軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254.侍女の不安事

エリンの言葉通り、私は慰労会に行けるような格好ではなくなってしまった。襲撃されたこともあり、今日はパーティーに行くことを止めることにした。

とはいえ、今この場にいる人数が少ないので、護衛騎士の一人がまずは大公城に事の次第を伝えに、御者がシエナ様にお詫びの言伝を届けにそれぞれ向かった。

もう一人の騎士とエリンによって刺客は拘束され、ひとまとめに集められた。

(それにしても凄いな)

護衛騎士に負けず劣らず、エリンはテキパキと拘束作業を終えた。力もある上に、俊敏すぎる動きには目が丸くなった。

「尋問は殿下の指示を待ちましょう」

「はい。我々はここまでの方がよいでしょうね」

二人のやり取りをじいっと眺めながら、仕事の早さに感心していた。

「お嬢様、お座りになってください!」

「大丈夫よ、エリン。少しの間くらい立てるわ」

(王国の労働で鍛えられた足腰は健在ですからね)

そんな事情を知らないエリンは、慌てて座れる場所を探した。御者は馬車ごと移動したので、今は周囲に木々しかない。

馬車に乗ってシエナ様の元に行っても良かったのだが、血で汚れてしまったドレスを見せるわけにもいかず、その上動けるような気持ちではなかった為、残留することにしたのだった。

(エリンには凄い謝られたけど、私としてはこの汚れはエリンの勲章だから、まるで気にしないわ)

そのことを本人に告げれば、恥ずかしそうに「ありがとうございます」と返してくれたのだった。

「エリン」

「……はい」

「エリンは鍛えているの?」

「は、はい。そうです」

「凄いわ。だからあんなに強いのね」

「あ、ありがとうございます……」

力強い眼差しで本心を伝えれば、何故かエリンは戸惑いながらもはにかんだ笑みを見せた。

「……私実は、お嬢様の護衛として配属されたんです。おかしいと思いませんでしたか? 次期大公妃にもなろう御方に見習い侍女をつけるだなんて」

「全く。二人もつけていただけるだなんて、と思ってたくらいよ。それにたくさんの侍女の皆様にお手伝いいただいていたし、エリンのような可愛いらしい妹のような子が近くにいるのは凄く楽しかったもの」

「お、お嬢様は優しすぎます……!」

エリンの抗議のような言葉にも笑って返せるくらい、エリンという見習いが専属侍女であったことはまるで気にしていなかった。

「……鍛えることはずっとしてきましたが、侍女としての立ち振舞いはまだ学べておりませんでした」

「ではエリンは、その強さをレイノルト様に買われて専属侍女に抜擢されたのね?」

「恐らくそうかと。大公城自体は安全で、警備も整っておりますが万が一があります。」

「凄く心強いわ。本当にありがとう」

「お嬢様……」

エリンという幼い少女は、自分がいつもと違う姿を見せたことで、私の彼女に対する態度が変わることを恐れているように見えた。

その恐怖心がひしひしと伝わってきたので、私はとにかく安心させようとすぐに反応し、言葉にすることを心がけていた。

「私……お嬢様に出会うことができて、本当に良かったです」

「凄く光栄ね。私もよ、エリン。……だから、これからもよろしくね」

「……はいっ」

涙を散らしながら笑顔を向けるエリンが愛おしくて、反射的に彼女のことを再び抱き締めた。

「エリン、貴女は最高の侍女よ」

そう告げれば、彼女の涙は止まることがなくなったのだった。

◆◆◆

〈エリン視点〉

私が養子に入った男爵家は、表向きは特に目立つことのないどこにでもいるような一貴族の家だったが、実際は暗殺者を育てる暗部の家だった。

そしてそれは大公家と王家のみが知る機密事項で、彼らにとっての隠密部隊である影を育てるための家だったのだ。

孤児として捨てられた私だったが、その男爵家の血を薄くとも引いていることがわかると、現男爵に引き取られることになったのだった。

問答無用で訓練を重ねる日々は、案外悪いものではなく、最低限の才能もあったため、難なくこなすことができた。けど、幼いこともあって実践の場に出されることはまだなかった。

そんな中、突然決まったのが大公殿下の婚約者につくということ。彼女を守ることが使命だと言われ、専属侍女になることになった。

正直酷く戸惑った。

鍛えることはしてきても、侍女としての立ち振舞いを学ぶことはなかったから。

慌てて学び始めたものの、護衛対象として対面する時はまだまだ未熟な段階だった。

(……粗相だけはしないようにしよう)

当時、貴族という存在に偏見的な部分があって、特に高位貴族というものは完璧を求めるものだと思っていた。気に入らないことがあれば、わめくような、そんな存在だと思っていたのに、現れたのは天使だったのだ。

(レティシアお嬢様……素敵すぎる)

見習いに引っ掛かることなく、普通に受け入れることはもちろん、侍女相手だというのに気を遣うことを忘れない方。身分意識なんてないのではと思うくらい、私達侍女のことを一人の人間として接してくれていた。

お嬢様のことを好きになればなるほど、普通ではない自分の正体を知られた時、幻滅されると不安で怖かった。

暗殺者だと、刺客だと、怖がられる覚悟はできていたのにーー。

「エリン、貴女は最高の侍女よ」

お嬢様は、やはりどこまでもお嬢様で、私を軽蔑することなど一切なかった。

そしてこの言葉に私は、涙腺を崩壊させたのだった。