軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去には色々ありまして

妙なテンションの宰相様に引き摺られ。

やって来たのは何故かルドルフの執務室ではなく、後宮にある私の部屋だった。

この時点で何となく予想がつく。

つまりバラクシンでのことを聞きたいと。

それが誰かに聞かれると拙いものだと思っていると。

絶対に私が主犯だと信じて疑っていないわけですね……!

いや、思いっきり合ってるけどさ。

でも一応それは実行犯という括りであって、事前に数々の玩具を用意したのはイルフェナ勢である。

しかも今回、魔王様達こそが何もやっていない。純粋に国のお使い。

伯 爵 を シ カ ト し た ?

そ ん な も の 寝 て る 奴 が 悪 い 。

魔王様はバラクシン王の謝罪を受けたり、私を諌めたりしていただけだ。

報告書を見ても判るように魔王様は今回、本当に私の飼い主としての姿を晒しただけだったり。

フェリクス達を責める言葉もイルフェナの代表者としては当然のものなのだから。

そんなわけで私はいつもの如く問題児。

元気一杯に遊んでいたら、遊び相手が仕掛けてきてくれた。

半分以上は向こうが原因……というか、事態を悪化させたのは教会派貴族達である。何もしなければ今でも半分くらいは穏やかな生活が送れていたに違いあるまい。

お馬鹿さんなんだからなぁ、もう! 蜂の巣だって突付かなければ蜂に襲われないってのに!

ところでさぁ……。

「……あの、この状況は一体?」

「……。俺にもよく判らんが好きにさせてやってくれ」

後宮の部屋でルドルフに聞くと何ともいえない顔でそう返される。

そうか、お前でも原因不明か。というか、ルドルフも宰相様のこんな姿を見たことが無いのだろう。

現在、私はソファに座った宰相様の足の間に『ちまっ』と座っている。

どうも定期的に頭を撫でたいらしく、離す気は無い模様。その腕は私のウエストに回され、すっかり捕獲された状態であったり。

小さい子なら微笑ましい光景かもしれないね、宰相様。

……保護者通り越して母親じみた行動をとってどうする。『初めてのお使い』を無事終えた子供か、私は。

「ふふ、宰相様はミヅキ様が強く賢くあられたことがとても誇らしく嬉しいのですよ」

「へ?」

「私も今回のバラクシンへの訪問にミヅキ様が加わっていると聞いていたものですから、ついつい期待してしまって!」

満面の笑みで話すエリザ。咎めるどころか暴れる事を期待していたらしい。

ならば余計に宰相様の行動が気になってくる。こういった状況では誰より私の行動を咎め、諌めるのが宰相様。

それが何故この状態なのだろう?

何かバラクシンに恨みでもあったんだろうか?

ルドルフに視線を向けるも困惑気味に肩を竦めるばかり。どうやら彼の主であるルドルフにもさっぱり理由が判らないようだ。

そこにセイルの声が割り込んでくる。

「ミヅキ、バラクシンのフェリクス殿下はどのような方だったんです?」

「フェリクス? ……一言で言うと『お馬鹿』。これは母親のせいでもあるんだけどね、子供が叱られずに育った感じかな? あの年で御伽噺を現実にできると思うとかって無いわ」

