軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

241.前座の役割(シルフォン視点)

焦る表情をほんの一瞬だけ見せれば、すぐさま自分に非がないように振る舞い始めた。

「シルフォン嬢、ご不快な思いをさせてしまいましたのなら申し訳ありません。ルウェル嬢とは確かに交流がありました。ですが黒幕だとは知らず……衝撃的すぎて、あの日、感情的になってルウェル嬢を追い詰めてしまいましたわ」

完璧といえるほどの言い訳だろう。

本来は、ルウェル嬢に勝ち目がないと思ったゆえの切り捨て作業だっただろうが、物は言いようなので、その言い訳は上手くご令嬢方に刺さる。

「確かにあの日、ネイフィス様がエルノーチェ様をお助けしていたわ……!」

「堂々とした立ち振舞いが、素晴らしかった記憶ですね」

こうして言い逃げられるのは想定内。だが、ネイフィス様の気持ちに余裕を生ませるために、私は敢えて申し訳なさそうな表情で反応した。

「そうだったんですね。失礼いたしました」

「そんな。シルフォン嬢の言う通り、噂の火消しができなかったのは事実なので……」

「私はその場にいなかったのですが、ルウェル嬢を追い詰めてくださったのなら、ネイフィス様にも感謝を述べさせてください」

「……ありがとうございます」

ペコリと頭を下げると、席へ座ろうと移動を開始した。

(現場を見ていないご令嬢からすれば、あの場を収めたのはネイフィス様、と考える結果になってしまうけど)

でもそれでいい、そうエルノーチェ様は仰っていた。大切なのは、手駒として使えると思っていた私を失うこと。

エルノーチェ様主催のお茶会で、ネイフィス様ができることと言えば限られている。私がエルノーチェ様に何か行うことを期待して、わざわざ吹き込んだ。これを考えれば、今日ネイフィス様が用意した武器はそう多くない。

(その中でも私という一手を失くしたとなれば、内心焦りでしかないでしょうね)

別にネイフィス様に助けられたと勘違いされてもいい。今は。

いつか真実が伝わればよいと思っているので、そう急いではない。それに、この状況を利用できるなら喜んでしないと。

(一手をなくして動揺を生むこと。これが前座である私の役目だから)

その動揺を隠すためか、空気を変えるためか、再びネイフィス様の取り巻きはエルノーチェ様を遠回しに下げ始めた。

「ですがやはりエルノーチェ様は不思議ですね」

「えぇ。ネイフィス様に助けられたというのにこの仕打ちは……」

「まぁでも、王国式というのなら」

その雰囲気は周囲にも伝染していった。

「……どうして、シルフォン嬢に誤解されてしまったのかしら」

ポツリとネイフィス様が呟いた。

「確かに気になりますね。ルウェル嬢を追い詰めたのはネイフィス様なのに」

「そうですよ。シルフォン嬢が感謝を表すべき存在は、ネイフィス様一択でしたわ」

「……エルノーチェ様、もしかしたら自分がと強調されたのでは?」

その呟きを強調するように、取り巻き達がこれ見よがしにエルノーチェ様への憶測を語り始めた。

「……やはり、エルノーチェ様には嫌われているのかしら」

ネイフィス様の呟きは、同情を誘うには良いタイミングだった。周囲のご令嬢方からも、ネイフィス様の味方のような視線を受けていた。

しかし、その空気は長く続かなかった。

会場内のご令嬢方ほぼ全員が、招待客は着席しきったと思ったその時、最後の招待客と言わんばかりに二人のご令嬢が現れたのだ。

「「「「!!」」」」

一人はルナイユ様。そして、もう一人も公爵令嬢であるロアンヌ様だった。

突然の登場に、会場内の声がピタリと止んだ。ネイフィス様も想定外だったのか、目を見開いていた。

「……では、王国式、なのかしらね」

それでも言葉を絞り出せる所はさすがと言うべきだろう。これでネイフィス様への同情の視線は薄まったものの、あくまでも推測としてしか語ってないネイフィス様を責める要素はまだなかった。

だが、周囲のご令嬢方からのエルノーチェ様に対する下がった印象は、戻ったことだろう。

ルナイユ様達が登場したのは、開始時刻の本当にギリギリだったのだ。それ故に、お茶会は帝国式でネイフィス様だけが蔑ろにされているという論は綺麗に通っていたし、ネイフィス様本人もエルノーチェ様はそういう形を取ったのだと思い込んだはずだ。

だからあそこまで長々と、エルノーチェ様の心象を下げられた。状況と紐付けて説得力を持たせていた言い分は、一気に弾けとんだ。

(一手を失い、空気も変えられ、稼いだ印象も消えてしまった。何一つ思いどおりになってない今、きっと腸が煮え繰り返っているでしょうね)

それを想像すると、少し胸がスッとした。

(怒りに包まれているところ可哀想だけど、これで終わりじゃないんですよ? ネイフィス様)

ネイフィス様にバレないように彼女を一瞬嘲笑うと、この後何が起こっているかわかっている私達は、入場口に視線を向けた。

そして扉が開き、主催であるエルノーチェ様が登場された。その瞬間、再び会場内のご令嬢方は声を出せずに静まり返っていた。

会場内は、ある方の登場で驚愕の空気に包まれた。

「とても素敵な会場だな」

そう凛とした声を持って登場したのは、皇后陛下であった。