軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終幕へのカウントダウン

『侍女が死んだ』

そう報告を受けた私達だったが、この出来事にはサロヴァーラも青褪めたことだろう。

『手駒を殺す』、『口を割らない罪人が自害する』って、誰でも思い浮かぶ展開だもの。状況的に、不手際を謝罪する程度じゃ済まないわな。

しかもイルフェナと私の抗議に対して、サロヴァーラ王は誠実な対応を約束してしまっている。それを全うするための貴重な手掛りが侍女だったわけで。

これは責められても文句を言えん。宮廷魔術師がアレだったから期待はしていなかったが、それにしても問題です。

……が。

私が思っていることは、それだけじゃなかったりする。

「本当に……本当に申し訳ございません! こういったことが予想されていたにも拘わらず、死なせてしまうなど。我が国に落ち度があることは明白です。お叱りはいかようにも」

「……」

目の前で深く深〜く頭を垂れて謝罪してらっしゃるのは、あの護衛の騎士である。彼は心底申し訳ないと思っているのが誰の目にも明らかなほど、全身で謝罪しているのだ。

うん、サロヴァーラとしてはそれが当然の対応だ。それは判るよ、それはね?

ただ、これだけは言いたい。

『何故、お前が謝罪に来るんだ……?』と!

この人、王の信頼を受けた騎士ってことは近衛か何かだろう。身分的にもそういう立場のはず。

つまり、間違っても罪人の管理責任を背負うような立場ではない。侍女が入れられた牢の見張りとかしてないぞ、絶対。

それでも、この人を寄越すということは。

「あのさぁ、何で貴方が謝罪に来るの?」

沈黙したままのレックバリ侯爵――その他イルフェナ勢は護衛扱いなので発言しない――に代わって、私が口を開くと、騎士は怪訝そうな表情のまま顔を上げた。

おいおい……君も疑問に思いなさいって! もしや、こういった役目を押し付けられるのはいつものことなのかよ!?

「謝罪に来るのは侍女に関する責任者、もしくはレックバリ侯爵に釣り合う身分の誰か。なんで関係のない……って言い方は微妙だけど、そいつらじゃなくて貴方が来るのよ?」

「身分的には申し分ないかと。実家は公爵家ですし」

『おい』

さらりと告げられた騎士の立場に、イルフェナ勢の心の声が重なった気がした。騎士はそんな私達に気づかず、「ですが、確かに騎士如きでは失礼ですね……」などと呟いている。

権力があるとは言っていたけど、公爵家の御子息でしたか。まあ、騎士になるくらいだから上に何人かお兄さん達がいるとは思うけど。

……。

これ、彼の父親である公爵が王の信頼を得ているからこそ、選ばれたな。

おそらくは、実家の公爵家とやらが数少ないサロヴァーラ王の味方なんだろう。私に付けたのは責任感と……警戒心からか。

騎士本人が裏を知っているかは判らないが、少し勘繰れば非常に納得できる人選だったわけです。うん、私の護衛になった理由が漸く判った!

この人が公爵家の人間な上に非常に真っ当な騎士だから、守られる限りは私の安全が保証されると踏んだんだろう。

逆に私が暴れれば不敬罪が発動可能という状況だった、と。

ああ、何やらイルフェナ勢からチクチクと視線が突き刺さる……。『不敬罪やらかしてないか?』ってことかい。さすが私に理解ありまくりな人達だ。

ええ、ばっちりやらかしてます!

でも大丈夫! 私はこの人の命の恩人でもありますから!

