軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十六話「日記 後編」

翌日。

日記の続きを読むことにする。

とはいえ、どうやらシルフィが死んでから、しばらく日記を書かなかったらしい。

昨日読んだ所から紙質が変化していた。

書かなかった期間は1年か、2年か。

あるいは、もっと長いかもしれない。

5年か10年か……。

その間、何があったのか、よくわからない。

ただ、日記の内容がかなり軽薄なものに変わっていた。

町中で見かけたネーちゃんの胸がどうの、ケツがどうの。

新しくできた酒場のウェイトレスを落とすだの。

娼館めぐりをして、どこの店が一番だの。

まるでDQNのような日記だ。

かなりゲスい事も書いてある。

ある日など、それまで抱いた女にランクまで付けていた。

本当に俺なのだろうか。

シルフィもロキシーもいなくなったら、俺はこんな風になってしまうのだろうか。

ともあれ、そうして何年かはそうやってナンパに生きていたのだと思う。

場所は明確には書いていなかったが、いくつか知っている店の名前が出てきたので、恐らく魔法都市シャリーアだろう。

アイシャ、ノルン、リーリャ、ゼニス、そしてルーシー。

そのへんの名前は、不気味なほどに出てこない。

たまにザノバやジュリの名前が出てくるぐらいだ。

あろう事か、この頃の俺はジュリにまで目を付けていた。

あれだけ一生懸命俺やザノバの教えを守ってきたジュリを、性欲のはけ口にしようと企んでいるのだ。

これが自分だとは思いたくない。

いや、俺ならありうるか。自暴自棄になって下半身を持て余して、顔も体も金もあるという今の状況なら……。

あと、エリスだ。

この頃の俺は、エリスから逃げ回っていた。

エリスもシャリーアに住んでいるらしく、出会う度に不機嫌そうな顔でぶん殴られていたようだ。

『そのうち捕まえて酷い目に合わせてやりたいが、復讐が怖いのでノータッチで行きたい』と書いてある。

ヘタレなことだ。

だが、エリスに対する複雑な気持ちのようなものも読み取れる。

この頃の俺は、まだ彼女とやり直したいと、少しは思っていたのだろうか。

シルフィとロキシーの事を考えると、真面目な恋愛のようなものが出来なくて、こんな形になっていたのだろうか。

書いてある内容と行動に、すこし齟齬がある気がする。

いくつか、不穏な事も書いてあった。

この頃の俺やザノバは、ミリス教団から賞金を掛けられていたらしく、賞金稼ぎや刺客がちょこちょこと顔を出していたらしい。

大した相手ではなく、全て返り討ちにしていたようだが……。

と、思ったら、あるページから、また日記の内容がガラリと変わった。

また、年月が経過したらしい。

何があったのかは、書いていない。

ついでに言うと、ページ毎の紙質もかなり違う、書いた日が不定期なのだろう。

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ノルンの絵本とルイジェルド人形の売れ行きは好調である。

また、魔法大学の協力で、俺の無詠唱魔術が正式に授業に組み入れられる事となった。

ミリス神聖国はアスラ王国を通じて、ラノア王国に俺の引き渡しを要求しているようだが、魔法三大国は俺に利用価値がある限り、要求に応じる事はないだろう。

中央大陸の戦争は赤竜山脈がある限り、攻め込んだ方が圧倒的に不利だからな。

アスラ王国はまだ俺が首都の一部を焼失させた犯人だとはわかっていないらしい。愚かな連中だ。グズばかりなのだろう。

ザノバの自動人形が完成に近づいている。

思った以上に時間が掛かってしまった。

しかし、当時のようなわくわく感は無い。

どうして、俺はこんな事をしているのだろうか。

自動人形が完成した。

シルフィそっくりに作られた自動人形。

彼女は自分の意思を持ち、自分で思考して行動する。

ついでに、俺の言うことは何でも聞いてくれる。

従順で素直で少しだけ嫉妬深い部分もあって、かつてのシルフィを見ているようだ。

けれど、これじゃない。

これじゃないんだ……。

俺はシルフィ人形を破壊した。

ザノバが怒るかと思ったが、逆に謝られた。

申し訳ないのはこちらだ。

ザノバには、感謝してもしきれない。

こいつだけは、裏切らないようにしよう。

シルフィともロキシーとも違う人形を作った。

その個体はザノバによりフォーティと名付けられた。

なぜその名前かと聞くと、14番目の傑作だからだと胸を張っていた。

フォーティの姉妹機を量産し、魔法三大国に売る事になった。

お得意様が国というのがいいな。

軍事用としてどれだけ使えるかは分からないが、俺とザノバの技術の粋だ。

そこらの騎士や冒険者よりは強いはず。

それにしても、やることが無くなったな。

次は、なんの研究をすべきか。

なんだか知らんが、ひさしぶりにやる気ってものが出てきた気がする。

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ザノバの研究は完成するらしい。

しかし、その理論については、書いていない。

研究レポートは別にまとめたのだろう。

そういう事が書いてあれば一気に研究も進むかと思ったが……。

いや、いらないか。

今のザノバは楽しそうだし、過程も大事だ。

と、思ったら、次のページから、ガラリと変化した。

また、そのページだけ、涙の跡でページがヨレヨレだった。

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夢にヒトガミが出てきた。

まだ肩にあいつの手の感触が残っている。

憎い。

あいつが憎い。

俺は強くならなければならない。

ヒトガミを殺さなければいけない。

絶対に、そうしなければならない。

あのクソヤロウを殺さなければ、シルフィもロキシーも、ロキシーの子供も浮かばれない。

そして、俺の気も晴れない。

そういえば、出て行ったリーリャ達は、元気でやっているのだろうか。

ルーシーはどんな子に育ったのだろうか。

シルフィに似て、美人になっただろうか。

ちゃんと勉強はしているだろうか、ご飯は食べているだろうか。

……なぜ、俺はシルフィが死んだあと、もっとちゃんとしていなかったのだろうか。

アイシャだけは戻ってきてくれて世話を焼いてくれているが……今更書いても、詮無いことか。

悔やまれる。

どうやって強くなればいいのか。

魔術を鍛える?

王級、帝級の魔術の使い手を探すか?

いや、今までの傾向を見るに、聖級以上の魔術は規模が大きいだけで、あまり戦闘では使えない。

電撃のような例外もあるが、攻撃手段にはあまり事欠いていないのが現状だ。

問題は防御と立ち回り。

俺は闘気を纏えず、スピードと防御で遅れを取ってしまう。

どうすればいい。

ある文献に、闘神の事が書いてあった。

闘神は黄金の鎧を身にまとう事で、その身体能力を何倍にも増加させたという。

その事をザノバに話してみた所、ザノバが案をだしてくれた。

『ザリフの義手』で全身を覆うのだ。

考えてみれば、俺は闘気を纏えないが、義手に魔力を注げば、普段以上のパワーを発揮できる。

外装を俺が作れる最高の硬度で作り、それで全身を覆う鎧のようなものを作れば……。

よし。

ザノバの協力を得て、俺専用の全身鎧が完成した。

2メートル強。

かなり大きなサイズになってしまった。

しかも、魔力の消費量が大きすぎて、俺しか扱えない。

その俺でも、そう何日も着続けることは出来ないだろう。

半分、粗大ゴミだ。

もし、クリフが生きていれば、もっと効率のいい鎧が完成したかもしれないが……。

言っても詮無い事だ。

とりあえず、某ゲームを真似て、『 魔導鎧(マジックアーマー) 』と名づけた。

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ここから、俺が強くなるストーリーが始まった。

魔導鎧、ザリフの義手を全身に纏う事で、俺は列強並みのパワーとスピード、そして防御力を得た。

全力で稼働できる時間は半日が限界らしいが、30%程度の出力でもそこらの相手には負けなくなったと書いてある。

発想の勝利だな。

闘神も似たようなものを装備していたと書いてある所を見ると、前々からあった理論だろうが。

…… 魔導鎧(マジックアーマー) は、俺もほしいが、今の研究の進み具合で出来るのだろうか。

いや、出来る出来ないじゃない。

作ろう。

それにしても、やけに他の家族の名前が出てこないと思ったら、出て行ったのか。

ノルンはまだしも、リーリャに愛想をつかされるとは。

どれだけ俺は……。

いや、詳しくは書いていないが、ミリスからの刺客の事も考慮した可能性も有り得る。

うん、そうだよ、うん。

まあ、今からでも家族には、優しくしないとな。

うん。

今日は確か、ノルンが帰ってくる日だったな。

なら、たまには皆で外に食べに行こうかしらね。

家族サービスってのは、いつしてもいいもんだし。

「おにーちゃん。お昼ごはんできたよー。一緒にたべよっ!」

と、そこで背後からアイシャの声がした。

椅子から立ち上がって、扉を開けると、メイド服を着た活発そうな妹が立っていた。

料理の味見の時にでもついたのだろう、口元にはソースが少し付いていた。

「お前、口元にソースついてるぞ」

俺はハンカチを取り出し、口元を拭ってやった。

「むぐー、ありがと」

アイシャはニパッと笑った。

こいつは、俺がどうしようもないダメ人間になった後にも、戻ってくれて世話を焼いてくれたらしい。

老人はアイシャの事を口にしなかったが、たった一人の家族ともなれば、きっと心の支えにもなっていたはずだ。

「アイシャ、お前さ、何か欲しいものは無いか?」

「え? なに突然?」

「いつも頑張ってるお前に、何かご褒美とかあげようかと思って」

「えー、そんなー、あたしだけなんてノルン姉に悪いよぉ……でも、こないだ可愛い髪留め見つけたんだよねー、ちらちら」

