作品タイトル不明
お茶会、その後
戦い終わって、日が暮れて……はいないけど、お茶会は無事に(?)終了した。
個人的には『まだまだいける!』という感じだったが、王弟夫人の体調不良により、お開きとなったのだ。
王弟夫人の派閥の皆様は『クルーデリス様をお一人にできませんわ!』という、心優しい一面を見せつけながら共に退場していった。……ちっ、逃げやがったな。
そんなわけで。
王妃様の派閥の皆様への紹介を兼ね、今はのほほんとティータイムになっていたり。気楽〜な気分で、まったりお茶会です。
私と王妃様は当然のこと、王妃様の派閥の皆様がそのまま残ってくれている。今後のバックアップも担ってくれるらしい。ありがたいことですな。
「予想外の結果だったわねぇ」
「そうですかね? 私が泣くか、向こうが泣くかしかありませんから、この結果は当然かと。あちらは全く下準備ができていなかったみたいですから」
「それでも、あれだけ言い返せたのは大したものよ。ふふ、本当に気分爽快だったわ! あの女、昔から本当に厭味ったらしいのよ」
砕けた態度で楽しげに笑うのは公爵夫人。この方、王妃様の親友なんだそうな。この茶会も、王妃様から王弟夫人の抑え役を頼まれていたんだって。
確かに、王妃様が私を庇うよりは、波風が立たないのかもしれない……王弟夫人の標的がこの人に移る、という意味で。
なお、王弟夫人とは互いの結婚前から犬猿の仲らしい。
茶会の席でも、視線を極力合わせないようにしてるんだぜー……誰が見たって、仲は険悪だ。
常に上位に立たなければ気が済まない王弟夫人と、かなり気さくな性格をしているこの人では、物事の考え方が全然違うだろう。根本的なものからして違うので、溝は深まる一方だった模様。
まあ……王妃様の味方をしているということも、大きな要因だろうけど。
そこまで考えて、ふとあることに思い至る。公爵夫人ってことは、この人も王妃様のライバル的な存在だったんじゃなかろうか? 婿取りしたって言ってたし、公爵令嬢だったんじゃね?
「……貴女がそこまで対抗意識を持たれたのって、王妃候補だったからじゃありません? あの方、物凄く王妃という地位に執着してるみたいですし」
夫人がいつ王弟殿下の婚約者に決まったかは知らないが、対抗意識を持つには十分だ。王弟殿下が王にならないことが決まった以上、次の王妃に敵対心を持つのは当然のこと。
だが、公爵夫人は首を振って否定。……あれ? 違うの?
「普通に考えれば、そう思うのも当然かしら。でも、私が王妃になることは絶対になかったでしょう。王弟妃殿下……クルーデリス様は王妃となられる方を目の敵にすると、誰だって判っていたもの」
「それなら、対抗できる人の方がいいんじゃないですか? 実家の身分的にも同じですし」
「そういう考えの人は多かったわ。だけど、陛下は……先代様はその一歩先を見据えてらしたのよ」
やはり、同じように考える人は多かった模様。っていうか、王弟夫人は当時から対抗心全開だったのかい。今も昔も判りやすい奴である。
そして、私の疑問に答えてくれたのは王妃様だった。
「……クルーデリス様と犬猿の仲のアリシアでは、それこそ国が真っ二つに割れてしまうわ。同じ境遇だからこそ、余計にクルーデリス様も引かないでしょう。だから、アリシアがクルーデリス様と敵対しても、私が双方を宥められる立場になるのよ」
「なるほど。それで王弟夫人が王妃様に突っかかった時は、アリシア様が王妃様に味方する形で抑えに回ると」
「ええ。とても助けられているわ」
どうやら、先代も王弟夫人の性格を難ありと思っていたらしい。ただでさえ敵対している王と王弟殿下に加え、その妻同士も犬猿の仲だったら……国が割れるわな。
生まれながらの王族はどうにもならないので、妻の方を考慮したんだろう。元々仲が悪い二人が揉めても、王妃様が仲裁役となって、最高位にあることを周囲に示す。そういった狙いも含まれている気がする。
「あれ、じゃあ王妃様の実家って……」
アリシア様が抑えとなっている以上、公爵家じゃないだろう。他国の王家と繋がりがある家か、侯爵家あたりが妥当か? だが、王弟夫人の実家が嫌がらせとかしてそう。潰されなかったんだろうか? 結構ヤバくね?
そんな私の気持ちを察したのか、王妃様は意味ありげに笑った。
「心配はいらないわ。私の父は辺境伯だったの。ふふ、当時はキヴェラが色々と騒がしかったから、いくら公爵家でも手を出せなかったのよ」
――だって、国がなくなったら権力争いどころじゃないでしょう?
