軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

199.帝国のマナー

私はベアトリスとリリアンヌから、お茶会での振る舞い方や戦い方は学んできたが、お茶会そのものについての勉強は足りないと感じてしまった。

(憧れだからこの迎えようなのか、身分が高いからなのかわからないわね)

起こっている出来事を唖然としながら見ていれば、いつの間にか立っていたシルフォン嬢が小さな声で状況を教えてくれた。

「公爵家のご令嬢方は別格とされているので、このような登場はほとんど毎回です」

「そうなんですね……」

「敬意を示す意味も込めて、立って迎えるのが慣習なのです」

「なるほど」

「!」

意図が理解できたため、取り敢えず立ち上がろうとしたが、シルフォン嬢に椅子を押さえられた。

「差し出がましいかもしれませんが、エルノーチェ様は公爵令嬢および次期大公妃ですよね。本来ならば」

「私も公爵令嬢方と入場すべき、と?」

「はい。……それに、立って迎えるのは公爵家よりも下の家で充分かと」

「……とても丁寧な説明をありがとうございます、シルフォン嬢」

「い、いえ」

見上げてお礼を告げれば、シルフォン嬢はほんの少しだけ、恥ずかしそうに目線をそらした。

シルフォン嬢の話を聞く限りでは、以前他国の姫が来た時は公爵令嬢達と一緒の入場だったという。

(……やはりルウェル嬢は、私のことを格下扱いしてるのは間違いなさそうね)

もらった招待状には、時間が記されているだけで、この入場に関してはなにも明記されていなかった。

それに、招待状を確認する使用人にも特段何も言われなかったのだ。

帝国のことを教えるというのならば、このような慣習も含めて教えてよいはずなのに、それを彼女はしなかった。しないという選択が、彼女の考えの答えと言える。

(……よし)

少し悩んだ結果、私もシルフォン嬢に習って立ち上がることにした。

「!」

「シルフォン嬢、お気遣いいただき本当にありがとうございます。ただ、私は公爵家である前に新参者ですから。失礼のないようにしないと」

「……わかりました」

そう頷くシルフォン嬢は、心なしか少しだけ微笑んでいる気がした。

そんなやり取りをしていると、公爵令嬢三名とルウェル嬢が近くまで来ていた。

彼女達が座るのは、恐らく奥にある誰も座っていないテーブル席。

何となくお茶会の仕組みを理解したところで、私達の目の前を彼女達が通りすぎようとしていた。

その瞬間、シルフォン嬢が静かにカーテシーをした。挨拶代わりなのかと推測すると、私も彼女に習ってカーテシーをした。

彼女達の足元だけが見える状態だったのだが、彼女達の誰かが足を止めていた。

(……もしかして品定めされてるのかしら)

そんな不安を抱きながらも、彼女達はすぐに自分達の席へと向かっていった。

「……座って大丈夫です」

「ありがとうございます」

シルフォン嬢に色々と教えてもらうことになるだろうな、と思いながらもう一度感謝を伝えた。

「……どなたかは足を止めて挨拶をするかと思ったのですが」

座る際、ぼそりと隣から呟く声が聞こえた。その言葉や今までの態度を見る限り、シルフォン嬢は少なくとも私に敵意は抱いていないように思えた。むしろ尊重してくれる人にさえ思えて、もっと彼女との交流を頑張ろうと感じた。

「まだ一度しかお会いしてませんから。わからなくても、何も問題はないかと」

「……そう、ですかね」

「はい」

話に区切りがつくと、次は私からこの後の流れについて尋ねた。

「この後は主催と、公爵令嬢御三方に挨拶をする時間です。後者はあくまでも自由ですが、される方がほとんどです」

「あそこの席に挨拶をしにいく、ということですね」

奥のテーブルに視線を向ければ、目立った登場をした四人が席に着いていた。

「はい。……ですが、やはりエルノーチェ様はここで待機していてもおかしくないかと」

「それは」

「自分よりも格上のご令嬢には、主催は自ら挨拶をするのがマナーですから」

「……そのマナーは帝国も同じなんですね」

どこまで王国のマナーと異なるのか不安だったが、シルフォン嬢の説明を聞くと、ほとんど類似していることがわかった。

「挨拶をする方の順番は決まっていますか?」

「爵位の高い順ですね」

それならシルフォン嬢はすぐに席を立つだろうと考えれば、自分はどうするべきか少し悩んだ。

(……公爵令嬢方に挨拶をしたいけど、それをしてしまうとルウェル嬢を無視できなくなる)

悩んでいる私の様子を察したのか、控えめに自分の意見を伝えてくれた。

「……エルノーチェ様は、待機の方がよいと思います」

「……」

「あくまで、個人の意見ですが……一度待ってみて、来なければ行くというのも一つの手かと」

おずおずと言う姿には自信こそなかったものの、私に対する思いやりが凄く伝わった。

「ありがとうございます、シルフォン嬢。少しだけ待ってみることにします」

「わ、わかりました!」

終始大きく表情は変わらないものの、彼女のまとう空気には変化を見ることができた。

そして、シルフォン嬢が挨拶に行く姿を見送るのだった。