もしもの時は売りまくった恩を盛大に発動するつもりだ。この騎士の性格からして、それで十分相殺してくれるだろう。

ただ……新たな可能性に頭が痛くなる。

こうなると侍女が自害した可能性も十分ありだろう。民間人扱いの私だけならともかく、この騎士も巻き添えで殺しかけてるもの。

侍女に罠の存在を教えた人物が『詠唱が間に合わないから、絶対に助からない』とでも教えていたならば……私達が生き残る展開は予想外のはず。

それならば謁見の間で私達を見て驚愕したり、恐慌状態に陥った理由も納得だ。私だけじゃなく、証人となる騎士まで無事だったのだから。

侍女は公爵家に喧嘩を売ったも同然。今後は侍女だけではなく、その共犯者は騎士の実家である公爵家からも睨まれることになる。侍女を庇う輩も同じく。

絶対に助け手は現れないよ、これ。同情で庇える域を越えている。冗談抜きに侍女は孤立無援だったのか。

侍女が貴族だったとしても、さすがに公爵家や侯爵家といった身分ではあるまい。そんな立場のご令嬢が侍女になることは稀だろう。

イルフェナからの抗議を何とかかわしても、サロヴァーラでの未来はない。そりゃ、絶望もするか。

何より、これも黒幕(仮)な第一王女様の人選だったかもしれない。そうだとするなら怖過ぎだ、あの人。どこまで計算して策を練っていたのやら?

「あ〜……えーとね、そういう意味じゃないの。『誠実な対応』を約束してもらった以上は、状況説明も兼ねて責任者が来るのが筋じゃないのかなって。貴方、明らかに侍女の監視に無関係じゃない」

やや視線を泳がせながらも告げれば、騎士はばつが悪そうな表情になった。うん? この人もそう思っていたのかな?

「実は……『お前ならば魔導師殿の心象も悪くはない』と。その、押し付けられまして」

告げられた理由に、イルフェナ勢から騎士へと生温かい視線が集中した。誰の目もこう言っている……『貧乏くじ引き過ぎです』と。

私の護衛に、罠へと同行、最後は侍女の死亡報告って……気の毒過ぎるだろう、この人。

「それ、押し付けた奴が問題。連れて来い、その馬鹿」

溜息を吐きつつ、私が「仕方ないわね」とばかりに温く笑えば。

「ほほう、責任転嫁するとはなぁ」

レックバリ侯爵がバッサリと一言で纏めた。騎士は思わずといった感じに青褪める。

笑っていますよ、私達。ええ、笑顔ですよ。笑顔ですともーっ! ……サロヴァーラへの信頼度と好感度が下がっただけで。

はは……私はまだ甘かった。宮廷魔術師がアレだったならば、騎士だってそういう奴らが多い可能性だってあったじゃないか。

そもそも、この国の貴族階級ならば実家諸共『己が利>忠誠心』の可能性だって十分ある。さすがに騎士団長はまともだろうが、その下がどこまで信頼できるかは怪しい。

まあ、この騎士が王の信頼を受けた公爵家の人間だからこそ、押し付けられたかもしれないが。

単純に勢力争いの邪魔者、真面目過ぎて口煩いといった理由で嫌な役を押し付けたのかもしれない。私達が苛立ちをぶつければ、それこそ押し付けた連中の思うままだろう。

騎士は恐縮してしまっているが、私はこの騎士に対して怒る気はなかった。レックバリ侯爵の様子を見る限り、侯爵も怒ってはいないようだ。騎士の誠実さを試した、ということか。

「はいはい、貴方に対して怒る気はないよ。これは明らかにサロヴァーラ側の失態だけど、連帯責任だからって貴方に八つ当たりをするほど私達は馬鹿じゃないの」

そう告げると、騎士は意外そうに私達を見つめた。言われたことがよく判らず、困惑も混じっているような表情だ。

「お前さんに対して怒りを見せれば、それこそ嫌な役を押し付けた馬鹿どもの思い通りになってしまうからの。その程度の嫌がらせに利用されてやるほど、我らは優しくないのじゃよ」

「実力者の国と言われる国の人間が、無能如きに利用されるはずないじゃない!」

苦笑したレックバリ侯爵に、からからと笑う私。イルフェナ勢も私達の意見に同意しているらしく、口を挟んでくることはなかった。

予想外の展開だったのか、騎士は呆けた表情になる。だが、即座に表情を改めて姿勢を正した。

「それでも、謝罪すべきは我らサロヴァーラなのです。お心遣いに感謝します!」

「真面目だねぇ」

「お前と一緒にしてはいかんぞ、ミヅキ」

しみじみ呟けば、即座に突っ込みを入れるレックバリ侯爵。煩いですよ、狸様。

ジト目を向けると、レックバリ侯爵は呆れた表情で私を見てくる。……本気だったようだ、狸様にだけは言われたくないやい。

私は一つ息を吐き、肩を竦めた。こうしていても状況は変わらない。ならば『変える』まで!

