軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十二話 シモーヌの嫉妬とアデルへのお詫びの品

「三人とも、本気でそんなことを思っているの?」

それまで黙って聞いていたシモーヌが、呆れたように言った。

「話の内容を聞く限り、会話に困ったアデルが気を遣ってくれたようにしか思えないわ。質問に答える形にすれば、会話が成り立つじゃない?」

シモーヌはそう言ってから、これは使えるわ、さすがアデルねと感心した。

「やっぱりそうなのかぁ。お茶会って目的がわからないから、絶対そうだと思ったんだけど」

少し残念そうにジャンが頬を掻く。女子に好意を向けられた経験がない三人は、やはりお茶に誘われて舞い上がっていたのだろう。

「話はそれだけなの?」

シモーヌが聞くと三人は「そうそう」と、それぞれポケットから小さな封筒を出した。

「僕たちが会計で揉めているうちに、アデルが全員分を支払ってくれたみたいなんだ」

さすがのシモーヌも、三人のポンコツぶりに唖然とした。

「本当は俺たちがアデルの分も払おうと思ってたんだぜ。誘ったのはアデルだけど」

どこか納得していない感じのジャンだが、それでも払う意思はあったらしい。

「ちゃんと昨日の代金は持ってきた。割り切れなかった分は召喚獣の……」

封筒に入った硬貨をチャリチャリ振るビクターを遮り、フランシスがシモーヌに言った。

「それだけでは申し訳なくてさ。三人でお詫びというかお礼というか、そんな物を添えようって話になったんだ。でも、僕たちでは何を渡したらいいか思いつかなくて……」

「お小遣いも残ってないし」

本当はこのことを相談したくて、三人は放課後にシモーヌを引き留めたのだ。

三人がアデルとお茶会に行くと聞いた時、シモーヌは大切な友人を取られたみたいでモヤモヤしていた。

しかし話を聞くと、自分が思っていたようなお茶会ではなかったことに安心した。同時に、三人にお詫びの品をもらえるアデルが少し羨ましいと思った。自分にこんな感情があることを知って、シモーヌは愕然とした。

友人ができると、こんな醜い感情を持つものなのか?

以前、女子グループが揉めているのを目撃した。確か、他のグループの子と仲良くしたとか何とか。その時はそんなことで揉めるなんて理解できなかったが、今なら彼女たちの気持ちがわかる。わかるが、自分のことが嫌いになりそうな感情だ。

「聞いているのか? シモーヌ」

急に話さなくなったシモーヌに、ビクターが声を掛けた。

「あ、ごめんなさい。そうね、お詫びの品ね」

明らかに、シモーヌは暗くなっている。

「何か気に障ることを言ったかな?」

フランシスがシモーヌの顔色を窺いながら尋ねた。シモーヌは言おうか言うまいか迷ったが、モヤモヤするぐらいならと意を決した。

「実は私、昨日三人がアデルとお茶会をすると聞いて、すごく変な気持ちになったの。三人とアデルが仲良くなるのはとても良いことなのに、取られちゃうって思ってしまって……」

いつもはすぐ茶化す三人だが、口を挟まずシモーヌの話を黙って聞いていた。

「おかしいでしょう? フランシスもジャンもビクターも、私のものじゃないし誰と過ごそうと自由なのに。そこに自分がいないことが寂しくて」

シモーヌがそこまで言うと、三人は顔を見合わせて、そしてなぜか照れたように笑いだした。

「それはシモーヌにとっての俺たちが、誰かに取られたくないぐらい大切な友人ってことだろう?」

ジャンが笑いながら言う。

「それ、わかる。俺も秘密基地にフランシスとジャンが二人だけで行っていたら、絶対に暴れる自信がある!」

暴れるというのはシモーヌにはわからないが、どうやらビクターはシモーヌの気持ちをわかってくれたようだ。

「シモーヌは、僕たちが初めてできた友人って言っていただろう? だから余計に取られると思って焦ってしまったんだね。誰にでもある感情だと思うよ。嫉妬っていうのかな?」

フランシスがフムフムと考えながら言った。そうか、これが嫉妬か。シモーヌは嫉妬、と呟いた。嫉妬。こんな嫌な感情なくなればいいのに。

「嫉妬してくれたって聞いて、なぜか少し嬉しい俺がいる」

ジャンが照れながら言うと、フランシスもビクターも嬉しそうに頷く。嫉妬されるのは嬉しいのか? 嫉妬とは難しい。難しい顔をするシモーヌに、浮かれた様子のジャンが言った。

「シモーヌだって、もし他の人と遊びに行ったことを俺たちが怒ったら、少し嬉しいだろう?」

「え? 全然嬉しくないわ」

眉をひそめながらシモーヌが言うと、予想外の反応だったのかジャンは絶句した。

「だってそんなことで怒られても困ってしまうわ」

「でも、それがシモーヌがアデルに抱いた感情だろう?」

「そうね。だけど何か違う気がする。ますます混乱してきたわ」

こめかみを押さえるシモーヌに、今度はビクターが聞いた。

「シモーヌは俺たちがアデルとお茶会に行くと聞いて嫉妬しただろう? じゃあ、例えば俺たちの中の誰かがアデルと婚約したら、シモーヌは嫉妬するのか?」

婚約という言葉を出したビクターに、フランシスとジャンはギョッとする。シモーヌはうーん、としばらく考えてから、

「別に。想像したけれど、普通におめでとうと思ったわ」

と、あっけらかんと言った。三人はなぜか少しだけ元気がなくなり、そしてうーんと考え込んだ。

「あ、お茶会も、アデルとフランシス、アデルとジャンなら平気かも」

ひらめいたように言うシモーヌに、しばらく考えていたフランシスが正解を出した。

「シモーヌは嫉妬を感じたんじゃなくて、『仲間はずれ』が嫌だったんじゃないかな」

仲間はずれ! その言葉を聞いた瞬間、シモーヌの心にかかっていた黒い霧はパッと晴れた。嫉妬なんて醜い感情じゃなくて良かった! シモーヌは笑顔で、仲間はずれ、と呟く。

「きっとそれだわ! ありがとう。一人でモヤモヤするより友人に相談するのが解決への近道ね」

ご機嫌なシモーヌを見て、三人は友人って難しいなと笑い合った。

その後は上機嫌なシモーヌが色々提案して、三人はアデルへのお詫びの品を 作(・) 成(・) し、お茶代が入った封筒と共にアデルの机の中に入れておいた。

翌日机の中を見たアデルは、お茶代が入った封筒だけを鞄に入れた。心のこもった、下手くそな三人の似顔絵が描かれたスケッチブックは、考えた末にそっとクリストフ殿下の机の中に入れておいた。