軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話:ビッグブリッジ

崖と崖を結ぶ架け橋を作り始めて、四日が経つ頃。 竈(かまど) でレンガブロックを作製するクラフターたちが、障壁で強風を防いでくれる騎士たちと共に、着実に架け橋を作り続けていた。

特に頑張っているのは、ヴァイスさんの弟子であるクレス王子とカレンの二人になる。

最前線で架け橋を作り続けるクレス王子が、どんどんと先導するように橋の形を作り上げていく。頭にしっかりと設計図が入っているみたいで、彼が迷うことはない。ポンポンポンッとレンガブロックを設置し、みんなを引っ張ってくれていた。

一方カレンは、恥ずかしがり屋なことも影響しているのか、設置場所がわからなくて戸惑うクラフターに優しく教えている。間違えてブロックが置かれた場所や強度の弱そうな部分も見つけてくれるし、丁寧に修正作業をしてくれるため、兄弟子のフォローも完璧だ。

見事なクラフターたちの連携プレイのおかげもあり、作業工程が折り返し地点までやってきて、順調に進んでいるように見える。しかし、その光景を眺める俺とリズは、不満を抱いていた。

「俺の気のせいだといいんだけど、思ったよりも小さくないか?」

大きな馬車がすれ違っても通行できるくらいの広さを確保したのに、崖から崖までの距離が百メートル近くあるため、小さく見えてしまうんだ。折れそうで不安になるし、魔物の襲撃で壊れそうな印象を受ける。

「なんかさ、ミヤビにしては控え目だよね。驚くところがないんだもん」

周りにいる騎士が「十分にすごいだろ!?」と挙動不審になったとしても、俺たちが求めているものではないんだよな。非常識なクラフト計画を立てたはずなのに、頑張ったら作れそうな常識の範囲内に収まっている気がする。普通にクラフターたちが受け入れて作業しているのが、何よりの証拠かもしれない。

「俺だけで作る建築物じゃないし、心のどこかで抑えてたのかもしれないな」

竈(かまど) でレンガブロックを生成するクラフターが「何を言ってるんだよ、隊長!」という雰囲気で、恐る恐る見てきたとしても、これが俺の本心だ。

「私もそう思う。せっかくヴァイスおじさんが後押ししてくれたのに、これで完成したら、ガッカリさせちゃうかもしれないよ。もっと非常識な橋にしないと、完成しても話題にならないと思うんだー」

ヴァイスさんに育てられ、いつも傍にいてくれるリズが言うなら、間違いない。現状のまま架け橋を完成させたら、誰の心にも響かない建築物が誕生してしまうだろう。

騎士が「明らかに近代的で非常識ですよ!」と言い始めても、クラフターが「こんな立派な橋は鍛冶師でも作れません!」と言い始めても、このままじゃダメだ。

本来であれば、半年以上かかって修理するはずの街道復旧作業。たった一週間の整地で雪崩の影響を無くし、もう一週間で架け橋が完成しようとしているいま、きっとみんなは浮かれすぎているに違いない。冷静に判断できていないから、この架け橋がすごく見えているんだ。

偶然近づいてきたアリーシャさんにも、意見を聞いてみよう。公爵家の専属メイドとして選ばれた彼女なら、誰よりも物事を冷静沈着に判断できるはず。

「ミヤビ様、カボチャのポタージュをもう少しいただいてもよろしいですか? どうしても味の深みが違う気がして」

「インベントリにたくさん作ってありますから、全然大丈夫ですよ。ところで、アリーシャさんから見て、この架け橋はどう思います?」

「どう思うかと聞かれましても……まだまだ製作途中ですよね。ミヤビ様のことですし、ここから大きくされる予定ではないのですか?」

キョトンッとしたアリーシャさんの顔を見て、俺は確信した。求められているものは、もっと非常識な橋なのだと。絶対に崩壊しないほど立派な、ビッグブリッジが求められているのだと!

