軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話:新たな技術

ポカポカクッションの話題で盛り上がると、部屋の雰囲気も随分と暖かくなっていた。

「エレノアくん、今日の話し合いは内容を変更しよう。魔物の災害対策は重要だが、護衛依頼の話が気になり、集中できそうにない」

「私もその方がありがたいです。シフォン様の手紙の内容を詳しく追及しないと、頭が働きそうにありません」

二人の仕事に支障を与えてしまったけど、そのままポカポカクッションを上げれば、許してくれるだろう。どのみち二人に報告する予定だったから、俺たちにとってもありがたい。

「だが、話はリズくんから聞くとしよう。ミヤビくんはすぐにヴァイス殿の元へ向かい、付与魔法について説明してくれ。武器にも応用できるのであれば、ヴァイス殿の機嫌を損ねる事態になり、また仕事を手伝わされるぞ」

「それは勘弁してもらいたいので、お言葉に甘えて退室します。ポカポカクッションは多めに持ち歩いていますので、参考資料として置いていきますね」

「ありがたく使わせてもらおう。ヴァイス殿にもよろしく伝えておいてくれ」

社会人のマナーとして、トレンツさんに一礼した後、俺は部屋を退室する。ドアを閉める際、エレノアさんの「また仕事を手伝わされる……?」という小言が聞こえたけど、今は全力で逃げるとしよう。

今度会う時までに、何か埋め合わせを用意しておくべきかもしれない。

***

トレンツさんの屋敷を後にして、ヴァイスさんの鍛冶屋を訪れると、店に入ろうとした瞬間、「まだそんなことを言ってやがるのかッ!」と、ヴァイスさんの怒鳴り声が聞こえてきた。

恐る恐る中を覗くと、ヴァイスさんが偉そうな三人のおじいちゃんズと対峙。その中でも、目が開いてないと思うほど細く、白髪が伸びた男性だけは、風格が違う。怒りを露わにするヴァイスさんに動じる姿を見せなかった。

「ヴァイス、貴様は何も変わらないな。あれから九年も経ったが、結果はどうだ? 何も変わらないではないか。我々の言い分が正しかったと改めて感じるには、十分な時間だったよ」

白髪男性が呆れたような言葉を紡ぐと、ヴァイスさんは持っていた紙をクシャクシャに丸め始めた。

「こんなくだらねえマネを許すつもりはねえ。ワシは断固として拒否するぞ」

「ほざくな、貴様の意見に九年も付き合ってやったのだ。慈悲深い我々にも限度がある。これで、貴様と会うこともないだろう」

ゆっくりと動き出したおじいちゃんズは、ヴァイスさんに背を向けて、こっちにやって来る。

冒険者ギルドや領主とも良好な関係を築くヴァイスさんに対して、上から目線で話ができる人は限られているだろう。すれ違いざまに失礼なことがあったら、とんでもない事態に陥るかもしれない。

壁になるような気持ちでスッと道を譲ってやり過ごした後、イライラモードのヴァイスさんに近づいていく。

本音を言うなら、一回帰って出直したい。でも、ヴァイスさんと目が合ってしまったんだから、仕方がない。

「なんか、大変そうでしたね」

「気に食わねえが、いずれはこうなってた話だ。いつまでもジジイ共が上に立ちやがってッ!」

クシャクシャにした紙をゴミ箱にバーンッ! と投げつけるヴァイスさんを見れば、怒りが治まっていないことが伝わってくる。

「で、随分と早く帰ってきたな。うまくいったのか?」

それでスッキリしたのか、いつものヴァイスさんに戻ったけど。今日は良い話を持ってきたわけだし、あまり気にせず接しようかな。

「おかげさまで……と言いたいところですけど、やり過ぎちゃったみたいで、俺まで赤壁の過保護対象になってしまいました。リズと一緒に、王都から逃げるように帰ってきましたよ」

「ガハハハ、何をやったか知らねえが、面倒なことになったな。だが、あいつらは仮にもAランク冒険者だ。迷惑だと思った分、利用してやればいい。真面目に相手をしていたら、こっちの身が持たねえぞ」

「そのつもりです。今はリズがトレンツさんに報告してますけど、良好な関係を築けそうです。出発前に付与魔術の手伝いをしたことを冒険者ギルドに報告してなくて、そっちで揉めない限りは問題ありません」

「護衛依頼で何も問題が起きなかったのなら、事後にはなるが、冒険者ギルドへ指名依頼を出してもいいぜ。大きな借りを返す機会が無くなっちまったみたいだからな」

「いえ、面白そうな土産話を持ってきたんで、協力してください。商品を販売した経験がなくて、値段を決めるのに困ってるんですよね」

インベントリから二本のナイフを取り出すと、ヴァイスさんの目の色が変わる。

魔物に接近された際の迎撃用の武器として改良しておいた、土魔法を付与した投擲用ナイフと、風魔法を付与した投擲用ナイフだ。鍛冶師のヴァイスさんに見せるなら、クッションよりも武器の方がいいだろう。

うまく機嫌を取るためにもなっ!

