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「団長の好きな人って誰ですか?」

作者: 白雲八鈴

本文

「団長の好きな人って誰ですか?」

私のプライベートのことを思いっきり聞かれてしまった。好きな人……っと言われて一人思い浮かんだけど。

「飼っている猫だね。とても可愛いんだよ」

「団長。ペットを飼っちゃうと結婚できないって言われるっすよ」

「猫ちゃんがすごく可愛いのよ。疲れて帰っても、ふてぶてしく廊下で伸びて通るの邪魔してくるの」

「それ可愛くないっしょ! 俺は犬派っす!」

犬は子供の頃のトラウマが蘇るから嫌いなの。

私よりでっかい犬が袖口を噛んでブンブン振り回すの。あれでお気に入りの服が破けて、コケて、池に落ちてから犬は嫌い。

「ここで油売ってていいのかな? そろそろ午後の訓練だよね?」

今は昼休憩中だけど、そろそろ午後の訓練が始まる時間帯になる。

「はっ! ヤバいっす! 班長に怒られる!」

今私に話しかけてきたのは、青騎士の子だよね。何で私にそんな事をきいてきたのかな?

はっ! まさかいい年して未だに騎士団にいるから、いつまで上に居座っているんだって、言いに来たのかな?

「そろそろ退職を考えるべき?」

でも騎士団にずっといるから、今更別の職って何ができるって感じ。

ため息を吐きつつ食後の珈琲を飲む。

同期の女性騎士で残っているのはもう片手で数えるほどだよね。25歳は流石に行き遅れだし、再就職も難しい。

「お辞めになるのですか?」

その声にドキッと心臓が大きく揺れ、耳障りなほどドキドキと大きく鳴りだした。

冷静に、冷静になるのです。

自分に言い聞かせて、声がした方に視線を向ける。

そこにはよく知っている人物がトレイを持って立っていた。

「白騎士団長様は今から昼食ですか? お忙しいのですね?」

「それはお互い様でしょう。黒騎士団長」

私を黒騎士団長と呼んだのは、アルヴァンドール公爵家の次男にあたるレイモンドだ。

白騎士の名がよく似合う銀髪に金色の目が印象的な麗人がそこに立っている。

「私は魔導騎士ですから、そこまで忙しくないですよ」

はい、この方が私の好きな人なのです。

ですが、この想いはこっそりと蓋をして閉じ込めておく。

「お隣よろしいですか?」

「いいですよ。そろそろ休憩を終えようと思っていましたから」

隣にいると私がドキドキするので、空の食器を載せたトレイを持って立ち上がる。

だけど、そのトレイの上に黄色みかがったぷるるんとした物体が鎮座したではありませんか。

ちらりと隣を窺い見る。これを私にくれると?

「デザートはいかがですか?」

「いただきます」

私が大人しく再び腰を下ろすと、クスリという笑い声が聞こえてきた。

う……絶対に昔と変わらずに食い意地が張っていると思われている。

「それでどうして辞めようと?」

隣に座ってきたレイモンドが聞いてきた。私の独り言を拾わなくて良いよ。

「なぜか全く関わりがない青騎士の子から、好きな人は居ないのかと聞かれてね。これはいつまで団長に居座っているつもりなのかと言われているのかと思っただけ」

そう言って、プリンを一口食べる。

うまっ! ここのデザートって別料金取られるけど凄く美味しいんだよね。

給料日の自分へのご褒美ぐらいしか、食べないけど。

「ほぅ」

何故か温度がない声が聞こえてきて、思わず隣を見てしまった。だけどいつも通りのレイモンドに見える。

きっと気の所為だ。

「因みに答えたのですか?」

「え?」

「アリアの好きな人」

本人にそう言われると凄く複雑な気分。

「飼っている猫が可愛いという話をした。もう黒ちゃんが可愛くって、いつもツンケンしているのに、餌を与えるときはおねだりしてくるの」

「黒猫にクロと安易な名前をつけるアリアもどうかと思いますが、可愛いから許せますね」

「そう黒ちゃんは可愛いから……」

何か私が馬鹿っぽくて、可愛いみたいなことを言われなかった?

