軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話:トロールキング

周囲の魔物に警戒しながら、俺たちはベルガスさんとレミィを追って、森の中を駆け抜けていく。

足音が鳴り響いていた程度の距離だし、僅かに金属音も聞こえてくる。近づいているのは間違いないけど、森の木々が邪魔で同じ光景しか見えない。すると、メルがソワソワするかのように首を動かしていた。

「……危ないかもしれない。急に一体、増えた」

「私も同じかな。トロールキングが二体になったと思う」

決心がついたのか、怖がっていたリズはもういない。表情をキリッと引き締めて走り続けている。

二人の情報を疑いたくはないが、色々とおかしい。魔物も生命体である以上、沸き出るように生まれはしないだろう。ましてや、キングと呼ばれる魔物が二体も現れるのは、明らかに違和感がある。

「そんなことあるのか? 異常な速度で繁殖しているにしても、急すぎるだろう」

「シャドウウルフが影を使って転移できるから、トロールキングがその力を奪ったんじゃないかな。普通のトロールキングは無理でも、亜種だったら可能性はあると思うの」

「厄介な魔物がいたもんだな。邪魔しないように、サポーターの俺は遠くで――」

「もちろん、ミヤビも手伝ってくれるよね? 前みたいにモグラ作戦で動きを止めてくれれば、一体は何とかなると思うの」

モグラ作戦? あぁー……、森の調査依頼に向かったとき、ブラックオークの討伐で使った穴掘りの策か。穴を掘って誘導し、攻撃のチャンスを作り出す罠で、後手で使うようなものじゃないんだが、やらないわけにはいかないよな。

「……じゃあ、もう一体はもらう」

「メル、一人で大丈夫か?」

「……めっちゃ頑張る!」

メルがガッツポーズを取る頃、森の木々がなくなり、視界が開けた場所が見えてくる。大きな湖の前では、体長が三メートルはあろうトロールキングが巨大な斧を持ち、ベルガスさんとレミィが挟み撃ちにされていた。

体格を活かしたパワーで巨大な斧が振り下ろされると、ベルガスさんが受け止めるが、表情は険しい。やっぱり足に怪我をしていたみたいで、踏ん張りきれていない印象がある。

当然、もう一体のトロールキングも攻撃してくるため、レミィが障壁を展開して、何とか防いでいるような状態。競り合うベルガスさんとは違い、レミィの方は一方的に攻められていた。

「どうしよう。こんなにゴンゴンされたら障壁が壊れちゃうよ~」

「うぐっ、まさか二体も現れるとは!」

予想以上にピンチなのは、二体目のトロールキングに奇襲されて、形勢逆転されたからかな。急にこんな化け物が二体に増えたら、精神的にも負担が大きいし、攻撃を食らっていてもおかしくはない。

「……先にもらう」

見ていられなくなったのか、レミィの方に加速して向かうメルは、トロールキングとの距離を詰めた。

小柄な体型を活かして素早く動き、抜剣してトロールキングに振り払う。

どごーーーんっ!! と、大きな音を立ててトロールキングは吹き飛んでいく。木々がクッションのように受け止めるわけもなく、ごんごんごーーーん! と激突して、次々に木々がへし折られていった。

「……斬れなかった。今日は剣の機嫌が悪い」

ペシペシッと剣を軽く叩くメルは、自分の倍以上も大きいトロールキングを吹き飛ばしても、まだまだ余裕がありそうである。なんなら、今の一撃でトロールキングを討伐してもおかしくはなかったはずだ。

初めてガッツリと戦うメルを見た俺は、完全に動きを止めてしまい、ちょっとビビっている。

「メルって、あんなにも力が強かったの?」

「剣の力を引き出してるだけだよ。あんな無茶なことばかりするから、すぐボロボロになって、ヴァイスさんに怒られるの」

そういえば、出会った頃に一度、ボロボロになったメルの剣を修理したことがあったっけ。俺の力量を測るために、ヴァイスさんに押し付けられたんだよなー。懐かしい。

「えっ!? ちょっと待ってくれ! ここでメルの剣が壊れたら、いったい誰が修理をすると――」

「そんなことはどうだっていいでしょ! 早くモグラ作戦をしないと、ベルガスさんが死んじゃうよ!」

ぐぐっ、悔しいけど、その通りだ。メルとレミィにはもう一体のトロールキングを任せて、俺たち三人で討伐しなければならない。怪我をしているベルガスさんが持ちこたえてるうちに何とかしないと、俺とリズでは助けられなくなってしまう。

