軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話:落とし穴

ドドドドドッ バキバキッ

「ンンッ、メエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

悲痛なグラウンドシープの叫び声が、平原にこだました。

バキバキバキバキッ

「ンンッ、メエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

「ンンッ、メエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

それも、三体ほど。

遠方にいるグラウンドシープをリズに魔法で牽制してもらったら、闘牛並みの突進で爆走してきた。群れで確実に仕留めようとするグラウンドシープは、途中で二体が迂回し、三方向からの突進攻撃を試みる……が、三体とも落とし穴に落下した。

「嘘じゃん。私、こんなの知らない!」

なぜか現実逃避するリズが、頭を抱えて落ち込んでいる。

今回作った落とし穴は、逆ドーナツの円形型。中心部に俺とリズが立って誘い込み、落ちたグラウンドシープを上から攻撃するという戦略だ。高さは十メートル、幅五メートルもあるため、四つ足の魔物が登ってくることもなく、安全な設計となっている。

「これは落とし穴って言ってな、予め掘った穴に敵を落とす罠で――」

「それくらいは知ってるから!」

冗談なんだし、そんなに怒るなよ。

「単純な罠とはいえ、落とし穴をなめるのはよくないぞ。しっかり魔力で加工すればバレにくいから、クラフターの基本戦術なんだ」

これはVRMMO『ユメセカイ』のクラフターの中では、比較的採用される戦術の一つ。敵が遠方にいて気づかれていないことや、重くて空を飛べない魔物など、一定の条件が重なった場合、恐ろしい効果を発揮する。

落下によるダメージを与え、一方的に攻撃ができる状況を作り出すほどに。まあ、カッコよく言ったところで、ただの落とし穴なんだけどな。

「どこまでが地面で、どこからが落とし穴なの?」

何より、クラフターが採取した素材は魔力で加工して誤魔化せるため、落とし穴がバレにくい。板状にした樫の木の上に土をかぶせて、ついでに採取した平原の草をばら撒いた後、全体に魔力をなじませれば、落とし穴があると知ってるリズでも判断できずにいた。

「よーく見たらわかるぞ。魔力で加工したところは、ちょっとだけ草の生え方が変わるんだ」

「あっ、本当だー。言われてみると意外にわかるー。あはははって、わかるか! どこが境界線かちゃんと教えて!」

意外にリズは、ノリツッコミができるタイプなんだな。いや、本当のことを言ったんだけどさ。

落とし穴と地面の境界線まで歩き、指を差して伝えると、リズは石橋を叩いて渡るかのように、足でトントンッとノックをしながら進む。本当にどこまでが地面なのか見分けがつかず、半信半疑なんだろう。

地面から板に変わり、足で叩く音が変わる場所までやって来ると、四つん這いになって近づき、木の板を持ち上げた。そこからソーッと覗き込むと、表情が一変。腕で目をゴシゴシと擦り、何度も瞬きさせている。

「ン、メェェ……。ンンン、メヘェェェ……」

勢いよく落とし穴にハマったグラウンドシープが、足を負傷して動けなかったんだ。お手上げなので討伐してください、と言わんばかりに腹を見せている。

「嘘……瀕死になってる。一体討伐するだけでも、細心の注意を払うべき魔物なのに」

いくら凶暴な魔物でも、高さ十メートルの位置から突然落下したら、さすがにうまく着地できないよな。体重が重いと負荷も大きいし、顔面から落ちたであろう一体のグラウンドシープは、角が折れて動いていない。

「ねえ、後で大事な話があるんだけど、聞いてもらってもいい?」

「出会って二日目なのに、そんな――」

「愛の告白じゃないよ! どう考えてもこれはおかしいでしょ、もう! トドメを刺すから、少し離れてて」

リズがピリピリしているので、俺は言うことを聞いて距離を取った。深呼吸して呼吸を整えたリズは、杖を握りしめ、一本の氷の槍を作り出す。

どんどん硬質化するかのように、パキパキッと何度も音を立て、氷の槍から冷気が放出されている。威力を高めているように見えるが、俺はこんな魔法の使い方を知らない。

VRMMOの世界の魔法とは、また少し違うみたいだ。

「集中してるところ悪いんだが、大丈夫なのか? 随分としんどそうに見えるぞ」

「グラウンドシープは、けっこうタフな魔物なの。確実に仕留めるには、【魔法チャージ】で威力を高めた方がいいから」

魔法チャージ、か。魔力を大きく消費して威力を高める、魔法使いのスキルみたいなものかな。その分、魔法コントロールが難しく、術者への反動も強そうだが。

「アイスジャベリン」

勢いよく放たれたリズの魔法は、一直線に飛び、グラウンドシープを射止める。刺さるなんてレベルじゃない。地面まで貫通するほど、威力が高い。

大きな息を吐いたリズは、もう一体のグラウンドシープも同じ魔法で討伐。すでに角の折れたグラウンドシープは、弱い魔法で突いても動かなかったため、討伐済みと判断した。

「はぁ~。なんで三分でこんなに大きな落とし穴ができてるんだろう。グラウンドシープにトドメを刺すだけでいいなんて、頭が追い付かないよ……」

魔法チャージで疲れ果てたであろうリズには、ちょっと休んでいてもらおう。巨大な落とし穴を放置するわけにはいかないし、グラウンドシープも早く回収したい。新鮮な魔物の素材は、冒険者ギルドが高額買取をしてくれるから。

安全に下へ降りるため、落とし穴を作るときに採取した土を使い、建築で使うブロックを作製する。

大きさ五十センチの立方体で、インベントリ内に簡単に変換できるメジャーなアイテムになる。ブロック同士を繋ぎ合わせることで結合する機能があり、これを積み上げて建築するんだが……それはまた今度だ。今日はブロックを繋ぎ合わせて階段を作り、落とし穴を降りるだけ。

すぐに落とし穴を埋める予定なので、ブロックをポンポンポンッとリズミカルに設置。出来上がった階段で落とし穴の下に降りると、討伐したばかりのグラウンドシープをインベントリに回収した。

あとは土をばらまいて元通りに復元だ。インベントリから土を取り出すだけで、特に苦労することはない。

何事もなく穴を塞いだら、最後に土の表面に魔力を流して、できる限り自然な形に戻しておく。

意外に落とし穴を掘るのは楽しいんだよなーと満足していると、不審者を監視するような眼差しのリズと目が合った。

「さっき、グラウンドシープを三体ともインベントリに入れたよね?」

「討伐した魔物を持ち運ぶのが、サポーターの仕事だからな」

「そうだね。サポーターとしては満点だと思うよ。でも、巨大な落とし穴を掘った大量の土を入れて、グラウンドシープまで入っちゃうインベントリって、何?」

「……インベントリだろ。自分で言ってるじゃん、インベントリって」

「いや、確かにそうなんだけど。でも、インベントリの容量が……まあいっか。とりあえず、休憩してパンでも食べよう」

やってられないわ、と、どこか投げやりな雰囲気を漂わせるリズと一緒に、昼休憩を取るのだった。