軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一章最終話 シモーヌと元令息

「えっ、レイモンが馬から落ちただと!?」

シモーヌは仕事を終えた夫から上着を受け取ると、困ったように小さく笑った。

「そうなの。でもあの子、馬なんてろくに乗ったことがないでしょう? 嫌がる子馬に無理やりに乗ろうとして、振り落とされちゃったみたい」

今日の昼下がり。三歳の長女を連れたシモーヌが出先から戻ると、長男のレイモンが馬から落ちたと屋敷中が大騒ぎになっていた。

レイモンが馬に興味を持ち始めたため、半年前に生まれた子馬をレイモンに与えようかと話をしていた矢先の出来事である。

八歳になるレイモンは幼い頃から母馬と遊んでいた。そのおかげで、子馬を驚かせたレイモンが母馬に噛まれなかったことは幸いだった。

怪我がなくて良かったわと、シモーヌはしばらく笑っていた。が、何かに思い当たったのか急に真顔になった。

「そういえば最近のレイモンは、お兄様のところに遊びに行ってばかりいるでしょう? お兄様から、何か変なことを聞いたのかしら?」

「ん? あー……アラン様の馬の話か」

遠い目をする夫を見て、シモーヌは呆れながら言った。

「やっぱり、男子なんてそんなものなのかしら?」

あれから十五年。

クリストフ王太子殿下はレニー嬢と結婚し、今では国王となった。王妃になったレニーは二男一女に恵まれて、忙しいながらもますます輝いて過ごしている。

ジルは宰相になり、ジョルジュは辺境伯家当主に、ベルナールはディアナ公爵家を継いだ。

いつの間にか学園を去ったアデルだが、聞いた話によると、学園中退後、すぐに田舎の貴族に嫁ぎ、今では五人の男子をパワフルに育てる「肝っ玉夫人」になっているらしい。

もちろんあの三人も、進んだ道は違うものの、今では立派な青年貴族として活躍している。

「あれは、男子には必要な過程なんだよ。例えそれが、思い出すと恥ずかしくなって頭を抱えたくなるようなことでも……ね」

「うふふ。まるで黒い歴史のようね」

シモーヌは笑いながら、言い訳するかのように早口で話す夫を後ろから抱きしめた。

「馬の話やら格好いい剣の話をしていたあの男子が、大人になったらとてもステキになっていて、私びっくりしたんだから」

体の向きを変えてシモーヌを正面から抱きしめ返した夫は、少しかがんでシモーヌの耳元で囁いた。

「私もまさか、あの黒い歴史を知っているご令嬢と結婚するとは思わなかったよ」

二人はキスをして、クスクスと笑い合った。

卒業してしばらくしてから、シモーヌは友人の結婚式に招待された。友人夫婦も、あの男子とあの女子とは思えないほど、立派で美しい大人になっていた。シモーヌはそこで、同じくパーティーに参加していた夫と運命の再会を果たしたのだ。

大好きな夫の腕の中で、シモーヌは母親に叱られて泣く幼少のアランを思い出していた。

「お兄様にも黒い歴史は存在するのかしら?」

唐突なシモーヌのひとりごとに、シモーヌの背中を撫でていた手が止まる。

「うーん。アラン様の場合、黒い歴史はすべて武勇伝になるからな」

そうだった。母に叱られた兄のやらかし話をしても、クラスの男子たちは『さすが俺たちのアラン様』と尊敬の念すら抱いてしまっていた。

「私、男子の育て方に自信がなくなっちゃうわ」

がっくりと肩を落としたシモーヌだが、すぐに大事なことを思い出した。

「あなた。レイモンが全方向に有効な、とても格好いい武器の絵を描いていたわ。後で見てやって」

「それは大変だ。早く見たいwww」

二人は再び笑い合いながら、手を繋いで可愛い息子と娘の元へと向かった。

第一部、完