軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

313.騎士としての日々(オルディオ視点)

その話は突然、トランの地に届いた。

「兄様の王位継承権が剥奪された……⁉」

騎士用の宿舎で休憩していた俺は、朝から驚きの声を上がっていた。

エドモンドが王太子になることなく、次期国王に決まったのは従弟のリカルドだった。

「リカルド様が次期国王なんですね。俺は良く知らないんですけど、優秀なんですよね?」

「……あぁ。まさかこんなことが本当に起きるなんて」

通常であれば、自身の息子を継がせるものだ。しかし父様はそれを選ばなかった。

(……兄様)

別にリカルドが嫌いな訳ではない。むしろ彼の優秀さは無知なりに理解している。ただ、エドモンドとは良好な仲だったから。応援している気持ちは持っていたのだ。

(まさか、こんなことになるとは)

リカルドには敵わない部分もあっただろう。ただ、父様が決断されたということはそれを覆す姿勢は見られなかったということだ。

「今頃、王城は荒れているだろうな」

「良かったですね、早くに出てきていて」

「……そうだな」

もしかしたら俺をトランの土地に送った時点で、父様はリカルドに王位を継がせるのを決めていたのかもしれないなと感じた。

「それにしてもエルノーチェ公爵家は凄いですね」

「あぁ。……まさかリカルドの婚約者がエルノーチェ公爵家のご令嬢だったとは」

リカルドの次期国王が決まったと同時に、その婚約者も発表された。

「良かったですね、ベアトリス様じゃなくて」

「!」

イノはにっこりと微笑みながらこっちをじっと見ていた。

「……うるさいぞ、イノ」

「すみません。でも驚きましたね。エドモンド殿下の婚約者もエルノーチェ公爵家だったので」

「……」

「こちらもよかったですよね。ベアトリス様じゃなくて」

「……イノ」

何が言いたいのかはわかっていたが、それを全て言うのは無粋なことだとお互いにわかっていた。

「彼女には…………どんな形でもいいから幸せになってほしい」

これは本心だった。

今わかるのは、ベアトリスは王子妃に結果的にならなかったという事実だった。

「会いに行かれないんですか?」

「……何の関係もないからな」

その選択をしたのは間違いなく自分だった。だが、後悔はしていない。

「……この話はここまでだ。巡回してくる」

そう言い切ると、そのまま立ち上がって部屋から出て行く。

「えっ、待ってください! 俺も行きますよ!」

その声を背にしながら、今日もトランの地で騎士として任務を果たすのだった。

それから二か月ほど経った、ある日のこと。

「待て!!」

その日は、トランの騎士団の宿舎に入った侵入者を追っていた。イノと共に、捕獲しようと急いで後を追っていた。

「イノ、先に回ってくれ」

「はいっ!」

俺自身は侵入者を視界から逃さないように、後を追い続けていた。人の多い街の表通りには出たくなかったものの、相手はそれを利用するためにどんどん進んでいった。

「待てっ!!」

「ははっ、誰が待つか!!」

侵入者の足は速く、追い付くのは少し難しかった。どんどん人込みに入っていく侵入者は、遂には人にぶつかろうとしていた。

「どけ、女!!」

(危ない……!)

一般人に危害が加わるのは、騎士として最も避けたい出来事だった。動揺から表情が歪むものの、次の瞬間男は転んだのだった。

「ぎゃあっ!!」

(⁉ 何が起こってーー)

疑問符が浮かぶのも束の間で、侵入者が突き飛ばそうとしていた相手が静かに微笑んでいた。

「あら、ごめんなさいね」

その声に何か惹かれながらも、急いで男を捉える。

「くそっ、離せ!!」

「運が悪かったな」

侵入者の取り押さえながらも、俺は声の主を見上げた。その瞬間、女性が彼女だとわかった。

「……ご協力ありがとうございます」

「いえ」

(……どうして、彼女がここに)

動揺をひたすら隠しながら、イノと他の騎士と合流して連行していった。

「隊長? どうかされましたか」

騎士として派遣されてからはイノも「殿下」呼びは控えて、隊長と呼ぶようになっていた。

(……彼女は一人だった)

一人トランの街を歩くベアトリスに不安が沸き起こって来る。

「……彼女が、いたんだ」

「え? 彼女ってーー」

予想外過ぎる出来事に、頭が上手く働かなかった。するとイノは、俺の背中を思い切り叩いた。

「何ぼうっとしてるんですか! いたのでしょう、あの方が! それなら早く戻ってください!!」

「イ、イノ。だけどーー」

「だけどじゃないですよ! 侵入者の処理はしておきますから。あの方に会えるまたとない機会なんですよ? 悩んでる暇があったらさっさと足を動かしてください、さぁ!」

イノによって方向転換させられた俺は、一瞬迷ってからイノに一言告げた。

「……すまないイノ。けど、ありがとう」

「お礼は上手くいってからで」

イノに送り出されながら、俺は彼女のいた場所へと急ぎ戻るのだった。