軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十九話「結婚式」

水王級になった日の晩。

その日、俺は一人で寝るつもりだった。

ロキシーとシルフィはお疲れで、とてもそんな空気にはならなかったからだ。

俺も程よく疲れていたが、一緒のベッドに入ったら我慢できなくなるのは確定的に明らかだったので、その日は別々の部屋で寝ることにした。

そんな話を聞いて、アイシャが「お兄ちゃんといっしょに寝る!」と主張した。

今まででもそうした事はよくあった。

俺から誘う事は無いが、しかし寝たいと言われて拒んだ事は無い。

じゃあ、今日は一緒に寝ようかと許可を出した。

無論、エロいことをする予定は無い。

その時、ちょうど帰っていたノルンが、心なしか羨ましそうな顔をしていた。

けれどノルンの事だ。

きっと寝ようと言っても断るだろう。

そう思いつつも。

アイシャにオッケーを出した手前、ダメ元でノルンも誘ってみた。

すると、なぜかオッケーが出たので、三人で川の字になって寝る事にした。

右側にアイシャ、左側にノルン。

俺の腕枕ですやすやと眠る二人。

両腕を広げて身動きの取れない状態だったが、なぜか俺は幸福感に包まれていた。

まるで足りなかったものが穴埋めされたような感覚があった。

翼は二つなければ飛べないという所だろうか。

ふとそう思った時、俺の脳裏に電撃が走った。

『シルフィとロキシーと三人でしたい』

悪魔の囁きであった。

欲望の蛇が鎌首をもたげ、ちろちろと嫌らしく舌を出している。

これは、これ以上考えてはいけない事だ。

いわゆるさんぴー。

前々から興味はあった。

だが、やはり頼むとなると言い難い。

二人共愛しているとは言ったが、しかしそういった事は一対一で行われるのが当然。

と、シルフィもロキシーも思っているはずだ。

断られるならいい。

だが、些細な欲望を口にして、関係が壊れてしまったら。

そんな不安がある。

別に、今の状態に不満があるわけではない。

近年稀に見る二人の美少女を交互に抱いているのだ。

しかも片方には娘まで産んでもらった。

何の不満があろうか。

だが、同時にはしてみたい。

なにせ、二人のタイプが違う。

シルフィは従順だ。

俺の言うことを何でも聞いてくれる。

アレをしてくれと言ったら恥ずかしがりながらも頷いてくれる。

コレをしたいと言ったら、怖そうに目をつむりながらも嫌がらない。

かといって、マグロというわけではなく、反応は良好で、息も絶え絶えになりつつ一生懸命俺にしがみついてくる。

俺のために。

実に愛おしい。

対するロキシーは技巧派だ。

常に 師匠(エリナリーゼ) から仕入れてきた知識を使い、スキルアップを図ろうとしている。

アレをしてくれと言ったら、どうすれば良くなるのかを考えてくれる。

コレをしたいと言ったら、ならこういうのはどうでしょうと提案してくる。

体の大きさの違いで相性はそれほど良くないのだが、それを覆して余りある努力と工夫をするのだ。

俺のために。

実に愛おしい。

シルフィは受け入れてくれるタイプ。

ロキシーは工夫してくれるタイプだ。

どちらが良い、悪いと言うつもりはない。

例えこんな関係を続けていくうちにどちらかに気持ちの比重が傾いてしまったとしても、俺はもう片方を蔑ろにするつもりはない。

努めて平等に接していくつもりだ。

そう。平等だ。

俺にとって平等な二人を同時にと思う俺は、そんなにいけない事だろうか。

いいや、いけなくは無いはずだ。

一度ぐらいはやってみたいと思うのが、男の性だ。

男は欲望に忠実な狼なのだ。

しかし、口には出さない。

過ぎた欲望は思うだけで満足しておくのが、円満な人間関係を築くコツだ。

ゆえに、俺は最近になるまで、3Pという欲望を口に出した事はなかった。

きっと、これからも無いだろう。

そう思っていた。

