軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

小話集18

小話其の一 『魔法は万能ではない』

「ほ〜……それでブロンデル家へ行ってたのか」

「……あの家も大変なんだな、色々と」

突然騎士寮から居なくなったので、お説教が終わってから騎士sにも説明。

ちなみに私の不在に気づいたのは騎士s。本人達曰く『何となく』だそうな。

……危険人物が消えたとでも判断されたのだろうか? 相変らず危機察知能力は半端無い。

「そういえば……お前、幻影使えたよな? あれを部屋にでも出しておけば不在を誤魔化せるんじゃないか?」

「そういや、そうだな。キヴェラの砦を落とした時に使ったとか言ってなかったか? あの映像を見る限り十分代わりにはなりそうだったよな」

不意に騎士sがそんなことを言い出す。

あ〜……騎士sは魔法にあまり馴染みが無いから、あの映像だけを見るとそれが可能だと思っちゃうのか。

まあ、無理は無い。あの映像だけで判断するならば、だが。

「無理だよ。幻影って物凄く条件が限られる術だから」

即座に否定すると二人は怪訝そうな顔になった。ああ、説明しろってことね。

「幻術は『術の対象者のみに見える幻覚』、幻影は『誰にも見える透けない立体映像』って認識。ここまではいい?」

「まあ、そういう解釈だろうな」

「透けない立体映像で正しいだろう」

頷く二人。横に居るクラウスが何も言ってこないところをみると、その認識で正しいようだ。

「で、幻影……その立体映像を術者が纏うことも可能。だから、砦イベントみたいなことが可能だった。でもさ、これって物凄く難しいと思わない?」

「「え?」」

「だって、幻影を纏う術者は『幻影と同じか小柄な体型』が絶対条件、腕や足の動き程度ならまだしも喋ると言葉と口の動きって絶対ズレがでるもの」

歩くとか腕を上げるとか単純な動きならまだ誤魔化せるだろう。

ただし、言葉と口の動きは合わせるだけでも難しい上に声が違う。事前に相当の練習が必要だ。

「加えて全く同じ体型でもない限り動きにズレが出る。幻影って実体無いもの、触れられたらアウトだよ」

「ああ……そういう難点の方が多いのか」

「そういや、お前も薬で身動き取れないようにしてたっけな。あれは近付かせない意味もあったのか」

「うん。触れられたらバレるし、薬で朦朧としてなきゃ影とか服の靡き方で不審に思われたね。だからローブ羽織ってたんだもの」

体に触れられても、触れるのは実体がある部分のみなのだ……術者との体型に差があったら幻影に手が埋まります。

同じ理由で物も持てない。実際に持つのは術者なので、幻影が物にめり込んだりと不思議な現象が起こるだろう。

物凄〜く使いにくい術なのだ、幻影って。防犯目的とかで人の姿が欲しい――見た目のみという意味で――時にはいいかもしれないが、人と接する場合は違和感ありありだ。

それこそ幻影に使った本人の協力でもない限り、思い通りに動かすというのは厳しい。

習った直後に『これ、犯罪し放題なんじゃね?』とクラウスに聞いたのだが、先ほどの欠点と『幻影に動きを合わせるだけでも術者本人の負担が大きい』と聞き納得した。

犯罪なんて無理だ、姿を偽るだけでそんな手間暇をかけるなんて。他の方法探した方がいい。

「一度クラウスにアルの幻影纏ってもらったんだけどさ、髪に触れても実体無いし、体に触れたら手が幻影にめり込んだ。しかも影が違うし、動いても髪や衣服が翻らないって異様だ。あれ、絶対に偽物ってバレるわ」

「それは……確かに」

「労力と釣り合ってないよな、そこまで欠点があると」

さすがにここまで言えば納得したらしく、騎士sは頷いている。

ですよねー! 私も砦イベントの時は色々と準備しましたもの。幻影を纏うだけだったら、絶対に不審がられていたと断言できる。

あの連中は薬の効果でまともに判断ができなかったからこそ、髪と目の色程度しか覚えていなかったのだ。それでもローブを着ていなければ気づかれたかもしれない。

もう一人の自分と言えるゲーム内の姿でさえ幻影とバレかねないのです。これが他人だったら術者は動きを合わせるだけでも必死なんじゃなかろうか。

「……あれは幻影となる人物の協力前提で作られたものだからな」

そんなことを考えていると、クラウスが口を開いた。

『幻影となる人物の協力前提で作られたもの』? どういうことだろ?

