作品タイトル不明
3話「安かろう悪かろう?」
あとほかに無いとこまるものは……水だな。飲むのはもちろん、洗濯や風呂にも必要となる。
ただ、飲む分はともかく他は買って贖うのはさすがに無理。
「風呂はどこかの銭湯に……そもそも銭湯というかこの辺りに街があるのか?」
根本的なところでダメそうな気がする。
人の気配が無いので好き勝手出来るのは良いが、風呂なり温泉なりちゃんと設備が整った状態で入りたい……我儘だろうか? せめて日帰りできる範囲にあると良いが。
「……あれ」
どうしよう。ふと怖い考えが浮かんできてしまった。
何となく異世界とはいえ人が居てちゃんと文明があると、そう思っていた。でもそうじゃなかったら? 最悪の場合、人は俺だけの可能性もある。
仮に居たとしても下手すると街に行けば捕まったり、珍しいからと売られたりと散々な目にあうかも知れない。
なんならそれでも良いほうで、問答無用で殺される可能性だってある。
……女神の言葉を信じるなら、転生先の安全は保障されている。つまり最低でも今俺が居る場所は安全だと言える。
どうにか周囲を確認したい。この場所からあまり動かず、それでいて広範囲を確認できる方法……そんなのあるのか? ……あったわ。
「忘れずに突っ込んでおいて良かった」
こう……空から良い感じの映像が撮れるかもとそこまで興味は無いのに買ってしまったドローン。
役に立つ日が来るとはな。
思ったより操作は簡単だ。さっそく飛ばしてみよう。
上空からであればきっと街……とまではいかなくとも街道ぐらいは見つかるだろう。
そう思っていた時がありました。
「道が……まともな道がない」
獣道しかないなこれ……周囲に獣が居ると分かったのは果たして良い事なのだろうか。
ますますこの場所から動きたくなくなってしまうぞ。
っと、木の間に何か見えたな。
「おお、川だ」
ドローンの高度を下げ、よく観察してみるとそこそこ水量のある川が存在していた。
岩がゴロゴロしている箇所もあるが、中には多少歩きやすそうなところもある。
川からどうにか水を調達すれば風呂と洗濯は何とかなるかも知れない。
あとで必要そうな道具を見繕うか。
とりあえずドローンは一旦しまい、通販サイトにアクセスする。
川から水を得るにはまず……あれだな。
「草刈り機あったかな」
川までアクセスできないことには始まらんからさ。
とりあえず生え放題の草やら藪をどうにかしよう。
問題は果たして2000円以内で買える草刈り機があるかどうかだけど。
「やっす」
1000円切ってるってどういうことだ。おもちゃ? いや、でも説明画像を見る限りは本物のようだけど……。
「さすがに怖くて買えないわ……腰やりそうで怖いが普通の鎌にするか」
レビューもなかなか酷いものだったしな。
安いものが悪いとは言わないけれど、安すぎるものはさすがにね。
鎌なら値段も手ごろで評判も良さそうなのがちらほらある。
買うならこっちだ。
腰については若い体に期待することにしよう。
「それじゃどうもー」
「ありがとうございます」
注文するとやはり例の制服を着た配達員が荷物を届けにきた。
前回とは違う人物だったが……深く考えて何か分かるでもなし、今は気にしないでおこう。
ビリビリと包みを破いて中身を取り出す。
きっちり写真通りの品が出てきた。握った感じもしっかりしているし、切れ味も良さそうに見える。
「よし、やるか!」
若返った腰の力を試してやろう。
以前なら10分もやれば根を上げていただろうが、今なら1時間は持つだろう。
「切れ味良いなこれ。良すぎて逆に怖いが」
予想以上にさくさくと草が刈れた。
結構な量をまとめて刈っても、ぶちぶちと引きちぎる様なことはなく、すぱっと切れる。
これが勢いよく足にでも当たろうものなら……あまり想像したくはない。
まあ、この切れ味も新品だからというが大きいとは思う。
いずれ切れ味が落ちてくるだろうから、そのうち砥石も用意しておく必要がある。
「あ、割と安い」
ポケットにいれておいたスマホで大手通販サイトにアクセスし、砥石で検索してみた。
すると安いものであれば1000円以下、高い複数の砥石がセットになっているものでも2~3000円で買えることが分かった。
今すぐ必要なものではないが、いずれお金に余裕ができたら買うとしよう。
「何だこれ……」
無心で草を刈ることしばし、川に向かって一直線に刈り進んでいくとある地点を過ぎたところで、ふいに不安感に襲われた。
思わず後ろに後ずさるとその不安感は消え……そして一歩踏み出すと再び襲われる。
……思い当たることは一つある。
転生先での身の安全はとりあえず保障されている……このとりあえずの部分が少し引っかかっていたが、それがこの妙な不安感に関係しているのではないか?
安全が保障されるのは、この世界に来て最初に立って居た地点……それだとかなり行動が制限されてしまうな。
ほかに可能性があるとすれば……。
「よし、さっきと範囲変わってるな」
どうやらキャンピングカーが起点となっているようだ。
試しに少しだけ動かしたみたところ不安感に襲われた位置がその分だけずれていた。
「車両を中心に半径200mってところか。十分だ」
試しに歩数を数えて距離を測ってみたが範囲はかなり広い。
もう少し川よりにキャンピングカーを置いておけば水も問題なく使用できるし、問題はないだろう。
これが川までもっと距離があったり、途中車が通れない箇所があったりだと大変だったけどな。