作品タイトル不明
お茶会=戦場 其の一
狩りの開始を宣言した翌日――
「緊張しなくてもいいのよ?」
「いえ、緊張はしてないです。何が目的だ、早速仕掛けて来たのか、早くも殴り合い勃発か!? とか思うあまりに、わくわくが止まらないだけですから!」
「……。そう」
王妃様のお茶会に招かれました。今は支度をする王妃様を待ちつつ、注意事項を聞いています。
……。
訂正、拒否権なしでした。返事を待たずに、拉致られました……!
ただ、これは王妃様も予想外のことだったらしい。原因? そんなものは王弟殿下に決まっている。
「クルーデリス様……王弟夫人が是非に、と仰っているのよ。彼女の派閥の方達もいらっしゃるし、本来は部外者である貴女をお招きすることはないのだけど」
どうやら、王弟殿下が情報収集を始めた模様。そこで顔の割れていない奥方に頼んだ……といった感じだろう。
王妃様も最初は断ろうとしたらしいが、王弟夫人が強く希望してきたために押し切られたらしい。私は『義理の姉妹であることを建前にして、強請られた――勿論、嫌味つきだろう――んじゃないのかなー?』と思ってるけどな。
はっきり『探り』と言わず、あくまでも『他国のお客様から話を聞きたい』というスタイルなので、こちらも批難しにくい状況です。なまじ嘘ではないので、断り続ければ王妃様の方が批難される展開になるだろう。
こんなお願いが通ってしまったのも、王VS王弟な状況が大きく影響していた。王弟夫人はそれなりの数の女性達を味方に引き入れており、無視できない勢力になっている。その影響力を考えると、王妃と言えども無碍にはできないらしい。
困ったように、それでも私に伺いを立てる王妃様に、私が折れました。……そういうことにしてもらいました。
だって、獲物が向こうから歩いてきたんだよ?
『仕方ないなー、呼ばれちゃったからなー♪』とばかりに、『断れなかった民間人』を装っております。
いや、これも事実だよ? 王族から『是非!』とか言われたら、断れないからね。
これが物語ならば、定番どおりイビリの場となるはず。それがなくとも、王妃派VS王弟夫人派らしいので、私にとっては娯楽要素が強い印象だ。
王VS王弟ならば、当然その奥方達も争っているわけですよ。こちらは水面下での争いらしく、ネチネチと嫌味の応酬になるらしい。
やだ……私、それ超得意♪ って言うか、大好き……!
何という愚か者なのだ、王弟夫人よ。いや、王弟殿下よ! 魔術師が賢さの代名詞ならば、魔導師はそれ以上だと気づこうぜ?
そもそも、私の功績の大半は『相手の言質を取って、蹂躙』か、『相手が反論できないような内容で、心が折れるまでいびる』という、大変処罰しにくいもの。
ぶっちゃけ、『証拠が残らないって素敵!』としか言い様がないものも多い。心の傷は表に見えん。
ただ、後見人である魔王様への報告は義務なので、無視も隠蔽もできない。よって、『馬鹿猫!』とばかりに叩かれる日常なのだ。
つまりは、そういうことを毎回やらかしているわけですよ。お世辞にも褒められたものではないが、最終的には結果を出すから必要と判断され、説教程度で済んでいる。
……性格の矯正は不可能だと、諦められた気がしなくもない。
「貴女を警戒しているのでしょうね。これまでシュアンゼには、本当に無関心だったもの。きっと、親子ということを足掛かりにして、色々と聞いてくると思うわ」
「それ、逆もありだと思うんですけどね」
普通は警戒するのでは? と問えば、王妃様は深々と溜息を吐いた。
「あの方は選民意識が強いのよ。だから、異世界人が民間人扱いということを重視しているのでしょう。多少のことは身分差で何とかなると、そう思っている節があるわ」
なるほど、夫人も王弟殿下の同類か。そういった強みもあり、自分の取り巻きも参加する王妃様との一戦に、私を参加させようとしているらしい。
確かに、有効な手段だとは思う。私のミスが、そのまま王妃様の非に繋がるのだから。
しかも、私は民間人扱いということもあり、貴族の作法など知らない。……知らなくても問題はないのだよ、普通なら。
そこを突いて来るあたり、何ともいやらしい。きっと、散々コケにして楽しもうとでも思っているんじゃないか? どちらが上かを理解させ、今後の牽制に……というのが狙いだろう。
ただし、これはある意味では悪手である。私の保護者、もとい後見人は魔王様なのですよ?