「元々は暗殺を防ぐ目的で開発されたものだったんだ。いくら危険だろうとも、人の前に姿を見せねばならない時がある……そういった場を乗り切るためのものだからな」

「王族の……王のために作られたってこと? 狙われることが判っている、もしくはその場に姿を現すことができない、とか」

代表して私が尋ねると、クラウスは一つ頷く。

「そのとおり。必要な場合は事前に本人が協力して幻影を作り出しておく。これならば声も本人のものであり、仕草にも違和感がない。……無関係の他人が纏うことなど考慮されてはいないんだ。まあ、それでも代役に纏わせる場合は事前に打ち合わせておくんだが」

どうやら影武者御用達の術だった模様。それを他で使うから、色々と無理が出るのだろう。

それに。

そんな術だからこそ、『扱い難い』という評価をされているのだと思う。他の目的には使うなよ、みたいな?

ふと気づけば、騎士sが生温かい目で私を見ている。どうした、騎士s。

「お前さ……そんな術を悪戯に使ったのか?」

「下準備といい、どう考えても悪戯だよな。キヴェラは悪戯に引っ掻き回されたってことか? 大真面目に考えてたのに?」

「うん。楽しかった!」

「「少しは反省しろよ、お前!」」

騎士sが揃って突っ込む。クラウスは……これまでにない活用方法を評価したのか、特に咎める気はないようだ。

煩いぞ騎士s。結果として良い方向にいったんだからいいじゃないか。

それに『キヴェラは悪戯如きに翻弄されて最終的に負けました』なんて、イルフェナ的には胸がすく事実なんだから文句を言うでない!

「娯楽に溢れた世界の発想は素晴らしいな」

どこか期待に満ちた熱い眼差しを向けて来る約一名に、思わず視線を泳がせる。

クラウスは少し自重しろ。さすがに黒騎士達の好奇心の赴くままに実験にお付き合い……なんて真似は無理だ。私がこの世界の魔法を理解できるか否かという問題もあるんだし。

っていうかさ。

親猫様に説教されるの、結局は私じゃん!? それって酷くね!?

「期待しているぞ」

スルーさせてください、暫くは良い子で過ごします。

※※※※※※※※※

小話其の二 『カエルのいる日常』(ルドルフ視点)