---

翌日。クリフの研究室にやってきた。

クリフは魔道具の研究をしている。

呪いを打ち消す研究だ。

俺はクリフの研究室の前で耳をそばだてる。

中から響いてくる音次第では、遠慮しなければならない。

特に問題が無いとわかった後、ノックをする。

「どうぞ、開いてますわよ」

中に入ると、研究室の窓際に、エリナリーゼが座っていた。

豪華な巻き毛を垂らして、頬杖をついて、窓の外を見ている。

相変わらず、黙っていると絵になる。

でも、どうせ考えているのはピンク色な事だろう。

「お一人ですか?」

「ええ」

クリフは忙しくて、最近はあまり研究の方が進んでいない。

吸魔石を使って現在あるものを改良する。

という予定は聞いているものの、ここ数ヶ月、進展は無い。

「クリフは、今日も結婚式の準備ですわ」

そう。

クリフとエリナリーゼは結婚するのだ。

「わたくしも手伝うと言ってますのに。一人で準備するといって聞かないんですのよ」

「そこは男の意地みたいなものもあるので、許してあげてください」

帰ってきたら結婚する。

クリフは、そう宣言した。

だが、俺たちが帰ってきた時、クリフは何の準備も出来ていなかった。

仕方あるまい。

俺たちは二年で戻るといって旅に出た。

それが半年だ。

準備万端で待ち構えている方がおかしい。

しかし、クリフは約束を守る男だった。

驚異的な粘りを見せて、この数ヶ月で準備を整えた。

住居を手に入れ、家具を購入し、基盤を作った。

俺も微力ながら手伝いはした。

といっても、新居となる部屋を探したぐらいだ。

俺と違い、大きな家を買うつもりは無かったらしい。

クリフは学生街の一画にあるアパルトメントを借りた。

もし手狭に感じたら、その都度引っ越せばいい、との事だ。

見栄っ張りなクリフにしては謙虚な事だ。

もっとも、クリフはさほど金持ちというわけではない。

高価な家は買えないし、買うとなったらエリナリーゼが金を出してしまうだろう。

俺もエリナリーゼの懐事情が温かいのはよく知っている。

「何にせよ、おめでとうございます」

もう、来月には結婚式だ。

花嫁にしては少々ビッチすぎるが、両者が満足しているのなら、いい結婚式になるだろう。

「ともあれ、クリフが帰ってくるまで待たせてもらいますね」

「ええ」

そう言って椅子にすわる。

エリナリーゼは返事をしつつも、こちらを見ない。

だが、盛大に溜息をついた。

「はぁ……」

悩みがあるんですの。

聞いて欲しいんですの。

そんな声が聞こえてきそうなため息だ。

「結婚に関して、何か不満でもあるんですか?」

「いいえ、まさか。クリフは誠実すぎてわたくしなんかにはもったいないぐらいですもの。わたくしが不満に思う事なんてありませんわ」

そうだな。

男である俺の目から見ても、クリフは誠実だ。

もちろん、完璧じゃない。

ダメな部分は多々ある。

だが、クリフはまだ20歳に満たないのだ。

これからの事を考えれば、立派な人物と言えよう。

「では、何がエリナリーゼさんにため息をつかせるんですか?」

「決まってるでしょう」

「決まってるのか」

なら、エロい事だな。

「最近、クリフが忙しくて、三日に一度しかしてもらえませんの」

ほらやっぱりそうだった。

「それは仕方のない事じゃないですか。エリナリーゼさんのために頑張っているんですよ?」

「ええ、もちろんそれは分かってますわ」

「どうせ、愛の巣ができたら、一週間は出てこないんでしょう?」

あの旅が終わった後も、エリナリーゼとクリフはしばらく研究室に篭っていた。

お互い体だけが目当てなんじゃないかと思うぐらいだった。

まあ、俺も人の事は言えない。

仕方ない。

エロいこと、好きだもの。

「はぁ、ルーデウスが羨ましいですわ」

「いや、俺だって、3日ぐらいしない時はありますよ?」

「でも、シルフィとロキシーを二人同時に相手してるんでしょう?

