軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345.兄と弟①(オルディオ視点)

リカルドの作戦を聞いて、大方納得はした上で実行に頷いた。その上で一つだけ解消したいもやがあった。

その旨をリカルドに伝えれば、丁寧に席を設けてくれた。リカルド自身も、必要な場だと思っていたようだ。

用意されたのは、王都から少し離れた地方の小屋。ただ、シグノアス公爵邸からは近く、俺は実の兄を待っていた。

(…………兄様)

一人で考え込んで悩んでも答えはでない。レイノルト様に言われた通り、話し合うことが全て。

キイッときしんだ音を立てながら扉が開く。そこにはフードを被った人物が二人おり、一人はすぐに外して顔を見せた。

「オルディオ……」

「お久しぶりです、兄様。お待ちしておりました」

兄エドモンドの様子は、どこか暗く元気のないもので、顔色は良くはなかった。

お互いに顔を見合うと、兄はゆっくりと俺の前まできて、向かい側に静かに座った。

「……何から謝れば良いかわからない」

沈黙するのではないかという予想は裏切られ、兄は下を向きながら罪悪感を背負った雰囲気でそう口にした。

「謝りたいことがあるのですか」

「……もちろん。今日は謝罪をしにきたんだ」

ゆっくりと頷く兄の様子は、かつて王位継承権を持っていた余裕ある頃からは想像つかないほどやつれていた。

「では一つずつ、順を追ってお話しいただけませんか。俺は兄様の考えは何一つ知らないので」

「オルディオ……」

「だから、知りたいと思っています」

「!」

その言葉は兄からすれば意外なのか、目線が下からこちらへと変化した。

「……僕の言葉を聞いてくれるのか?」

「愚問ですね。当たり前です」

何故なら兄弟なのだから。

それは口にせずとも、お互いに理解しているものだと思っている。

「……オルディオは変わらないな」

「褒め言葉ですか?」

「あぁ。……ありがとう」

そこで初めて、ほんのわずかではあるが兄は笑みを見せた。その様子に、どこか安堵する自分がいた。

「……事の始まりは、僕が王位継承権を剥奪されてからだった」

「はい」

「正直……あの日父様に突き放された時こそ、父を恨む思いもあった。ただ、父様の言葉こそ正論だとどこか自分でもわかっていたんだ」

兄は、以前より国王としての資質がないことを気にしていたという。曰く、父様から突き放されるよりも前に、心の奥底で自分でも資質がないことが理解していた気がすると。

「だけど必死に反論して悪足掻きをした。……母様のために」

「…………」

その行動理由は納得できるものがあった。

「ずっと……母様は、僕以上に僕が王位につくことを望んでいらっしゃっただろう?」

「はい。それはもう強いほどに」

「それがいつしか、気が付かない内に母様の全てになっていた。……その思いはいつしか僕の重圧になり、恐怖になった」

兄は再び下を向いて苦笑した。

「……継承権を剥奪された時、改めて考えたんだ。僕自身の意思はどこにあったのかと」

「兄様……」

「どこにもなかったんだ。……剥奪されて初めに浮かんだのは、悔しさや納得できない思いではなく、ただ恐怖だったから」

騎士となり関わりが減ってしまった以上、兄が何を考えて王位を考えていたかまでは知らなかった。

(……恐怖か)

自分の意思は必要なく、ただかけられた重圧に応えなくてはいけない兄。その上、弟である俺に継承権を放棄させてしまった以上、逃げ出すという選択肢は生まれなかったのだろう。

「何はともあれ、僕はこれで終わると思った。父様に言われた言葉の意味を考えながら、生まれ変わりたいと願って。……でも母様はそうじゃなかった」

「王位を諦めていなかったんですね」

「……何としても、どんな手を使っても。……母様の意思は僕が想像していたよりもはるかに強く、根深かった」

その姿は容易に想像できた。

あの人は王妃という地位に就いてから、自分が望めば何でも叶うものだと勘違いをしている節がある。だからこそ、我が子が王位を継げないのは彼女からすればあり得ないことなのだろう。

「僕では……僕の声では、母様の説得には力及ばなかった」

「説得、ですか……?」

こくりと頷く兄は、悲しそうな表情を浮かべた。

「オルディオを利用して王位につけと。そんなこと許される事ではないのに、僕には考える時間も拒否権もなかった」

「……脅されたんですね」

生まれ変わると決めた兄の意思を折るものといえば、それしか浮かばなかった。肯定するかのように、兄は少しだけ顔を上げた。

ただ、それ以上は言葉を出すのに躊躇いが見えた。その様子から、俺には兄が何を守ろうとしたのかわかった。

「俺を殺すと、言われたんですね」

「!!」

「……やっぱり」

あの母が、エドモンドを殺すことはまずない。それに、王位を継がせる人間を殺しては元も子もない。

それに対して、もう王家として機能していない俺の命は軽いものだ。

「……守ってくださったんですね」

「そう……そう言わないでくれ。……結局、僕はオルディオを何一つ守れなかった。もっと考えるべきだったんだ。オルディオの代わりになれという言葉の意味を。……愚かだった。承諾すれば、守れるとばかり思って」

ぐっと兄に力が入ったのがわかった。

初めて見る、兄の後悔する姿には偽りは何一つ見えなかった。それどころか、兄の本心をようやく少しだけ聞けて、安堵さえしてしまった。

(……レイノルト様の言う通り、何を考えているかは本人に聞かないとわからないものだ)

そう実感するほど、自分の兄に対する憶測と現実は違うものだった。