――最近の俺の一日は愛情深くも容赦のない一撃から始まる。

意識が浮上する。起きなければと思うも、眠りの心地良さと昨日の疲れに、ついつい再び眠りへと戻ろうとする。

……だが。

くーぇっ

そんな鳴き声と共に顔にひんやりとしたものがびたん、と乗る。

そう、『乗る』のだ。ご丁寧にも鼻と口を塞ぐ位置に! ……それでも完全に塞がないのが奴にとっての優しさらしい。

「……」

「くーぇっ♪」

「っ……だぁぁっ! 苦しいだろうが、おたま!」

がばり、と起き上がり顔に乗っていたカエルを掴んで退かす。

当のカエルは楽しげにしていて――どう見てもそう見える。表情豊かなカエルというのも、どうなんだろう――俺が起きたことに満足げだ。

じとっと睨むもどこ吹く風。ミヅキの育てたカエルに常識を期待してはいけない。

「はあ……ま、起きるか」

若干遠い目になりながら動き出すと、カエルは挨拶をするかのように一声鳴いた。思わず、ぐりぐりと撫でてしまうのは俺も『おたま』を可愛がっているからだろう。

「おはよう、おたま」

挨拶をすれば返事をするかのように、もう一度鳴く。

これが最近の日常。……何だかんだ言いつつも、俺はこの遣り取りが嫌いではない。

――そして、昼。

「ルドルフ様、こちらにサインを」

「ああ、これな」

宰相であるアーヴィと俺は基本的に忙しい。

勿論、共に苦労してくれる者達はいるのだが、最終的な決定は俺達がするようにしていた。

以前からそうだったということもあるが、内部が未だ人材不足気味なのだ。それでも邪魔をしてくる奴らがほぼ一掃されたこともあり、前と比べて随分と楽になったと思う。

……まあ、俺の敵になったら魔導師が直々に報復するという噂を流しているせいもあるのだが。

後宮破壊のことといい、キヴェラ王を謝罪させた時といい、『魔導師は一般的な思考回路をしていない(善意方向に意訳)』という認識が根付いている。

結果だけを見れば文句など言えないのだが、敵対した奴からすれば怖過ぎる存在なのだろう。

少なくともこの国の貴族達はミヅキに女性らしさや、良心などといったものは期待していない。夢見るのは勝手だが、それはあまりにも無駄な期待というものだ。

「失礼します。御二方、そろそろお食事をされてはいかがですか?」

エリザが昼食のワゴンを押しながら部屋に入ってくる。食事を取るか聞くだけでは俺達が仕事の手を休めないと判っているからか、エリザは昼食の準備を勝手にするようになった。

食事の時だけでも休めと暗に言ってくる気遣いも、以前に比べて随分と雰囲気が違う。今は苦笑する程度なのだ、エリザから見ても俺達はそこまで切羽詰まった雰囲気を出していないのだろう。

