軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第99話:慌ただしい隊長

二日後、雪崩が起きたノルベール山はいま、物凄い勢いで削り取られていた。

足場が見つからないほど急な崖がいくつもあり、目の前で土砂崩れが起こるほど地盤が緩い。事前にアリーシャさんから、そう教えてもらったはずなのに、俺たちには関係がなかった。

クラフターは素材をブロック化させられるため、足場を簡単に作ることができる。この機能が有能なのは、耐久力がなくならない限り、設置場所にブロックが完全に吸着することだ。よって、ブロックを繋ぎ続けていけば、空中に階段作るなんて芸当や、ブロックで作った陸地を浮遊させるなんて離れ業ができる。

なお、これは巨大な建造物を作ったものに与えられる【ブロック吸着】のスキルによる影響だ。そのため、俺にしかできない。

昨日は一日かけてノルベール山を囲むように、俺が安全に作業するための足場を設置しておいた。山頂へ向かうには階段を上り、麓まで下りてくるときはロング滑り台を使って帰還できる構造になっている。その結果、本日よりノルベール山の整地が開始されたのだ。

すぐにインベントリがいっぱいになるクラフターが多く、山頂で少し掘っては山の麓に戻ってくる。採取したものは大切な資源であるため、俺に提出してもらっていた。

「隊長、B区画で硬い鉱物を発見しました!」

「案内しろ! 俺がツルハシで掘るぞ!」

隊長と呼ばれることに慣れ始めた俺は、素材を回収するだけでなく、たまに報告が上がる鉄鉱石やミスリル鉱石の採取へも、距離が近い場合は向かう。

ササッと行ってサックリと掘り、麓に滑り台で帰還するだけだ。今のところは鉄鉱石ばかりだけど、ありがたい。これで鉄製品は作りたい放題になるだろう。

当然、外でこんな作業をしていれば、空を飛ぶ魔物がやって来る。しかし、広々とした足場は騎士団とリズが警備をしているため、何も問題はない。

「東から三体のグリフォンが来ます! 広範囲の遠距離魔法を撃って牽制してください。頭のいい魔物なので、分が悪いと思わせて追い払いましょう!」

リズの的確な指示の元、騎士団の暴力的な魔法攻撃で追い返し、足場とクラフターを守ってもらっている。攻撃されて足場が崩れると崖に落ちるため、全員が必死だ。

そんなクラフターと騎士団と冒険者の共同作業で、着実にノルベール山を削るなか、山の麓に建設した食堂にも、俺はたまに顔を出さなければならない。

「これが今日の昼ごはんに出す予定の、照り焼きチキンサンドです。こっちが夜に食べる、から揚げになります」

クラフト料理研究を進めるアリーシャさんと副料理長に、新作料理を出してあげているんだ。

「ミヤビ様、料理に使う材料も別でいただいてもよろしいですか? 必要なものがわかれば、円滑に進むと思いますので」

「わかりました。料理別で置いておきますね」

アリーシャさんに言われた通り、調理場の端に料理の材料を置いていると、扉がバンッ! と開かれる。何事かと思って確認すると、そこには血相を変えたカレンがいた。

「師匠、急にインベントリが大きくなったのです……!」

唯一、俺のことを師匠と呼んでくるカレンが、初日で大きな成果を上げるのも当然のこと。アンジェルムの街で大量の雪を採取しているカレンだけはスキルレベルが違うし、経験値も多く貯まっている。

「見てほしいのです! こんなにも土ブロックを置けるのですよ~!」

扉の前を巨大な土ブロックの壁で封鎖しちゃうくらいには、本人が喜んでいる。今までより大きくなったとはいえ、山の整地が終わる頃には、もっと大きくなる可能性が高い。

大量の天然資源を採取して、採取スキルのレベルを効率よく上げられる機会は限られるし、今のうちにもっと頑張ってくれ。本当にインベントリが大きくなったと他のクラフターたちに自慢すれば、みんなのやる気がとんでもないほど上昇するぞ。

「それなら、もうそろそろ採取効率が高まるスキルを覚えるはずだ。急に掘れる量が増えるから、ビビって変な声を出さないように気を付けろよ」

「はいなのです! 頑張って山をぶっ壊すのです!」

ちょっと目的が変わり始めてるようなカレンを見送り、俺はツルハシを取り出して、カレンの土ブロックを採取する。

他人のブロックはツルハシじゃないと採取できない、そういうルールがあるんだ。スコップで取ろうとした場合、耐久力が削られるだけで破壊されてしまう。土ブロックは建物を作る際に役立つし、ノルベール山の土は粘土質のため、余分に取っておきたい。

すべての土ブロックの採取を終えると、今度はクレス王子がやって来る。

今回の街道工事は俺を中心に作業が動いているため、やることが多い。みんなが真剣に取り組んでるし、今はフォローしてやるだけで精一杯だ。

「ミヤビくん、手持ちのスコップがなくなりそうなんだ。早い子だと最後の一本になってるし、もう一回分けてもらってもいいかな」

ノルベール山の土と石を採取する際、俺が大量にスコップとツルハシを作り、クラフターたちに手渡している。俺のクラフトスキルは品質向上するため、強度が高い。消費する素材の量と作業効率を考えて、スコップとツルハシを配布することにしたんだ。

「わかりました。じゃあ、他の子には次の素材回収のときに渡します」

「助かるよ。興味本位でスコップを自作して掘ってみたら、思ったより硬くて、すぐに壊れちゃったんだ。まさかスコップの一つでも、ここまで差があるとは思わなかったよ」

土砂崩れが起きやすい山とはいえ、硬い粘土でできている山を掘るのは、かなりきつい作業だ。その分、経験値効率がいいとも言い換えられるけど、地面の反発力が強くて、手が痛くなりやすい。

でも、みんなクラフトスキルを上達させる一心で、泣き言の一つも言わず頑張ってるよ。カレンと同年代のまだ若い女の子も、服や髪が汚れても気にしないほどにね。

「クレス王子なら、早い段階で強度の高いスコップを作れるようになると思いますよ。作ってもらった食堂のテーブルも、かなり出来がいいですから」

「あれはクラフトスキルを多重起動させて、同時にリペアも展開した結果で、けっこう見栄を張っているんだよ。レッチャーの多重起動と、バルスクの合成魔術を応用したもので、魔力消費が著しいんだ」

魔法理論をクラフトスキルに応用させるなんて、クレス王子は俺よりも遥かに非常識な気がする。

「興味深そうな話ですけど、深く突っ込むのはやめておきますね。リズの魔法学の話を聞くだけでも、頭がパンクしそうになりますので」

「その方が賢明だと思うよ。基礎理論の話から始めようと思うと、三か月はかかる気がするから」

苦笑いを浮かべるクレス王子にスコップをいくつか手渡し、山頂へ向かう背中を見送った。

国民の期待に応えるためとはいえ、どれだけ勉強したら、魔法の理論をクラフトスキルに応用できるんだろうか。魔法学園の教師から教えてもらうだけでなく、色々と自分でも研究してるんだと思う。頼りなさそうに見えることが多いけど、とんでもない努力家だよ。

貴族の地位に溺れない王族はすごいな……と感心していると、不意に、アリーシャさんが俺の顔をヒョコッと覗き込んできた。

「お忙しそうですね、隊長様」

時折見せるアリーシャさんのメイドらしからぬ行動と発言に、ちょっとズルいと思ってしまう自分がいる。普段、他の人をからかう姿を見せないのになー……。

「隊長呼びはやめてください。アリーシャさんにそう呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしいです」