軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導師の考察 其の二

『黒幕』。その存在を初めて認識した騎士二人は、予想外の事態に戸惑っているようだった。

まあ、これは仕方ない。サロヴァーラに一方的な非があると思っていたのに、唐突に『それを望んだ奴がいるよ』と言われたようなものだ。

しかも、その『黒幕』候補はサロヴァーラにおいて、それなりに身分のある誰か。加えて、南の四カ国に喧嘩を売ってもいる。

割と危うい状況なのです、サロヴァーラ。

つーか、騎士が初めに聞く話じゃありません!

……でも、話すけど。私という『部外者』が接することが可能な貴重な人達だもの。

逃がさん。この二人を接点にして、黒幕まで切り込んでくれる。

「そうそう、一応言っておく。これまでの話で判ったと思うけど、『黒幕』ってこの国の上層部に属する誰かだと思うんだよね。だから、黒幕撃破に荷担することは、この国において何らかの処罰を受けるかもしれない」

サロヴァーラ王が口を噤んだ場合、ということだ。王が黒幕ではなくとも、黒幕を庇ったら……という事態も想定しなければならない。

黒幕が高位貴族でも非常に拙い状況になる。公爵子息な護衛騎士はともかく、この乱入者君はサクッと殺られそう。

問題は王がそんな判断をした場合。その時は、被害国全てがサロヴァーラと今以上に距離を置くだろう。身内贔屓をして疑惑のまま終わらせれば……被害国からの批難はサロヴァーラという『国』に向く。

誘拐された令嬢の身分がそこまで高くはないし、国内に共犯者もいたので、さすがにドンパチやらかす展開にはなるまい。だが、その分じわじわと被害が出るだろう。

ぶっちゃけますと、南に属する全ての国がサロヴァーラと距離をおきます。そりゃ、キヴェラやイルフェナといった国の味方をした方が得だよな。

正直なところ、サロヴァーラ王に『王としての冷酷さ』を期待しとらんのです。温過ぎるだろ、あの人。

「だから、最終確認ね。処罰される可能性もあるけど、それでもこれ以上の話を聞きたい?」

「……」

「俺は……聞きたい、です」

即座に答えたのは乱入者君。護衛騎士は、私が口にしなかった部分まで察したのだろう。厳しい表情のまま、考えているようだった。

正しい反応はどう考えても護衛騎士の方。サロヴァーラ王に忠誠を誓っているからこそ、私の提示した可能性を否定できないのか。

……だが。

「……。はい、お願いします。私は魔導師殿の話を聞いてみたい」

やがて顔を上げると、決意の表情ではっきりと口にした。

「いいの?」

「ええ。私はこの国の騎士であることに誇りを持っております。……こういった厳しさを持たなかったからこそ、そして我が身を犠牲にしてでも正義を貫く者がいなかったからこそ、この国は歪んだと思うのです」

護衛騎士はこの国の状況を嘆いていたらしい。そして、その理由も理解できていたのだろう。

だからこそ、今その状況になった自分は彼らとは別の道を選ぶ。全ては国を想うゆえ。

私は満足げに頷き、レックバリ侯爵に視線を向ける。軽く頷く侯爵もまた、彼らに情報をもたらすことを了承してくれたらしい。

「よし、それじゃ話そうか。まず、私が『黒幕』と言っている理由。これね、キヴェラ、イルフェナ、カルロッサ、アルベルダの四カ国で起きた誘拐事件の犯人を指す意味もあるの」

「「は?」」

唐突な暴露に、騎士二人は間抜けな声を上げる。うん、そうですねー。いきなり無関係なことを言い出したように思えるもの。

でも、これは彼らも知っておかなければならない情報なのですよ。

「それぞれの国に協力者を作って、下級貴族の令嬢を誘拐。最終的にイルフェナが令嬢達の監禁場所となり、事件は解決した。実行犯の犯人達も捕縛されてる」

「お待ちください、『実行犯』とは?」

護衛騎士が声を上げる。そこに気づいた彼に笑いかけ、私は話を続けた。

「うん、そこがポイント。犯人達がアジトにしていたのは商人の館なんだよ。取り引きの書類があったり、付き合いのある貴族がいたりするから、騎士団も捜査を強行できないよね? そして、荷物を運び込むのも自然。つまり、『それを知っている者がブレインとなっていた』ってこと」