これ、遠回しに保護者である魔王様を侮辱してるじゃん?
南では常識となりつつある『魔導師を教育しているのはエルシュオン殿下』という認識。これがある以上、アホなことはできないのですよ。
勿論、私は貴族という身分じゃないから、『それなりに』許されてはいる。ただ、『何も知らない民間人』であることは許されまい。
そう、私もまた、魔王様の評価に関わる位置にいるのだ。ゆえに、私に求められるのは『そこに参加した価値』というもの。
つまり、『何か面白いことをやれ!』ということです。
珍獣に求められるのは礼儀作法などではない、宴会芸よ……!
礼儀作法などは最悪、『異世界人だから』で済む。寧ろ、『魔王殿下の黒猫が参加した茶会』ということが重要視され、この場合は『王弟夫人とその派閥を相手に、何をやらかしたか』ということが重要だ。
大変、理解のある皆様なのです。それが自国に活かされることも含め、嬉々として私の味方をしてくれるだろう。
だって、ここはガニア。北を纏め上げている大国なのですよ?
そんな国の、王弟夫人(とその一派の皆様)の醜聞を入手できるなら、喜んで私の擁護に回るに違いない。裏のある、大人のお付き合いなのだよ。
つい彼らと比較して、先代の判断は正しかったんだなと痛感する。奥方も同類では、我が子だろうと王位になんて就けられんわな。絶対に、私が知る王族達とは渡り合えん。
彼女達――王弟夫人達は、自国内ならばそれなりに権力があるとは思う。
だが、私は『部外者』。
しかも、『後見人や守護役達に情報を伝える可能性がある異世界人』。
こんな怖い立場の者に関わり、あまつさえ自国の醜聞を晒そうとするなんてね。本当に、シュアンゼ殿下が言ったように『自分のことしか見えていない人達』なのだろう。お似合いですな、ある意味。
しみじみ、親子関係は当てにならないと思う。王弟夫妻の息子というのは(認めたくないけれど)事実らしいので、シュアンゼ殿下は突然変異か何かなのだろう。
それならば、不自由な足も納得だ。シュアンゼ殿下、まとも過ぎるもん。微妙に歪んでいる節はあるけどさ。
そう本人に伝えたら、「そうか、この足が奴らとは違う証か……」と呟いていたので、ささやかな慰めになった模様。
うむ、その気持ちも判るぞ。私だって保護者があれなら、速攻で逃亡しているもの。
そんなことを考えている内に、王妃様の支度ができたらしい。本日は上品なクリーム色のドレスですな。さり気なく身に着けている装飾品も素敵です。
「お茶会の席に出れば、貴女を庇いきれなくなるかもしれない。だけど、お友達には貴女のことを話してあるから、きっと助けてくれるはずよ」
「お気遣いありがとうございます。でも、多分大丈夫ですよ」
「そうだといいのだけど……」
憂い顔の王妃様を見る限り、仕掛けてくることは確定か。大丈夫なら、私を安心させる意味でも「そうね」くらい返すもの。
でも、ご安心ください? 私はこういった場が初めてではありますが、王族ならば相手をした経験がございます!
キヴェラ王とか、ライナス殿下とか、ウィル様とかの方が、よっぽど怖いって! 特にキヴェラ王とウィル様の二人、誘導込みで仕掛けてくるんだもん。ぶっちゃけ、あの人達が相手だと言質を取られないように逃げるだけだしな、私。
それに比べたら、何と可愛らしいものだろう。反撃が可能。それだけで十分ですよ。私は自分にできる精一杯のことをやればいい。
いたいけな子猫は、敵が誰であろうとも必死に抗うのみなのです。
小さな牙と爪を立て、その可愛らしさを武器に、本当に怖い人へとチクるのみ!
私が可愛いかどうかは別にして、王弟夫人よりは価値があると思うんだ。実績ありの魔導師だもの、何かあったとしても恩を売る方向に動いてくれるさ!
そういった意味も含め、『わくわくが止まらない』のですよ。本日も(参加者以外に)笑いを提供する気満々、エンターテイナーは貴方の身近な恐怖こと魔導師が務めさせていただきます! 遊ぼうぜ〜、王弟夫人よ。
……特技で楽しませる芸人って意味なら、『エンターテイナー』も間違っていないと思うんだ。言葉での殴り合いは間違いなく、私の特技だもの!
「それじゃあ、行きましょうか。今回は特別に私の隣に席を用意したわ。だから、あの方の派閥も良く判るはずよ」
「楽しみですね!」
それでは、いざ戦場へと参りましょうか。