セイルの問いかけに素直に答えると、エリザとセイルは『ああ、やっぱりねー』とばかりに顔を見合わせた。ルドルフは困惑を顔に貼り付けたまま、口を開く。

「あー、何か数年前にアーヴィがバラクシンに行ったんだよ。で、その時フェリクスが俺と友人になりたいとか言ったらしい。……それで何故ここまでになるのかは判らんが」

「友人になりたいだぁ? それ、思いっきり利用する気なんじゃないの?」

「だからアーヴィが激怒して説教したらしいんだ。しかも逆にバラクシン王に謝罪されたってさ」

おおう……フェリクスの被害者が身近な所に居ましたか。

しかも数年前ってことは、ゼブレストが荒れまくってルドルフが絶賛苦労の真っ只中。

成人前のルドルフに笑顔が消えるほどの負担を掛けたのだと後悔している皆様にとって、フェリクスの所業は許し難いに違いあるまい。

特に直接話す羽目になった宰相様は怒り心頭だろう。

フェリクス……今でさえ頭の中がお花畑だったもんな。あれに苦労を知らない子供の無邪気さとか加わったら、身分制度をすっ飛ばして殺したくなるだろう。

……セイルあたりだとこれは冗談では済まないんじゃないのか? 主、いや王を利用したいと笑顔で言われた日には宣戦布告されても文句は言えん。

ゼブレスト内部が荒れているせいで身動きが取れず、身分はあちらが上ということもあり、ろくな抗議ができなかったというわけですね! その時の殺意が未だ生きていた、と。

「……フェリクスに言われた言葉とかは正確に聞いた?」

「いや? 俺が今話したとおりだが」

もしやと思って聞けば、ルドルフは首を横に振る。

やっぱり。恐らくは『超纏めたダイジェスト版』なんだろうな、それ。もしくはオブラートどころか厳重に包み過ぎてもはや『フェリクスの言葉』としか判別できないシロモノか。

夜会の時を思い出す限り、フェリクスは結構諦めが悪かった。しかも遠回しに言うとか空気を読むとかはしないだろう。

思わず宰相様の腕を労わるようにぽんぽんと軽く叩くと、溜息を吐いて「判ってくれるか」とばかりに無言で頭を撫でられた。どうやら予想が当たっていたらしい。

「あのさー、今回の映像見る前に言っておくけど。……宰相様の怒りは当然だと思うわ、もし数年前のフェリクスだったら魔王様はバラクシンに行くことすらしなかったと思う」

「え……どういうことだ?」

意味が判らんと言わんばかりのルドルフに、物凄く真面目な顔を向ける。その妙な迫力にルドルフはやや身を引いた。

「自覚の無い馬鹿には何を言っても無駄。言葉を交わす価値さえ無いって判断されるだろうってこと! 今回も理解したとは言い難いけど、まだ成人してる分『子供だから』っていう言い訳が通用しないもの」

私の言葉にルドルフは顔を引き攣らせ、エリザとセイルは……凄みのある笑みを浮かべた。どうやら自分達の想像が甘かったと悟ったらしい。

宰相様は背後の気配から察するに、うんうんと頷いている。「そうか、やはりお前達も苦労したのだな」と呟き、私の頭を撫でている。

おいおい、当時の宰相様って物凄く耐えたんじゃないの!? 当時のルドルフって例えるなら瀕死の重傷負っていながら、それでも立っているような状態だもの。

その状態でのフェリクスの言葉って、無傷で怪我どころか栄養状態良さそうな奴に「守ってくださいよ」って言われるようなもの。これで激怒しない方がおかしい。

「えーとですね、とりあえず夜会の映像見た方がいいよ。宰相様のこの状態を理解できるから」

それ以外は娯楽として見せた方がいいかもしれん。最後まで見れば少しは怒りも落ち着くだろうし。

そんなわけで夜会での映像――私とアルの完全犯罪は除く――を見せてみた。まあ、これも突っ込み所満載なんだけどさ!

そして映像鑑賞後の人々は。

「……最初からおかしいだろ、これ」

ルドルフは突っ込み過ぎたのか、それ以外に言葉が無く。

「これまで一体何を学んできたのでしょうね?」

セイルは苦笑しつつも蔑みの目となり。

「あらあら、今後はお母様と奥方のご機嫌取りが大変そうですわね」

エリザは楽しそうに嫁姑戦争に期待一杯な様を見せ。

「よくやった、ミヅキ! それでこそ魔導師だ!」

宰相様は咎めるどころか大絶賛。特に最後のフェリクス母子の扱いに拍手喝采。

……あの、おかん。貴方の台詞はいつもと真逆なのですが。いいのか!?

ただ、ルドルフは納得したような顔をしている。これは過去のゼブレストがどういう状況だったかを経験しているからだろう。

「あ〜、何となくアーヴィがそうなる理由が判った。直球で目的を言われる上に、フェリクスの言い分が正しいような言い方をされたんだな、きっと。遠回しに拒否しても理解せず、ってとこか?」

「多分ね……だって、宰相様に叱られて、王にも叱責されて、数年経ったのにこの状態だもの。物凄く無邪気に言ったんじゃない? フェリクスは」

カトリーナとかも混ざっていたら最悪だな。あの母親ならいかに自分達が冷遇されているかをアピールするだけじゃなく、自分が不幸な結婚をしたとかも口にするだろう。

ちなみに宰相様はそういった愚痴を他国に漏らして自国を貶めたり、義務を放棄する奴が大嫌いである。

私とて初めて会った時に『役に立て、結果を出せ』という目で見られたのだ。ルドルフと懇意にしている魔王様の紹介だろうと、そういうところは物凄く厳しい。

つまり、己が責務を放棄し自分勝手なことを愚痴るフェリクス達とは最悪な組み合わせ。

向こうも宰相様の方が身分が下だと侮っていた――あの伯爵なら『外交問題もあるし王族相手に文句も言えまい』とフェリクスを向かわせた可能性が高い――だろうから、反撃は予想外だったに違いあるまい。

