軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あなたと結婚できて最高に嬉しい

「気になっていたんだが、どうしてこの縁談はロマーノ王子から来たんだい?ずっとそれがわからなかった」

機嫌良く乗った帰りの馬車の中で、俺はイングリッドの隣に座ると聞きにくかった質問をした。

イングリッドはしばらく首を傾げていたがやがて笑い出した。

「旦那様はロマーノ王子を唯一翻弄している人だってご存知ですか?」

そう言われて俺は何を馬鹿なことをと首を振ったがイングリッドは

「ほらね。旦那様はそう言うと思っていました。でもロマーノ殿下はずっと貴方に憧れていらっしゃったそうですよ。強くて媚びない性格で型破りで」

そんなつもりは一ミリもないと言ってもイングリッドは引かない。

「クラスの一匹狼、それがオーランド・ガッシュ伯爵令息ですわ」と言って笑った。

俺は一生懸命昔を思い出す。

ロマーノ王子は品行方正で良い人間を気取っていたが、昔から腹の中は読めないところがあったので苦手だった。

一言で言えば彼は箱入りの貴族男子と言ったところだ。成績も良いし、謙虚な姿勢を見せるがクラスメイトとしてはあまり近づきたくないタイプの男という印象しかない。

彼はよく俺に話しかけていたが、擦れて思春期を拗らせていた俺としては構わないでくれよと言いたいぐらいだった。

俺が注意を受けた事件。そのことについてイングリッドに話さなければ、と思い学園時代を記憶を辿って話し出すとイングリッドは嬉しそうに聞き始めた。

その日クラスで小さな盗難事件があった。

俺は遅刻してクラスに入ったので蚊帳の外。揉めている最中に出会した。最初はだるいなあと槍玉に上がっている男子生徒を遠くから眺めているだけだった。

ロマーノ王子たちが話している内容から察するに、人気のある女子のノートが盗まれたという。まあ、貴族にとってノート一冊は大騒ぎする値段の代物ではないが、盗られたと騒ぐ女生徒は、ノートの行方をしつこく気にしていた。

犯人で考えられるのはとある男子。彼女に思いを寄せていた一人の男子学生がとても怪しいと皆が大騒ぎし、彼の机を探させてくれと詰め寄っていた。

男子生徒は机を触らせたくない、と断固拒否。ロマーノ王子は『そんな態度じゃ疑われるよ。見つからなければ疑いが晴れるから見せて欲しい』と女生徒との橋渡しを爽やかに行なっていた。

俺はその爽やかさが鼻についた。(とにかくその当時俺は尖っていたのだ。思い出すのも恥ずかしいくらいに)

「誰が犯人か明確じゃないのにそいつ一人に的を絞ること自体、傲慢で恥ずかしい行為だぞ」そう言って王子の周囲の生徒を睨みつけると皆が目を伏せた。

王子にも挑発的に小さな声でボソリとお土産を残した。

『王子っぽく解決しようとしてるけど、大したことしてないな』

その言葉を聞いたロマーノ王子が飛びかかって来たので俺はあっさりのしてしまったのだ。

完全な王族に対する不敬である。

ロマーノ王子があの当時俺をどう思っていたかは分からないが学校側に大事にしないようにと申し入れてくれたのは確かだ。

どうして俺があの盗難事件に首を突っ込んでしまったのかは昔すぎて記憶が滲んでいるがロマーノ王子が俺に対して何かといつも挑戦してきたことは感じていた。

成績は圧倒的に負けていたが、他のことで何か俺に勝ちたいことでもあったのかもしれない。

俺が話し終えるとイングリッドはウンウンと頷いた。

「私はロマーノ殿下の妃、キュリア妃殿下と友人なんです」と爆弾を落とした。

ロマーノ殿下の妃。それはイングリッドと同じく俺の二歳年上の女性だった。

公爵家の一人娘で大変な美人。俺も噂は聞いていたので入学当初その姿を拝みに行ったものだ。

黒髪が美しく、上品で背が高くとても目立つ存在であった。

キュリア妃殿下には学生時代ファンクラブがあったと聞くが、その大半は女生徒で固められていたそうだ。確かに男装したらとんでもない男前になるだろうと男の俺でも思う。

「彼女に私は密かに相談していたんですよ」

イングリッドはエリオットから婚約を破棄された後、王宮侍女の試験を受けられないかと勇気を出してお願いに行ったと言う。あの当時イングリッドは二十四歳。

女性として手に仕事をつけるには遅い時期でもあった。

生徒会で二年間一緒に活動したのが唯一キュリア妃殿下であった為彼女に口利きを頼んでみたという。

俺はその勇気に仰天する。他にも友達はいなかったのか?と尋ねたが

『それが、ブリジッドが帰宅を急かすので、放課後活動は生徒会以外できなかったですし、最終学年は結束力が高まる時なのに私は自宅で軟禁状態。友人は彼女くらいだったんですよ』と苦笑いした。

もちろん他にも友人はいるが皆結婚して家に入っている。

仕事の斡旋は妃殿下くらいしかできそうになかった。

王子妃は『力になってあげたいけれど、侍女として雇うには少々年齢がいき過ぎているし、メイドで雇うには爵位が高すぎる。子供が生まれたら乳母になって欲しいくらいなのに結婚していない……難しいわ』と頭を悩ませたそうだ。

