軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話 婚約者とシモーヌ

この学園は、一年が三つの学期に分かれている。

入学から五ヶ月が一学期。二週間の休暇を挟んでからの三ヶ月が二学期。新年を祝う一週間の休暇から三ヶ月間が三学期。

もうじき、一番長い一学期が終わる。そして長期休暇に入る。

学園開設当初はこの休暇はなかったらしい。しかし、この時期は一年の中で一番気温が高い。暑さで勉強に集中できないとの理由で、この長期休暇がつくられた。遠方に領地がある生徒の多くは、この長期休暇に帰省をする。

シモーヌも馬車で三日ほどの領地に帰省する予定だ。クラスメイトがお互いの家に遊びに行く約束をしたり、しばしの別れを惜しむ様子を見て羨ましいと思う一方で、シモーヌは久しぶりに父と母に会えるのが楽しみだった。

「シモーヌは領地に帰るんだね。僕も寮が閉まっちゃうから家に帰るけど、どうせ手伝いにこき使われるから嫌なんだよね」

実家が商売をしているフランシスはため息をついた。

「フランシスは寮から通っていたのね」

シモーヌの言葉にフランシスだけでなく、ジャンとビクターも驚いた。

「今頃、知ったのか? その様子じゃあ、俺も寮に住んでいるって知らなかったな」

ビクターの言葉に頷くシモーヌを見て、ジャンが呆れる。

「シモーヌは、まず人に興味を持とう。興味を持たれるのって嬉しいぜ。そうだな。例えば俺の好きな物に興味を持つヤツがいたら、俺もそいつのこと知りたくなるし」

そうか。私に足りないものは人への興味か。なるほどと、シモーヌは頷いた。確かにそうだ。シモーヌが愛読しているミステリー小説に興味を持つ人がいたら、それはすごく嬉しい。さらに、感想や考察なんか話し合えたら素晴らしい。

その日の放課後。シモーヌは一人、図書室にいた。帰省の馬車で読む本を借りようと思ったのだ。人もまばらな静かな図書室でじっくりと本を吟味していると、ふいに後ろから肩を叩かれた。

「レニー様……」

「お邪魔してごめんなさい。目の前のその本、とても面白かったと伝えたくて」

レニーが小さな声で謝る。二人はそれぞれ本を借り、教室まで話しながら歩いた。

「せっかく立派な図書室があるのに、教室から遠いせいか、皆さん利用しないのね」

勿体ないと残念がるレニーの隣で、シモーヌはずっとドキドキしていた。レニーと挨拶以外で話すのは初めて。しかも二人きりだ。何か気の利いたことを話さないと。そう思うと、シモーヌの口はますます開かなくなる。

そんなシモーヌにはお構いなし、といった様子でレニーは話し続ける。レニーの話はとても面白い。シモーヌはついついレニーの話に引き込まれていった。

「……だったのよ。あら、もう教室ね。シモーヌさんは話を聞くのがすごく上手だから、つい一人で話してしまったわ。ごめんなさい」

レニーが笑う。話を聞いているだけなのに褒められたので、シモーヌは驚いた。

「おまえは自分の話ばかりだって、いつもお父様に叱られてしまうの。でも確かにそうよね。私もシモーヌさんのお話が聞きたいわ」

クラスメイトはもう帰宅してしまったのか、誰もいない教室にはレニーとシモーヌの鞄だけがある。シモーヌは思い切って口を開いた。

「私もレニー様のように皆さんと話したいのですが……。実はつい最近まで、誰とも話さないで過ごしていたのです」

それを聞いたレニーは首を傾げた。確かに、シモーヌには一人で読書をしている印象がある。しかし、それと同じくらい、教室の後ろの席で男子生徒三人と楽しそうに話している印象もある。

「まずは自分を知ってもらうのはどうかしら? 例えば同じ趣味だとか、何か共通点があればお互い話し掛けやすいでしょう。私はシモーヌさんが何の本を読んでいるのか、いつも気になっていたのよ」

レニーが自分に興味を持っていると知って、シモーヌは顔を赤くした。恥ずかしいけれど、すごく嬉しい。

「そうだわ。あと数日で長期休暇になるでしょう? 教室の後ろに私とシモーヌさんのおすすめの本を置いてみない? ミニ図書室ね。帰省に馬車を使う人も多そうだし、きっと読んでくれるわ。休暇明けに感想を言ってもらえたら嬉しいわね」

シモーヌへの提案だったが、レニーはさっそく、楽しそうに教室の後ろの棚を片付けだした。すごい行動力だわ、と感心しながら手伝っているうちに、シモーヌもあの本はどうかしら? あの本も読んで欲しい……とすっかりその気になっていた。

一学期最終日に完成したミニ図書室なるものは、レニーの宣伝効果もあり大人気だった。

いつもは教室の後ろに用のないクラスメイトも、簡易本棚に並べられた本に興味を持ったようだ。

「いつも本なんて読まないのだけど、馬車の中が退屈でさ」

「レニー様のおすすめでしょう!? 絶対に読まなきゃ」

「図書室まで遠いから助かるな。ミステリー小説? 面白そうだな」

後ろから聞こえる声に、シモーヌは恥ずかしくて振り向くことができなかった。入学してから買い集めた中のたった十冊。それでも自分が面白いと思った本を他人に知られるのは、まるで日記を見られるぐらい恥ずかしい。こんなことならアランが書いた謎の小説も並べておけば良かった。

震えているシモーヌに、数人の生徒が声を掛けて本を借りていった。ほとんどが男子生徒だったので、感想を言い合うのは難しいかな、と少し残念に思う。

レニーを見ると、そちらは逆に女子ばかりのようだ。本棚に残っていた最後の二冊は、王都から一番遠い辺境伯領に帰るジョルジュと、意外なことにジルが借りてくれた。気を遣ってくれたのかもしれない。

シモーヌは二学期が来るのが少し楽しみになった。