「まあ、馬鹿な話はここまでにして。あの侍女が殺されてなかったことの方が不思議だったから、正直なところ予想された展開なのよね。遅いか、早いか。ただ、それだけの違いだと思っている」

「はあ、それは、まあ……」

騎士も当然それは考えていたらしく、歯切れが悪い。生きていた、ということの方が意外なのだ。それを理解していながら死なせてしまったサロヴァーラにも非があるだろうが、『今更どうにもならなかった』という可能性とてある。

例えば……誘拐事件の犯人に使われた遅効性の毒、とか。すでに侍女がある程度飲まされていた場合、単に効果が現れるのが遅かっただけとも言えるのだから。

これはゴードン先生から聞いた話。あまり医療が発達していないせいか、致死量というものが曖昧らしい。個人差があったりするので、稀に効果が現れにくい人もいるんだとか。タマちゃん達みたいに全く平気な種もいるので、納得です。

そもそも体質とか魔力量、後は摂取した量――茶に混ぜていたら、滲み出る毒の抽出量は不明だろう――によって死ぬ時期が変わってくるので、完全に長期計画用だ。

そういった点も踏まえて、暗殺御用達だったんじゃあるまいか? と思ったり。何回か一緒に飲んでいれば、犯人だと疑われる可能性とて低いもの。

騎士の様子を窺う限り、『殺害』にしろ『自害』にしろ通常の毒と思ってそうだ。恩情が与えられぬと判ったから死を選んだ……そう解釈することもできるのだから。

解毒や治癒といった便利な魔法があるゆえの弊害ですな。魔法を使うのが当たり前になり過ぎて、医療技術があまり進歩しないなんて。

元の世界では死因や毒の特定は当然なのに、この世界ではそれが非常に難しい。医者がこの世界に来たとしても、魔法に慣れた人々に受け入れられるか怪しいだろう。

まあ、ともかく。現実的に考えて、そのままにしておけば犯人に到達することは不可能に近い。侍女の言い分と状況的に『実行犯が死んだから、これで終わり』となってしまう可能性がある。

Q:ならば、それを回避するにはどうしたらいいか?

A:誘拐事件のことを暴露し、毒に関する情報を与える。

黒幕の目星がついた以上、誘拐事件のことを隠している必要はない。王に協力は取り付けてあるのだ、『個人的なお話』として暴露する役目は私が担えばいい。

それを含めて話をしようじゃないか。漸くここまできたのだ、王の協力が得られるうちに決着せねば……サロヴァーラに来た意味がない! 魔王様へのお土産がないのよ! 皆が納得しないのよ!

つーか、私に対する他国の皆様からの評価が下がると思うのです。今後も利害関係の一致という素敵な絆を築いておきたい私としては、それは少々いただけない。

「わざわざ報告に来てくれたんだもの、お土産をあげようか。私との会話を活かせるかは貴方次第。……私の独断だけど、貴方の主の耳にも入れておきたい話題があるのよ」

座れ、と視線で騎士を促す。レックバリ侯爵も皆も何も言わない。ここからは『私の個人的な会話』なのだから。

騎士はやや迷ったようだが、やがて言われた通り席に着いた。あの採掘場跡で交わした会話や、その後のあれこれが私に対する評価となっているのだろう。少なくとも『土産』を得る価値はあると踏んだらしい。

「ここからは私と貴方の会話。イルフェナ勢は口を挟まぬ限り、いないものと思って」

唐突な申し出に、騎士はぎょっとしたように私を見、次いでイルフェナ勢に視線を向けた。彼らは微笑んだまま黙っている。

その沈黙こそが許可の意だと汲めぬほど、騎士は愚かではない。

「……。了解しました。ですが、魔導師殿は情報を口にされて大丈夫なのですか?」

頷きながらも、騎士は私を案じてくる。彼の立場上、そういった勝手が許されるとは思えなかったのか。

まあ、厳密に言えば私も許されるわけではない。最終的に結果を出すので、『許さなければならなくなるだけ』だ。

「結果に繋がれば考慮してくれるから大丈夫。……説教で人は死なないもの。それも私を案じてのものだし」

ぽつりと付け加えれば、騎士は軽く目を見開いた後に小さく笑った。

「エルシュオン殿下、ですか。私は直接お会いしたことはありませんが、噂を伝え聞いております。ですが……その噂はあまり正しくなかったようですね。貴女のような方がそれほど信頼を向けるのです。優秀さは噂に聞くまま、厳しくもお優しい一面をお持ちなのでしょうね」