くーぇっ

鳴き声と共にちょこん、とカエルがテーブルの上に乗り、俺達をじっと見つめる。

この部屋での昼食には後宮の池に行っていたはずのカエルもちゃっかり同席。これも当然意味があって――

「ルドルフ様。この子がお腹を空かせていますわよ?」

「く……エリザが代わりに」

「おたまはこの部屋に居る以上、ルドルフ様と宰相様からしか食事を取りませんわ。……お二人が食事をなさいませんと、ね?」

食事など一人で取れるはずの、おたまは。

俺達を自分の給仕にすることで、食事のテーブルへと引っ張り出すのだ。

勿論、これにはエリザも関わっているのだろう。そもそも、本当に忙しい時は絶対に邪魔をしないのだから。

明らかに俺達に食事をさせるための我侭である。どこまで賢いのだ、このカエルは。

「は〜……判った、判ったよ。ほら、アーヴィも」

諦めて執務机から離れ、アーヴィも食事を取るように促す。

アーヴィは……物凄く微妙な顔で、楽しげにしている――アーヴィの目から見ても表情豊かなのだろう――カエルを眺めた。

「ミヅキの入れ知恵でしょうか……」

「いや、あいつは俺達の現状は知らないだろ」

「ということは、おたまが独自に動いていると」

『……カエル? これ、本当にカエルか?』

『ミヅキ、お前は一体どんな育て方をしたんだ!?』

思わず二人揃ってテーブルの上に居るカエルに対し、何ともいえない目を向ける。

おそらく、アーヴィと俺の思考は一致しているだろう。いくら長個体が人間並みに賢いと言っても、これは個体の性格だけが原因ではないに違いない。

池に居るカエル達にも言えることだが、『人に育てられた』ということが多大に影響しているのだ。

つまり、おたまの性格・行動・思考の元凶はミヅキ。

「ふふ。おたまは本当に良い子ですね」

さすがミヅキ様のカエルですわ、というエリザの言葉に。

少々常識外れのカエルは誇らしげに鳴いた。

――午後。

「う……うわぁぁぁっっ! 誰か! 誰かこいつを引き剥がしてくれ!」

聞こえてきた叫び声に手を止め、アーヴィ共々扉に視線を向ける。

叫び声の主はたった今退室したばかりの、俺に嫌味を言ってきた貴族だろう。

「おやおや、近くにおたまが居たようですね」

苦笑しつつも助けようとはしないセイル。どうやら、セイル自身も先ほどの遣り取りが気に食わなかったらしい。

まあ、俺に対する不敬罪というものもあるので、カエルの悪戯ごときに煩いことは――

「ちょ、おい、顔塞いでる! 早く剥がさないと死ぬぞ!?」

「他のカエルが邪魔してるんだよ! おい、飛びついて倒そうとするな! 落ち着け、な!?」

「ミヅキ様ぁぁっ! 貴女はカエル達に一体どんな教育を施したんですかぁっ!?」

……おたまだけではなく、他のカエル達も一緒にやらかしてるらしい。

しかも今の会話を聞く限り、計画的に殺そうとしているような。そしてそれはミヅキの教育の賜物だと、誰からも認識されているらしかった。

「あの子は奴がいつも嫌味を言っているのを聞いていますからね。おそらく、あの男が他の場所でここで口にした以上のことでも言ったのでしょう」

「いやいや、セイルも少しは止めろよ!?」

困った子ですね、で済まそうとするセイルに突っ込むも、セイルは苦笑するばかり。

動く気は皆無……というか、おたま達の行動を推奨しているような気がするのは気のせいか。思わず背中に冷たい汗が流れ落ちる。

さ……殺意抱いてたのか? カエルなら罪に問われないとばかりに妙な入れ知恵してないだろうな!?

「セイル……お前、おたまに何も言っていないだろうな?」

俺と同じ結論に達したらしいアーヴィが顔を引き攣らせながら問うも、セイルは笑みを深めるだけ。

その微笑みが非常に性質の悪いものだと知っている俺達は、己が予想を確信に変えた。

絶対に、絶対にセイルは何かをやった。カエルに情報を与えたという程度だろうが、相手が悪過ぎる。

「大丈夫ですよ、ルドルフ様。あの男の日頃の行いは知れております……ああなった理由など誰でも思いつきましょう。そして文句も言えません……魔導師のカエル、ですから」

どことなく邪悪な雰囲気を滲ませたセイルの笑みがミヅキと重なる。そして同時に扉の外に居る『おたま』も同じような笑みを浮かべているのではないかと思い、生温かい目をそちらへと向けた。

ミヅキ……ここでカエルが暮らすのは『セイルの影響を確実に受ける』ってことみたいだぞ?

しかも、それが『魔導師の教育だから』と認識されているみたいなんだが。

「カエルにやられるなど、彼は笑い者になるでしょうねぇ?」

そう言って笑うセイルは心の底から楽しそうだった。アーヴィが頭痛を耐えるように額に手を置いたのは……仕方のないことだろう。

アーヴィ……お前の『弟』は以前とは別の意味で心配なんだが。殺戮思考よりはマシとはいえ、本当にこれでいいのか?

――夜。

「ほら、寝るぞ」

この世界のカエルが水辺に居るのは『逃げ易い』『餌を捕り易い』『綺麗好き』といった理由からなので、常に水が必要というわけではない。

それもあってか、おたまは時々俺の部屋で眠っていた。

……それが俺が忙しい時に限られているのは周知の事実だ。皆からは『ミヅキ様の代わりに心配をしているようだ』と微笑ましがられている。

常にべったりというわけではないくせに、不意に寂しかったりする時にはこの緑の生き物が寄り添ってくれた。

いくら賢くともカエルである、端からは愛玩動物を愛でているようにしか見えない。

それを判っていて甘えるという方法を取り慰めるのだ、おたまは。

「お前、本当にミヅキに似てきたな」

ぐりぐりと撫でつつそう言えば、おたまは嬉しそうに鳴く。親、もしくは主。そういった認識が完全に根付いているのだろう。

俺の位置付けはミヅキの弟といったところだろうか。もしくは友。

どちらにせよ随分と変わった仲間を持った王として周囲に認識されていることだろう。

それも悪くないと思い、口元に笑みが浮かんだ。おたまが不思議そうに首? を傾げる姿に、益々笑いが込み上げる。

どうやら胸に残っていた寂しさも憂いも消えたようだ。本当にこの緑の生き物は俺の守護者であるらしい。

「さ、寝るか!」

そう声をかけて目を閉じる。おたまは勝手に寝やすい所に行くのだ……そして朝には再びあの起こし方をするのだろう。

やがて沈む意識に、小さくカエルの鳴き声が聞こえたような気がした。