軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303.長女のわがまま

仮面を取る。お姉様は私達にそう宣言した。それ以上は何も語らなかったが、怒りは収まっていないように見えた。

「ね、姉様。仮面を取るってどうやって」

「できるかわからないけど、最大限できることをやるわ」

「それは」

あまりにも無謀で、不可能では。カルセインは口にしなかったものの、何が言いたいかは表情が物語っていた。

「やってみないとわからないでしょう」

「……」

「今日はそのために来たの。顔を見なくては帰れないわ」

「そこまでですか」

「えぇ。私の意思は固いわ」

カルセインが接触は控えてほしそうな眼差しをしているのを感じ取ったが、助け舟は出せなかった。何故なら、今私はベアトリスの味方だから。なので、私はカルセインの方に説得を始めた。

カルセインに近付くと耳打ちをする。

「お兄様。お姉様が珍しくわがままを言っているんです。今回は叶えてさしあげるべきですよ」

「だがなレティシア。殿下だけでなくシグノアス公爵が危険で」

「そのお気持ちはわかります。ですが、何も二人きりになるわけじゃないんです。まずは見守ってみましょう。護衛も待機し始めましたから」

つい先ほど、会場内にエリンが入っているのがわかった。会釈をするだけだが、無事配置にはつけたようだった。

「………………わかった」

お姉様のわがまま、という言葉が効いたのか、カルセインは渋々納得してくれた。

心配する気持ちも十分わかるが、今優先すべきなのはベアトリスの気持ちだと私は思った。と言っても、不安が消えるわけではないので、そのままレイノルト様の方に近付いて一言切実な眼差しで伝えた。

「レイノルト様、何かあったらよろしくお願いします」

「大丈夫ですよ。何があってもお傍を離れませんから」

さらりと私の髪を耳にかけながら、ふわりと微笑んだ。不意打ちのように触れられたので、胸が少しドキッと動いた。

(あ、ありがとうございます……!)

動揺を隠すように心の中でお礼を告げると、逃げるようにベアトリスの方へ戻っていった。ベアトリスは一言も喋らず、沈黙したままシグノアス公爵と第二王子の方を見ていた。怒りが無くなったわけではないが、落ち着いているようにも見えた。

「レティシア」

「は、はい、お姉様」

「私の髪、乱れていないかしら」

「…………問題ないと思います」

「そう? ドレスも平気ね?」

「大丈夫です……」

(無意識……かな?)

ベアトリスの表情は無に近かったが、今の確認行動は、まるでデートに出かける女性そのものだった。恋愛経験のないカルセインは何も感じていないように見えたが、レイノルト様はくすりと笑っていた。

私の困惑もよそに、遂にシグノアス公爵が私達の元へ挨拶をしにやって来た。

「エルノーチェ公爵家の皆様、当家の夜会にお越しいただき誠にありがとうございます。まさか帝国の大公殿下にまでいらしていただけるとは。何とも光栄ですね」

声色と雰囲気からは、物腰柔らかな印象を与えたが、シグノアス公爵が何を考えているかまではわからない。社交界用の笑顔を張り付けた私は、まずはベアトリスが簡単な挨拶と紹介を済ませるのを待った。

「それにしても――」

「初めまして、第二王子殿下。私、エルノーチェ公爵家長女ベアトリスと申します」

ベアトリスはシグノアス公爵が話しかけてくるのを無視して、体ごと第二王子殿下の方を向いた。

「…………」

しかし、その挨拶に応じられることはなく、仮面の下から声は聞こえなかった。黙っている第二王子殿下は、何を考えているのかはもちろん、どんな様子なのかもわからなかった。

そして、その第二王子殿下を隠すようにシグノアス公爵が前へ出た。

「失礼しました。殿下の挨拶は代わりに私が」

「なぜシグノアス公爵が第二王子殿下の挨拶をするのですか?」

「実は喉を壊されておりまして」

「……喉を、ですか?」

「はい。恐らく風邪だとは思うのですが……最近は寒い日が続きますからね」

(いや、そんなに寒くないでしょう。……それに、もし彼があの騎士のオル様なら、風邪なんて引かないと思いますが。……これは偏見すぎるかしら)

さすがの私も、シグノアス公爵の言いぶりには気分が下がっていった。私でこうなのだ。ベアトリスは顔に出さなくても、まとう空気が冷ややかなものになっていくのを感じていた。

「……そうですか。お大事になさってください」

今まで一度も聞いたことがないと言えるほど、その声は冷え切っていた。

「失礼しました、シグノアス公爵。お話の続きを」

「いえ、私の方こそ。……それにしてもベアトリス嬢、夜会に参加していただけたのは、答えが出たからという解釈で正しいでしょうか?」

シグノアス公爵が婚約に対する答えを求めているは明らかだった。その発言でベアトリスの空気はさらに下がっていったが、彼女はにこりと微笑んでシグノアス公爵に答えた。

「お相手のことも何も知らないのに、答えなど出せませんわ。そこで提案なのですが、第二王子殿下と二人きりでお話してもよろしいでしょうか?」