軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

333.囚われの長女は嘆かない(ベアトリス視点)

第二王子との対話が終了すると、予想通り直帰することはできなかった。シグノアス公爵曰く「婚約を発表いたしますので、少なくともその話が浸透するまでは滞在なさってください。妹君のご様子も気になることでしょう」とのことだった。

(気に食わないのは、エルノーチェ公爵家にその旨を伝達する役目まで取られたこと)

私としては、状況を具体的に説明できるモルトン卿かエリンに向かって欲しかったのだが、それさえも見越して「シグノアス公爵家から使者を送りますね」と先に宣言されてしまった。

(……下手に動けないのが嫌ね)

用意された部屋で大人しくしていろと言わんばかりに、私の行動は制限されていた。

キャサリンの命が弱みになってしまったことに、少し悔しさが残る。何故なら自分の落ち度ではないから。

(いや…………でも、シグノアス公爵邸に足を踏み入れたのは私。この決断が私の落ち度だったかもしれない)

言い切れないのは、屋敷を訪れたからこそ救われた命があるからだ。

(生かす選択をしたのなら、私が責任を取らなくてはいけない)

シグノアス公爵は私を自分の手のひらで転がせて、さぞ愉悦に浸っていることだろう。その姿は容易に想像できた。

シグノアス公爵におもてなしと称して部屋に隔離された今、私はソファーに深く座り込む後ろで、モルトン卿とエリンは静かに待機していた。

私は私で考え込んでいたが、他二人も何か考えてくれているようだった。

(……どこかでこの部屋の会話の内容を盗み聞きしようとしている者はいるのかしら)

隔離されたとはいえ、ここはシグノアス公爵に用意された部屋だった。警戒するように辺りをきょろきょろと見渡せば、二人は様子を察したようだった。

「ベアトリス様、問題ないかと」

意図を察したモルトン卿の言葉に、勢いよく二度頷くエリン。二人の反応に少し安堵すると、私は呼吸を整えて二人の方を向いた。

「こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」

「何を仰いますか。ベアトリス様が謝罪するような状況ではありません」

「悪いのは卑怯な手を使っている輩かと」

モルトン卿が首を振る横で、エリンは鋭い目線を部屋の外に向けながら圧を出していた。

「ありがとう……」

二人のシグノアス公爵への敵意を感じながら、私は考えていたことを吐き出した。

「……シグノアス公爵は私を隔離できて、屋敷に閉じ込められて満足でしょうね」

「ベアトリス様」

「だからといって、私は大人しく従うとでも? こうなったらシグノアス公爵が持つ弱みを見つけて見せるわ」

「……さすが、ベアトリス様かと」

モルトン卿がふわりと微笑む隣で、どこかやる気に満ち溢れているエリンがいた。

「ベアトリスお嬢様。何卒私をお使いください」

「エリン」

「私は密偵としての技術も持ち合わせております。完璧ではありませんが、この家を直接探ることならできるかと」

「……でもそれは、エリンに危険が」

「覚悟の上です。それに、調べた上で手にした情報がベアトリスお嬢様を助けになるのなら、私にとって名誉なことなのです」

エリンの意志はかなり強いものだった。力強い眼差しを受け取ると、少しの沈黙のあと私は送り出すことに決めた。

個人的に特に調べてきて欲しいことも伝えながら、エリンの両手をぎゅっと握った。

「必ず無事に帰ってきてちょうだい」

「はいっ」

こうしてエリンを送り出した。密偵の技術があるのは本当のようで、気配を消す様子は圧巻だった。

「エリンならシグノアス公爵家の刺客も一人で倒せそうね……」

「はい。彼女はかなりの実力者かと」

「さすが、リーンベルク大公家の侍女だわ……」

帝国の大公家に仕える侍女は格が違う。そう感じるのだった。

エリンの去った余韻を受けながらも、モルトン卿は本題へ入った。

「弱みがあると踏んでらっしゃるんですね」

「確かなものではないけれど」

それは先程の第二王子から感じた違和感。モルトン卿も、何か引っかかることはあったようだ。

「喋ったり喋れなかったり……確かに変だとは思いましたが」

「えぇ。……今日、話してみて大きな感じた大きな違和感は別にあるの」

「別、ですか」

モルトン卿の挙げた要素も注視すべきものだったが、私はそれ以上に第二王子に対しておかしいと思った部分があった。

「……凄く、王子らしかったの」

「王子らしかった、ですか?」

「えぇ。……作法や立ち振る舞い、仮面外の雰囲気が王子そのものだった」

もちろん、影武者のイノさんが学んで習得したとも考えられる。ただ、それ以上の大きな違和感が私を襲ったのだ。

「何がおかしいって、第二王子が昨日と口調が異なっていたということ」

「口調、ですか?」

「イノさんは、私が仮面の下がオルディオ殿下でないと知っていることを把握していたから、丁寧な口調で喋っていたの。謝罪、ということもあったけど……。だけど、今日の第二王子は何か根本から違った」

「まるでオルディオ殿下にも、イノさんにも見えなかった。ということですね」

モルトン卿が、私の感じていたもやもやを言語化してくれた

「あの仮面の下は、誰なの……」

その呟きが、静かな部屋に小さく響くのだった。