軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

249.大公妃にふさわしい者

どちら側にもついていない、いわゆる中立的な立場にいるご令嬢の中から何人かが、興味本位で緑茶に手を出し始めた。

「……美味しい!」

「飲みやすいですよね。今まで出てきた緑茶の茶葉の多くは苦味が付きものでしたが、今回は苦味が一切ありませんから」

「は、はい、ネイフィス様。とてもスッキリとした味わいで。……私、今まで苦味が苦手で緑茶は飲んでなかったんですけれど、この緑茶なら美味しくいただけますわ」

美味しいと言ってくれたご令嬢の言葉に嬉しくなりながらも、ネイフィス様が何を考えているか頭を回転させていた。

(……わかった、ネイフィス様が何をしたいのか)

冷静に考えてみれば、確かに彼女が褒めている茶葉の製作には私も関わったが、その事実を知っているのは関係者のみ。つまり普通なら、その茶葉はレイノルト様やリトスさんが作ったものだと考えるのだ。

(ネイフィス様は、レイノルト様が作ったものという前提で話を進めてるんだわ)

だから必要以上に褒め称えているのだ。そして緑茶に苦手意識を持っているご令嬢方に、緑茶を勧めながらさりげなく自分の評価をあげている。

緑茶を売りにしている大公家にふさわしいのは自分だと。

自信に満ちた笑みの瞳の中には、確実に見下す意思が光っていた。ようやくネイフィス様の行動に理解が追い付くと、かなり心は落ち着き始めていた。

気が付けば、シャーロット様やシエナ様達も私達の声が聞こえるくらい近くまできていた。

「この茶葉はとても素晴らしいですよね、エルノーチェ様」

(……貴女にはその良さがわからないでしょ、と言わんばかりの眼差しね)

それはもはや完全な宣戦布告とも取れた。

(……わからないわけないけどね)

クスリと心の中で微笑すると、表面では穏やかな笑顔を広げてネイフィス様に言葉を返した。

「今回の新作は、緑茶の中でも茎茶という種類に入ります。茎茶は名の通り、茶葉ではなく茎のような見た目をしています。こちらですね」

「くきちゃ」

「はい。新芽の茎から作っているのが特徴になっております。これは、リーンベルク専属商会から先日発売された茶葉はそのものです。皆様が飲まれているものと同じものになります」

「そうなんですね」

「まぁ、本当に茎のようですわ」

近付いてきたご令嬢方に茶葉を見せていく。

私が言葉に詰まることなく、饒舌に話し始めたことで、ネイフィス様は固まってしまった。緑茶に興味を持ち始めたご令嬢方からすれば、そんなことなどには興味はないようで、

「今回は苦味をなくすことよりも、新芽の甘さを引き出すことに焦点を当てた茶葉になります。元々こちらの茶葉は、帝国国内ではなく国外へ向けた茶葉だったんです」

「まぁ、そうなんですか……?」

「国外へ? それは一体何故なのでしょうか」

「よくぞ聞いてくださいました……!」

目を輝かせながら、製作意図を語り始めた。

「帝国ではお馴染みであるこの緑茶、実は国外ではまだ普及しきっておりません。例えば、私の故郷であるセシティスタ王国では、緑茶の提供を試みても、なかなか手に取ってもらえることがなかったんです。会場の端に置いていても、紅茶が当たり前の国でしたので、緑色という見た目からまず遠ざけられていたんです」

紅茶の色からすれば、緑茶はかなり不思議な色になっているからと添えた。

「見た目もなるべく明るい緑色にするのはもちろん、甘さ重視にして作った理由は、緑茶の中でもできるだけ紅茶のような味わいを目指したんです。そこではもちろん、緑茶特有の苦味をなくすという観点にも注目しました」

ゆっくり丁寧に、伝わるような言葉を選びながら話続けた。

「結果的に、国外の方及び従来の緑茶が苦手な方に向けた茶葉になりましたが、皆様に美味しいと言っていただけてとても嬉しく思います」

話終えるとはっと我に返った。

(語りすぎたかな……あれ?)

丁寧な言葉遣いでも、前世で言うオタクように熱く語ってしまった。ご令嬢方を置いていってしまったと内心焦り始めたが、想像以上に興味津々で話を聞いてくれていた。

「素敵な試みです! おかげで私でも楽しめる茶葉に出会えました……!」

「私も。この緑茶なら毎日飲みたいです……」

「私は他の緑茶も好きですが、このくきちゃ? もとても好みです」

(す、凄く嬉しい……!)

ご令嬢方の笑顔を見ながらそう感じていると、ルナイユ様がスッと私の隣に動いた。

「これだけ緑茶の知識を兼ね備え、製作にも関われるだなんて、とても素晴らしいですわ。まさに、リーンベルク大公妃としてふさわしい方ではありませんか」

(ルナイユ様……!)

その瞬間、ネイフィス様がギリッとこちらを睨むのがわかった。

「あ、あの。製作って……もしかしてこの緑茶、エルノーチェ様が考案されたんですか?」

「お、お恥ずかしながら、携わらせていただきました」

「まぁ……! エルノーチェ様よりふさわしい方はいらっしゃいませんわ」

「ルナイユ様の仰る通りですね」

ルナイユ様の一声で、中立的な立場のご令嬢方が大公妃としてネイフィス様ではなく私を、無意識にも認めてくれたのだった。