軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202.教えを胸に刻んで

とある日のエルノーチェ公爵家にて。

「レティシア。今日は社交界の立ち振舞いについて、助言をするわね」

「はい、リリアンヌお姉様」

昨日までは基本を教わっていたが、今日は応用編だとリリアンヌは告げる。

「社交界……その中でもご令嬢達に焦点を当てましょう。彼女達にはもちろんそれぞれ矜持があるわ。」

「はい」

「彼女達の世界で上下をつけるのは何かしら?」

「……身分という肩書き、ですか」

「そうよ。レティシアは公爵令嬢だから、まず見下されることはない。というよりあってはいけないの」

真剣な眼差しで教えるリリアンヌに、こくりと頷いた。

「今までは悪評という特殊な事情があったでしょう。それもどうにかしたけど」

「しました」

「えぇ、それはどんどん自信にして。問題は帝国に行った時よ」

「帝国に……」

今度はリリアンヌが、そうだという意味で頷く番だった。

「王国と帝国では、栄えている方は帝国。でも、だからといって爵位の価値が変わることはないわ。なぜなら国としての規模は同じなのだから」

「レイノルト様も仰っていました」

「そうでしょう?」

王族であったレイノルト様も、王国と帝国ではそれぞれの身分は同等の価値があると言っていた。王国の公爵家は帝国でも、問題なく公爵家として振る舞うべきだと。

「でも、なかなかそれを理解できない人間もいる。特にご令嬢というのは優位に立ちたがる性格だからね」

(……マウントを取りたがる女子ってことね)

「だから、レティシアが公爵令嬢でも格下扱いする者が現れる可能性は凄く高いと思うの」

「……私もそんな気がします」

「ふふ。でね? 見下されたとするでしょ」

「はい」

そう一度区切りをつけると、リリアンヌは怪しげな笑みを浮かべて続けた。

「そしたら容赦なんてしちゃ駄目よ。徹底的に叩き潰すことを心がけなさい」

「叩き……潰す?」

可憐な姉からとんでもない言葉が出てきたことが信じられず、思わずリリアンヌを二度見する。けれども表情はいつも通りで、穏やかに上品に微笑んでいた。

「そうよ。こちらを足蹴にしてくる者など、丁寧に対応するだけ無駄ですもの」

「む、無駄……」

「もちろん、話し合いが通じる相手もいるでしょう。ただ……そうでない人物がいるのもわかるわよね?」

その言葉で真っ先に思い出すのは、キャサリンの姿だった。

「……身内でさえ敵になるんだもの、社交界とは恐ろしい場所よ。だから、悠長にしては駄目。甘い対応は隙となり、付け入られ、利用され、最悪毒が回ってしまう」

それはまるで、かつての私を表すようだった。偽りの悪評が浸透し、放置をしたから真実に近くなった。

これからは、決して放置をしてはならない。それ以上に、悪評を広められないように動くことになる。

(……戦いは終わらない。社交界は女性にとっては戦場なのだから)

貴族として生きる道を選んだ私は、リリアンヌの言葉を胸に刻み込む。

「そうならないために、強気でいきなさい。目には目を……配慮がなければこちらもしなくて良いのだから」

「……わかりました。自分をこれでもかというくらい、大切にします」

「そうしなさい。レティシアは公爵令嬢なのだから。プライド高くよ。ただ、品格も気にしてね?」

「はいっ」

リリアンヌのありがたい助言は、私の心にしっかりと刻まれるのだった。

◆◆◆

(品良く、でも容赦せず。……上手くできた気がする)

リリアンヌの教えを思い出しながら、シルフォン嬢が待つ席へと戻ると、少しだけ肩の力が抜けた。

「エ、エルノーチェ様。何をお話されてたんですか?」

「ちょっとしたご挨拶をしたまでですよ」

「そうでしたか……その尊重というお言葉が聞こえたもので」

(聞こえてたのか……でも一部だけなのね)

シルフォン嬢の座っている席から、主催者席までは少し離れていて聞こえないはず。しかし、私とルウェル嬢の話が後半にいくにつれ、会場内が静まったことで、若干声が反響してシルフォン嬢の耳にまで届いたそうだ。

「……仮にも私は公爵令嬢なので。尊重して欲しいとお願いをしてみました」

「……そうだったんですね」

表情が読みにくくなってしまったシルフォン嬢だが、反応からは負の印象は受けなかった。

親交を深めたいと思うのだが、顔色の悪さはまだ戻っていなかったため、今日は負担になりすぎないような交流をすることに決めた。

男爵令嬢方の挨拶も終えると、いよいよ本格的にお茶会が始まった。

運ばれてきたお茶をシルフォン嬢と飲みながら、静かな一時を過ごしていた。ルウェル嬢の方をちらりと見れば、何事もなかったかのように振る舞っていた。

その後は特に何も起らずに、お茶会は終了した。

今回はシルフォン嬢を始めとした周囲のご令嬢と一緒に退出することにした。

「私は先に行きますね」

「えぇ。本日はありがとうございました、シルフォン嬢」

「はい。……では」

ペコリと頭を下げれば、そそくさとその場を後にした。

(やはり体調が優れないのかしら)

そう思いながら、私は自分の馬車を待つことにした。すると、背後から誰かに声をかけられた。

「あ、あの」

「エルノーチェ様」

「……あら」

振り向いた先にいたのは、先日ルウェル嬢と共にいたフラン嬢とラノライド嬢だった。