軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

336.心の吐露と相談室

カルセインが退去させてくれたので、血迷って戻ってこない内に私とレイノルト様はフェルクス大公邸に向かうことにした。

それよりも先に、婚約した事実を当事者であるオルディオ殿下にも伝えるべく、レイノルト様所有のお屋敷を経由することになったのだった。

馬車の中で私はレイノルト様と向かい合いながら、複雑な心境を吐露した。

「……ベアトリスお姉様自身に弱みらしき弱みはありませんでした。結果的にキャサリンがシグノアス公爵の元に落ちて、脅す材料となっただけで」

今回の不本意すぎる婚約。

どう考えても、ベアトリスが望んでいないことが明らかで、ピースをはめた結果、キャサリンという存在も関与しているのは明らかだった。

「……キャサリンお姉様が脱走しなければ、お姉様がシグノアス公爵の思うままに動くこともなかったと思うと悔しくて」

「レティシア……」

ぎゅっと手に力を込める。

誰がどう見ても、キャサリンが脱走したことは本人が悪い。それ以上も以下もない。ただ、私が引き金になっていることも事実で、その迷惑を自分ではなくベアトリスが被っていることが耐え難かった。

「レティシア。元をたどれば、あの記事が原因です。私こそ、もう少し各方面に配慮して慎重に動くべきでした」

「それは! ……レイノルト様は何も悪くありません」

ばっと顔を上げれば、レイノルト様と目があった。その眼差しが何を言いたいかはすぐにわかった。

「レティシア。レティシアも同じです。少なくともベアトリス嬢もカルセイン殿も、リリアンヌ嬢も、そして私も、同じことをレティシアに思っています」

「…………はい」

「責任を感じるなと言うわけではありません。ただ、重荷にしてほしくないのです。ベアトリス嬢もきっとそう思っておりますから」

「お姉様……」

レイノルト様はそう言って、優しく手を取って包み込んでくれた。そしてそのまま隣に移動して、お屋敷につくまで抱き締めてくれるのだった。

願うのはただ一つ、ベアトリスの無事のみ。

複雑な思いは一粒の涙となって、沈んでいくのだった。

レイノルト様のお屋敷に到着すると、リトスさんが明るい笑顔で迎えてくれた。

「事前に伝えずに済まない」

「いや、ここはお前の屋敷だからな。別に何も問題ないさ。姫君もいらっしゃい!」

「お邪魔します」

「……何か良いことでもあったのか?」

「あったんだよ凄く良いことが」

レイノルト様に尋ねられると、リトスさんは笑みをさらに深めた。

「聞いてくれるか?」

「もちろん構わないが」

当然ながらフェリア様に関する話なので、玄関近くの場所で座って聞くことになった。

「いや実はオルディオ殿下とフェリア様の話を盗み聞きしてしまったんだが」

「ぬ、盗み聞き」

「ひ、姫君。引かないでくれ。本当は話に加わりたかったんだが、できなかったんだ……」

そう困惑顔のリトスさんは、昨日の出来事を振り返り始めた。

◆◆◆

〈リトス視点〉

それは夕方、たまたま二人で話している所を目撃した時だった。

「私はもちろんリトス様が好きです。大好きです」

オルディオ殿下相手に、フェリア様の口からそんな言葉が聞こえてくると、嬉しさと好奇心から、気配を消して聞き耳を立ててしまった。

「……ルナイユ公爵令嬢。貴女とは身分に差があるだろう? それは気にならないのか」

「全く気になりませんわ、殿下。私はリトス様を好きになったんです。それは彼が商会長であろうと、例えば王子殿下であろうと、仮に平民であろうと、想いが変わることはありません」

キッパリと断言するフェリア様の言葉に、胸がときめいていた。話を聞く限り、どうやらオルディオ殿下は自分が王子でなく騎士という身分で公爵令嬢に恋をすることに少し抵抗と不安があるようだった。

「私が言うことではありませんが、恐らくお相手様も同じことを思われていると思いますよ。そもそも、親しくなられたのは身分を隠された状態でしょう? それなら王子の身分は不必要だと決まっているものではありませんか」

「それは……確かにそうだ」

フェリア様への恋愛相談は、正直正解だと思う。もちろん二人で話すことに嫉妬はするものの、話している内容が自分のことなのでかなり緩和されていた。

「……一人でいる時間が多くなって、彼女に会えない時間が増えて、複雑なしがらみに捕らわれていると、どうしても浮かんでしまうんだ。彼女は王子である自分の方がより好ましいのではないかと」

「お気持ちはお察しいたしますわ。好きだからこそ、相手に良く見られたいと思うのは当然の心理ですもの」

オルディオ殿下の場合、それが王子でいること、なのは明らかだった。

「ですがそれは時に、本質を忘れさせるんです」

「本質……」

「はい。今の状況で言えば、それは肩書きですわ殿下。逆にお聞かせください。殿下はお相手様の身分に恋されたんですか?」

「それは断じてない」

「お相手様も同じ気持ちのはずですよ」

「あ…………」

フェリア様の理路整然とした答え方には、目が離せなかった。

「何度も口にして聞き飽きたとは思いますがもう一度。私はリトスさん自身を好きになったのです。身分に対する考えはありますが、それと恋心は別物ですわ」

「そう、なのか」

「えぇ。どうか自信を持ってくださいませ」

盗み聞きしてはいけないとわかってはいるものの、自分への想いがこんなにもたくさん聞けたことに、勝手に一人で満足感を覚えるのだった。