このまま完成させたら、クラフターたちの明るい未来が閉ざされてしまう。すぐに折れそうな危険な橋だと認定され、国の繁栄を妨げると評価されたら、クレス王子とシフォンさんの結婚さえもなくなる可能性が……。

そう思ったとき、俺の中の何かが警告を発するかのように、胸が痛くなった。VRMMO時代に作製した、 月詠の塔(愛のキューピッ塔) が崩壊していくような気持ちになったんだ。

「今の橋をベースに、三倍は大きくする予定です。材料は大量にありますので、問題ありません」

大きなものを失ってしまう気がして、思わず勝手に計画を変更してしまった。でも、意外に良い案な気がする。大きすぎず小さすぎない、程よいサイズで架け橋が拡張できると思う。

現場が凍りついたような気がするけど、ひとまず気にしないでおこう。レンガブロックを作りに戻ってきたクレス王子が真顔になったとしても、気にしてはならない。

なぜなら、常識人であるリズとアリーシャさんが頷いて、納得してくれているから!

「そうだよね。三倍ぐらいが非常識っぽくて、ちょうどいい気がするかな」

「私もそう思います。遠くから見たときの印象が変わりますし、それくらい大きな架け橋でないと、お嬢様もガッカリされると思います」

悩みが解消されてスッキリした俺は、アリーシャさんにカボチャのポタージュを渡して、食堂に戻る姿を見送った。そして、真顔のまま固まっているクレス王子の元へ詰め寄り、そっと肩に手を添える。

「申し訳ないんですけど、街まで食料の買い出しに行ってもらってもいいですか? ペースを上げたら、あと十日程度でできると思いますので」

パシリである。途中経過を王城に報告しないと予算も下りないだろうし、クレス王子のインベントリなら、十日分の食料が入ると思う。

「ミヤビくん? 少し冷静に考えた方がいいと思うよ。ほらっ、よく見てよ。クラフターのみんなで作る架け橋が、綺麗にアーチを描いて向こう岸に渡ろうとしている。僕が言いたいこと、もうわかるよね?」

真剣に訴えてくるクレス王子を見て、何か見落としているものがある気がした。そう、これは九年前にクレス王子が『希望への架け橋』と称賛され、ようやく作り上げることになった建築物。つまり、希望要素が足りない、クレス王子はそう言いたいんだろう。

「わかりましたよ、クレス王子が言いたいこと」

「そ、そうだよね。作っている側からすると、神経も使う場所での作業だし、さすがに三倍の規模は――」

「架け橋の近くに、シフォンさんと結婚するための教会を作れ、そういうことですね?」

「ミヤビくん? 何を言って――」

「わかってますよ。国の希望とも言える存在は、これからの時代を作る子供たちです。この場所でシフォンさんと結婚して、元気な子を宿し、明るい未来を歩みたい。そのためには、ここに教会が必要なんですよね!」

期待通りの言葉を伝えた影響だろうね。クレス王子が言葉を失ってしまったよ。それならば、早速取り掛かるとしよう。

クラフターは、橋の続きと拡張を。騎士団は、引き続き警備を。俺は教会の建設を始め、クレス王子はパシリで買い出しに! よし、完璧な修正案が完成した!

ちょうどノルベール山を採取した際、大量の石が発掘されてるんだよなー。【ハンドクラフト】でツルツルの石材にして、綺麗な教会を作るとするか。砂を焼いてガラスを作った後、花で染色をしたら、ステンドグラスも作れると思うんだ。

今まで教会は建築したことがなかったし、燃えてくるぜ! 飛びっきり芸術的なステンドグラスを作って、いつでもクレス王子とシフォンさんの二人が結婚できるようにしておこうか!

久しぶりの建造物にワクワクする俺が、ぽぽぽぽーんっ! と高速で石ブロックを設置していく。

今までみんなのクラフト作業を見守り続けてきた反動か、自分で活き活きしていることがわかる。 竈(かまど) でレンガブロックを作るクラフターたちがドン引きしようとも構わない。仲間であるリズが安堵してくれているし、弟子であるカレンがやって来て、尊敬の眼差しを抱いてくれている。

「やっぱり師匠はすごいのです!」

「ようやくミヤビっぽくなってきたよね。この異常なスピード感がないと、見ててもクラフトしてる感じがしないんだもん」

きっと俺に隊長なんて重い役職は合わなかったんだ。王子でもないのに、人の上に立つべきじゃないよ。これからは一兵卒として、非常識な教会を作り上げよう。

弟子のカレンが見守ってることだし、昔から男は背中で語る、そう決まってるんだ!

「ボヤボヤしてる暇はないのです! 師匠が何かを作る間に架け橋を完成させないと、なんか負けた気分になるのです!」

「あっ、架け橋は三倍に拡張してもらってもいいか?」

「ぎょえええ~! クラフターに求める規模じゃないのです~!」

カレンの絶叫が、こだました。