ちらちらって口でいうなよ。

誰の真似だ。

多分、俺だろうけど。

「わかった、今度、買いに行こうか、ノルンには内緒でな」

「えっ!?」

アイシャは大げさに身をよじって、仰天のポーズを取った。

「なになに、本当にどうしたのお兄ちゃん、何が目当てなの? ハッ! もしかしてあたしの身体が目当てなの! 今晩、身を清めて寝室に行った方がいいですか旦那様! うふん!」

「はいはい、とりあえずご飯食べよう。冷めちゃうから」

「はーい」

そんな会話をして、俺は食堂へと移動した。

ロキシーとノルンはいないが、家族皆で食べる食事が、やけに美味しく感じられた。

今日はいつもより美味しいと素直に言うと、リーリャが少しだけ微笑んでいた。

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昼食の後、また日記へと戻る。

未来の俺は、世界中を旅しつつ、ヒトガミのいる所へと行く方法を探していた。

その途中であらゆる相手と出会い、情報の無さに愕然としていた。

ヒトガミの情報は長生きしてる奴が知っている確率が高い。という法則に気付いてからは、長生きをしている奴を中心に。

そして、どんどん魔術を鍛え、魔術を開発し、少しずつ強くなっていった。

重力を操る魔術、電気を操る魔術、声を操る魔術。

治癒魔術も聖級まで取得していた。

魔術は万能であり、感覚さえ掴めれば何でも出来る、と結論付けてあった。

ネズミが魔石病のキャリアであることや、シルフィの死がヒトガミの仕業である可能性についても、このあたりに書いてあった。

一見すると順調だ。

だが、情報はちっとも手に入らず、未来の俺は少しずつ荒んでいった。

当時の俺は、あまりいい奴ではなかったらしい。

行く先々でよく諍いを起こし、雑魚に勝利しては相手を見下してたり、蔑んだりしていた。

思うがままに行動し、行きずりの女をレイプしたりもしていた。

年齢的にはいい歳だと思うのだが……。

こうはなりたくない。

それと、頻繁にエリスが出てきた。

世界中を旅する俺に、エリスが何度も接触してきたようだ。

エリスは強く、俺は何度も敗北を喫した。

文章からは読み取れないが、エリスはクズになった俺を諌めようとしてくれていたのかもしれない。

だが、俺は自分の邪魔をするエリスを、ヒトガミの手先か何かかと勘違いし始めていた。

エリスが邪魔をするのは、ヒトガミにとって都合が悪いからだと決め付けていた。

ヒトガミがエリスを操っているに違いない、と。

読み進めていくと、次第に俺はエリスを憎むようになっていった。

なんの確証もない話を、仮定だけで決めつけて。

逆恨みの一種だろう。

そして、エリスは段々と俺に勝てなくなっていくようだ。

俺が強くなったのか、年齢的な意味でエリスが衰えたのか。

文章からは読み取れない。

最後に、その時が来る。

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エリスが泣いていた。

泣いたエリスを見るのは、いつぶりだろうか。

やり過ぎたかもしれない。

もしかして、あいつはヒトガミとは関係ないのだろうか。

いや、だが、だとすると、シルフィが死んだ時から今に至るまで、ひたすら俺を邪魔しようとした事に説明が付かない。

それに、尋問の途中でも、何度も口をつぐんでいた。

何かを知っているのだ。

何かを。

エリスに逃げられた。

手錠には、噛み跡があった。

あいつの歯は鋼鉄製か!?

