛騎士団の副団長であるクラレンスさん」

「……シャルリーヌ嬢だけではなく、副騎士団長殿も魔導師殿の推薦だったのか」

意外だったのか、テゼルト殿下が軽く目を見開いた。ですよねー、騎士寮に隔離されている珍獣がこの二人と面識があるなんて、予想外過ぎるでしょう。

シャル姉様はアルの姉上だが、アルの生活の場はほぼ騎士寮。私も夜会などに出るタイプじゃないから、シャル姉様との接点はほぼ皆無。

顔合わせ程度ならともかく、『お手伝い、お願い!』と言えるほど親しいなんて、思わないのが普通です。クラレンスさんに関しても同様。王族を守る立場の近衛騎士からすれば、私は警戒対象だ。

……実際には、クラレンスさんを含めた近衛騎士達が食事――という名の様子見――にやって来るし、アル経由で、異世界スイーツをシャル姉様に進呈していたりするのだが。

バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ! 魔王様も許可してるもの! ……多分。

「で、その二人に関しても意味があるんだよね?」

にっこりと笑いながら、確信を以て尋ねて来るシュアンゼ殿下。ええ、勿論ありますとも!

「ナイスバディな才媛、しかも美女! シャル姉様も公爵令嬢ですから、王弟夫人は自分との違いを見せつけられるでしょうね。特に胸。繰り返しますが、胸。頭の出来も、天と地ほど違いますけど。ああ、旦那様も比較されるかな?」

「まあ、見た目からして違うだろうね。勝手に屈辱を味わってそうだ」

「嫌がらせなのかい、魔導師殿……」

微妙な表情になる皆様だが、私はただの嫌がらせで終わるつもりはない。

「クラレンスさんは実力で今の地位を手にし、シャル姉様の夫として認められています。『才媛である公爵令嬢に、夫として望まれた』んですよ。勿論、容姿も優れています。……『血筋と魔力しか価値がない男』にとって、『顔も、実力も、誇れる妻さえ得ている男』なんて、最高に劣等感を刺激される存在じゃないですか。プライド『だけ』は高そうですもん」

シャル姉様は外交方面でも活躍中なので、人選にも問題なし。加えて、王弟夫人の実家と同等の公爵家のお嬢様。しかも、自慢できる旦那様あり。王弟夫人が勝てるところって、『王族の妃』という一点じゃないか。

これは王弟殿下も同様。Sということがバレなければ、クラレンスさんは『知的で、優し気な優良物件』。実力でその地位にいるので、王弟殿下に魔術師としての功績が皆無ならば、忌々しく思っても不思議はない。

それに加えて、其々の伴侶たる女性の差が出まくっている。王弟殿下はスレンダーが好みかもしれないが、世間一般はシャル姉様の方を美女と呼ぶ。茶会の一件で手痛いダメージ――他国の王達からの手紙のこと――を受けた直後ということもあり、有能な美女がさぞかし眩しく見えるだろう。

美男美女の有能夫婦を前に、自分達の惨めさを思い知るがいい!

比較対象としては、あの二人が最適じゃないか!

「そんな二人を相手にすれば、惨めな気持ちになるだろうね。しかも、別に嫌がらせをしているわけではなく、あの二人が勝手にそう思うだけなんだから」

「そうでございますねぇ……あの方達は、やたらと国王陛下御夫妻を敵視していらっしゃいますが、世界はガニアだけではございません。上には上がいると思い知る、良い機会ではないかと思います」

納得の表情で頷き合う主従は、本日も平常運転。妙に毒を含んだ、ラフィークさんの台詞が素敵。

やっぱり王弟夫妻が嫌いなのか、ラフィークさん。テゼルト殿下さえも諫めないあたり、あの二人は散々な言葉をシュアンゼ殿下に投げつけてきたのだろう。

……。

いや、それだけじゃないか。シュアンゼ殿下が覚悟を決めたことにより、ラフィークさんは王弟夫妻を敵認定したんだろう。これまでは『主様のご両親』という認識が、欠片くらいはあったに違いないだろうし。

よし、任せておけ! 私はこの程度で終わらせるつもりはないからね?

「とことん二人の劣等感を煽ってもらいたいのですよ。このまま沈黙されても、困りますから」

楽しげに目的を告げれば、皆の視線が私に集中する。

「劣等感を煽られたところで、二人は『イルフェナからの正式な使者』。元々ガニアに非があることもあり、手を出すことはできません。ならば、その憤りは誰に向くか」

「……! そうか、君は『イルフェナからの客人』であり、『民間人』。だから……」

はっとして、シュアンゼ殿下が声を上げる。ふふ、気づいてくれたようで何よりです、共犯者様?

「八つ当たりの対象としては、最適でしょう? 表立って、こちらから仕掛けるような真似はしません。相手の有責を誘ったうえで、『正当な報復として』潰します」

今回の一件で、『魔導師は危険』という認識が植え付けられたと思う。だが、それでビビられても困る。この程度の出来事では、王弟一派を潰すことなどできはしない。

困る。超困るのよ、それは! 寧ろ、盛大に仕掛けてくれることを望んでいるのに!

「危機感よりも、感情を優先して踊っていただきたいんですよね。今回とて、誰かが諫めていたから、擁護や同調をしなかったみたいですし」

「そう、だね。私は今回のことに乗ってくると思っていたんだ。今後のことを考えるなら、失敗した後のことも考えておくべきだったか」

「仕方ないですよ。茶会を捻じ込まれたことで予定が狂いましたが、こちらとしても立場を明確にしておく必要がありました。ああいった場で宣言できたことは、良いことだと思いますよ」

自分の策の甘さを痛感しているのか、悔しげなシュアンゼ殿下。ただ、こちらとしても次の展開に持ち込めたので、悪いことばかりではないと思う。

慰めているのではなく、これは事実。相手が王弟である以上、些細な報復程度で追い込めるわけがない。

何せ、王弟殿下の背後には貴族達が控えている。その筆頭が王弟夫人の実家である以上、簡単に潰させてはくれないだろう。

「……確かに、そうかもね」

「そうですよ〜。魔王様にも言われてますからね〜、『シュアンゼ殿下を守れ』って」

「はは、そうだったね。うん、期待しているよ」

納得したのか、小さく笑い声をあげるシュアンゼ殿下。ラフィークさんも安堵したのか、表情を緩めている。

ええ、ご期待ください。そのための仕込みは、今回も行なっていますから!

「あれ? じゃあ、毒殺をでっち上げようとした二人の妻子への気遣いって……」

思い出したのか、不意にテゼルト殿下が声を上げる。そんな彼に対し、私はにこりと笑い。

「勿論、善意じゃありませんよ。きっちり利用させていただいただけです。……外堀から埋めていくのも、重要ですからね」

「えーと、それって……」

さらっと言い切った私に、顔を引き攣らせるテゼルト殿下。

はは、その様子だと、私が善意で言ったとでも思っていたな? 随分と温い考えをしてるじゃないか、私は『世界の災厄』こと魔導師だぞ?

「実は……」

伝えた後は、再び皆が微妙な顔になった。『徹底的に使う』という意味が判った模様。

さて、どうなりますかね?