「言わなくてもわかると思いますけど、初めてこの店に来た時に買った投擲用ナイフです。それぞれ土魔法と風魔法を付与したので、印象は変わると思いますが」

そう言って手渡すと、ヴァイスさんはナイフを光にかざすように持ち上げ、ジーッと見つめ始める。

「自分の作った武器くらいは、見ればわかる。だが、どうなってやがるんだ? 武器が別物に変わるほどの影響を受けてるじゃねえか」

「属性を付与する付与魔術と違って、武器に魔法を付与しています。勝手に付与魔法と言ってますけど、素材に干渉する影響が大きくて、ちょっと扱いが厄介なんですよね」

「素材の性質ごと変化してるからな。付与魔術とは魔力の流れ方が違って、ハッキリと理解できん」

ん? 理解できない……? どういうことだろうか。クラフターの俺と違って、鍛冶師のヴァイスさんは、武器の情報を詳しく知ることができるはず。商業ギルドの職員さんも、確かこう言っていた。

『作った武器を見せるだけで、生産職の技量を正確に見切ると言われる伝説の職人』、と。

「この前、付与魔術の作業を手伝ってた時に、弟子さんにアドバイスをされてましたよね? 今までだって、武器の情報を正確に読み取っていたように思いますけど」

「武器や防具の状態を見れば、それなりに推測できるのは事実だ。だが、付与魔術は鍛冶スキルに該当しない。鍛冶師の経験から弟子に教えられるだけであって、得意としている奴なんて見たことねえ。裁縫師も装飾師も同じだろうな」

武器や防具に必要なことが全てできるのではなく、あくまで作製に特化しているだけなのか。どうりでヴァイスさんの弟子も、付与魔術に苦戦していたわけだ。以前は三週間分の仕事が溜まるほどだったし、顔をしかめて作業してたから。

「初めて見る付与魔法に至っては、ナイフを手に持って眺めても、魔力の流れ方が理解できねえな。護衛依頼をクリアしただけで、どうしてこんなことになってんだ?」

当然の疑問をぶつけられたため、俺は苦笑いを浮かべて、ポカポカクッションを取り出す。

「実は武器に付与する予定はなくて、リズの冷え性対策の一環だったんですよね。冒険者活動で快適な生活を目指してたら、色々作っちゃいまして。護衛依頼の途中でシフォンさんに販売することが決まったので、こっちの値段を相談したかったのが本音です」

「クッションか……。素材と魔力のバランスを考えれば、何でも応用ができるってわけか。面白い、ベッドにも付与できるのか?」

「ベッドはグラウンドシープの羊毛を使ったものがあるんで、そっちの方がオススメですよ」

俺がそう言うと、難しい顔をしていたヴァイスさんがニヤリと笑った。

「生意気なことを言いやがる。ワシにベッドの勝負を挑むとは、いい度胸だ。家具の中で唯一こだわって作るのが、ベッドだぜ。一日の疲れが取れねえと、翌日の鍛冶に影響するからな」

どうやらベッドは武器と同じくらいこだわって作るみたいだ。ヴァイスさんの自信満々な顔は、敗北という二文字を知らないように思える。

「じゃあ、新しいベッドを用意してあげましょうか。俺が作ったベッドをリズが気に入ってる時点で、勝負は見えてますけどね」

「そこまで言うなら、負けた方がベッドを買うっていうのでどうだ? 数分後には、貴族が使う最高級のベッドを買う羽目になるだろうけどな」

「ヴァイスさんも寝ぼけたことを言いますね。クラフターに家具で勝負を挑んじゃダメでしょう。お買い上げありがとうございまーす。明日は寝坊しないように気を付けてください」

「ちょっとくらい新しい技術を身に付けたからって、調子に乗ってやがるな。こっちへ来い、極楽の世界へ案内してやる」

王都でヴァイスさんが作ったであろうベッドを知っている俺は、負けない勝負を受けて立つのだった。ついでにベッドの値段も決めてもらおうと思いながら。