セイルやルドルフがフェリクス達を知らないのは、その失敗からその後は向こうが避けたためだと思われる。

フェリクス、魔王様の事も苦手みたいだったしね。あれは宰相様が原因じゃなかろうか。

「じゃあ、ここからは娯楽で。向こうが『遊ぼ!』って仕掛けてきてくれたから、イルフェナ残留組がくれた玩具を使って仲良く遊んだ微笑ましい映像だよ」

「……ミヅキ、お前はいくつだ。玩具って何だ、玩具って」

茶化した言い方に、即座にルドルフが突っ込む。やはりイルフェナ残留組の玩具は物騒なイメージがあるらしい。

「外交に携わる皆さんが懐に隠し持っている玩具。あと、無邪気で全てが許されるならバラクシン滞在時は責任能力を求められない年齢設定で」

「無理があるだろ!」

「異世界の時間換算とか言えばいーじゃん!」

実際、『時間の流れが違うんです、十年で一歳とカウントされます』とか言っちゃえば問題無し。

難点としては守護役連中がロリコン通り越した危険な存在扱いになることだろうか。ま、私の外見を見れば言葉だけの意味だとバレるから問題は無さげだが。

「とりあえず早く見ないか? 一体何をしてきたのか楽しみで仕方ない」

「おかん……」

「アーヴィ……」

じゃれ合う私達を諌めつつも本音の滲む宰相様。思わずルドルフと揃って憐れみの目で見ちゃったり。

「じゃあ、夜会の後から。詳しい事は報告書に書いてあるから」

溜息を吐いて映像を再生する。順番は『教会で起きた奇跡の一時』→『化け物扱い』→『参加型罰ゲーム』となっているので、『仕掛けてきたのは向こうだ』という言い分も信じてもらえるだろう。

まあ……そう仕向けたという裏はあるんだけど。

※※※※※※※※※

「これにて上映会を終了します。質問はお一人ずつどうぞ」

映像終了後にそう言えば、報告書を読んでいるルドルフ以外が反応した。

「ミヅキ様、エルシュオン殿下はあの伯爵一家にトドメを刺さなかったのですか?」

エリザが不思議そうにそう言った。トドメ……魔王様が日頃どう思われているか判りますな。

それは皆も不思議だったらしく、視線で答えを問うてくる。

「あの伯爵は逃げるのが上手いんだってさ。実際、フェリクスを誘導しただけで本人は直接行動したわけじゃない。だから『元凶なのに謝罪すらしなかった』っていう事実を作り上げたってとこ」

「ほう、確かに後々イルフェナが手を出す理由にはなるな」

宰相様は感心したように頷く。セイルとエリザも同様……誰も『それって仕立て上げたって言わね?』とは突っ込まなかった。何故そうなったかという理由共々スルーしたらしい。

「教会はこれで落ち着くとして、寄付をしてきた貴族達は配下となっている信者達を煽ったりはしませんかね?」

次はセイル。これは騎士だからこそ余計に気になることだろう。信者上がりの忠実な部下とかを抱えている貴族を警戒しなくて大丈夫なのかと、そう聞いてきている。

勿論、これも警戒しなかったわけではない。

「教会の聖人様が今は貴族の家に世話になっている信者達に直接説明してくれるってさ。今回の経緯は国中に知らされるし、それでも納得できなければ最悪の場合『教会とは一切無関係』」

意味が判ったのか、セイルは目を眇めた。

これはあくまでも全く聞く耳を持たなかった場合の手段だ。行動を起こしたとしても『教会の信者』でなければ『教会の評価には繋がらない』。

悪く言えば見捨てるとも言う。だから聖人様が直接説明するということになった。

報復を目論む貴族が自分を恩人と慕う者達を利用しないとも限らない。自分達の行動を単なる恩返しと思い込んで正当化する可能性とて十分考えられた。

「寄付をしてくれる貴族が恩人って言うのも、ある意味正しいよ。だけど行動すれば何の罪もない信者達も『教会派貴族の駒』という認識をされかねない。だから聖人様はその要素を切り捨てる」