護衛騎士の視線が鋭くなる。盗賊やならず者にそこまで考える奴はいない。しかも、私は四カ国が被害を受けたと口にしている。

ここまで大規模だと相当な計画性が必要だし、そういった情報を持つ者も限られてくる。

「サロヴァーラが疑われるような……『何か』があったんですね?」

「ええ。さっき言ったブレイン、彼らは死んだの。こちらが接触する前に、唐突に。彼らが滞在していた場所から見つかった茶葉に、長期計画での暗殺御用達の毒が混ざってたんだって。聞いたことない? 飲み続けると体に毒が蓄積されて、やがて死に至るってやつ」

護衛騎士はぎゅっと拳を握り込む。『茶葉』、『飲み続けると死に至る毒』、そして……『唐突に死んだ犯人』。

サロヴァーラの者は茶を好む。それを利用した蜥蜴の尻尾切りにしか見えまい。何より、犯人に茶を飲む習慣があると知っていなければ、そんな真似はできまい。

「疑ってたところに、サロヴァーラからのご招待。あまりにもタイミングが良すぎるでしょ。だから、『魔導師をイルフェナから引き離すためじゃないか』って疑った。それが、色々と用意されていた理由だよ」

「……」

乱入者君は未だ騎士としての経験が浅いのか、私の言葉に驚くばかりで呆然としている。

対して、護衛騎士は色々と納得できてしまうため、内心葛藤しているようだった。

ですよね、これは忠誠誓っている騎士が『はい、そうですね』なんて言える内容ではない。疑惑があっても、頷けば自国の罪を認めることになる。言葉に困るだろう。

「さて、ここまでが前情報。じゃ、今回の件についての考察を続けようか」

パン! と手を叩いて騎士二人の意識をこちらに向かせる。驚くのも、考え込むのも、仕方がないとは思うが、今はそれだけに時間を取っている場合ではない。

騎士二人もそれは判っているのか、悩む様を見せながらも話を聞く姿勢となる。

では、考察の続きといきましょうか。

「まず、私とこの国では視点が違う。貴方達は『犯人を見つけようとする』けど、私は『犯行が不可能な者を消す』という方法を選ぶ」

イルフェナの手前、サロヴァーラは犯人を見つけようと必死だ。だが、それを確実とするような証拠がないため、捜査が手詰まりとなってしまっている。

「其の一、『黒幕の身分について』。侍女を協力者にできるなら当然、貴族以上。しかも、謁見の間に入り込める立場。これは私達が上に戻った時に再会した際、侍女が必死に恩情を願ったから。王に恩情を願ったとも取れるけど、命じた人……『侍女の味方である犯人』もその場に居た可能性がある」

「あの中に、ですか?」

「うん。可能性としてはゼロじゃないでしょ?」

こういった言い方もありだと思う。

侍女は私達の無事な姿を見るまで冷静だった。最も疑われる立場でありながら逃げず、暫くは落ち着いて私と言葉を交わしてもいる。

取り乱すような侍女にそれが可能か? あの場に仲間が居たから強気でいられたとは考えられないか?

「彼女は助けを期待したでしょうね。けれど、何の反応もなかった。『あの時、あの場所に居て、なおかつ侍女を庇わなかった人』。この時点で、リリアン様は除外される」

リリアンは自室で謹慎させられていた。無条件に庇いそうなリリアンがいないならば、侍女が縋ることができるのは共犯者のみ。

王も含まれるが、状況的に庇わない可能性も考えていただろう。さすがに他国の人間と公爵子息は拙い。

騎士二人は難しい顔のまま、私の話を聞いている。これはリリアンを黒幕から外す要素だけなので、そこまで深刻にはならないだろう。

リリアンに対する疑惑は以前に晴らしている。決定打はなくとも、護衛騎士はそれで納得していた。だから今更な情報だ。今回は侍女の事件を主軸にしているため、こういった除外の仕方をさせてもらった。