「余計な真似はするな。すでに断ったはずだぞ。人族の力など借りなくても――」

「うるさいっ! 強がってる暇があったら、早く倒してよ! こっちだって、戦いたくて来たわけじゃないの! 次に文句を言ったら、怪我してる足にアイスニードル千本撃ち込むから!」

魔族よりも魔族らしい発言をした今のリズには、絶対に逆らってはいけないと、ベルガスさんも察しただろう。俺も口ごたえをする勇気がなく、スコップを握り締めて、穴を掘ることしかできないよ。

おそらく、護衛依頼でAランク冒険者を従えて部隊リーダーをした経験と、街道修理依頼で国の騎士団をまとめあげた経験が活きているんだ。今のリズには、魔族を従えるほどの統率力がある。

いや、ただキレているだけとも言うけど!

こんなところで親子喧嘩みたいな騒ぎを起こしたくないので、俺は黙々と掘り進める。ザクザクザクッと即席トンネルを作り、だいだいトロールキングの真下に来た辺りで、真上に方向転換。ところどころブロックを設置して足場を作り、地上を目指す。

もうそろそろかなーと思っていると、ボコッと穴が空いて、晴れ渡る空が見えた。

あれ、ちょっと場所をミスったかな……と思った瞬間、トロールキングの足がすぽっ! とハマり、デカイ足が俺の目の前に現れる! うお、危ね! と間一髪で避けた後、ブロックで身を守りながら地下へと戻っていく。

「ヤバッ! 蹴られかけたわ。この作戦をやるには、やっぱり事前準備が必要だな。こんなので死んだら、シャレにならん」

無駄に心拍数を高めた俺はそろそろっと逃げて、トンネルの入り口に戻ってくると、予想外の光景を目の当たりにした。

地上で撃退する予定のリズが、電柱クラスの巨大な氷の槍を生成していたんだ。半年会わないだけで、魔法の成長が著しいよ。

「アイスランス、五重展開ッ!」

ブシューッと飛んでいた氷の槍は、決して速くない。足を取られていなければ避けられると思うし、斧の強度にもよるが、振り払うことができるだろう。しかし、片足が地面に取られ、斧で振り払おうとした腕をベルガスさんに止められたいま、トロールキングが防ぐ手段はない。

迫り行く氷の槍を回避する手段はなく、ドスッ!! と刺さると、ドッシーン! と倒れ込んだ。それと同時にリズも尻餅をつくように座り込んだため、かなりの魔力を消費したことがわかる。

あとはもう一体のトロールキングのみ、そう思って振り返ると、何食わぬ顔でトロールキングの猛攻を受け止めるメルがいた。

力強く振り払われる斧攻撃に対して、ちょんっと添えるだけで防ぐメル。必死に暴れまわるトロールキングが情けなく見えるほど、メルはあっさりと処理していた。

そして、その後ろで白いオーラに包まれているレミィを見れば、メルが時間を稼いでいたことがわかる。

「ホーリーレイ!」

レミィから無数の光が放たれると、次々にトロールキングを襲う。

一方的に攻め続けていた影響もあるのか、トロールキングが対処できずにレミィの魔法攻撃を受け続けると、フラフラになって立ち尽くしていた。

そこへ、後方へ回ってジャンプしたメルが、勢いよく頭に剣を振り下ろす。

「……えい」

気合いのなさそうな声とは対照的に、どごーーーんっ! と頭に叩きつけられたトロールキングは、地面にめり込んでいて、もう動きそうにない。メルの武器ももう、使えそうにないけど。

さすがに、誰があれを直すんだよ……としか言えないな。でも、俺の心の声が聞こえていたかのように、メルがこっちに近づいてくる。

「……めっちゃ頑張りました。修理、お願いします」