軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247.無自覚な公爵令嬢(シエナ視点)

親衛隊は基本的には子爵令嬢と男爵令嬢に多い。そう認識していたため、伯爵令嬢の挨拶時にこんなにレティシア様に人が集まるのは嬉しい誤算だった。

(伯爵令嬢には、親衛隊というよりも隠れながらお慕いしている方が多いみたい)

その様子を微笑ましく眺めながら、勝手に分析をしていた。

思えば、ネイフィス様と取り巻きは一つの勢力として確立していたがそこに所属しない令嬢の方が多く、さらに言えば伯爵令嬢には無所属派が多かった。

(……やはりレティシア様には人を惹き付ける力があるわ)

そんなことを思いながらレティシア様に視線を向ければ、本人は何故こんなにも自分から挨拶をされるのかわかっていない様子だった。困惑しながらも、ただひたすら丁寧に一人一人挨拶をされていく。

(レティシア様。そこですね。誰に対しても平等に、丁寧に、敬意を持って接される所。これは好かれる訳です)

さらに言えばそれを当たり前に行うところまで含めて、レティシア様の魅力なのだ。

ルナイユ様やロアンヌ様でさえ、下の者には一線を引いて接される。それが決して悪いのではなく、全ては侮られないためであり長年の帝国の社交界における身分への強い意識が関係している。かくいう私でさえ、身分に対する意識はある。

レティシア様は、その意識がない。だから無意識に丁寧な立ち振舞いが行えるのだと思う。

(普通お茶会では、下位のご令嬢にまで立って挨拶はしない。その証拠に皇后陛下はゆったりと座られてるわ)

もちろんそれが悪いわけではない。ただひたすらレティシア様が良い意味の例外で素晴らしいのだ。

親衛隊の設立者なりに、改めてレティシア様の魅力を細かく分析していれば、挨拶の番がやってくるのはあっという間だった。

「レティシア様、お疲れ様です」

「シエナ様……! お越しいただきありがとうございます」

(既に何人も相手をして疲れている筈なのに、そんな素振りを一切見せない。それどころか、嬉しそうな笑顔を向けてもらえるだけで、こちらの心まで明るくなるわ)

思わず本心の笑みをこぼしながら、レティシア様との会話を純粋に楽しむのだった。

その後も、子爵令嬢男爵令嬢でレティシア様の人気は高く維持された。なおかつ親衛隊員の出現も相まって、明るく楽しげな雰囲気のまま、挨拶は終わりを迎えるのだった。

◆◆◆

〈マティルダ・ネイフィス視点〉

今日、レティシア・エルノーチェを失墜させる。そのはずだった。

想定外のシルフォン嬢の裏切りに加えて、予想もしなかった皇后陛下の登場。この二つによって、私の計画は大きく崩れ始めていた。

(何なのよこれはっ……!)

せっかく蒔いた種が、一瞬で台無しになってしまった。

(本当なら、今頃エルノーチェ嬢は全員から哀れみの目向けられ侮蔑の眼差しを受けるはずだったのに……!)

ギリッと歯軋りをしながらも、決して悟られてはいけないと笑顔を保ち続けた。

「ネイフィス様、見てください。エルノーチェ様、無意味にも立ち続けていますよ」

「あんなの、自分が低位だと言っているようなものですわ」

隣でそう囁くご令嬢の言葉に同意しながら、今度は本心からクスッと微笑んだ。

「品がないですね。あれで公爵令嬢なんて」

「王国の公爵令嬢ですから。ネイフィス様とは格が違いますわ」

格が違う。

そう、格が違うのだ。私とエルノーチェ嬢は。

「親切心や味方を作りたいという一心でやっていたとしても、あまり評価できるものではありませんね。あのような振る舞いや態度は、周囲に侮られかねません。……大公妃としていかがなものでしょうか」

「全くですね。ご自身の立場をわかっていらっしゃらないのでは?」

「皇后陛下が座っているのに立つだなんて、周りの見えない方ではないでしょうか」

会場の端で、エルノーチェ様を評価する声が静かに響いていた。周囲のご令嬢がこちらに関心を向けないのが、酷く不本意だが、それでも段々と心に余裕が生まれてきた。

「……やはり、ふさわしいのはネイフィス様かと」

何がとは言わない。

明確に言えば、問い詰められる材料になるから。だからこの一言だけで私達の間では、意味が通じる。

(そうよ、大公妃にふさわしいのはエルノーチェ嬢、貴女ではないわ。この私よ)

内心にいっと笑みを深めながら、気が付けば余裕の生まれた心で彼女を見つめた。

(残念ね、エルノーチェ嬢。私にはまだ切り札が残っているのよ)

その切り札を考えれば、エルノーチェ嬢が落ちていく姿まで容易に想像できた。

生まれた余裕と切り札のお蔭で、私は平常心を取り戻すのだった。