わたくし、クリフ一人に不満はありませんけれど。

やっぱり二人もいるのは羨ましいですわ」

当然ながら俺はこの言葉に反論した。

「いやいやいやいや。3Pなんてしてませんよ」

「あら、してませんの? 大人数でするのは、結構いいものですわよ。一度ぐらいやってみては?」

いかん。

これは悪魔の囁きだ!

耳を貸してはいかん。

去れ! マーラよ! アーメン!

「3Pなどハレンチです、モーレツごっこです! エリナリーゼさんの有害図書!」

「きっとシルフィもロキシーも悪い気はしないはずですわよ?」

「そんな事ないやい! 関係が壊れたりするんだい!」

「確かに、ロキシーはちょっと潔癖な所もありますから、突然そんな提案をしたら、尻込みしてしまうかもしれませんわね」

「ほらぁ! そうでしょ!」

そうだ。

そうだろうとも。

シルフィは従順というか、俺の言うことはなんでも聞いてくれる。

内心はどうかわからないが、聞いてくれるのは聞いてくれるだろう。

何かを犠牲にする気がするが。

けどロキシーはそうじゃない。

彼女はあれでいて、結構乙女な部分が強い。

3Pなど要求して「もうついていけません、実家に帰らせていただきます」なんて言ったらどうするつもりなんだ。

「ああ、でもなんでしたら」

エリナリーゼはぽつりと言った。

守護天使の如き、頼もしい声で。

「二人にはわたくしから根回しをしてあげてもよろしくてよ?」

根回し!

そうだ。

突然ならダメかもしれない。

しかしロキシーはエリナリーゼに技術的な指導を受けている。

そこに複数人数でのプレイの知識が混入したら。

さらに、シルフィへの助言も混じったら。

後顧の憂いなく、同じベッドでくんずほぐれつ出来るのではないだろうか。

「エリナリーゼさん!」

後光が見えた気がした。

俺はその場で頭を垂れた。

その途端、頭の上から、エリナリーゼの楽しそうな声が降ってきた。

「あらあら。でもどうしましょう。わたくしには何の得もございませんわよねぇ」

「くっ」

自分から提案しておいて条件を突きつけるつもりか。

ひどい女だ。

だが、もうだめだ。

俺はすでに、悪魔の手の上だ。

目の前のニンジンが食べたくてしょうがない馬だ。

「俺は、何を、すれば、いいでしょうか」

顔を上げると、エリナリーゼがニタァと笑った。

なんて嫌らしい笑みだ。

俺だってこんな笑みはしないぞ。

しないはずだぞ。

「確かアスラ王国の秘蔵の媚薬があったはずですわよね」

「ええ、あります。まだ使っていません」

「あれ、譲っていただけません?」

アスラ王国の秘蔵の媚薬。

ルークからもらった、あの媚薬だ。

正直、俺はあの媚薬を使う機会が無かった。

俺と二人では体力にも精力にも差があるから、あんなものを使ったら壊してしまいかねない。

二人に飲んでもらうのも、なんだかいけない事のような気がして。

扱いに困っていた部分もある。

「何に使うんですか?」

「クリフとの結婚生活に」

「必要あるんですか?」

「初日ぐらい、野獣みたいなクリフに責められてみたいんですの」

エリナリーゼはどうしてこうも性に対して忠実なのだろう。

クリフはそれほどでもないと思うのだが。

「エリナリーゼさんは、求めすぎてクリフに嫌われたりとか考えないんですか?」

「考えませんわ。それで嫌われるようなら、最初から合わなかったんですもの」

「相手に合わせようとか思わないんですか?」

「無理に合わせようとしたって、いずれズレるだけですわ。

なら、最初から最後までわたくしはわたくしを貫きます」

さすがだな。

考えてみれば、クリフもエリナリーゼに無理に合わせようとはしていない。

エロい事はしているが、無理にしているわけではないだろう。

お互い自分勝手に相手を愛している感じだ。

ちょっと羨ましいな。

「わかりました。そういう事なら今度持ってきます」

「ありがとうございますわ。ああ、媚薬で自分を制御できなくなったクリフを思うと、あぁ……」

エリナリーゼがよだれをたらして恍惚としていた。

まあ、なんだ。

仲がより深くなれば幸いだ。

---

それから1ヵ月後。

聖ミリス教会。

魔法都市シャリーアに一つだけある教会。

キリスト教の教会のような厳粛な雰囲気の漂う場所。

質素な長椅子が並び、日当たりのいいガラス窓の前には、ミリス教のシンボルが置かれている。

シンボルの前に立つのは、神父だ。

神父は粛々と、長い祝詞を神へと捧げていた。

「聖ミリスは常に汝らを見守ってくださる」

さらに神父の前に並んで立つのは男女だ。

二人は純白の衣装に見を包んでいた。

さらにその二人を、二十数名程度の参列者が見守っている。

「――二人を別つ者現れし時、聖ミリスは盾にて守られるであろう。

――二人に害なす者現れし時、聖ミリスは剣にて断罪するであろう。

――二人の愛が偽りだった時、聖ミリスはその身を焦がして天を穿つだろう」

俺は参列者の一人だった。

ラノア王国の礼服を身にまとい、最前列に立っている。

右隣にはシルフィ、左隣にはロキシーがいる。

二人もまた、清楚なドレス姿であった。

俺たちは礼服もドレスも持っていなかったので、新たに購入した。

今後の式典用にも、あって困るものじゃないからな。

さらにシルフィの隣にはアリエルとルークが、これまた高そうな衣装に身を包んで立っている。

俺たちの後ろには、ザノバやリニア、プルセナといった高貴な者たちがいる。

さらにその後ろには、ジンジャーやジュリ、アリエルの従者の女子二人といった者達が並んでいる。

俺からは見えないが、ノルンとアイシャもここに並んでいるはずだ。

彼女らもドレス姿であるが、これはレンタル品だ。

まだまだ伸び盛りだし、買うのは早いと言ったら、二人してぶーたれていた。

その他、俺の知らない顔もいくつかあった。

ちなみに、ナナホシは今日も欠席だ。

ミリス教の結婚式においては、列によって身分が定められているらしい。

最前列は最も位の高い者と、そして結婚者の身内が並ぶ。

アリエルが最前列に並ぶのは当然として。

シルフィはエリナリーゼの唯一の身内である。

俺はその夫であるから、最前列に立っている。