キュリア妃殿下とは定期的にお茶をしながら伯爵家を出て独り立ちする方法を一緒に考えてもらっていたと言う。

実家の女性たちにはもう相談する気持ちは砂粒一つぶんも持ち合わせていなかった。

何せ二人の言い分を聞いていたらこの有様だ。

婚約解消から一年の間は家族はそれなりに気を遣ってくれたが、二十五歳を過ぎたあたりから母も義姉も妹も腫れ物に触るようにイングリッドを避けるようになったのであの時は本当に辛かったと苦笑いをする。

『もう修道院に行くわ』そうキュリア妃殿下に最後の挨拶に行った時、偶々ロマーノ王子が同席したそうだ。

「?イングリッドは結婚できるならどんな人がいいの?」

ロマーノ殿下は気軽に聞いてくれた。

イングリッドもヤケになっていたのだろう。

「そうですね……エリオット様とは逆のタイプが良いです。なんでもハイハイという男の人は実は自分の意見があまり無いと気がつきました」

「そうかもね。優しいと思われがちだけど実は君の意見に頷いている方が楽だからね」

「女のきょうだいがいるのは疲れます。彼女たちから見たら、私は姉や妹にするには元気が良すぎるしルヴィーセル姉様の一件もありますから助け合っていけるイメージが湧かないんです」

「わかるよ。女は感情の生き物だからね。その場ではいいこと言っちゃうんだけど将来を見越したり、俯瞰で物事を捉えていないことも多いから」(イテッと小さな声が上がったがそれをイングリッドは無視した)

「欲を出せば私を必要としてくださる方がいいです。婚約者に見捨てられた年増の私でも『ありがたい』と言ってくれるような家に嫁げるのなら平民の方でも構いません」

「僕、その物件に心当たりあるよ」

「そして俺が紹介されたのか……」

俺はハァ〜〜〜と大きなため息を溢した。

イングリッドの出してくれた条件は幸にして俺はなんとか当てはまる。

まあ、家計は火の車だし、降爵して男爵に転がり落ちているし、家の中に病人はいるし……

「私、結婚の前に旦那様を遠くから見ていたんです」

イングリッドは頬を染めた。

「降爵の申し渡しがある日、私はキュリア妃殿下に会いに来ていました。貴方は男爵位になったにも拘らず、胸を張り堂々と書状を手に歩かれておりました。なんて立派で強い方なんでしょうと私は思っていました」

それは誤解だ。俺は不貞腐れながら全てを受け入れていただけだ。

いつか父を見返してやるぞと鼻息荒く歩いていただけだよ、と言いかけたがイングリッドの瞳がキラキラしていたのでその言葉は引っ込んだ。

「旦那様はお顔も整っておりますし」

「険しい顔で、貴族らしくない」

「私はとても好みです」

「……それは良かった……」

「それに背も高くて、逞しくて……美しい金髪も、深い海を思わせるサファイアのような瞳もどれも私には眩しいですわ。そう!例えるなら海の神ザビエラ様に似ています」

「それは褒め過ぎだろう」

「私は本気です」

「そうか……」

そこまで話すとイングリッドは赤らめていた頬を抑えて背を正した。

「正直、私にとっては爵位なんて関係ありません。私は男性としての、いえ人間としての生命力に溢れる旦那様をきっとあの時からお慕いしていたのですわ」イングリッドはそう締め括った。

俺は家に帰るとイングリッドを寝室に呼び初夜の非礼を心から詫びた。

「プロポーズはなかったが愛の言葉はいつでも間に合うって聞いた。イングリッド、君のような素敵な女性が俺の妻になってくれて本当に嬉しい。いつまでも一緒に歩んでいきたい。愛しているよ」

イングリッドは耳まで赤く染めてウンウンと嬉しそうに頷いた。

「そこで非常に言いにくかったのだが、俺たちはもう十分『 仲(・) 良(・) し(・) 』になったと思うんだ。閨のことは迷惑でもなんでも無いからそろそろ添い寝だけではなく、夫婦として寝ることも考えてくれないだろうか?」

俺は勇気を出してイングリッドの手を握った。

「やったー!!旦那様!それは私との間に赤ちゃんが欲しいということですか?」

「ああそうだよ。そうなるね」

俺は照れながらイングリッドの額にキスをする。

「わあぁ〜実は毎日ちょっと忙しくてまだお勉強できていないんですが、私が頑張らなくても大丈夫でしょうか?」

「も、もちろん」

その夜。

俺は二十六歳にして純真無垢な花嫁に、結婚式の半年後やっと本当の夫婦を伝えることができた。

結婚になんの期待もしていなかった俺だが、悔しいことにロマーノ殿下のお陰で俺は幸せだ。

まだまだお金に余裕はないし、イングリッドに実家が誂えるような贅沢もさせてあげられない。

だが、俺はイングリッドが誉めてくれ続ける限り頑張れるし、必ず領地を切り拓いて皆を幸せに導くと決めている。

イングリッドはいつも言ってくれる。

「オーランドと結婚できて最高に嬉しい!」と。

その言葉はそっくりそのままイングリッドに返したい。

「イングリッドと結婚出来て最高に嬉しい。毎日が幸せだ」

イングリッドは痛い経験を積んできた分きっと人に優しくできるのだ。俺もそんな人間になりたいと思う。