さて、ここからが本番だ。

「其の二、『毒について』。特殊な毒なのだから、入手できる立場が限られる。この世界には解毒魔法があり、魔道具を持っていてもおかしくはない立場の侍女が毒殺。つまり……『彼女が解毒の魔法が使えず、魔道具も所持していないと知っている』」

「っ!」

「た、確かに」

騎士二人が声を上げるが、私の話はそれだけではない。

「さっきも言った南で起きた誘拐事件。あれで死んだ犯人は、いくつかの魔道具を持っていた。その中で、解毒の魔道具だけが偽物だったそうよ。黒幕から贈られた他の魔道具が本物で、彼らが魔術に詳しくなければ……十分誤魔化せるでしょうね」

「ですが、そう簡単に命じた相手を信じるでしょうか?」

護衛騎士は否定的だ。まあ、『複数の国に喧嘩を売って来い』なんて命令されたら、口封じを疑うね。

だが、それも『遅効性の毒』ならば信じさせることが可能だ。

「死んだ犯人達が飲んでいた茶葉。あれを犯人達に贈った直後に、一緒にお茶していたら? 黒幕が魔道具を外した状態で飲んでいれば、その茶葉に毒が混ぜられているとは思わないんじゃない?」

これは毒の特性を利用した手だろう。

黒幕が魔道具を外した状態で共に茶を飲んでいれば、犯人達は茶葉が安全だと思い込む。……黒幕に消される可能性は低いと安堵する。

毒が入っていたとしても、犯人達が去った後に解毒魔法を使えばいいだけだ。一回お茶した程度じゃ、全く平気みたいだし。

「あ、あの、それって……彼女に使われたものと同じ、じゃ」

「そうでしょうね。私達が速攻で出てきちゃったから、まだ生きてたってだけじゃないかな? 行方不明になれば、採掘場跡で見つかるまでに数日はかかるだろうし」

乱入者君が震える口調で口にした言葉を、頷いて肯定しつつ補足。その可能性は十分あるのだ。

罠で私達が死んでいる場合もあるけど、生きていたとしても好き勝手にうろついて出られるようなものじゃない。

迷路同然なのですよ、あそこ。というか、罠に利用されている区域が! 素早く出られたのは私が事前に準備していたからである。

その迷子になっている数日で、侍女が死んでいた可能性とてあるじゃないか。優先事項として私達の捜索がされるだろうし、今ほど侍女に注目が集まっていないはず。

「なるほど。牢に捕らえられてから毒を盛られたのでなければ、確かに犯人が不明ですね」

「いきなり死なれて困ってるってことは、不審な人がいないんでしょ? 食事に混ぜたとしても、毒見程度じゃ死なないから、気づかれにくいかも」

謝罪に来た以上、護衛騎士は状況を聞いたのだろう。『事前に盛られていた』という説に納得の表情だ。

食事に解毒魔法を使っていたとしても、侍女が致死量をすでに摂取していたらアウト。というか、黒幕がその程度の計算をしていなかったとは思えない。

イルフェナで死んだ犯人の男の方は、外で唐突に苦しみだして死んだはず。だったら、致死量を摂取してから死ぬまで、それなりに時間がある可能性が高い。

それに。

『侍女が事前に毒を盛られていた』という推測が正しい場合、黒幕への手掛りがあったりする。

「追記事項。あの毒は口から摂取するものだということ。これは『侍女が警戒心を抱かず、出された物を口にする人物が依頼者』ということになる。依頼内容が内容だもの、警戒しているならば、勧められても絶対に口にしない。同性、しかもそういった裏を疑われないような人物の可能性が高い」

「……侍女の友人達でしょうか?」

「うーん……違うかな。協力者の有無を調べるために、侍女の友人達はとっくに聞き込みをされているでしょう。侍女が死んだら真っ先に疑われるし、今捕縛されていないならば、その可能性はないということ。侍女ごときを国が庇う理由は何もないし、怪しいならば犯人の一人に仕立て上げるでしょう。今、この国はそういう状況だよ」