いわば付き添いだな。

最前列にいるのは場違いと言えよう。

もっとも、場違い感を最も感じているのはロキシーだろう。

二番目の妻というものは、ミリス教によって許されない存在なのだから。

それを感じてか、ロキシーは先ほどから直立不動で身動き一つしない。

アスラ王国では、ミリス教でありながら一夫一妻の教義を真面目に守っていない貴族も多いので気にする必要はない、とはルークの談である。

俺も、ロキシーが気にする必要はないと思う。

「夫、クリフ・グリモルは、生涯エリナリーゼ・ドラゴンロードだけを愛し続けると誓うか?」

「死せるまでエリナリーゼを愛すると誓おう」

ふと聞いたことのあるフレーズが飛び込んできた。

やはり、ミリス教でもこうした誓いはあるのか。

それにしても、クリフの言葉には重みがあるな。

きっとこの誓いは守られるだろう。

クリフは生涯、エリナリーゼだけしか抱かない。

俺もそうした男気には少し憧れる。

まあ、俺は守れなかったが。

「妻、エリナリーゼ・ドラゴンロードは、生涯クリフ・グリモルだけを愛し続けると誓うか?」

「生きる限りクリフを愛すると誓いますわ」

エリナリーゼの誓いは、どうだろうな。

守ろうとはするだろう。

しかし呪いのこともある。

あと寿命だ。

クリフが先に死ぬだろうし、そうなるとエリナリーゼは別の愛を探す気がする。

悪いとは言わんがね。

うん。

それにしても、15歳ぐらいの子とヤリたいからという理由で魔法大学に入学したエリナリーゼが結婚か。

人生、何があるかわかったもんじゃねえな。

「では、夫はミリスの首飾りを妻へ」

神父からクリフが首飾りを受け取る。

ゴテゴテと装飾のついた首飾りだ。

これは『ミリスの首飾り』と呼ばれる式典用の装飾品だそうだ。

聖ミリスが実際に身につけていた首飾りのレプリカで、教会は必ず一つこれを所有しているのだとか。

「リーゼ、もうちょっと屈んで」

「あら。ごめんなさい」

小声でそんな言葉が聞こえる。

エリナリーゼは身をかがめ、クリフは背伸びをしながら首飾りを掛けた。

少し締まらない光景である。

クリフ、あんまり背が伸びなかったからな。

「妻は夫に、誓いの口付けを」

「はい」

エリナリーゼはゆっくりと身をかがめ、クリフの額に口付けをする。

唇ではなく、額だ。

この儀式は、聖ミリスの逸話をなぞらえているらしい。

かつて聖ミリスが死地へと赴く時『最も愛すべき者』に首飾りを譲渡した。

『最も愛すべき者』は聖ミリスの額に、帰還の願いのこもった口付けを返した。

聖ミリスが窮地に陥った時、『最も愛すべき者』は神に首飾りを捧げた。

首飾りの精緻さと『最も愛すべき者』の愛に感心した神は、聖ミリスを助けたという。

そんな逸話だ。

この世界の話はフィクションなのかそうでないのか、判別しにくい。

これも実際にあった話を元にしているのかもしれない。

「神よ! 二人に永遠の愛と、永久の繁栄を与えたまえ!」

その瞬間、神父の持つ錫杖が、まばゆい光を放った。

光は厳かな教会内を照らしだす。

新郎新婦はシルエットとなり、純白の衣装とあいまって光の中に溶けるような錯覚すら覚えた。

幻想的な光景である。

そんな中「あの錫杖、魔道具なんだろうな」とか思う俺は、最近ちょっと感動が足りない。

---

参列者が新郎新婦に見送られ、教会を後にする。

結婚式はこれでおしまいだ。

あくまで、神前で愛の証明をして、俺たちがその証人となるというだけらしい。

披露宴や二次会のようなものも存在しない。

貴族間ではやるのだろうが、あいにくとクリフは貴族ではない。

もっとも、あの場にバーディガーディがいたら、宴だ何だと騒いだことだろう。

俺も久しぶりに騒ぎたい気分ではある。

めでたい時には宴会をしたいものだ。

「凄かったね!」

「お嫁さん、綺麗だったね!」

アイシャとノルンは結婚式を見て、興奮していた。

先ほどから、結婚式の内容について、感想を言い合っていた。

こうしてみると、普段あまり仲が良くないとは思えない。

むしろ、最近は喧嘩をしている所を見かけない。

やけに二人の仲がいい。

「憧れちゃうよね、ミリスの結婚式!」

「うん! あの衣装着てみたい!」

きゃぴきゃぴと話す二人の妹。

ノルンもいずれはいい相手を見つけ、純白のドレスを身にまとうのだろう。

相手の男は果報者だな。

お祝いとして、鉄拳の一発でもプレゼントしてやろう。

アイシャはどうだろうか。

彼女が男を見つけて嫁にいくビジョンが浮かばない。

なんか、一生メイドやってるイメージだ。

「やっぱり、女の子はああいうのに憧れるものなのか?」

隣にいるシルフィにそう聞いてみる。

「まあね。でも、ボクは不満なんて無いよ?