「切り捨てられる方なのでしょうか」

「やるよ、あの人は。聖職者というより組織の責任者って認識が強いからね」

探るような視線を向けて来るセイルにしっかりと頷く。すると暫くしてセイルは表情を柔らかなものに変えた。対策が取られているという点を評価したらしい。

「真面目な話は報告書にある程度書いてあるんで、質問があったら後でも答えるよ。……で、もう報復できますよ、宰相様」

「何……?」

さらりと言い切ると、意外そうな声が上がる。エリザとセイルもどういうことだと視線を向けてきた。

「もうフェリクスは王族じゃないし、母親だって側室じゃない。王家と教会は勿論、教会派貴族だって今回の元凶は助けたりしないでしょ」

「「「あ」」」

三人同時に声が上がる。『以前は無理だった』けど、今なら可能なんだよねぇ。

「元々は教会派貴族が一気に潰れるとバラクシンが困るっていうことから『じわじわ甚振る』って方向になったけど、連中自身にこれまでの責任を取らせるっていう意味もあるから。バラクシン王家と相談の上、さくっとやっちゃえ!」

多分、そういった事情があるならバラクシン王は考慮してくれる。フェリクスも独り立ちしなければ後が無いのだし、壁の一つとして自分の過去と向き合うのも勉強になるだろう。

なお、現在のフェリクスはバルリオス伯爵家の一員となっているので宰相様の方が身分は上である。クレスト家はゼブレスト王家の影……公爵家。バラクシン王の許可さえ得られれば身分的にも問題ない。

ぶっちゃけ外交でバラクシンという『国』に報復されると困るから生かしておいたようなもの!

教会派貴族達にピンポイントで報復するならまず咎められたりはしないから!

「でかした! そうか、そうか、私自身が動いても文句は言われないのだな……」

良い子! と言わんばかりに私を抱き締めると、宰相様は耳元でなにやら物騒なことを呟いた。多分、無意識だろう。

勿論、止めません! フェリクスの自業自得だし、私はおかんの味方。

そんな馬鹿な話で和んでいると、つん、と服の裾を引かれた。視線を向けるとルドルフが不満げな顔で私の服の裾を掴んでいる。

どうした、親友。報告書を読んでいたから混ざれなくてつまらなかったのかい?

「ずるい」

「何が」

「何でグレン殿は呼んで俺を呼ばないんだよ! 俺も参加したかった!」

「「「ルドルフ様……」」」

三人のハモり再び。加えて皆は生温かい視線をルドルフに向けている。

どうやら『仲間外れよくない! ずるい!』という感情からの言葉だった模様。いいのかよ、王様。

「呼ぼうとしたら最初から禁止された。だから『アルベルダの友人』ってことにしたら、情報を提供したいのかと思われて許可出たんだよ。ウィル様ってノリがいいからグレンに『自分も招待された』的なことを言わせて、色んな人達をビビらせるし」

いやぁ、少年の遊び心を持つ人だよねぇ……と付け加えると、今度は私を揃ってガン見。

「ミヅキ? お前、ウィルフレッド殿と連絡が取れるのか?」

「うん、取れる。ってゆーか、飲み仲間? ルドルフのことも構いたくて仕方ないみたいだから、そのうち来るんじゃない?」

これはマジである。それを踏まえて私と会話をしている節もあるから。

「陽気で豪快な親父様だけど、その態度と言葉に注意しなさいね。どこで仕掛けられるか判らないから」

「あ〜……そういう性格の方なのか」

「うん。真面目な奴ほどやりにくいと思う」

親友だからこそ警告を。まあ、敵にはなるまい。

ウィル様はグレンを通じてキヴェラを敵に回した私の行動理由を知っている。ルドルフ達には言わないだろうけど、ブリジアスのことで借りがあるといえばあるのだ。

だから余計にルドルフ達が興味を持たれたとも言うのだが、気に入られればルドルフにとって心強い味方となるに違いない。

「お前、本当に妙な人脈が出来てるよな……」

「寧ろ大物しか居ません!」

呆れたようなルドルフの呟きに即答。

妙な人脈というより、大物へと繋がる人々が様子見で私に接触してくる所為なので私は無実だ。