ちくしょう。

明日は、アトーフェと謁見する。

あの脳筋のバカが何かをしっているとは思えないが、不死魔族は長生きしている分、何かをしっている確率が高い。

半殺しにしてでも、聴きだしてやる。

エリスが死んだ。

ギレーヌに責められた。

意味がわからない。

昨日の事を整理してみる。

俺はアトーフェと戦いになった。アトーフェと、アトーフェ親衛隊、全員を相手にした戦いだ。

俺はいけると踏んだが、やはりムーアに邪魔された。

完全に油断していた。ムーアという男が凄まじい魔術の使い手だということは知っていたはずなのに。アトーフェにばかり気を取られてしまっていたせいだ。

俺は窮地に立たされ、そこにエリスが飛び込んできた。

そして、俺をかばって、死んだ。

理由は、ギレーヌが教えてくれた。

再会したあの日から、今に至るまでのことを、全て。

エリスは、俺の傍にいたかっただけなのだ。

俺は、彼女のことを、ずっとずっと、勘違いしていたのだ。

あいつは、ずっと、俺が好きだったのだ。

それだけの理由で、俺につきまとっていたのだ。

嘘みたいだ。

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ここらへんはあまり詳しくは書いていないが、あの老人から聞いた話と一緒なのだろう。

……やっぱり、エリスとも結婚すべきだろうか。

彼女は、なんというか、報われるべきという気もする。

だが、シルフィやロキシーは許してくれるだろうか。

ロキシーは反対すまい。

でも、シルフィはどう言うだろう。

ナナホシに嫉妬していた彼女が……。

いや、とにかく、相談するしかないだろう。

手紙を出すのは、それからだ。

で、この話は、今晩ロキシーが帰ってきた時にでもするとして。

続きを読もう。

ここから、またしばらく、実のある事は書いていなかった。

どこそこに移動した、どこそこで誰それと会った、誰と戦った。

そういった事が、淡々と書かれているだけだ。

戦った相手の中には、水帝や北帝といった猛者も含まれていた。

ただ、相手を倒す事自体にはもうどうでもいいらしく、詳細は書いていない。

「○○を殺した。コイツもヒトガミを知らなかった」という一文があるだけだ。

そして、また年月が飛ぶ。

次の長文は、明らかに紙質の違うものに書いてあった。

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ザノバが死んだ。

知らない間に、神殿騎士団がラノア王国内に入り込んでいたのだ。

俺が駆けつけた時には、全てが遅かった。

屋敷は焼失し、ザノバは地下室の扉の前で真っ黒に焼け焦げ、ジンジャーとジュリ、そしてザノバにあずけていたアイシャは、扉の奥で切り刻まれていた。

俺はまだラノア王国内にいた神殿騎士団を皆殺しにした。

だが、あいつらを殺した所で、もはや意味はない。

ザノバは、俺のために、ずっと頑張ってくれていたのに。

なぜ、俺はあいつのピンチにいてやれなかったのだろうか。

なんのために、こんな力を持っているのだろうか。

俺は、無力だ。

結局、みんな死んでしまった。

生き残っているのは、俺一人だ。

もう、誰もいない。

俺は誰も守れなかった。

ヒトガミのせいだ。

せめて、ヒトガミを殺さなければ……。

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いきなり重い。

ザノバも、アイシャも死ぬのか。

……きつい。

だが、それにしても、この俺は家族を探したりはしなかったのだろうか。

まあ今さらどの面下げてルーシーに会えっていう感じなのかもしれないが。

…………それとも、この日記に書いていない所で、リーリャ達も死んでしまったのだろうか。

ノルンのことも出てこないってことは……。

……いや、やめよう、書いてない事は、起こってない事、そう考えておこう。

それにしても、ザノバが死んだのはヒトガミとは関係なさそうなもんだが……。

この頃の俺は、かなり視野狭窄に陥っているらしい。

この後、俺は狂ったようにヒトガミの事を探し始める。

今まで以上に苛烈に、邪魔するものを皆殺しにする勢いで。

そして、発見した。

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興奮している。

ここはベガリット大陸の奥地。

前人未到と言われた土地で、ある遺跡を発見した。

古代龍族の遺跡だ。