そう、暗に告げる王妃様。その微笑みに、この人が割と強かな性格だと確信する。
辺境伯って、確か国境付近で国を守る役目を負っている人じゃなかったっけ。この世界的には違う呼び方をするのかもしれないが、自動翻訳された単語は『辺境伯』。意味的に近いのだろう。
しかも、当時は戦狂いと呼ばれる先代キヴェラ王が存命中。……うん、王妃様の実家は無事だろうね。手を出せば、自分の派閥の貴族からさえ非難が飛ぶし、後任になれるような人がいるのか怪しいもの。
当時のガニア王はそれを理解していたらしい。他に考えられる理由としては、優秀な辺境伯との繋がりという点を考慮されたんじゃなかろうか。王妃にならずとも、第一王子と婚姻してくれればいいんだし。
つまり、先代も色々と考えてはいたわけだ。
第二王子(=現王弟殿下)に王位を任せ。
第一王子(現ガニア王)と国の守護者たる辺境伯の繋がりを明確にして、民の支持が割れるのを防ぐ。
不安定な時代だからこそ、リアルに力を持った辺境伯の影響力は大きい。その取り込みも兼ねて、王子達の婚約者を決めていたんじゃなかろうか?
ところが、第二王子の方に問題が起きた。正確には、状況を全く理解していなかった貴族達が、己が利を優先するためにやらかした。
その結果、第一王子の方に王位が……という流れだな。いくら何でも、選民意識に凝り固まった夫婦が国のトップになったら、民からの反発は必至だもの。
何より、王妃様を見ていて納得できる部分もあった。
第一王子が王に相応しい存在と思われる以上に、辺境伯のお嬢様は王妃に向いていたんじゃないか?
彼女の幼い頃は、キヴェラの戦狂いが猛威を振るっていたはず。そんな中、辺境伯を父に持っていたならば……大抵のことでは折れない強さが培われるだろう。
そんな生まれなら、おっとり穏やかな御令嬢に育つわけがない。機を見ることに長け――これまでの会話から推測――、強かさを兼ね備えた、頼もしい逸材に成長したとしても不思議ではない。
事実、彼女は自分の派閥を作り上げ、彼女達を上手く利用している。協力者がいることもあるだろうが、それだけでは『公爵家のアリシア様の方が相応しい』的な意見だって出る。
それがないってことは、『王妃(=自分達のリーダー)と認められている』ってことですよ。おおう……ここにも隠れた女傑がいましたか!
ちらりと視線を向けた先の王妃様は、にこにこと微笑んでいる。私がどういう考えに至ったか判っているだろうに、あえて突くことはしない模様。
うむ、賢い! 黙っていれば、あくまでも『異世界人の勝手な妄想』で済みますからね!
「この分なら、女性達は大丈夫そうですね。派閥がしっかり纏まっているみたいですから」
「あら、そう思ってくれるの?」
「はは、十分じゃないですか〜……後は、私があちらを黙らせるだけですし」
今後の予定をさらっと告げると、王妃様達は怪訝そうな顔になった。
「どういうことかしら? クルーデリス様達はそう簡単に大人しくはならないわよ?」
長年の確執ゆえか、呆れながらも王弟夫人達の今後を予想するアリシア様。
ええ、そうですねー。それは私も思います。だからこそ、『黙ってもらう』んですよ。
「この茶会で、私の目的は果たされました。ですから、王弟妃殿下だけではなく、派閥の女性達の動きを封じさせてもらいます。十分なカードをくれましたからね、彼女達」
「エルシュオン殿下への報告かしら? だけど、それだけではあまり効果がないと思うわ」
王妃様は否定的な反応だ。これは他の人達も同様。
だが、私はその発想の斜め上を行こうと思います!
「先ほど、王弟妃殿下ご自身から『本っ当に、礼儀を知らぬ小娘だこと』と言われてしまいましたから。昨日の出来事も含め、『友人達』や『親しくしていただいている方達』に映像を見せて、『私の何が悪かったのか』を聞こうと思います!」
『え゛』
皆の声がハモった。王妃様でさえ、微笑んだまま固まっている。
そんな彼女達を無視して、私は計画を話し続けた。
「ほら、民間人で異世界人ですから、私。『王弟妃殿下と同じような地位にある皆様』から見てもらって、悪いところを直していかなきゃならないんですよ。エルシュオン殿下に恥をかかせるわけにはいきませんので! あと、私が今ガニアに居るっていう、お知らせも兼ねています」
「え、ええと、その、『王弟妃殿下と同じような地位にある皆様』って、どなた?」
微妙に顔を引き攣らせたアリシア様の問い掛けにも、元気一杯にお返事です!