ボクらの時はボクらの時で、温かみがあったしね」

シルフィはそういって笑う。

もちろん、ああいう感じのをしたいと言えば、似たような事はできる。

ミリス教徒ではないので、ごっこ遊びのようになってしまうかもしれないが。

クリフに土下座でもしつつ頼み込めば、神父役もやってくれるだろう。

女のための土下座は男の甲斐性だ。

俺はいくらでも下げよう。

「……」

ふと、左側から袖を引っ張られた。

見ると、ロキシーが俺を見上げていた。

ほんのりと化粧をした、綺麗な顔だ。

その頬には、若干の紅が差していた。

「……ロキシーも結婚式をしたいんですか?」

ロキシーの結婚式は執り行っていない。

パウロが死んだ事でお通夜みたいになっていたのもあるが、

そもそもミグルド族には結婚式自体をやる慣習も無い。

そのため、彼女自身が必要無いと言ったのだ。

しかし、ああいうものを見ると、自分もと思ってしまうのだろうか。

「いえ、必要ありません。ですが……ほら、わかるでしょう?」

ロキシーはそういうと、目を閉じて、「んっ」と唇を突き出してきた。

目の前に目を瞑った美少女がいる。

これこそが据え膳というものだろう。

いただきます。

俺はロキシーの肩を抱き寄せて、その額にキスをした。

「えっ!?」

「失礼。ステキなおでこだったのでね」

「そ、そうですか……ふふ」

ロキシーはちょっと驚いていた。

思ったのと違う場所にキスがきたからだろう。

しかし、ニヤニヤとしただらしない笑いを顔に貼り付けてしまっている。

実にちょろい。

でもそんな所もまたいい。

よし決めた。今晩はロキシーにお願いしよう。

「あっ、ルディ。ボクにもボクにも」

シルフィが俺の右腕にすがりついて同じことを要求してきた。

もちろん、拒否する理由はない。

美少女の額にキスをするのになんの躊躇があろう。

「えへへ……」

自分からしてと言ったくせに、シルフィは額を押さえてニヘラと笑った。

ああ、相変わらずシルフィも可愛いな。

どうしよう。シルフィも抱きたい。

でもロキシーも。

両方一緒はどうだろう。

エリナリーゼの根回しは完了しているのだろうか。

そろそろ大丈夫だと思うんだが。

媚薬だって渡したし。

今度聞いてみるか。

「……兄さん。こんな所でそういうの、ちょっとやめてくれませんか?」

なんて思って鼻の下を伸ばしていると、ノルンから苦情が来た。

せっかく結婚式を見ていい気分だったのに変なもんみせんな、という顔だ。

肉親のイチャイチャなんて見たくもないのだろう。

あと、やっぱり二人同時ってのがよくないんだろう。

「しかたないなぁ」

「やっ! ちょ、やめてください!」

俺はノルンを抱き寄せて、額にちゅーした。

ノルンは真っ赤な顔で額をごしごしと擦っている。

素晴らしい。

「……」

アイシャはというと、非常に羨ましそうな顔をしていた。

自分もして欲しいけど、頼んでいいのかしら。

断られたらどうしようかしら、そんな顔だ。

もちろん、何も心配することはない。

「アイシャ!」

俺は慈愛の表情(をしているつもり)で両手を広げてやる。

「お兄ちゃん!」

アイシャはパッと顔を輝かせて、体ごと飛び込んできた。

額にちゅーすると、ゴロゴロと猫のように体をすり寄せてくる。

さぁ、我が腕の中で息絶えるがよい。

でも、往来の真ん中で足を絡めるのは感心しないな。

一応ドレス姿なんだから、ほら、パンツとか見えちゃう。

「アイシャ。足を絡めるのはやめなさい。ドレスなんだから。パンツとか見えたら困るでしょう」

「はーい」

アイシャは素直に俺から離れ、満足気な顔で先頭を歩き出した。

まったく。

11歳ならまだ子供といえるが、しかし世の中には10歳を過ぎた女性は立派なレディと見なす輩も存在するのだ。

もっと気をつけさせないとな。

「……」

ふと思い出した……。

かつてもらったパウロの手紙に、皆揃ったらお祝いでもしよう、と書いてあった。

やろう、やろうと思っていたが、気づいたら半年以上も過ぎていた。

二人は五歳の時も十歳の時も、お祝いをしていない。

俺はそのへん盛大に祝ってもらった事があるだけに、二人が少々不憫に思える。

やはり、祝ってもらう、というのはいいものだしな。

よし。

決めた。

パーティーを開こう。