そこに残された壁画によると、こんな事が書かれていた。

この世界は、6つに分かれていた。

龍の世界。

人の世界。

魔の世界。

獣の世界。

海の世界。

天の世界。

これらはそれぞれ、6つの面のように、すなわちサイコロ状につながっているらしい。

その中心。

サイコロの内側が、無の世界である。

ある面から、別の面に移動しようと思うと、無の世界を通らなければならない。

だが、無の世界はある特殊な方法を使わなければ、通過する事が出来ない。

そこからは崩れてしまって読めなかったが、最後の最後に、こう書かれていた。

『ヒトガミは、無の世界の中心にいる』

ようやく見つけたのだ。

しばらく、この地にとどまり、ここに書かれていることを研究しようと思う。

壁画には、無の世界の中心に至るための試行錯誤の歴史が書かれていた。

召喚術や転移魔術というものは、無の世界を通じて、別の世界へと至る魔術から派生したものであるらしい。

やはり、その方面で研究を進めるべきなのだろうか。

この遺跡にあるものは調べつくした。

どうやら、古代龍族は無の世界の中心に至るためのものを作り出そうとはしたらしい。

だが、それが何なのかわからない。

その部分の壁画は崩れ落ちてしまっている。

だが、召喚や転移魔術に関するものなのは、間違いあるまい。

召喚といえば、ペルギウスだ。

奴は召喚術について詳しい。

奴に聞けば、もしかすると、何かわかるかもしれない。

ペルギウスは何も知らなかった。

奴はそもそも、ヒトガミが何かすら、知らなかった。

ラプラスがヒトガミという単語を聞いて激高したという情報しか知らなかった。

これでフリダシに戻ってしまった。

ラプラスはヒトガミを知っているが、もうこの世にいない……もしかして、オルステッドなら、何か知っているだろうか。

オルステッドには会えそうもない。

やはり、転移魔術の研究をすべきか。

それにしても、ここ数十年戦い続けてきたせいか、身体の動きが鈍くなっている。

俺も、そろそろ限界かもしれない。

いや、身体が動くうちに、別の古代龍族の遺跡を探してみよう。

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この世界はサイコロであり、中の空洞部分が無の世界。

そして、ヒトガミは文字通り、世界の中心にいる。

なるほど。

転移魔術の、あの地下に吸い込まれるような感覚。

あれはまさに地下、無の世界を通過していた、というわけだ。

地下と言っても、当然ながら、地面を掘り進めても無の世界にはたどり着けないのだろうが。

さて、続きはまた年数が経過しているな。

抜けの多い日記だ。

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二つ目の古代龍族の遺跡を見つけた。

魔大陸の山奥だ。

古代龍族は、なぜこんなわかりにくく、危険な場所に遺跡を作ったのだろうか。

この辺りは厄介な魔物ばかりだ。

あ……考えてみると、ペルギウスの空中城塞も遺跡のうちに入るのだろうか。

まあいい。

明日から、遺跡の攻略に入る。

収穫があった。

数年前に見つけた壁画の完全版を見つけたのだ。

そこには、無の世界の中心へと至る方法、崩れ落ちた部分が書かれていた。

古代龍族が創りだした、5つの秘宝。

これを使うことで、無の世界へと到れる。

……ようやく。

ようやく、俺はヒトガミの所へと辿り着けそうだ。

しかし、俺ももう60歳を超えた。

身体はガタガタだ。

間に合うのだろうか。

ペルギウスの所に戻ると、ある事が判明した。

古代龍族が創りだした、5つの秘宝。

これらは五龍将がそれぞれ持っており、世界への扉は龍神の秘術によってのみ開かれるらしい。

だが、すでに五龍将のうち、1人は死亡している。

彼の持っていた秘宝は行方不明。

五龍将の、最後の一人も行方不明。

ペルギウスいわく、最後の一人はあと数十年もしないうちに姿を現すらしい。

含みあるヤツの言葉に、何か引っかかるものを感じたが、思い出せない。

最近、記憶の引き出しが開きにくくなってきている。

ペルギウスは、まだ何かを隠しているのだろうか。

イライラする。

だがペルギウスは、唯一、楽しかった頃の思い出話が出来る相手だ。

殺したくはない。

ペルギウスは、オルステッドならあるいは秘術について知っていると言ったが……どこにいるのかは見当もつかない。

最後の一人が姿を現すまで、数十年。

それだけでも、絶望的だ。