思わぬ魔王様の評価に、一瞬時が止まる。

「このような場ですが、謝罪させていただきたい。貴女の後見人を曇った目で見ていたこと、どうぞお許しください」

そう言って頭を下げる騎士の姿は誠実そのものだった。

これにはイルフェナ勢も驚いたのか、僅かに動揺したような気配がする。そんな彼らの態度に、今までこういった対応をされたことがないのだと知った。

この騎士は魔王様の威圧を知らない。だからこその言葉と言ってしまえばそれまでだが、それでも物騒な噂は色々と聞いていただろう。それでも、こんな言葉が出て来るとは。

騎士よ……私は今からお前の味方だ。

これまでの言動も相まって、騎士への好感度は上がりまくりです。心の中で決意表明。異議は認めない。超貴重な人材だ、この人。

……そういえば、カエル様に対しても見下した感じはなかった。あの魔獣にも申し訳なさを感じていたようだし、種族を問わず誠実な対応ができるんだろう。

サロヴァーラ王とも敵対予定はないから、個人的に味方をするところで問題はない。というか、情報を渡すならこの騎士がいい。妙な偏見がないので情報を渡しやすい、という理由もある。

疑うのは他の奴がやればいいのだ、伝言ゲームの最初がコケたら後が続かないじゃないか。

「ありがと。生まれ持った魔力のせいで色々言われることが多いけど、魔王様は私を案じてばかりだよ」

「やはり、そうなのですね」

「うん。魔導師ならば利用する方向に考えるのが普通なのに、あの人はそれを本当に最終手段としか考えないから」

微笑んで感謝を告げれば、騎士は何かを感じ取ったのか安堵の息を吐く。おそらくだが、自分の見解の正しさを知ったのだろう。

さて、そろそろ本題に入ろうか。

「私達が侍女の死について理解があるのは、もう一つ理由がある。それは――」

そう言いかけた私の言葉は、突如ぶち開けられた扉と新たな人物の登場により遮られることとなった。

こちらを睨みつけているのは二十歳くらいの男性、そして……服装から騎士ではないだろうか。

呆気に取られる私をよそに、騎士は乱入者へと厳しい目を向けた。だが、乱入者はそれに構わず私を睨みつける。

「お前達の……お前のせいだ! 彼女が死んだのは……!」

恨みの籠もった声で紡がれた言葉に、この乱入者が侍女と親しい人物だと理解する。

こんな場に突撃をかますくらいなのだ。侍女の死に半狂乱となり、感情のままに行動してしまっていると見るべきだろう。

「あら、私は当然の対応をしたまでだけど?」

煽るように告げれば、乱入者の顔が泣きそうに歪んだ。ふうん? 八つ当たりだってことは理解してるのか。ただ、感情はどうにもならなかった……ということなのだろう。

そして私は笑みを深める。この乱入者が第一王女の差し金なのか、それとも彼女さえも予想外の出来事なのか。

どちらにしろ、再び事態が動くチャンスを私達は得た。それが全て。

「そもそも、貴方の入室を許可した覚えはないのだけど」

「煩い!」

元気よく返される返事に、私は益々笑みを深めた。それさえも乱入者を煽ることになると自覚していながら、新たな可能性に期待する。

もしかしたら……彼の言動が決定打に繋がるかもしれないじゃないか。しかも、今は王の信頼を受けた騎士も居る。

サロヴァーラ側の証人はばっちり、興奮状態にある乱入者もよく踊ってくれそうだ。

……現にイルフェナ勢は私に対応を任せ、誰も動かないのだから。無言の許可と受け取るべきだろう。

さあ、乱入者さん? 貴方は……私達に何をもたらしてくれるのかな?