「ゼブレストのルドルフ王とその側近の皆様、バラクシン王家の皆様、アルベルダ王ウィルフレッド様、カルロッサは宰相閣下とご子息、コルベラはセレスティナ姫経由で王家の皆様ですね。あと、サロヴァーラ王とティルシア姫にも聞いておこうと思っています」
勘違いしてはいけない、これは『私のため、皆の今後のために必要なこと』なのだ!
誰だって、失敗は一度で十分と思うじゃないか。今後迷惑をかけないためにも、必要なことなのです!
ただ……王弟殿下と夫人に非があった場合、その所業が他国にも知れ渡るだけで。
まあ、こちらの意味でも重要だろう。私が……『魔導師がガニアの王弟殿下と揉めている』と知れ渡るもの。
うっかり王弟殿下の味方をすれば、纏めて報復されかねない状況なのです。各国の王は英断をしてくれるに違いない。
「その結果、彼らはどういった対応をするでしょうね? 貴族階級の女性達は、情報や人脈こそが己が武器だと知っている。その繋がりが他国にまで及ぶこともあるでしょう。ですが、私の獲物は『この国で私に仕掛けてきた者達』……余計な介入は邪魔なのですよ」
血縁関係、友人関係、果ては懇意にしている商人との繋がり。それらは私にとって、非常に厄介なものなのだよ。状況を把握していないから味方する……なんて輩が出かねない。
私の敵となっているのは、王弟殿下を筆頭に男性貴族達。家が危うくなるほどのことをやらかしてくれれば、夫人達も処罰にもっていくことは可能だ。だが、私への個人攻撃では、そういった例は少なくなる。
「現在の国王ご夫妻に不満を持つ女性達が残っていれば、彼女達は子供達を自分の味方へと引き入れるでしょう。そうなれば、次代でも派閥争いが起こる可能性は高い。潰せる……いえ、黙らせることが可能な状況だからこそ、徹底的にやっておきます」
親世代を見せしめにすれば、子供達は別の道を歩むかもしれない。少なくとも、他国にさえ呆れられる親と同類と思われる言動だけは避けるだろう。
自国の王にさえ歯向かう貴族、魔導師の敵、しかも明らかに非があると知れ渡っている……なんて、まともに相手にする奴はいまい。
ぶっちゃけ、私としても他国に迷惑をかけないで欲しいのよね。小さくなってこの国に生き続けるか、家が潰れるかの二択だ。
「……そうね、今ならばまだ別の道が選べる家もあるわ」
「あってくれなきゃ、困ります。国の半分の貴族が潰れるなんて、やり過ぎですから」
どこかしんみりした口調の王妃様にも、現実的なお答えを。そこまでやらかせば私の方が悪者にされてしまうので、主だった者達――別名、今更逃げられない者達――だけが潰れてくれるのが理想だ。
「随分と頼もしい子が来たわね」
「アリシアもそう思う?」
「ええ。ふふ、こんな時だけど、なんだか楽しくなってきたわ」
微笑ましい(?)親友同士の会話を聞きつつ、私はひっそりと笑みを深めた。
――その翌日。
茶会に参加していた王弟夫人の派閥の皆様に囲まれ、「クルーデリス様は心労のため、お倒れになったのよ!?」と責められた。あれから寝込んだらしい。
そうか、そこまで胸のなさを気にしていたか。じゃあ、今後も突こう。
……いや、事態の拙さを理解したせいかもしれないけどさ。こちらの方が面白そうなので、私としては積極的に狙いたい。
王弟夫人の意外な繊細さに驚きつつも、私が元凶というのは事実。反省を込めて『私的・反省と言動改善プラン』をお伝えしたところ、何故か皆様は揃って顔面蒼白になった。
やだなー♪ あくまでも『私の言動の何が問題だったか』を教えてもらうだけなのにぃ♪
それが建前と思っても、王弟夫人の発言がある以上は否定もできまい。っていうか、もう送っちゃったから手遅れです!
その後は揃って、王弟夫人と同じように寝込んだらしい。話を聞く限り、私が警戒したような動きはない模様。うむ、そのまま大人しくしているがいい!
なお、シュアンゼ殿下には大受けした。
「あはは! 君は本当に楽しい子だね。いいよ、もっとやれ!」
「おいっ! シュアンゼ!」
「やだなぁ、ミヅキは自分の言動を反省して、同じ立場にある知り合いに教えを乞うただけじゃないか。問題はないよ、テゼルト」
「そうですよー。私は向上心旺盛で、時と場合により反省もできる良い子ですー。だから災厄の名に相応しい、有能な子になれたんですー」
「ほら、ミヅキもそう言ってるし」
「いや、そういった点も事実だけどっ」
こんな会話を、ラフィークさんが微笑ましげに聞いていた、ある日の午後。