護衛騎士の予想は、他にも思いつく者がいるだろう。共犯者の可能性に加えて、気安い関係という理由から調べ尽くされているはず。

それでも誰かが拘束されたとは聞かないから、侍女の友人達は無関係だったと見るべき。

「この点を踏まえても、リリアン様じゃない。仕事で側に控えている以上、同じテーブルに着くことはないもの。リリアン様が誘ったとしたら、他の侍女に目撃されているはず。それに、誰かが休日に誘ったならば、侍女の足取りで接触した人物がバレる。よって、『侍女を仕事中に呼び出せる人物』が怪しい」

『お仕事』という名目で呼び出していれば、『侍女は怪しい人物と接触していないことになる』。

私が第一王女を疑う要素の一つだ。お姉様が妹姫の状況を聞くために、定期的に呼び出していれば不審がられないもの。

さて、ここからは一気にいくぞ。

「其の三、『侍女を口封じすることによって、確実に逃げ切れる人物』。言い方は悪いけれど、実行犯は侍女だから彼女が犯人とも言える。自殺ということにして逃げる……もしくは、侍女を殺したことがバレたところで『国が庇う可能性がある人物』」

話しながら、指を折る。前述した予想を前提にすると、否定しきれまい。そして、更に予想の追加を。

「其の四、『侍女の死を不審がる者の排除が可能な人物』。前にも言ったけど、貴方の行動は国にとって迷惑だけど、黒幕にとっても拙いんだよ。その考えに賛同した挙句に協力者が出てきたり、イルフェナがそこを追及してきたりする可能性があるから」

はっとした表情で、乱入者君は私をガン見した。それこそ、先ほどまでの彼の姿だったから。

「だから『排除』することにした。国にとっても居ない方がいいから『この時期にそんなことをするとは思わなかった』という言い分が使える。普通はそう考えるし、貴方が嘘を吐いて通ったと思う人もいるでしょう。何より、貴方を排除すれば『魔導師に暴言を吐いた騎士を厳しく処罰した』という実績がサロヴァーラにできるじゃない」

「え、それって……」

後半部分は捨て置けなかったのだろう。乱入者君は顔を引き攣らせている。

「こう言っちゃ何だけど。ここに来るまで誰とも会わなかったのは、そういった思惑もあったと思う。侍女のせいにして事を収めたい人達だっているんだよ。『誰とも会わなかった』ってのは貴方自身が言っているだけ。『用事があると言っていた』とか、口裏を合わせればどうとでもなるね」

そう言ってから、護衛騎士を指差し。

「この人、個人的に謝罪に来ただけだから。ここに居たのは、本当に偶然だよ? 居なかったら、今頃は騒ぎを聞きつけた騎士達に踏み込まれた挙句、拘束されてたりして」

「う……」

自分がどれほど危うい状況にいたかを理解したのか、乱入者君は呻いて頭を抱え込んでしまった。

素直そうなお子様に、こういった大人の汚さって酷だよな。でも、こういった素直な面も利用されるに至った要因だと思うんだ。

黒幕が見えなかったのは、その賢さだけが理由じゃない。

サロヴァーラが長年放置していた『闇』、それを理解して策を練っていたから。

王とリリアンを糾弾した貴族達のように、自分の利や自己保身を第一に考える者達がいることを黒幕は知っていた。ほんの少し囁いてやれば、彼らは勝手に動く。

「だから言ったでしょ? 『黒幕撃破に荷担することは、この国において何らかの処罰を受けるかもしれない』って」

何でもないことのように告げる私に、イルフェナ勢は満足そうな笑みを向けるばかり。彼らにとって、こういった『毒』に理解があるのは喜ばしいことなのだろう。

彼らにとっての最重要は『イルフェナ』。それを守るために必要なのが、正義ばかりとは限らない。

黒幕よ、そっちが周囲を利用して思惑どおりに事を進めるならば。

――私も同じ手で返してやるよ。無自覚のまま、そちらの手駒だった二人を『利害関係の一致』の下、協力者に仕立ててね。