「さっき私を馬鹿って言った?」

「昔からアリアは可愛いですよ」

それ私が成長していないって言っている!

た……確かに身長は途中で止まってしまって、背が高くなることはなかったけど!

「それ成長していないって言っている」

「そんなことは言っていませんよ。アリアはいつも私の先を歩いていて、置いていかれるのは私の方なのですから」

「それこそ、そんなことはないよ。私は早く大人にならないといけなかったから、ただそれだけ」

しかし、いつまでも騎士団にいるわけにもいかない。団長クラスは最高任期は十年。長く居座っても後五年。その時は私は三十歳。

お金は老後のためにためているから、何処かの田舎に小さな家でも買うかな。

いや、その前にどこかで護衛として十年ぐらい働けるのではないのだろうか。

「アリア。何を考えているのですか?」

「団長職もあと長くて五年だから、そのあとどうしようかと思ってね。十年ぐらいはどこかで護衛として雇ってもらえるのではないのかと考え中なの」

「そうなのですか? ……いい再就職先なら今すぐにでも紹介できますよ?」

いい再就職先? 今まで騎士しかやってない私でも大丈夫なところなのだろうか。

女のクセにいつまでも団長職にかじりついているのだと、遠回しに言われるよりいいのかもしれない。

「因みにどういう仕事?」

「……特に何もしなくていいと思います」

「それはどういう意味?」

「私のところに妻として再就職しませんか?」

「は?」

レイモンドのところにツマとして再就職?

つま……ツマ……妻!

心臓がバクバクしてきた! なに! 妻として再就職って!

無理に決まっているじゃない!

アルヴァンドール公爵家の次男と親が死んで爵位がなくなった元子爵令嬢なんて釣り合わない!

「どこぞの馬の骨に横取りされるぐらいなら、今言います。私と結婚しませんか? アリア」

ななななんてことを、多くの騎士たちがいる食堂で言うの!

周りがものすごくざわめいているじゃない!

ここで断ったら、私の印象が最悪じゃない!

「……ここで言う事?」

「そうですね。父がずっとアルヴァンドール公爵家にいていいと言っていたにも関わらず、誰も相談せずに騎士団に入ってしまいましたよね?」

私が十歳の頃に両親が事故に遭い死んでから、アルヴァンドール公爵家で世話になっていた。

それもアルヴァンドール公爵令嬢並の待遇で。確かに私の母はアルヴァンドール公爵の妹で、父と駆け落ちして私が生まれたらしいけど、そこを勘違いするほど私は愚かじゃない。

「いつまでもお世話になるわけにはいかなかったから」

「私が将来結婚しようと言っていたのに?」

「……身分が違うもの」

あれは、子供同士の口約束だったもの。

「では、今は同じ団長職についているから大丈夫ですよね?」

「うぐっ。何かが違う気がする」

「はぁ、相変わらず頑固ですね。アリアは」

何故かため息を吐かれてしまいました。

「それでは、先ほどアリアに声をかけた者が誰か教えてください」

「え? だから知らないって……というか何故?」

「アリアの好きなヤツを聞いてこいと言った者をしばくためですね……で、誰ですか?」

だから私は知らないって言っているじゃない。

「青騎士団の今年入ったエスター・カルフェオン従騎士です!」

「今まで駐屯地配属だったので知らなかったのだと思います!」

「可哀想なのでほどほどにしてくださいね、団長」

次々と周りから声が上がってくる。ナニコレ?

「すぐに戻ってくるので、少し待っててくださいね。アリア」

ちょっと忘れ物を取りに行く感じで立ち上がるレイモンド。

ちょっと待って! どうして私が了承しないことが、誰かをしばくことになっているの!

私は何処かの誰かをしばきに行くというレイモンドの隊服の裾を掴む。

くー……心臓が飛び出そう。素直になれ! 私!

「再就職してもいい」

結局、私はレイモンドが好きなのだ。

昔から好きなのだ。

絶対に耳まで真っ赤になっていると思う。

「え! 本当にですか! 結婚式は明日でいいですか?」

「……それは早すぎるかと……」

沸き立つ食堂内で、何故か結婚という私の再就職が決まってしまったのでした。