軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

300.不安な背中

シグノアス公爵が主催する夜会は、当然シグノアス公爵邸で行われる。

時刻は夕刻で、入り口には多くの馬車と人が集まっていた。

「レティシア。私の傍を絶対に離れないでください」

「はい」

馬車から降りると、レイノルト様は手を差し出しながらそう告げた。

「……緊張されていますか?」

「いえ……お姉様が心配で。エリンが付くのは凄く心強いのですが……」

私の目線は前を歩くベアトリスにあった。今回の夜会では、カルセインがパートナーを務めるため隣を歩いている。

「……お心の面、ですね」

「はい」

「でしたらレティシア。私は特段この会に用事はありませんので、なるべくベアトリス嬢の近くにいましょう」

「いいのですか?」

「元々そのために来ましたから」

シグノアス公爵主催とはいえ、夜会という場所は社交をしなくてはと思っていたがレイノルト様にその考えは優しく否定された。

「王国とは言え、私は大公ですから。ここに私が関係を構築しなくてはいけない人間はいません。ただ、エルノーチェ公爵家としてレティシアが行わなくてはいけないことがあるのなら、全力で応じますよ」

「ありがとうございます、レイノルト様」

心強い言葉に包まれながら、私もレイノルト様と共に会場入りを果たすのだった。

足を踏み入れた瞬間、周囲の視線を一気に集める。

主催者のシグノアス公爵はまだ姿を現しておらず、会場内は多くの王国貴族であふれていた。貴族達は当然、第二王子から婚約を申し込まれているベアトリスに注目していた。

(あまり気分のいい視線ではないけど……さすがお姉様)

そんな視線など少しも気にせず、会場の真ん中を堂々と歩いて行った。私達もその後を追っていたのだが、予想外にも背後から声をかけられたのだった。

「レティシア様……、ですよね?」

振り向く、そこにはフィアス侯爵家のご令嬢ビアンカ様が立っていた。

「ビアンカ様……!」

「お久しぶりです」

「お久しぶりです……」

王国での社交経験が少ない私にとって、数少ない友人の一人だった。ビアンカ様はさっとレイノルト様に挨拶をした。

「あれ……ビアンカ様。失礼ながらパートナー様は?」

「実はすぐそこで話していて。仕事関係でしたので、離れて待機していようとしていたところです」

「そうなんですね」

ビアンカ様の婚約者は、会場の隅で何人かと真剣そうな顔で話しているようだった。

「まさかいらっしゃるとは思いませんでした。お二人も第二王子のお披露目を見に来られたんですか?」

「お披露目……今日がその日なのですか? すみません。王国には戻ったばかりで何も知らなくて」

「そうなのですね。今日は第二王子殿下が、改めて社交界デビューをされる日と言われております。ですので、この後シグノアス公爵様と共に出てこられるかと」

そこまで聞いたところで、ビアンカ様がこの場にいるのが今更ながらに少し気分が落ち込んでしまった。

(ここにいるというのは、第二王子を支持する意思のある人という意味にもなるから……)

どうにか違う意味がないか頭を回転させた瞬間、ある事実にたどり着いた。

「ビアンカ様……」

「はい、レティシア様」

「あの……ビアンカ様は確か第二王子殿下と幼馴染、でしたよね?」

「え? えぇ、そうですが」

「少しお話を伺っても良いでしょうか?」

「もちろんですよ」

快く承諾をしてもらうと、私達は壁際に移動した。レイノルト様は配慮から少しだけ距離を置いたところで待機してもらった。

「単刀直入にお伺いするのですが、第二王子……オルディオ殿下はどのような方ですか?」

「幼い頃から口数の少ない、寡黙な方でした。とっても、殿下が王城離れてからは何も知らないのですが」

「寡黙……」

ベアトリスから聞いたオル様と照らし合わせていった。

「幼い頃は甘いものが苦手で、お菓子は全然手をつけていませんでした。極度の人嫌いのようで、私も心を開いてはいただけていないかと」

「人嫌い、なのですか」

「はい。今でも孤高な方、という印象が強いです」

「なるほど………」

オル様と似ているような、全く似ていないような。あまり想像が上手くかみ合わなかった。

「ですが……私がお会いした頃は既に継承権が放棄されていたので、色々とご事情はあったのだとは思いますが」

ビアンカ様は、自分の見たオルディオ殿下は彼の本当の姿とは限らないと続けた。

「ここからは誰もが知る事実ですが、まずオルディオ殿下は社交界デビューをされておりません。これも相まって、実はお会いしたことのない方が多いのです」

(……それなのに支持を)

リカルド・フェルクスがどれほど優秀かは王国貴族であればわかるはずだ。それなのに、顔も知らない、下手したら存在だってわからない第二王子を支持する貴族に行き場のない怒りが生まれた。

「……レティシア様、どうかこれだけは知っておいていただきたいことが」

「え?」

疑問符を浮かべた瞬間、ビアンカ様はそっと耳元に近付いて小声で教えてくれた。

「社交界の……特に女性は、エルノーチェ公爵令嬢方を応援しております」

「!!」

さっと離れたビアンカ様は、ふわりと微笑んでいた。