恐らく、俺はそこまで生きていることは出来ない。体はもう限界が近い。

寿命がそれほど残っていないのを感じる。

どうすればいい……。

もう、時間が無い。

五龍将の秘宝を手に入れる事が出来ない。

秘宝にしろ、秘術にしろ、俺が作り出すことは出来そうもない。

原理がわからなさすぎる。

俺は、無の世界へは行けない。

もう、疲れた。

俺は、たった一人で、どれだけもがかなければいけないんだ。

誰のためにやっているのだ。

ヒトガミへの恨みも薄れてきてしまっている気がする。

疲れた。

ただ、疲れた。

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かなり諦念のようなものを感じた。

もうページ数が少ない。

てことは、ここまでで、約50年か。

なんの成果も上げられず、ただあがき続け、辿りつけないという結果。

俺でなくとも、疲れで何も考えられなくなってしまうだろう。

いや、今の俺だったら、もっと早い段階で諦めてしまったかもしれない。

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研究ノートとは別に、こちらにも書いておこうと思う。

転移魔術の研究中に、ある仮説が立った。

『召喚魔術』と、龍族の遺跡にあった壁画の魔術。

この二つを手順を変えて使えば、過去へと転移することが出来るかもしれない。

だが、理論上たった数十秒間の過去へと転移するだけでも、膨大な魔力を要するはずだ。

年単位で飛べば、どれだけの魔力が必要となるのだろうか。

過去に、行こうと思う。

俺の手元には、日記帳がある。

日記を起点に使えば、この日記を書いた瞬間まで戻れるかもしれない。

俺が、ヒトガミに騙され、ネズミを外に出し、ロキシーを殺してしまった、あの時に。

行けるかどうかはわからない。

過去への転移は、何が起こるかもわからない。

タイムパラドックスというものは俺も知っている。

不安な事は多い。

タイムスリップになるのか、タイムリープになるのか。

仮にタイムスリップできたとして、伝えるべきことはなにか。

魔石病の事と、エリスの事、それからヒトガミの事だ。

伝えきることは出来るだろうか。

過去の俺は、未来からきた俺の言葉を信じるだろうか。

タイムリープになるとして、俺はシルフィやロキシーにどんな顔で接すればいいのだろうか。

一目見たい、また会いたい。ごめんと言いたい。

けど、幸せな頃の俺の意識を、今の俺が乗っ取るのだと考えると……。

この辺り、もっと実験を繰り返すべきだろうか。

タイムパラドックスで何が起こるかわからない以上、あまり実験すべきではない気がする。

仮に数日前に戻ったとして、意識だけが過去に戻り、記憶はこの世界に置き去りになる、という可能性もあるのだ。

俺は意味のないループを繰り返し、死ぬことすら出来ず、この世界を生き続ける可能性だ……。

それなら、せめてシルフィやロキシーに、もう一度だけでも……。

いや、いいか。

難しく考えるのはやめよう。

もう、どうせ何も残っちゃいないのだ。

俺は何も成し遂げる事ができなかった。ダメな男だ。

例え失敗して、それが原因で何かが起こったとしても、知ったこっちゃない。

どうにでもなーれ、だ。

でも、もし成功したなら。

ヒトガミに一泡吹かせられるかもしれない。

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日記は、ここで途切れている。

この後、俺の所に飛んできたんだろう。

そして直後に魔力が足りなかった事を悟るのだろう。

いまいち、転移魔術で過去に飛べる、という理論がわからない。

大体、これを読む限り、もっと小刻みにタイムスリップしてくれば、魔力切れも起こさなかったんじゃないだろうか。

それを思いつけないぐらい、耄碌していたのだろうか。

いや、違うな。

この頃の俺は、きっと自分の魔力総量に絶対の自信を持っていたんだ。

足りないなんて、思いもしなかったのかもしれない。

日記からでは全てを知ることは、出来なさそうだ。

俺が研究したことが、必ずしも合っているとは、限らないしな。

ただ、知りたいことはなんとなくわかった。

俺は、こうならないように、行動しなくてはならない。

「ただいま戻りました」

そう思った時、玄関からロキシーの声が聞こえた。

さしあたって出来る事。

まずは今晩、シルフィとロキシーに相談しよう。

エリスの事も、今後のことも含めて、だ。