軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282.長女の幸せはどこに

思いの外、ベアトリスは落ち着いた様子だった。

「レティシア。まず教えてほしいのだけど」

「はい」

「先程大きな音がしたじゃない。あれはなんだったの?」

「あぁ、それはですね……」

馬車を使って門を突破したことを簡潔説明すると、ベアトリスは目がまん丸になって固まってしまった。

「馬車を……突っ込ませた?」

「はい。なかなか自称門番の方が退いてくださらなかったので」

「…………ふふふっ」

「面白かったですか?」

「ふふっ、えぇ。普通じゃ考え付かないわ。さすがレティシアね」

「褒めてらっしゃいます?」

「もちろんよ」

幸運にもベアトリスの笑う姿が見れたので安心した。

「それでレティシア。怪我はなかった?」

「無傷です、お姉様」

「それなら良かったわ」

全てを見せることはできないが、手のひらや腕を見せながら怪我がないことを主張した。

「門番……私はもちろん、カルセインも許可した記憶はないのに」

「第二王子ですよね」

「えぇ」

「お姉様は面識は……?」

「ないわ。ほとんどの人が第二王子のことを知らないはずよ。王妃様によって早くに継承権を放棄させられた後、騎士の道を歩んでからは社交界に滅多に姿を見せなかったから」

「なるほど……」

ベアトリスも多くは知らないという状況だった。

「……家柄だけで婚約を結ぶことこそ、本来の貴族の結婚なのよね。社交界では、未だに恋愛結婚の方が珍しいのかもしれないけど」

小さくため息をつきながら並べられた言葉は、到底受け入れているようには思えなかった。

(ベアトリスお姉様には絶対に幸せになってほしい。この想いは、お兄様もリリアンヌお姉様も同じのはず)

ぎゅうっと手のひらの力を強めていく中、ベアトリスは自然に話を続けた。

「でも、家柄重視の結婚でも幸せな人は幸せなのよ。リリアンヌのようにね」

「……確かに」

その言葉には、暗に第二王子への想いが込められている気がした。

(つまり、結局大切なのは相手ということよね)

見るからに明るくはないベアトリスの負担にならないように、会話の流れをいつも以上に慎重に選ぼうと考えながら整理していた。

(何が幸せかはわからないけど、できればお姉様にはご自身の願いが叶うような結婚……それこそ恋愛結婚が良い気がする。少なくとも、顔の見えない第二王子よりはーー)

頭の中で回転している内に、重要なことを思い出してピタリと止まった。

(恋愛結婚……)

言葉よりも先に、表情からの訴えが先走ってしまった。

「ど、どうしたの、レティシア」

「お姉様……」

「は、はい」

「お姉様が恋愛をしているという話を耳にしたのですが!!」

「え、えぇっ?」

ある日のリリアンヌからの手紙。そこに、ベアトリスが恋愛をしているかもしれないと書かれていたことを思い出したのだ。

「お姉様、恋愛をされていた……想い人がいるのですか?」

「お、落ち着いてレティシア。一体どこからそんな話を」

「リリアンヌお姉様からいただいた手紙に記されていたんです」

「リリアンヌっ……!」

(あ、これは本当っぽい)

段々と私がよく知るベアトリスへと変化していったが、それに気が付かずにいた。それよりもベアトリスの恋愛に意識が持っていかれていた。

「もしお姉様に想い人がいるのであれば、第二王子との婚約を受け入れるわけにはいきません。今すぐ拒否できるように、方法を考えましょう」

「レ、レティシア」

「はい」

「……中々に難しい状況なのよ」

「?」

言いにくそうな表情で、目線をそらしたベアトリス。私の熱弁は遮られたわけだが、その後は少し沈黙が流れることになった。

「……」

「……」

ただ、その間ベアトリスの表情は動揺と困惑の上に葛藤も加わっているようだった。そして、呼吸を整えるとそっと口を開いた。

「まず……事実なのは、私が恋愛をしていたということ」

「していた……?」

(過去形なのが気になるけど……)

しつこくならないように、嫌に聞こえないように小さく復唱すると、ベアトリスは苦い表情で頷いた。

「えぇ。していたの、恐らく終わってしまった恋の話。……恥ずかしいことに、家柄のわからない人ーーもっと言えば、素性のわからなかった人を好きになってしまった。結果的に」

「す、素性のわからない人……?」

「えぇ。出会って、それなりに惹かれて、恋人に近しい関係になって。……でもある日突然、会えなくなったの」

聞いていた住処を訪ねても、相手の知り合いらしき人を訪ねても、たどり着くことができなくなったという。

「……騙されたのかもしれないし、元々遊び上手な方だったのかもしれない。色々考えられるけど、今確かなのは相手と連絡が取れなくなったということ」

(恋愛詐欺、なのかしら……?)

一体どのようなことがあったのか、踏み込むべきか悩みながら黙っていると、察したベアトリスが恥ずかしそうに告げた。

「もしかしたら恋愛と思っていたのは私だけかもしれないと考えると……恥ずかしくて。婚約せずに何もしてこなかったから恋愛に対する免疫がなくて。その結果が招いた勘違いかもしれないの」

「……」

どう答えるか迷っていると、そのままベアトリスが苦笑いをしながら告げた。

「そんな私の経験話……時間もあるし、聞いてくれる?」

「是非ともお聞かせいただければ」

「お、面白くないわよ?」

「お姉様の恋話を聞けることがかなり貴重なので、それだけでかなりの価値があるかと」

「……ありがとう」

こうして、私の知らないベアトリスの恋愛体験が語られることになった。